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白い部屋
私も不躾にきみに顔を寄せたから
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レオンが目を覚ますと、隣には珍しく眠ったままのジェラルドがいた。ここはジェラルドの私邸であり、彼の寝室と内扉で接する番のための部屋である。部屋自体は広く、発情期を過ごすことを前提に作られているため、並んで眠っても余裕のある大きなベッドが設置されており、マットレスも厚く非常に寝心地が良かった。
(夢、か)
レオンは久しぶりにシェリーと初めて会った時の夢を見たようだと微笑む。幼さゆえの純粋さで満ちた彼女との思い出は、年月を経て美しく磨かれ、今もレオンの胸の内に宝物のように残っている。時折、その宝石を取り出して眺めるように夢を見ると、切ない幸福感に満たされるのだ。
「れ、お」
「!」
ジェラルドが小さく寝言を口にした。名前の一部が聞こえたが、彼はレオンの夢を見ているのだろうか。どんな夢だろう、という興味が湧き、レオンは聞き耳を立てるためにジェラルドの口元にそっと耳を寄せる
するとグルリと視界が反転し、まるで黒豹のような滑らかな動きで、ジェラルドがレオンの上に乗っていた。寝ぼけているのか、覆い被さるような姿勢の彼は、普段見せる事の無い獰猛な目でこちらを睨んでいる。
「ジェラルド」
呼びかけると、ジェラルドはハッとして、いつもの表情に戻った。僅かな時間を置いて状況を認識し、レオンの上から退いて、そして申し訳なさそうに頭を掻いて謝罪する。
「すまない、寝ぼけていた」
「いや、私も不躾にきみに顔を寄せたから」
「顔を?」
口に出してしまったことを後悔したが、もう遅い。聞き返されてしまったし、ジェラルドは意識していないかもしれないが、目でレオンを捉えて〝話せ〟と圧を放っている。
「……悪戯心で。寝言で私の名を呼ぶから、何を言っているか気になったんだ」
秘密にするようなことでもないので、レオンは素直に白状した。
「なにか……聞こえたか?」
「いや、すぐにひっくり返されたから。凄いな、さすが騎士だけあって身のこなしがいい」
レオンが茶化すように笑うと、ジェラルドも目を細めた。そして彼も悪戯心が湧いたのか、不意打ちのように告げてくる。
「貴方を恋い慕う夢を見た」
「……っ」
レオンの胸が大きく跳ねたのは、自身も初恋の夢を見た影響かもしれない。寝起きの行動からはそうは思えなかったが、夢の内容と現実で反射的に起こる行動は別物かもしれないし、本人が言うならそうなのだろう。
(恋の夢か……)
レオンも奇遇なことに初恋の夢で目が覚めた。共通の話題が出来たように感じて、ついそれを口にしてしまった。
「私も今朝は恋の夢を見たよ」
「……恋?」
「初恋の夢だ。幼馴染みが相手で……」
そこまで話した所で、ジェラルドの機嫌が悪くなったと分かった。顔には出さないが、アルファとしての威圧が増している。
「……相手は、リックか?」
「は?」
レオンはジェラルドの質問に固まる。彼から発せられる不穏な雰囲気は、嫉妬なのだろうか。確かにリックとは幼馴染みで仲は良い。しかし、そんな目で見たことは一度もないし、リックもそうだろう。
(ジェラルドは心がお姫様な分、オメガに対して嫉妬してしまうのかもしれない)
レオンは考え込む。もしそうなら、実際の初恋の話はジェラルドにとって、心の繊細な部分を刺激する話になってしまうのではないかと。シェリーはレオンを王子様にした最初の〝お姫様〟なのだから。しかし、話さなければリックに無実の疑いがかかってしまう。
レオンはしばらく悩んだが、どちらにしろ嫉妬するなら現在の人間関係に影響が出てしまうリックの方を優先することに決めた。
「リックじゃないよ。幼年学校時代、少しだけ交流があった女の子がいたんだ。どこの家の子かも知らないし、今どうしているかも分からない……。小さくて痩せていてお姫様の絵本が大好きで、その子を守ってあげたくて、私は王子様になろうと思ったんだ」
「……」
レオンがシェリーについて語ると、ジェラルドの威圧は完全に消えた。レオンの王子様キャラの基盤を作ったお姫様といえども、リックとは異なり、幼い頃で関係が終わっている存在だから、問題にはならなかったのだろうか。繊細な彼の心を悩ませずに済んで良かったと、レオンはほっとした。
「……好きだ、レオン」
そう言ってジェラルドはレオンを抱きしめ、そして日課のおはようのキスを頬にした。
エデンで勧められて読んだ恋愛小説によくある展開だが、嫉妬し、それが解消した後は愛情が深まるのかもしれない。レオンも彼に応えるように抱き返し、それから不意に疑問が頭をよぎる。
(あれ? リックが幼馴染みだとジェラルドに話したか……?)
