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第4話「戦争」
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サド要塞は周辺一帯を見渡せる事が出来、戦前より要塞建設が進められていた。また、サド要塞の北東400mに位置に小高い丘があり、その丘も要塞とまでいかなくとも機関銃や迫撃砲陣地が設営されている。そしてサド要塞と丘は地下通路によって繋がっており、相互支援が可能となっている。これは後に両軍に大損害を与える理由となる。
また、サド要塞攻防戦時の皇国陸軍の戦力は4個歩兵師団、王国陸軍の戦力は6個歩兵師団
尚、皇国陸軍の4個の内1個は撤退してきた師団であり、それは戦闘前から戦闘部隊の2割程を損失している状態であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
7月16日 08:30 サド要塞
「さっきから敵兵がちょろちょろと動いてるけど、、そろそろ来そうだねぇ」
タースは双眼鏡で敵部隊を見てそう言うと同時に銃を構えると小隊長の隊員を鼓舞する声が聞こえた。
「良いか!お前達はこの時の為に訓練をしたきた!その訓練の成果を存分に生かしてくれ!」
今から自分は命をいつ失ってもおかしくないのだ。そして自分は今から人を殺すのだ。ハイトは今の小隊長の言葉を聞いてそれを改めて実感した途端に足が震えだしていた。
「来た!」
ハイトにとっては誰がそれを言ったのか分からない。ただその言葉だけがあの状況下で一番大きく聞こえたし、一番鮮明に聞こえた。
その瞬間。1秒もたたずに鼓膜を破るのではないかというほどの数多くの、乾いたような音が鳴り始めた。発砲音だ。機関銃、歩兵銃、ありとあらゆる銃火器が火を吹きとてつもない音になる。
「撃てぇ!撃て撃て撃て撃てぇ!!!」
小隊長の声だった。興奮しているらしい。
それはそうだろう。
ここにいる全員が初めての実戦で初めて人に対して銃を撃つ。自分の命を賭けて相手の命を奪い取る。
そんな究極の博打をしているのだから嫌でも興奮する。
敵との距離は今のところ離れている。弾丸が命中した敵はその場に倒れるか後ろに飛ばされている。
そんな中ハイトは歩兵銃をただただ撃ち続ける。自分の撃った弾丸が当たっているかは分からないが、敵も必死に走りこちらに迫ってくる。
敵が山の中間まで来た頃、突撃する敵の中で爆発が起こり、数人が吹き飛ぶ。
次々とあちこちで爆発が起こり誰かが必ず吹き飛ばされている。
丘からの迫撃砲の支援が来たらしい。こちらが敵の位置を教えあちらはそれに従い迫撃砲を撃つ。
そうしていても敵がどんどん迫ってくる。敵は走っているからか撃っても命中はほぼしないし、逆にこちらからすれば敵の人数も多いのでただの的だった。
良く狙わなくても当たるような的だ。
だかその的も次第にこちらに迫ってくるのだ。
気付けば最後の鉄条網の位置まで来ていたが明らかに数が減っていた。
数が減ったものの容赦なく敵に弾丸が撃ち込まれていく。
そんな光景を見つつも発砲するハイトの目に1人の敵兵士が映った。
鉄条網に軍服が引っ掛かったらしく少し動きが止まったのだ。それが周囲に大人数いたなら、目に映らなかっただろう。だがもうすでに少数になっている状態でそうなったのだ。それをハイトにすら見つかったのだから機関銃手らが見逃す筈がない。
直ぐに機関銃が火を吹き弾丸が飛んでいき命中する。
機関銃に狙われた挙げ句のはてには幾つかの歩兵銃にも狙われた彼の人体はまさに蜂の巣であり手や足は何処かに飛んでいってしまっていた。
「終わった…」
ハイトは座り込んでいた。始まってから何分たったのか、時間感覚どころか記憶自体あまり無い。自分は撃っていたのだろうか?腰に着けている弾薬を入れておく弾薬盒の中を見ると弾薬は半分程無くなっていた。元から100発以上は入っていたのだから50発以上は使った。確実に数人の命を自分は奪った。そして最後に見た彼の人生の最後。
何よりハイトは彼の顔を見たのだ。
眼鏡をかけ、優しそうな顔をしていた。だが、焦った顔で鉄条網から服を外し再び前を向き、何かに気づき絶望したような顔になっていた。
あれで良かったのだろうかと思った。自分の、いや、我々の今の戦いは良かったのだろうか。が、昨日の夜にしたエラムとの会話を思いだした。
「あの港にいたボロボロの人達、何処から来たと思う?」
「え?それは最前線の近くにあった村とかじゃないんですか?戦闘に巻き込まれたとかで」
戦場の近くにあるような村や町は戦闘に巻き込まれるのは良くある事だから…と思いつつ港にいた人達を思いだす。
「それってさ、おかしくない?」
「え?」
まさか、それ以外に何があるのか。戦闘に巻き込まれたからああやってボロボロになったんじゃないか。とハイトは考える。
「だって開戦時に国境付近の部隊は壊滅したんだよ?一体敵軍は何と戦闘したんだ?あくまでも噂だけど、国境近くにあった全ての町村は敵に物資の大半を略奪され、家を燃やされ、捕まった女は散々遊ばれた後殺されて、捕まった男は即殺されたらしいよ」
「え、いやそんな。彼等は敵と言えども軍人ですよ?」
信じたく無い事をまた言ってくるエラムだが流石に今回は無理があるような気がするのだ。
何せ常日頃訓練に励み統率がとれているのが軍人だと思っている。そんな軍人がそのようなことをするのか?
