2 / 15
第2話 女子トイレは戦場、そして逃げ場がない
しおりを挟む
――限界は、突然来る。
ホームルームが終わって五分。
俺は静かに、しかし確実に死を予感していた。
(……やばい)
理由は単純だ。
トイレに行きたい。
男子として十七年間生きてきた俺は、
トイレという行為を「深く考えるもの」だと思っていなかった。
だが今は違う。
(男子トイレは論外)
(女子トイレ……?)
(いや無理だろ!?)
問題は、
この世界では俺が女子として認識されているという事実だった。
周囲の女子生徒は、
何の警戒もなく、
何の疑問もなく、
俺を「同類」として扱ってくる。
「佐倉さん、次体育だよね?」
「更衣室一緒だね~」
「え」
一気にHPが削られた。
「……あ、ああ、うん」
返事をしながら、
心の中で全力で叫ぶ。
(無理無理無理無理!!)
休み時間。
俺は逃げるように教室を出た。
目的地は一つ。
女子トイレ。
廊下の角を曲がったところで、
例のピクトグラムが見えた瞬間、足が止まる。
「…………」
心臓が早鐘を打つ。
(俺、ここ入るの?)
(人生で一度も入ったことない場所だぞ?)
(というか倫理的にアウトじゃない?)
だが――
「……限界」
背に腹は代えられない。
俺は意を決して、女子トイレの中に足を踏み入れた。
「……」
――静かだ。
思っていたより、ずっと普通。
清潔で、明るくて、
恐ろしいほど日常的。
(……意外と……)
「佐倉さん?」
「うひゃっ!?」
背後から声をかけられ、
俺は情けない悲鳴を上げた。
振り返ると、
そこにいたのはクラス委員長の宮坂 彩音。
黒髪、メガネ、真面目枠。
昨日まで「ちょっと近寄りがたい女子」だった存在。
「……どうしたの? 顔赤いけど」
「い、いや、その……」
言い訳が浮かばない。
「……緊張してる?」
「え?」
「転校初日みたいなものだし。
慣れないよね、色々」
――転校生設定、いつの間にか確定してる!?
俺が何も言えずにいると、
宮坂はにこっと微笑んだ。
「大丈夫。
そのうち慣れるよ」
(慣れたら人として終わりだと思う)
個室に入る。
鍵をかける。
……そして、絶望した。
(……どうやるんだっけ)
物理的な構造は理解している。
だが、実践経験がゼロ。
数分後。
俺は人生で一番疲れた顔で、個室を出た。
「……生き延びた」
手を洗い、
鏡を見る。
そこには、
頬を赤らめ、どこか涙目の美少女が映っていた。
「……最悪だ」
教室に戻ると、
女子たちが自然に輪を作っていた。
「佐倉さん、席こっち空いてるよ!」
「一緒にお昼食べよ!」
「……あ、うん」
流れで座る。
距離が近い。
近すぎる。
(男子の時は半径一メートル保たれてたのに……)
会話が、
普通に回っている。
コスメ。
ドラマ。
クラスの男子の噂。
(俺、その“男子側”だったんだが)
「佐倉さんって、彼氏とかいるの?」
爆弾投下。
「いっ!? いない!!」
即答。
周囲が笑う。
「可愛いのに意外~」
「照れ方がガチだね」
(違う! 違うんだ!
これは照れじゃなくて精神的混乱だ!)
そして――
「……あ」
体育の時間が来た。
更衣室。
扉の前で、
俺は完全に固まった。
「佐倉さん? 入らないの?」
背中を押される。
逃げ場は、ない。
――こうして俺は、
元男子として越えてはいけない一線を、
世界の強制力によって越えさせられることになる。
(この学園生活、
俺の正気が先か、
世界の説明が先か――)
答えは、
まだ出ない。
ホームルームが終わって五分。
俺は静かに、しかし確実に死を予感していた。
(……やばい)
理由は単純だ。
トイレに行きたい。
男子として十七年間生きてきた俺は、
トイレという行為を「深く考えるもの」だと思っていなかった。
だが今は違う。
(男子トイレは論外)
(女子トイレ……?)
(いや無理だろ!?)
問題は、
この世界では俺が女子として認識されているという事実だった。
周囲の女子生徒は、
何の警戒もなく、
何の疑問もなく、
俺を「同類」として扱ってくる。
「佐倉さん、次体育だよね?」
「更衣室一緒だね~」
「え」
一気にHPが削られた。
「……あ、ああ、うん」
返事をしながら、
心の中で全力で叫ぶ。
(無理無理無理無理!!)
休み時間。
俺は逃げるように教室を出た。
目的地は一つ。
女子トイレ。
廊下の角を曲がったところで、
例のピクトグラムが見えた瞬間、足が止まる。
「…………」
心臓が早鐘を打つ。
(俺、ここ入るの?)
(人生で一度も入ったことない場所だぞ?)
(というか倫理的にアウトじゃない?)
だが――
「……限界」
背に腹は代えられない。
俺は意を決して、女子トイレの中に足を踏み入れた。
「……」
――静かだ。
思っていたより、ずっと普通。
清潔で、明るくて、
恐ろしいほど日常的。
(……意外と……)
「佐倉さん?」
「うひゃっ!?」
背後から声をかけられ、
俺は情けない悲鳴を上げた。
振り返ると、
そこにいたのはクラス委員長の宮坂 彩音。
黒髪、メガネ、真面目枠。
昨日まで「ちょっと近寄りがたい女子」だった存在。
「……どうしたの? 顔赤いけど」
「い、いや、その……」
言い訳が浮かばない。
「……緊張してる?」
「え?」
「転校初日みたいなものだし。
慣れないよね、色々」
――転校生設定、いつの間にか確定してる!?
俺が何も言えずにいると、
宮坂はにこっと微笑んだ。
「大丈夫。
そのうち慣れるよ」
(慣れたら人として終わりだと思う)
個室に入る。
鍵をかける。
……そして、絶望した。
(……どうやるんだっけ)
物理的な構造は理解している。
だが、実践経験がゼロ。
数分後。
俺は人生で一番疲れた顔で、個室を出た。
「……生き延びた」
手を洗い、
鏡を見る。
そこには、
頬を赤らめ、どこか涙目の美少女が映っていた。
「……最悪だ」
教室に戻ると、
女子たちが自然に輪を作っていた。
「佐倉さん、席こっち空いてるよ!」
「一緒にお昼食べよ!」
「……あ、うん」
流れで座る。
距離が近い。
近すぎる。
(男子の時は半径一メートル保たれてたのに……)
会話が、
普通に回っている。
コスメ。
ドラマ。
クラスの男子の噂。
(俺、その“男子側”だったんだが)
「佐倉さんって、彼氏とかいるの?」
爆弾投下。
「いっ!? いない!!」
即答。
周囲が笑う。
「可愛いのに意外~」
「照れ方がガチだね」
(違う! 違うんだ!
これは照れじゃなくて精神的混乱だ!)
そして――
「……あ」
体育の時間が来た。
更衣室。
扉の前で、
俺は完全に固まった。
「佐倉さん? 入らないの?」
背中を押される。
逃げ場は、ない。
――こうして俺は、
元男子として越えてはいけない一線を、
世界の強制力によって越えさせられることになる。
(この学園生活、
俺の正気が先か、
世界の説明が先か――)
答えは、
まだ出ない。
10
あなたにおすすめの小説
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗利は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる