1 / 15
第1話 中身は俺のままなのに、朝から世界がおかしい
しおりを挟む
目覚ましが鳴る三秒前に目が覚めた。
これは俺のちょっとした特技だ。
「……」
天井が見える。いつもの自室。
カーテンの隙間から差し込む朝日。
ここまでは問題ない。
――問題は、布団の中の“感覚”だった。
「……ん?」
体が、軽い。
いや、軽いというより、バランスが違う。
寝返りを打とうとして、妙な違和感に気づく。
重心が、普段より前に寄っている。
「……?」
寝ぼけたまま、俺は布団の中で自分の身体を確認し――
そこで完全に覚醒した。
「……は?」
声が高い。
間違いなく、俺の声じゃない。
一瞬、夢だと思った。
よくあるやつだ。テスト前とかに見る、意味不明な悪夢。
だが、頬をつねると普通に痛い。
「……ちょ、待て待て待て」
布団を跳ね除け、勢いよく起き上がる。
その瞬間、視界の端で揺れた“何か”に、脳が理解を拒否した。
「……え」
視線を落とす。
「……は?」
そこにあるはずのものが、ない。
代わりに、あるはずのない膨らみがある。
「……はぁぁぁぁ!?」
悲鳴は、完全に女子のそれだった。
慌ててベッドから転げ落ち、姿見の前に立つ。
震える手で、鏡を見る。
「…………」
そこにいたのは――
長い黒髪。
見慣れない大きな瞳。
制服を着たら間違いなく“目立つ側”の、整った顔。
「…………誰」
俺は、ゆっくりと鏡に近づき、
鏡の中の“彼女”も同じように近づいてきた。
「……俺?」
疑問形で口を開くと、
鏡の中の少女も、同じ顔で首をかしげる。
「……俺だ」
中身は、間違いなく俺だった。
昨夜まで、
男子高校生・佐倉 恒一、十七歳。
成績は平均、友達は少なめ、特技は早起き。
――なのに。
「……なんで女」
思考が追いつかない。
だが、時計を見ると、もう七時十分。
「……あ」
遅刻。
「いや待て待て待て! そこじゃないだろ!」
自分でツッコミを入れながらも、
体は条件反射で動いていた。
洗面所。
歯磨き。
顔を洗う。
鏡に映るたび、
心がじわじわと削られていく。
「……冷静になれ」
深呼吸。
「これは夢だ。
もしくは、何かのドッキリだ。
あるいは……」
選択肢を考えるのをやめた。
とりあえず、学校に行けば何かわかる。
世界が正常なら、誰かが止めてくれるはずだ。
――止めてくれ。
クローゼットを開けて、そこで固まる。
「……制服」
女子用の制服が、当たり前のようにかかっていた。
「……用意周到すぎない?」
誰に向けてかわからないツッコミを入れつつ、
俺は極力見ないようにして着替えを済ませた。
……いや、正確には、
着替えに五分以上かかった。
「……服って、こんなに工程あったっけ」
リビングに降りる。
「おはよー」
母の声。
「……おはよ」
返事をすると、母は新聞を畳みながら言った。
「今日は早いわね、こーちゃん」
「…………」
こーちゃん。
呼び方は、昨日までと同じ。
母は、俺の姿を見て、
何の違和感も覚えていない様子だった。
「パン焼けてるわよ。
あ、髪ちゃんと結びなさい。学校で邪魔でしょ」
「……はい」
思考停止。
朝食を食べ、
通学路を歩き、
校門をくぐる。
途中、すれ違う生徒たちが振り返る。
「……あの子、誰?」
「転校生?」
「可愛くない?」
心のHPが、ゴリゴリ削られていく。
「……やめて」
教室に入ると、
担任が出席を取る。
「佐倉――」
間が空く。
来た。
来たぞ。
「佐倉……」
俺は、覚悟を決めて立ち上がった。
「……はい」
「……佐倉さん、元気そうね」
「……はい?」
“さん”。
黒板に書かれた名前を見る。
佐倉 恒一(女)
「……え?」
教室は、何事もないようにざわついている。
(誰か……
誰かツッコめよ……!)
