『中身は俺のままなのに、学園では美少女扱いです』

羽蟲蛇 響太郎

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第7話 それでも、答えは聞かない

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 宮坂彩音は、自分が「見てはいけないものを見ている」気がしていた。

 佐倉さん――
 クラスに来た“転校生”のはずの彼女。

 最初に感じたのは、些細な違和感だった。
 動作が少しぎこちない。
 反応が一拍遅れることがある。
 それなのに、時々だけ、妙に“慣れた”振る舞いをする。

(……前からここにいたみたい)

 そんな感覚。

 でも、それは感覚でしかない。
 証拠はない。
 問い詰める理由もない。

 彩音は、その違和感に蓋をしてきた。

 ――けれど。

 放課後、クラスメイトが帰っていく中で、
 佐倉さんだけが席に残っていた。

 窓の外を見つめる横顔は、
 どこか疲れていて、
 “可愛い”よりも先に、“無理をしている”という印象が来る。

「……佐倉さん」

 声をかけると、
 彼女は少し驚いたように振り返った。

「あ、宮坂さん」

 その呼び方。

 距離を保つための、
 丁寧すぎる距離感。

「……まだ帰らないの?」

「うん。ちょっと……考え事」

 曖昧な返事。

 彩音は、隣の席に座った。

 沈黙が流れる。

 気まずさではない。
 けれど、近づきすぎると壊れてしまいそうな、
 不思議な空気。

「……ね」

 彩音は、慎重に言葉を選ぶ。

「佐倉さんってさ、
 “前の学校”では、どんな人だったの?」

 一瞬。

 本当に一瞬だけ、
 佐倉さんの表情が固まった。

「……普通、だよ」

 答えは短い。

「目立たなくて、
 別に、特別じゃない」

 ――その言い方。

 彩音の胸に、
 はっきりとした確信が芽生えかける。

(……知ってる)

(この言い方、
 私、知ってる)

 昔。
 中学の頃。

 クラスの隅で、
 必要以上に目立たないようにしていた男子。

 でも、いざ話すと、
 妙に現実的で、
 少し投げやりで。

 ――名前が、出てこない。

 けれど、
 “感触”だけが一致する。

「……佐倉さん」

 彩音は、息を整えた。

「もしね」

 言葉が、喉で止まる。

「もし……
 誰にも言えないこと、
 抱えてたら」

 佐倉さんの指先が、
 わずかに震えた。

「……どうする?」

 問いは、
 核心のすぐ手前だった。

 佐倉さんは、
 しばらく黙っていた。

 そして、小さく笑った。

「……隠す、かな」

「どうして?」

「……言ったら、
 戻れなくなりそうだから」

 その一言で、
 彩音の中の違和感は、
 ほぼ“確信”に変わった。

(……やっぱり)

(あなたは、
 “何かを失った側”だ)

 でも。

 彩音は、
 それ以上、踏み込まなかった。

 聞けば、
 壊れる。

 知れば、
 今の関係は戻らない。

「……そっか」

 彩音は、
 いつも通りの笑顔を作った。

「じゃあ、
 無理しないでね」

 立ち上がり、
 鞄を持つ。

「私は……
 待つの、得意だから」

 それだけ言って、
 教室を出た。

 残された佐倉さんは、
 しばらく動けずにいた。

(……バレてる)

(ほぼ、全部)

 でも――
 言われなかった。

 聞かれなかった。

 それが、
 ありがたくて、
 怖かった。

 彩音は、
 廊下を歩きながら思う。

(答えは、
 本人が言うまで聞かない)

(それが、
 今の私にできる一番のこと)

 夕暮れの校舎で、
 二人は同じ秘密を抱えたまま、
 別々の方向へ歩き出した。

 ――まだ、
 壊れてはいない。

 けれど、
 均衡は、
 確実に揺れていた。
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