『中身は俺のままなのに、学園では美少女扱いです』

羽蟲蛇 響太郎

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第8話 学園コメディは突然に

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――その日の朝、
 俺は一つの決意をしていた。

(今日は……
 何も考えない)

 考えると疲れる。
 疑われてるとか、演技がどうとか、
 全部一回忘れる。

 そう決めた瞬間に限って、
 ろくなことが起きないのが人生だ。

「佐倉さーん!
 今日の放課後、空いてる?」

 登校早々、
 クラスの女子が声をかけてくる。

「え、なに?」

「文化祭の出し物、
 女子代表で手伝ってほしいんだけど!」

(女子代表)

 その単語だけで、
 心が一段階下がる。

「……俺?」

 言いかけて、
 慌てて言い直す。

「……わ、私?」

「そうそう!
 だって佐倉さん、
 雰囲気あるし!」

(雰囲気って何だよ
 “元男子感”か?)

 断る理由を探すが、
 周囲の期待に満ちた目に囲まれて詰む。

「……わかりました」

 こうして俺は、
 文化祭準備という名の地雷原に
 足を踏み入れることになった。

 放課後。

 集められたのは、
 クラスの女子数名と――

「……あ」

 高橋。

 よりによって、
 元クラスメイト枠。

「お、佐倉……さん」

 一瞬だけ詰まるの、
 やめてくれ。

「奇遇だな。
 俺も手伝い頼まれてさ」

(奇遇じゃねぇよ
 罠だろこれ)

 作業は、
 教室での装飾づくり。

 折り紙、段ボール、
 そして謎の小道具。

「佐倉さん、
 これどう思う?」

 女子に聞かれ、
 俺は無意識に即答する。

「それ、
 テープ弱いから落ちる」

「え、そう?」

「この重さなら、
 補強しないと無理」

 一瞬、
 空気が止まった。

(……あ)

(やった)

 ――完全に、
 “男子的思考”が出た。

 だが。

「さすが佐倉さん!」

「頼れる~!」

(違う!
 そこは疑えよ!)

 高橋が、
 横からじっと見ている。

(……気づくな
 気づくな)

 その直後。

「佐倉さん、
 脚立乗ってくれる?」

(……脚立)

(……スカート)

(……俺)

「……わかりました」

 覚悟を決めて、
 脚立に乗る。

(……見上げるな
 見るな
 俺を見るな)

 下から、
 女子の声。

「佐倉さん、
 危ないから気をつけてね!」

「……はい」

 その時。

「……あ」

 バランスを崩す。

「うわっ!?」

 ――支えたのは、
 高橋だった。

「大丈夫か!?」

 一瞬、
 距離が近すぎる。

 近すぎて、
 完全にフリーズ。

「……っ」

「……佐倉?」

 高橋が、
 低い声で言う。

「……今の反応、
 完全にお前――」

「ち、違います!」

 即座に叫ぶ。

 教室中の視線が集まる。

「高橋くん!
 佐倉さん困ってるでしょ!」

「そうそう!」

「男の子が近づきすぎ!」

(助かったけど
 立場逆転してね?)

 高橋は、
 引き下がるしかなかった。

 作業が終わり、
 教室を出る。

 彩音が、
 廊下で待っていた。

「……お疲れさま」

「……疲れた」

「顔に出てる」

 少し笑う。

「でも、
 今日は“佐倉さん”してたよ」

「……それ、
 褒め言葉?」

「半分くらい」

 俺は、
 思わずため息をついた。

(……今日は、
 生き延びた)

 正体は、
 まだバレてない。

 疑いは、
 消えてない。

 でも――

(こういう日がないと、
 本当に潰れる)

 ドタバタで、
 勘違いで、
 笑われて。

 それでも、
 学園生活は続いていく。

 ――俺が“俺”でいられなくても。
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