全く信じる事が出来ないハイトにエラムはこう言った。
「でもさ、下っ端の僕達はあまり習わないけど軍って兵站がちゃんとしてないといくら勝てる戦いでも勝てない。町村を襲っての物資略奪は兵站の一種だと思うよ?民間人を襲ったり殺したりするのは一部の未婚者とかある意味欲望に素直な奴とかだと思うけどね。良いかい?僕達がしているのは『戦争』なんだ。『戦争』は綺麗事だけじゃ勝てないよ…」
戦争には綺麗事だけでは勝てない。
それは先の戦闘でした事を正当化するには合理的で十分な理由だったし、自分自身を洗脳するには持ってこいの物だった。
ハイトはそれで罪悪感等を全て押さえつけ、むしろ相手はそうなって当然なのだと自分に言い聞かせた。
後々小隊長から聞かされた話だが、敵の死傷者数は少なくとも1万は超えているとのことだった。翌日になった今でも敵が突撃してきた緩やかな坂には敵へ兵の死体で埋め尽くされ禿鷹が空を飛んでいた。
また、サド要塞攻防戦時の皇国陸軍の戦力は4個歩兵師団、王国陸軍の戦力は6個歩兵師団
尚、皇国陸軍の4個の内1個は撤退してきた師団であり、それは戦闘前から戦闘部隊の2割程を損失している状態であった。
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7月16日 08:30 サド要塞
「さっきから敵兵がちょろちょろと動いてるけど、、そろそろ来そうだねぇ」
タースは双眼鏡で敵部隊を見てそう言うと同時に銃を構えると小隊長の隊員を鼓舞する声が聞こえた。
「良いか!お前達はこの時の為に訓練をしたきた!その訓練の成果を存分に生かしてくれ!」
今から自分は命をいつ失ってもおかしくないのだ。そして自分は今から人を殺すのだ。ハイトは今の小隊長の言葉を聞いてそれを改めて実感した途端に足が震えだしていた。
「来た!」
ハイトにとっては誰がそれを言ったのか分からない。ただその言葉だけがあの状況下で一番大きく聞こえたし、一番鮮明に聞こえた。
その瞬間。1秒もたたずに鼓膜を破るのではないかというほどの数多くの、乾いたような音が鳴り始めた。発砲音だ。機関銃、歩兵銃、ありとあらゆる銃火器が火を吹きとてつもない音になる。
「撃てぇ!撃て撃て撃て撃てぇ!!!」
小隊長の声だった。興奮しているらしい。
それはそうだろう。
ここにいる全員が初めての実戦で初めて人に対して銃を撃つ。自分の命を賭けて相手の命を奪い取る。
そんな究極の博打をしているのだから嫌でも興奮する。
敵との距離は今のところ離れている。弾丸が命中した敵はその場に倒れるか後ろに飛ばされている。
そんな中ハイトは歩兵銃をただただ撃ち続ける。自分の撃った弾丸が当たっているかは分からないが、敵も必死に走りこちらに迫ってくる。
敵が山の中間まで来た頃、突撃する敵の中で爆発が起こり、数人が吹き飛ぶ。
次々とあちこちで爆発が起こり誰かが必ず吹き飛ばされている。
丘からの迫撃砲の支援が来たらしい。こちらが敵の位置を教えあちらはそれに従い迫撃砲を撃つ。
そうしていても敵がどんどん迫ってくる。敵は走っているからか撃っても命中はほぼしないし、逆にこちらからすれば敵の人数も多いのでただの的だった。
良く狙わなくても当たるような的だ。
だかその的も次第にこちらに迫ってくるのだ。
気付けば最後の鉄条網の位置まで来ていたが明らかに数が減っていた。
数が減ったものの容赦なく敵に弾丸が撃ち込まれていく。
