『中身は俺のままなのに、学園では美少女扱いです』

羽蟲蛇 響太郎

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第6話 演じるという疲労

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 ――夢を見た。

 教室で、
 俺が立っている。

 男子の姿で。
 いつもの席で。

「佐倉、ノート見せろよ」

 誰かが言う。

「うるせぇな」

 そう返して、
 笑って――

「……!」

 目を覚ます。

 天井。
 自室。

 そして――
 違う体。

「……最悪」

 夢の内容より、
 夢から覚めた現実の方が重い。

(もう……夢の中ですら、
 元に戻れないのかよ)

 制服に着替えながら、
 鏡を見ないようにする。

 ――見ると、
 演技を始めなきゃいけないから。

 登校。

 校門をくぐった瞬間、
 空気が変わる。

「おはよ、佐倉さん」

「今日の小テストやばくない?」

「昨日のドラマ見た?」

 笑って、
 相槌を打って、
 適当に返す。

(……疲れる)

 これは、
 “嫌なこと”じゃない。

 むしろ、
 優しくされている。

 だからこそ――
 疲れる。

 教室に入ると、
 彩音がすでに席に着いていた。

 目が合う。

 彼女は、一瞬だけ、
 何か言いたそうにして――
 結局、視線を逸らした。

(……距離、できたな)

 自分で作った壁だ。
 仕方ない。

 授業中。

 先生に当てられ、
 俺は立ち上がる。

「……ここは、
 一次関数の――」

 説明しながら、
 ふと気づく。

(……説明の仕方、
 前の俺のままだ)

 慌てて、
 言い回しを柔らかくする。

(……違う、違う)

 “佐倉 恒一(女子)”は、
 こんな話し方はしない。

 放課後。

 廊下の向こうで、
 高橋を見かけた。

 目が合いそうになり、
 反射的に避ける。

(……まだ、疑ってる)

 確信はされていない。
 でも、
 “引っかかり”は消えていない。

 ――その頃。

 彩音は、
 別の違和感を抱えていた。

(……佐倉さん)

 ノートを閉じながら、
 彼女は思い返す。

 動作。
 視線。
 言葉の選び方。

(……知ってる誰かに、
 似てる)

 だが、
 それが誰なのかは、
 思い出せない。

 名前も、
 顔も。

 ただ――
 感覚だけが残る。

(……でも)

 彩音は、
 ペンを握りしめる。

(本人が隠してるなら、
 踏み込んじゃいけない)

 放課後の教室。

 俺は一人、
 席に座っていた。

 カバンを持つ気にもなれず、
 ただ、窓の外を見る。

(……いつまで、
 これ続けるんだ)

 世界は、
 俺を否定しない。

 周囲も、
 俺を疑わない。

 ――でも。

(俺だけが、
 俺を否定してる)

 ふと、
 手が震えていることに気づく。

「……あ」

 慌てて、
 机の下に隠す。

(……演じるの、
 向いてねぇな)

 笑顔。
 仕草。
 声。

 全部、
 “俺じゃない”。

 校舎を出ると、
 夕焼けが眩しかった。

 その中で、
 高橋が立っていた。

 今度は、
 声をかけてこない。

 ただ、
 遠くから見ている。

 彩音も、
 校舎の影から、
 俺を見ていた。

 ――二人とも、
 同じものを見ている。

 佐倉 恒一という矛盾を。

 俺は、
 気づかないふりをして歩く。

 だが、
 足取りは重い。

(……限界、
 近いな)

 この演技は、
 いつか必ず、
 破綻する。

 それが、
 明日なのか、
 もっと先なのか――

 俺には、
 まだ分からなかった。
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