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3話 やさしい夜
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夕方、街は仕事帰りの人々でにぎわい始めていた。
駅前のカフェはいつものように混み合い、ガラス越しの明かりが春菜の横顔をやさしく照らしていた。
「……それでね、部長に任された新しい案件が結構大きくて。責任もあるけど、やりがいもあって」
そう話しながら、春菜はカフェラテのカップを両手で包み込む。
向かいに座る優斗は、時折スマホをちらりと見ながらも、しっかりと彼女の言葉に耳を傾けていた。
「春菜が任されるってことは、信頼されてる証拠じゃん。すごいよ」
「そんなことないよ、まだまだ勉強中」
照れくさそうに笑う春菜。でも、その笑顔の奥で、ふと昨日の会議での光景が脳裏をよぎった。
(……あの人の真剣な眼差し)
蒼真が資料に目を通していた時の横顔。一瞬だけ視線が合った時の、胸の奥の小さな騒めき。
「春菜?」
「え?」
我に返ると、優斗が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「なんかボーッとしてたけど、大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
慌てて笑顔を作る。優斗の優しさが、なぜか今日は少し重く感じられた。
「でもさ、春菜って意外と堂々としてるよな。普段はちょっとドジっ子なのに」
「えっ、ちょっと! 失礼だなあ」
「褒めてるんだって。そういうとこも可愛いなって思うし」
「……もう、またそれ」
照れ隠しにむくれたような表情を見せる春菜。
そんな彼女の頬が赤くなるのを見て、優斗はくすりと笑った。
──この人といると、自然に笑える。
春菜は、そう思った。でも、同時に胸の奥で小さな声がささやいている。
(……それなのに、なんで)
なんで、別の人の顔が浮かんでしまうのだろう。
---
帰り道。
ふたりは夜の街を並んで歩いていた。
駅前の賑わいが少しずつ静まる中、会話は穏やかに続いていた。
「最近ちょっと疲れてない? ちゃんと寝てる?」
「え、ばれてた?」
「顔に出てる。まあ……そういうとこも春菜らしいけど」
春菜は唇をとがらせて抗議する。
「それ、茶化してるでしょ?」
「いや、ちゃんと心配してるんだよ。……可愛いし」
「……ほんと、もう」
そう言いながらも、春菜の目元はやわらかくほころんでいた。
(優斗は、いつもわたしのことを見ていてくれる)
この時間が、心地よかった。特別なことは何もなくても、隣にこの人がいるだけで、世界が少し優しく感じられる。
なのに——。
(……なんで、素直に喜べないんだろう)
心の奥で、小さな罪悪感がちくちくと痛んでいた。
---
風が少し冷たく、春菜は無意識に優斗の腕に寄り添った。
「送ってくれてありがとう。今日も楽しかった」
「俺も。春菜の話、聞いてたら元気出た」
街灯の下で立ち止まり、優斗が春菜の手を取る。
その手は少し冷たくて、彼はそっと包み込むように握った。
「……無理しすぎんなよ。俺に甘えていいんだから」
「……うん」
その言葉が、静かに胸に染みた。
春菜はそのまま、優斗の肩にそっと寄りかかる。
(この人は、いつもこんなふうに優しくしてくれる)
でも、なぜだろう。優斗の温もりを感じながらも、心の片隅で別の人の面影が揺れている。
(……わたし、最低だよね)
こんなに大切にしてくれる人がいるのに。
夜風が、ふたりの影をやさしく包んでいた。
春菜は優斗の肩に頭を預けながら、静かに目を閉じた。
(……ごめんね)
その謝罪が、優斗に向けたものなのか、それとも自分自身に向けたものなのか、春菜にもわからなかった。
駅前のカフェはいつものように混み合い、ガラス越しの明かりが春菜の横顔をやさしく照らしていた。
「……それでね、部長に任された新しい案件が結構大きくて。責任もあるけど、やりがいもあって」
そう話しながら、春菜はカフェラテのカップを両手で包み込む。
向かいに座る優斗は、時折スマホをちらりと見ながらも、しっかりと彼女の言葉に耳を傾けていた。
「春菜が任されるってことは、信頼されてる証拠じゃん。すごいよ」
「そんなことないよ、まだまだ勉強中」
照れくさそうに笑う春菜。でも、その笑顔の奥で、ふと昨日の会議での光景が脳裏をよぎった。
(……あの人の真剣な眼差し)
蒼真が資料に目を通していた時の横顔。一瞬だけ視線が合った時の、胸の奥の小さな騒めき。
「春菜?」
「え?」
我に返ると、優斗が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「なんかボーッとしてたけど、大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
慌てて笑顔を作る。優斗の優しさが、なぜか今日は少し重く感じられた。
「でもさ、春菜って意外と堂々としてるよな。普段はちょっとドジっ子なのに」
「えっ、ちょっと! 失礼だなあ」
「褒めてるんだって。そういうとこも可愛いなって思うし」
「……もう、またそれ」
照れ隠しにむくれたような表情を見せる春菜。
そんな彼女の頬が赤くなるのを見て、優斗はくすりと笑った。
──この人といると、自然に笑える。
春菜は、そう思った。でも、同時に胸の奥で小さな声がささやいている。
(……それなのに、なんで)
なんで、別の人の顔が浮かんでしまうのだろう。
---
帰り道。
ふたりは夜の街を並んで歩いていた。
駅前の賑わいが少しずつ静まる中、会話は穏やかに続いていた。
「最近ちょっと疲れてない? ちゃんと寝てる?」
「え、ばれてた?」
「顔に出てる。まあ……そういうとこも春菜らしいけど」
春菜は唇をとがらせて抗議する。
「それ、茶化してるでしょ?」
「いや、ちゃんと心配してるんだよ。……可愛いし」
「……ほんと、もう」
そう言いながらも、春菜の目元はやわらかくほころんでいた。
(優斗は、いつもわたしのことを見ていてくれる)
この時間が、心地よかった。特別なことは何もなくても、隣にこの人がいるだけで、世界が少し優しく感じられる。
なのに——。
(……なんで、素直に喜べないんだろう)
心の奥で、小さな罪悪感がちくちくと痛んでいた。
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風が少し冷たく、春菜は無意識に優斗の腕に寄り添った。
「送ってくれてありがとう。今日も楽しかった」
「俺も。春菜の話、聞いてたら元気出た」
街灯の下で立ち止まり、優斗が春菜の手を取る。
その手は少し冷たくて、彼はそっと包み込むように握った。
「……無理しすぎんなよ。俺に甘えていいんだから」
「……うん」
その言葉が、静かに胸に染みた。
春菜はそのまま、優斗の肩にそっと寄りかかる。
(この人は、いつもこんなふうに優しくしてくれる)
でも、なぜだろう。優斗の温もりを感じながらも、心の片隅で別の人の面影が揺れている。
(……わたし、最低だよね)
こんなに大切にしてくれる人がいるのに。
夜風が、ふたりの影をやさしく包んでいた。
春菜は優斗の肩に頭を預けながら、静かに目を閉じた。
(……ごめんね)
その謝罪が、優斗に向けたものなのか、それとも自分自身に向けたものなのか、春菜にもわからなかった。
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