『中身は俺のままなのに、学園では美少女扱いです』

羽蟲蛇 響太郎

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第13話 卒業前なのに、平常運転です

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 卒業まで、あと二週間。

 ――信じられないことに、
 私の学園生活はいつも通りだった。

「佐倉さーん、
 これ配っといて!」

「はいはい」

 プリントを受け取り、
 教室を歩く。

(……俺が男子だった頃、
 こんな役回り一度もなかったんだが)

 視線が集まる。
 何人かに微笑まれる。

(やめろ
 心の処理が追いつかない)

 卒業が近づくと、
 学校はなぜか落ち着かなくなる。

 なのに、
 クラスの空気はやたら明るい。

「卒業したらさー」

「写真撮りまくろ!」

「第二ボタン誰がもらう?」

(……第二ボタン)

(俺には関係ない……
 いや、今はあるのか?)

 いや、ない。
 たぶん。

 昼休み。

 私はいつもの席で、
 彩音とお弁当を広げていた。

「……ねえ」

「なに?」

「佐倉さんってさ」

 彩音が、
 私のおかずを指差す。

「それ、
 昨日も入ってなかった?」

「……気のせい」

「三日連続だよ」

(母さん、
 レパートリー少なすぎだろ)

「好きだからいいの」

「それ、
 完全に慣れた人の台詞」

 彩音が笑う。

(……慣れたな)

 箸の持ち方も、
 食べるペースも、
 もう何も言われない。

 それが当たり前になっている。

「佐倉さん、
 卒業アルバムのコメント、
 もう書いた?」

「……白紙」

「早く書かないと、
 先生に怒られるよ」

(何書けばいいんだよ)

(“性別変わりました”とか
 書けるわけないだろ)

 放課後。

 卒業式の練習。

 体育館に整列し、
 入退場の確認。

「はい、佐倉さん」

「……はい」

(名前呼ばれるの、
 未だにちょっと緊張する)

 立ち上がると、
 後ろから小声が聞こえた。

「……歩き方、
 完全に女子だよな」

 高橋。

(お前は黙れ)

 私は無言で歩く。

(……昔の俺が見たら、
 腰抜かすぞ)

 休憩時間。

 彩音が、
 私の隣に座る。

「疲れた?」

「……まあ」

「顔に出てる」

「出してない」

「出てる」

 即断。

(彩音、
 最近容赦ない)

「卒業したらさ」

 彩音が、
 何でもない風に言う。

「制服着るの、
 最後だね」

「……だね」

 スカートの裾を見る。

(もう、
 違和感はない)

 違和感がないことに、
 違和感を覚えなくなった。

 ――これが日常。

 帰り道。

 駅前で、
 クラスメイト数人に呼び止められる。

「佐倉さん、
 写真撮ろ!」

「え、今?」

「今がいい!」

 囲まれる。

(……逃げられない)

 スマホを向けられ、
 無意識にポーズを取る。

(……何やってんだ俺)

 シャッター音。

「可愛いー!」

(だから
 やめろって)

 その様子を、
 少し離れたところから
 彩音が見ていた。

 目が合う。

 ニヤッとされる。

(……後で何言われるか
 分かったもんじゃない)

 案の定。

「……人気者だね」

「違う」

「自覚ないのが
 一番危ない」

(男子だった頃は
 空気だったんだが?)

 夜。

 自室で、
 卒業アルバム用のコメントを
 ようやく書く。

『普通の日常が、
 一番大切だと知りました』

(……無難)

 でも、
 嘘じゃない。

 布団に入る。

(……卒業か)

 正直、
 寂しい。

 この生活が終わることが。

 でも――
 終わるわけじゃない。

(続くんだよな、
 このまま)

 女子として。
 佐倉として。

 彩音と、
 笑って。

 ――平常運転で。

「……まあ」

 小さく呟く。

「悪くないか」

 明日も、
 たぶんドタバタで、
 平和な一日だ。

 卒業前なのに、
 何も変わらない。

 それが、
 今の私の日常だった。
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