そんな光景を見つつも発砲するハイトの目に1人の敵兵士が映った。
鉄条網に軍服が引っ掛かったらしく少し動きが止まったのだ。それが周囲に大人数いたなら、目に映らなかっただろう。だがもうすでに少数になっている状態でそうなったのだ。それをハイトにすら見つかったのだから機関銃手らが見逃す筈がない。
直ぐに機関銃が火を吹き弾丸が飛んでいき命中する。
機関銃に狙われた挙げ句のはてには幾つかの歩兵銃にも狙われた彼の人体はまさに蜂の巣であり手や足は何処かに飛んでいってしまっていた。
「終わった…」
ハイトは座り込んでいた。始まってから何分たったのか、時間感覚どころか記憶自体あまり無い。自分は撃っていたのだろうか?腰に着けている弾薬を入れておく弾薬盒の中を見ると弾薬は半分程無くなっていた。元から100発以上は入っていたのだから50発以上は使った。確実に数人の命を自分は奪った。そして最後に見た彼の人生の最後。
何よりハイトは彼の顔を見たのだ。
眼鏡をかけ、優しそうな顔をしていた。だが、焦った顔で鉄条網から服を外し再び前を向き、何かに気づき絶望したような顔になっていた。
あれで良かったのだろうかと思った。自分の、いや、我々の今の戦いは良かったのだろうか。が、昨日の夜にしたエラムとの会話を思いだした。
「あの港にいたボロボロの人達、何処から来たと思う?」
「え?それは最前線の近くにあった村とかじゃないんですか?戦闘に巻き込まれたとかで」
戦場の近くにあるような村や町は戦闘に巻き込まれるのは良くある事だから…と思いつつ港にいた人達を思いだす。
「それってさ、おかしくない?」
「え?」
まさか、それ以外に何があるのか。戦闘に巻き込まれたからああやってボロボロになったんじゃないか。とハイトは考える。
「だって開戦時に国境付近の部隊は壊滅したんだよ?一体敵軍は何と戦闘したんだ?あくまでも噂だけど、国境近くにあった全ての町村は敵に物資の大半を略奪され、家を燃やされ、捕まった女は散々遊ばれた後殺されて、捕まった男は即殺されたらしいよ」
「え、いやそんな。彼等は敵と言えども軍人ですよ?」
信じたく無い事をまた言ってくるエラムだが流石に今回は無理があるような気がするのだ。
何せ常日頃訓練に励み統率がとれているのが軍人だと思っている。そんな軍人がそのようなことをするのか?
全く信じる事が出来ないハイトにエラムはこう言った。
「でもさ、下っ端の僕達はあまり習わないけど軍って兵站がちゃんとしてないといくら勝てる戦いでも勝てない。町村を襲っての物資略奪は兵站の一種だと思うよ?民間人を襲ったり殺したりするのは一部の未婚者とかある意味欲望に素直な奴とかだと思うけどね。良いかい?僕達がしているのは『戦争』なんだ。『戦争』は綺麗事だけじゃ勝てないよ…」
戦争には綺麗事だけでは勝てない。
それは先の戦闘でした事を正当化するには合理的で十分な理由だったし、自分自身を洗脳するには持ってこいの物だった。
ハイトはそれで罪悪感等を全て押さえつけ、むしろ相手はそうなって当然なのだと自分に言い聞かせた。
後々小隊長から聞かされた話だが、敵の死傷者数は少なくとも1万は超えているとのことだった。翌日になった今でも敵が突撃してきた緩やかな坂には敵へ兵の死体で埋め尽くされ禿鷹が空を飛んでいた。
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