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第10話 それでも私は、ここにいる
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修学旅行最終日の朝は、
驚くほどあっさり始まった。
目を覚ますと、
布団の中は少しだけ暑くて、
天井は見慣れない宿のものだった。
(……ああ、修学旅行か)
一瞬、
“元の自分”だった頃の朝と混同しかけて、
体を動かしてすぐに現実に戻る。
軽い体。
違う重心。
聞き慣れてしまった心臓の音。
(……もう、慣れたな)
それに気づいて、
少しだけ苦笑する。
「おはよー」
「……おはよ」
彩音の声。
隣の布団から、
寝起きのまま顔を出してくる。
「眠れた?」
「……まあ」
嘘ではない。
本当に、眠れた。
昨日までなら、
“起きたら全部夢であってほしい”と
思っていたはずなのに。
身支度をして、
朝食をとり、
バスに乗る。
最終日は、
観光地を少し回って、
そのまま帰路につく予定だ。
「佐倉さん、
写真撮ろうよ!」
「……いいよ」
集合写真。
友達同士の写真。
ふざけたポーズ。
シャッターが切られるたび、
俺――いや、私は、
画面の中でちゃんと笑っていた。
(……悪くない)
自分でそう思ってしまうのが、
少し怖くて、
でも否定できなかった。
昼前、
自由行動の時間。
彩音と並んで歩く。
「……ね」
「なに?」
「修学旅行、
どうだった?」
答えは、
すぐに出なかった。
楽しかった。
大変だった。
怖かった。
笑った。
全部、事実だ。
「……疲れた」
結局、
そう答える。
彩音は、
小さく笑った。
「だよね」
それ以上、
聞いてこない。
帰りのバス。
眠気と揺れの中で、
私は窓の外を眺めていた。
(……このまま)
このまま、
家に帰って、
学校に戻って、
また“佐倉 恒一(女子)”として
日常を続ける。
(……元に戻る方法、
探してたっけ)
ふと思い返す。
確かに、
最初は必死だった。
でも、
いつの間にか、
“戻る”という選択肢を
本気で考えなくなっていた。
理由は、
きっと単純だ。
(……戻っても)
戻った先にあるのは、
目立たず、
空気みたいで、
誰にも期待されていなかった
“俺”の生活。
今は――
名前を呼ばれる。
声をかけられる。
一緒に笑う。
それが、
楽しいと思ってしまった。
(……ずるいな)
高橋の姿が、
前方の席に見える。
彼はもう、
こちらを見ていない。
彩音は、
隣でうとうとしている。
誰も、
答えを迫らない。
だからこそ、
私は決めた。
(……このままでいい)
誰にも言わない。
宣言もしない。
ただ、
女子として生きる。
過去を否定しない。
でも、
過去に戻らない。
バスが、
駅に到着する。
「……着いたよ」
彩音に声をかけられ、
私は立ち上がった。
スカートの感覚も、
もう違和感じゃない。
校舎へ向かう帰り道、
私は小さく息を吐いた。
「……よし」
誰にも聞こえない声で、
そう呟く。
これは、
逃げじゃない。
選んだ結果だ。
中身は変わらなくても、
生き方は変えられる。
私は――
この学園で、
この姿で、
生きていく。
それでいい。
それが、
私の答えだった。
驚くほどあっさり始まった。
目を覚ますと、
布団の中は少しだけ暑くて、
天井は見慣れない宿のものだった。
(……ああ、修学旅行か)
一瞬、
“元の自分”だった頃の朝と混同しかけて、
体を動かしてすぐに現実に戻る。
軽い体。
違う重心。
聞き慣れてしまった心臓の音。
(……もう、慣れたな)
それに気づいて、
少しだけ苦笑する。
「おはよー」
「……おはよ」
彩音の声。
隣の布団から、
寝起きのまま顔を出してくる。
「眠れた?」
「……まあ」
嘘ではない。
本当に、眠れた。
昨日までなら、
“起きたら全部夢であってほしい”と
思っていたはずなのに。
身支度をして、
朝食をとり、
バスに乗る。
最終日は、
観光地を少し回って、
そのまま帰路につく予定だ。
「佐倉さん、
写真撮ろうよ!」
「……いいよ」
集合写真。
友達同士の写真。
ふざけたポーズ。
シャッターが切られるたび、
俺――いや、私は、
画面の中でちゃんと笑っていた。
(……悪くない)
自分でそう思ってしまうのが、
少し怖くて、
でも否定できなかった。
昼前、
自由行動の時間。
彩音と並んで歩く。
「……ね」
「なに?」
「修学旅行、
どうだった?」
答えは、
すぐに出なかった。
楽しかった。
大変だった。
怖かった。
笑った。
全部、事実だ。
「……疲れた」
結局、
そう答える。
彩音は、
小さく笑った。
「だよね」
それ以上、
聞いてこない。
帰りのバス。
眠気と揺れの中で、
私は窓の外を眺めていた。
(……このまま)
このまま、
家に帰って、
学校に戻って、
また“佐倉 恒一(女子)”として
日常を続ける。
(……元に戻る方法、
探してたっけ)
ふと思い返す。
確かに、
最初は必死だった。
でも、
いつの間にか、
“戻る”という選択肢を
本気で考えなくなっていた。
理由は、
きっと単純だ。
(……戻っても)
戻った先にあるのは、
目立たず、
空気みたいで、
誰にも期待されていなかった
“俺”の生活。
今は――
名前を呼ばれる。
声をかけられる。
一緒に笑う。
それが、
楽しいと思ってしまった。
(……ずるいな)
高橋の姿が、
前方の席に見える。
彼はもう、
こちらを見ていない。
彩音は、
隣でうとうとしている。
誰も、
答えを迫らない。
だからこそ、
私は決めた。
(……このままでいい)
誰にも言わない。
宣言もしない。
ただ、
女子として生きる。
過去を否定しない。
でも、
過去に戻らない。
バスが、
駅に到着する。
「……着いたよ」
彩音に声をかけられ、
私は立ち上がった。
スカートの感覚も、
もう違和感じゃない。
校舎へ向かう帰り道、
私は小さく息を吐いた。
「……よし」
誰にも聞こえない声で、
そう呟く。
これは、
逃げじゃない。
選んだ結果だ。
中身は変わらなくても、
生き方は変えられる。
私は――
この学園で、
この姿で、
生きていく。
それでいい。
それが、
私の答えだった。
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