『中身は俺のままなのに、学園では美少女扱いです』

羽蟲蛇 響太郎

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第11話 未来の話をしよう

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修学旅行が終わって、
 日常は何事もなかったかのように戻ってきた。

 ホームルーム。
 授業。
 放課後。

 違うのは――
 私の中身だけだ。

「佐倉さん、
 進路希望、もう決めた?」

 担任のその一言で、
 教室の空気が少しだけ引き締まった。

 進路。

 将来。

 今まで、
 深く考えないようにしてきた言葉。

(……女子として、か)

 プリントを受け取りながら、
 私は無意識にペンを握りしめる。

 放課後。
 進路希望調査の用紙を前に、
 机で固まっていた。

(大学……
 女子大?
 共学?)

(そもそも、
 “私”はどこに行くんだ)

 男子だった頃の将来像は、
 正直、曖昧だった。

 就職できればいい。
 特別じゃなくていい。

 でも今は――
 周囲から向けられる期待が、
 少しだけ違う。

「佐倉さんなら、
 接客向いてそう」

「人当たりいいし」

「可愛いし」

(……中身、
 元男子なんだけどな)

 そう思いながらも、
 否定する気は起きなかった。

 教室に、
 彩音が入ってくる。

「……まだ残ってたんだ」

「うん」

 進路の紙を、
 ちらっと見られる。

「悩んでる?」

「……まあ」

 彩音は、
 何も言わずに隣の席に座った。

 しばらく、
 沈黙。

 それから、
 ぽつりと。

「……佐倉さんってさ」

「なに?」

「“前”の自分と、
 今の自分」

 一瞬、
 心臓が跳ねる。

「……どっちが、
 好き?」

 逃げ場のない質問だった。

「……わからない」

 正直に答える。

「でも……
 今の方が、
 ちゃんと考えてる」

 彩音は、
 静かに頷いた。

「……うん」

 そして、
 視線を落としたまま言う。

「私ね」

「……?」

「もう、
 答えは分かってると思う」

 空気が、
 一瞬止まる。

「……でも」

 彩音は、
 顔を上げて微笑んだ。

「言わない」

 その笑顔は、
 確信を含んでいた。

 問いでも、
 探りでもない。

 理解した人の顔だった。

「……ありがとう」

 それしか、
 言えなかった。

「条件があるとしたら」

 彩音は、
 少しだけ真剣な声で言う。

「自分を、
 嫌いにならないこと」

「……うん」

「元がどうでも、
 今がどうでも」

 彼女は、
 はっきりと言った。

「佐倉さんは、
 佐倉さんだから」

 胸の奥が、
 少しだけ軽くなる。

 進路希望欄に、
 私は文字を書く。

 “自分で選ぶ進路”。

 具体的な名前は、
 まだ書かない。

 でも――
 迷いは、
 もう恐怖じゃなかった。

 帰り道。

 夕焼けの中で、
 彩音と並んで歩く。

「……将来、
 どうなるんだろうね」

「さあ」

 彩音は、
 楽しそうに言った。

「でも、
 今より悪くはならないよ」

 私は、
 小さく笑った。

(……女子としての未来)

(案外、
 悪くないかもしれない)

 答えを知っているのは、
 彩音だけ。

 でもそれでいい。

 秘密は、
 守られるためにあるんじゃない。

 生きていくために、
 共有されることもある。

 私は、
 この姿で、
 この未来へ進む。

 ――女子として。

 そして、
 佐倉 恒一として。
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