世界最強はガチャで引いた――無限排出スキルで現代を救え

羽蟲蛇 響太郎

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第2章 魔神観測領域

第14話 名を呼ぶな、まだ早い

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――落ちている。

天城零は、自分が落下していることを理解していた。

音はない。
風もない。
ただ、意識だけが沈んでいく。

やがて――
足が、何かに触れた。

そこは、何もない世界だった。

地平線も、空もない。
白でも黒でもない、
“意味を持たない空間”。

「……ここは」

零が呟くと、
声は歪んで、遠くへ消えた。

――ようやく、来たか。

背後から、声。

振り返る。

そこに、“人の形をした何か”が立っていた。

体格は零と同じ。
輪郭も、同じ。

だが――
顔だけが、見えない。

ノイズ。

走査不能な情報の乱れ。
常に、顔の部分だけが“砂嵐”のように崩れている。

「……お前が」

零は、喉を鳴らした。

「俺の中にいる――」

――真の魔神、だ。

声は、低く、落ち着いていた。

怒りも、憎しみもない。
ただ、確信だけがある。



「……なぜ、俺の中にいる」

零は、問いを投げる。

魔神は、首を傾げた。

――正確には、逆だ。

――我は、お前の“中”にいるのではない。

――お前が、
――“我に触れている”。

「意味が分からない」

――分かる必要はない。

――まだ、段階ではない。

魔神は、一歩近づく。

距離が詰まっても、
顔のノイズは決して晴れない。

――ガチャ能力。

――お前は、
――あれを“力を得る装置”だと思っているな。

「……違うのか」

――あれは、
――封印装置だ。

零の心臓が、強く打った。



――世界は、本来もっと不安定だ。

――可能性は無限に枝分かれし、
――収束などしない。

――神は、それを嫌った。

――魔人は、それを利用した。

――そして――

魔神は、静かに告げる。

――お前は、
――それを“引いている”。

「……俺は、何なんだ」

――観測点。

――楔。

――そして――

一拍置く。

――“器”だ。

零は、思わず後退した。

「……俺が、乗っ取られるのか」

魔神は、初めて否定した。

――違う。

――我は、
――お前を奪えない。

――奪えば、我は“我”でなくなる。

「じゃあ……
 なんで、あの時――」

澪が倒れ、
世界が壊れかけた瞬間。

――憑依したのは――

魔神は、静かに答える。

――お前が、
――“許可した”。



零は、唇を噛む。

「……俺は、
 お前を止められるのか」

魔神は、少しだけ――
笑った気配を見せた。

――それを決めるのは、
――我ではない。

――お前だ。

――だから、我は名を名乗らぬ。

零は、目を細める。

「……名前は、あるんだな」

――ある。

――だが、
――今、呼べば――

空間が、軋んだ。

――“目覚める”。

零は、息を呑む。

「……それでも、聞かせろ」

沈黙。

やがて、
魔神は、ゆっくりと告げた。

――我が名は――
――《アザト=ロス》。

瞬間。

世界が、震えた。



零は、即座に後悔した。

(……呼ぶな、って言っただろ……!)

――安心しろ。

――まだ、“半音”だ。

――完全に呼ばれたわけではない。

魔神――アザト=ロスは、距離を取る。

――だが、覚えておけ。

――ガチャを引くたび、
――お前は我に“近づく”。

――拒めば、世界が壊れる。

――受け入れれば、
――お前が壊れる。

「……最悪の選択肢しかないな」

零が吐き捨てる。

――それでも。

アザト=ロスは、静かに告げる。

――お前は、
――引き続ける。

――なぜなら――

ノイズの向こうから、
確かな感情が伝わった。

――お前は、
――“選ばずにいられない”存在だからだ。



意識が、引き戻される。

零は、地面に倒れたまま、目を開けた。

夜空。
現実。

澪が、すぐそばにいた。

「……零様?」

「……大丈夫です」

だが、
心の奥で――

何かが、
確かに“こちらを見ていた”。

ガチャは、
もう偶然ではない。

そして、
真の魔神の名は、
一度だけ――世界に響いた。
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