(夢、か)
レオンは久しぶりにシェリーと初めて会った時の夢を見たようだと微笑む。幼さゆえの純粋さで満ちた彼女との思い出は、年月を経て美しく磨かれ、今もレオンの胸の内に宝物のように残っている。時折、その宝石を取り出して眺めるように夢を見ると、切ない幸福感に満たされるのだ。
「れ、お」
「!」
ジェラルドが小さく寝言を口にした。名前の一部が聞こえたが、彼はレオンの夢を見ているのだろうか。どんな夢だろう、という興味が湧き、レオンは聞き耳を立てるためにジェラルドの口元にそっと耳を寄せる
するとグルリと視界が反転し、まるで黒豹のような滑らかな動きで、ジェラルドがレオンの上に乗っていた。寝ぼけているのか、覆い被さるような姿勢の彼は、普段見せる事の無い獰猛な目でこちらを睨んでいる。
「ジェラルド」
呼びかけると、ジェラルドはハッとして、いつもの表情に戻った。僅かな時間を置いて状況を認識し、レオンの上から退いて、そして申し訳なさそうに頭を掻いて謝罪する。
「すまない、寝ぼけていた」
「いや、私も不躾にきみに顔を寄せたから」
「顔を?」
口に出してしまったことを後悔したが、もう遅い。聞き返されてしまったし、ジェラルドは意識していないかもしれないが、目でレオンを捉えて〝話せ〟と圧を放っている。
「……悪戯心で。寝言で私の名を呼ぶから、何を言っているか気になったんだ」
秘密にするようなことでもないので、レオンは素直に白状した。
「なにか……聞こえたか?」
「いや、すぐにひっくり返されたから。凄いな、さすが騎士だけあって身のこなしがいい」
レオンが茶化すように笑うと、ジェラルドも目を細めた。そして彼も悪戯心が湧いたのか、不意打ちのように告げてくる。
「貴方を恋い慕う夢を見た」
「……っ」
レオンの胸が大きく跳ねたのは、自身も初恋の夢を見た影響かもしれない。寝起きの行動からはそうは思えなかったが、夢の内容と現実で反射的に起こる行動は別物かもしれないし、本人が言うならそうなのだろう。
(恋の夢か……)
レオンも奇遇なことに初恋の夢で目が覚めた。共通の話題が出来たように感じて、ついそれを口にしてしまった。
「私も今朝は恋の夢を見たよ」
「……恋?」
「初恋の夢だ。幼馴染みが相手で……」
そこまで話した所で、ジェラルドの機嫌が悪くなったと分かった。顔には出さないが、アルファとしての威圧が増している。
「……相手は、リックか?」
「は?」
レオンはジェラルドの質問に固まる。彼から発せられる不穏な雰囲気は、嫉妬なのだろうか。確かにリックとは幼馴染みで仲は良い。しかし、そんな目で見たことは一度もないし、リックもそうだろう。
(ジェラルドは心がお姫様な分、オメガに対して嫉妬してしまうのかもしれない)
レオンは考え込む。もしそうなら、実際の初恋の話はジェラルドにとって、心の繊細な部分を刺激する話になってしまうのではないかと。シェリーはレオンを王子様にした最初の〝お姫様〟なのだから。しかし、話さなければリックに無実の疑いがかかってしまう。
レオンはしばらく悩んだが、どちらにしろ嫉妬するなら現在の人間関係に影響が出てしまうリックの方を優先することに決めた。
「リックじゃないよ。幼年学校時代、少しだけ交流があった女の子がいたんだ。どこの家の子かも知らないし、今どうしているかも分からない……。小さくて痩せていてお姫様の絵本が大好きで、その子を守ってあげたくて、私は王子様になろうと思ったんだ」
「……」
レオンがシェリーについて語ると、ジェラルドの威圧は完全に消えた。レオンの王子様キャラの基盤を作ったお姫様といえども、リックとは異なり、幼い頃で関係が終わっている存在だから、問題にはならなかったのだろうか。繊細な彼の心を悩ませずに済んで良かったと、レオンはほっとした。
「……好きだ、レオン」
そう言ってジェラルドはレオンを抱きしめ、そして日課のおはようのキスを頬にした。
エデンで勧められて読んだ恋愛小説によくある展開だが、嫉妬し、それが解消した後は愛情が深まるのかもしれない。レオンも彼に応えるように抱き返し、それから不意に疑問が頭をよぎる。
(あれ? リックが幼馴染みだとジェラルドに話したか……?)
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