だが、誰もツッコまない。
こうして俺の――
中身は俺のままなのに、学園では美少女扱いされる生活が、
何の説明もなく始まった。
――この世界、
おかしい。
確実に。
これは俺のちょっとした特技だ。
「……」
天井が見える。いつもの自室。
カーテンの隙間から差し込む朝日。
ここまでは問題ない。
――問題は、布団の中の“感覚”だった。
「……ん?」
体が、軽い。
いや、軽いというより、バランスが違う。
寝返りを打とうとして、妙な違和感に気づく。
重心が、普段より前に寄っている。
「……?」
寝ぼけたまま、俺は布団の中で自分の身体を確認し――
そこで完全に覚醒した。
「……は?」
声が高い。
間違いなく、俺の声じゃない。
一瞬、夢だと思った。
よくあるやつだ。テスト前とかに見る、意味不明な悪夢。
だが、頬をつねると普通に痛い。
「……ちょ、待て待て待て」
布団を跳ね除け、勢いよく起き上がる。
その瞬間、視界の端で揺れた“何か”に、脳が理解を拒否した。
「……え」
視線を落とす。
「……は?」
そこにあるはずのものが、ない。
代わりに、あるはずのない膨らみがある。
「……はぁぁぁぁ!?」
悲鳴は、完全に女子のそれだった。
慌ててベッドから転げ落ち、姿見の前に立つ。
震える手で、鏡を見る。
「…………」
そこにいたのは――
長い黒髪。
見慣れない大きな瞳。
制服を着たら間違いなく“目立つ側”の、整った顔。
「…………誰」
俺は、ゆっくりと鏡に近づき、
鏡の中の“彼女”も同じように近づいてきた。
「……俺?」
疑問形で口を開くと、
鏡の中の少女も、同じ顔で首をかしげる。
「……俺だ」
中身は、間違いなく俺だった。
昨夜まで、
男子高校生・佐倉 恒一、十七歳。
成績は平均、友達は少なめ、特技は早起き。
――なのに。
「……なんで女」
思考が追いつかない。
だが、時計を見ると、もう七時十分。
「……あ」
遅刻。
「いや待て待て待て! そこじゃないだろ!」
自分でツッコミを入れながらも、
体は条件反射で動いていた。
洗面所。
歯磨き。
顔を洗う。
鏡に映るたび、
心がじわじわと削られていく。
「……冷静になれ」
深呼吸。
「これは夢だ。
もしくは、何かのドッキリだ。
あるいは……」
選択肢を考えるのをやめた。
とりあえず、学校に行けば何かわかる。
世界が正常なら、誰かが止めてくれるはずだ。
――止めてくれ。
クローゼットを開けて、そこで固まる。
「……制服」
女子用の制服が、当たり前のようにかかっていた。
「……用意周到すぎない?」
誰に向けてかわからないツッコミを入れつつ、
俺は極力見ないようにして着替えを済ませた。
……いや、正確には、
着替えに五分以上かかった。
「……服って、こんなに工程あったっけ」
リビングに降りる。
「おはよー」
母の声。
「……おはよ」
返事をすると、母は新聞を畳みながら言った。
「今日は早いわね、こーちゃん」
「…………」
こーちゃん。
呼び方は、昨日までと同じ。
母は、俺の姿を見て、
何の違和感も覚えていない様子だった。
「パン焼けてるわよ。
あ、髪ちゃんと結びなさい。学校で邪魔でしょ」
「……はい」
思考停止。
朝食を食べ、
通学路を歩き、
校門をくぐる。
途中、すれ違う生徒たちが振り返る。
「……あの子、誰?」
「転校生?」
「可愛くない?」
心のHPが、ゴリゴリ削られていく。
「……やめて」
教室に入ると、
担任が出席を取る。
「佐倉――」
間が空く。
来た。
来たぞ。
「佐倉……」
俺は、覚悟を決めて立ち上がった。
「……はい」
「……佐倉さん、元気そうね」
「……はい?」
“さん”。
黒板に書かれた名前を見る。
佐倉 恒一(女)
「……え?」
教室は、何事もないようにざわついている。
(誰か……
誰かツッコめよ……!)
だが、誰もツッコまない。
こうして俺の――
中身は俺のままなのに、学園では美少女扱いされる生活が、
何の説明もなく始まった。
――この世界、
おかしい。
確実に。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
兄貴のお嫁さんは異世界のセクシー・エルフ! 巨乳の兄嫁にひと目惚れ!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
ファンタジー
夏休み前、友朗は祖父の屋敷の留守を預かっていた。
その屋敷に兄貴と共に兄嫁が現れた。シェリーと言う名の巨乳の美少女エルフだった。
友朗はシェリーにひと目惚れしたが、もちろん兄嫁だ。好きだと告白する事は出来ない。
兄貴とシェリーが仲良くしているのを見ると友朗は嫉妬心が芽生えた。
そして兄貴が事故に遭い、両足を骨折し入院してしまった。
当分の間、友朗はセクシー・エルフのシェリーとふたりっきりで暮らすことになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる