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45話 それでも、明日は来る
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朝の会議室。
プロジェクターの光が、淡く壁を照らす。
「……では、次回の方針について、引き続き営業部との連携を強化して進めてください」
蒼真の声は、いつもと変わらぬ調子だった。
淡々と進行される会議。資料のページをめくる手にも、迷いはない。
だが、その横顔を見つめていた幹部のひとりが、ふと呟いた。
「……最近、少し痩せたように見えませんか」
「気のせいでしょう」と誰かが笑って話題は流れる。
蒼真自身も気づかぬふりで、次のアジェンダへと視線を移した。
昼休み。
オフィスの給湯室で、部下がひそひそと話していた。
「社長、最近ちょっとピリついてるよね」
「昨日も営業部長に無言で資料差し戻してたって……」
聞こえていないふりをして、蒼真は自分のマグカップにコーヒーを注ぐ。
苦味のある香りが、重い胸に染み込んでいく。
(……集中できていないのか)
自分でも気づいている。些細なことでイライラし、部下への当たりもきつくなっている。理由は分かりすぎるほど分かっていた。
夜。
自室に戻ると、誰もいない部屋が出迎えた。
ネクタイを緩め、ジャケットを椅子にかける。その手がふと、止まる。
(……春菜さん)
もう何度、この名前を心の中で呼んだだろう。
思い出そうとするたび、あの夜の声がよみがえる。
> 「……高瀬社長。わたしは、あなたに何も求めていません。」
あの穏やかな声。けれど、揺るぎない拒絶。
(何も……求められていなかった)
ベッドの端に腰を下ろし、額に手をあてる。
ずきりとした痛みが、胸の奥に広がっていく。
あの瞬間、彼女の腕に手を添えて距離をほどいた時の感触。もう二度と触れることはできないのだと、身体で理解した瞬間だった。
(あんな終わり方、望んでなかった)
なのに、口からは何も言葉が出なかった。
彼女の背中に手を伸ばすことも、できなかった。
「……弱いな、俺は」
呟いた声が、誰にも届かない部屋に沈んでいく。
携帯に未読の通知がいくつか並んでいる。
そのなかに、香澄からの「今週末の予定について」という一文。
普段なら開くメッセージも、今は重荷にしか思えない。蒼真はそれを開かず、画面を伏せた。
窓の外、ビルの隙間に沈みゆる夜景がにじんで見える。
(どこまで、取り繕っていればいい)
感情は押し込めた。仮面も崩れていない。
けれど、自分だけが知っている――確かに失ったものが、心の奥にあることを。
――それでも、明日は来る。
また誰かに「社長」と呼ばれ、何事もなかったように仕事をこなす。
蒼真は、今日もひとり、その重さを抱えて夜を過ごすしかなかった。
プロジェクターの光が、淡く壁を照らす。
「……では、次回の方針について、引き続き営業部との連携を強化して進めてください」
蒼真の声は、いつもと変わらぬ調子だった。
淡々と進行される会議。資料のページをめくる手にも、迷いはない。
だが、その横顔を見つめていた幹部のひとりが、ふと呟いた。
「……最近、少し痩せたように見えませんか」
「気のせいでしょう」と誰かが笑って話題は流れる。
蒼真自身も気づかぬふりで、次のアジェンダへと視線を移した。
昼休み。
オフィスの給湯室で、部下がひそひそと話していた。
「社長、最近ちょっとピリついてるよね」
「昨日も営業部長に無言で資料差し戻してたって……」
聞こえていないふりをして、蒼真は自分のマグカップにコーヒーを注ぐ。
苦味のある香りが、重い胸に染み込んでいく。
(……集中できていないのか)
自分でも気づいている。些細なことでイライラし、部下への当たりもきつくなっている。理由は分かりすぎるほど分かっていた。
夜。
自室に戻ると、誰もいない部屋が出迎えた。
ネクタイを緩め、ジャケットを椅子にかける。その手がふと、止まる。
(……春菜さん)
もう何度、この名前を心の中で呼んだだろう。
思い出そうとするたび、あの夜の声がよみがえる。
> 「……高瀬社長。わたしは、あなたに何も求めていません。」
あの穏やかな声。けれど、揺るぎない拒絶。
(何も……求められていなかった)
ベッドの端に腰を下ろし、額に手をあてる。
ずきりとした痛みが、胸の奥に広がっていく。
あの瞬間、彼女の腕に手を添えて距離をほどいた時の感触。もう二度と触れることはできないのだと、身体で理解した瞬間だった。
(あんな終わり方、望んでなかった)
なのに、口からは何も言葉が出なかった。
彼女の背中に手を伸ばすことも、できなかった。
「……弱いな、俺は」
呟いた声が、誰にも届かない部屋に沈んでいく。
携帯に未読の通知がいくつか並んでいる。
そのなかに、香澄からの「今週末の予定について」という一文。
普段なら開くメッセージも、今は重荷にしか思えない。蒼真はそれを開かず、画面を伏せた。
窓の外、ビルの隙間に沈みゆる夜景がにじんで見える。
(どこまで、取り繕っていればいい)
感情は押し込めた。仮面も崩れていない。
けれど、自分だけが知っている――確かに失ったものが、心の奥にあることを。
――それでも、明日は来る。
また誰かに「社長」と呼ばれ、何事もなかったように仕事をこなす。
蒼真は、今日もひとり、その重さを抱えて夜を過ごすしかなかった。
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