イケメンとテンネン

流月るる

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結婚アイサツ編

09

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 キスを繰り返す。そうすることで涙の味しかしなかったものがいつもの味に変わっていく。少しずつゆっくりと咲希の服を脱がしていく。真っ白なショートコート。薄いピンクのふわふわした薄手のニットは襟元や袖口に小さなパールが縫い付けられている。こげ茶色のスカートは柔らかなスエード素材で、強くあるために咲希が身に着けただろう武装を剥いでいくとそこには、生まれたての姿をしたいつまでも怯えと羞恥を滲ませる仕草をする咲希。

 ワインを飲ませながら交わした最初のキスは気まぐれで、隙のない咲希の油断した姿をどこまで堪能できるか、透が知らないものを暴きたいそんな綺麗じゃない感情からはじまったのに、剥いでいくごとに、肌に触れるごとに、あらわれてくる素の咲希に逆に翻弄されて止まらなくなった。

 理性ではとまらない。そんなことを初めて経験してそうさせる咲希にいらついた時期もあった。

 隠しはしないけれど白いお腹の上で軽く組まれた手は力なく、オレが縛り付けるために与えた枷が薬指できちんと光を反射する。わずかに落とした照明の中でもそれは存在を主張していて、オレは視線を動かして咲希をながめた。

 綺麗な形の胸、くびれた腰、そこから伸びる足のラインもわずかに浮いた膝小僧もかわいい。鎖骨にかかるふんわりした髪をはらいのけると、首から肩そして胸へと掌をすべらせた。


「あんまり……見ないでよ!」


 儚げな風情なくせにやっぱり口調は強い。高い声は心地よくてそこから別の音色を引き出したいと男の征服欲をかきたてる。本当にうまいよな、この女、こういう煽りかた。
 胸をゆっくりもんでからふたたび臍のほうまで指先でなぞり、咲希の左手に指をからめた。
 手のひら側から薬指にゆっくりキスをしてついでに舌もはわせる。指輪の固くて冷たい部分とやわらかで細い指とが舌に奇妙な刺激をあたえて、口の中に含んだ。


「あ、朝陽」


 指輪のある指を中心にその一本一本を、間を掌をオレはしばらく口で嬲った。こんな場所で反応するのが嫌なのか、咲希は頬をそめながら潤む目でオレを見て、それでも抵抗せずにおとなしくしている。


「やっ、くすぐったいよ」


 掌から手首をおり細い腕をかかげたまま、唇でなぞっていく。二の腕の裏側や脇をかすめて横腹までいくとぴくりと震わせる。
 手とキスとで咲希が普段感じる場所はあえて避けて、オレは彼女の体をあますことなく観察するように触れていった。何度も抱いているのに、こんなところに小さなほくろがあったとか、傷跡が残っているとか咲希さえも知らないだろうことを見つけていく。

 膝をかかえ、膝小僧からその裏側にも舌を伸ばした。「やだよ、そんなところ」と小さく喘いで抗議する声を上に聞きながらゆっくりと足を広げていった。
 大事な場所には触れてはいないはずなのに、胸の先は小さくとがり、繁みの奥にはわずかな湿り気が見える。追い詰めなければ普段見せないだろうその姿を、いまだ羞恥を残したままの彼女がさらすのはあまりない。
 咲希がたまらず顔を覆い「あさひぃ」と語尾を伸ばして甘えた声をだす。
 オレだって今すぐ望む場所を責めていきたいけれど、今はただなぜか咲希のすべてを剥いでありのままの彼女を知りたかった。


「どんなおまえでも好きだ。だからオレに全部見せろ」


「……バカ! 変態! 全部見せているよ!!」


「だな」


 追い詰められて、普段イくときしか見せないような咲希の求めてくる表情にオレもリミッターがきれて、咲希の後頭部を支えながら唇を深くふさいだ。互いに舌を伸ばして、すがりつくようにからめあう。もっと深く追い詰めたくて逃げないように固定する。
 わずかに離れた隙間から洩れる吐息は熱くて、互いの唾液で唇の周りは濡れていく。

 だからオレは愛撫もほとんどほどこしていないはずのそこに、自身をあてがうと一気に咲希を貫いた。触れずとも溢れていた露に許されるようにそこはスムーズに受け入れられ、入れた瞬間咲希のからだがぴくりとはねたのがわかった。


「あっ、はあっ」


「イった?」


「バカ!」


 強く中を抉るとそのまま断続的にふるえていく。口調とは裏腹に抑えきれない快感に咲希が再び泣きそうになる。
 ああ、やっぱり泣き顔はかわいい。こういうところ泣かせたくてたまらなくなる。
 細くてやわらかな体を強く抱きしめながら、オレは咲希をふたたび追い詰めていった。







 一緒にシャワーを浴びようと言ったにもかかわらず咲希に拒まれて、オレは一人残された間におそるおそる携帯を確認した。透からのメールを読んで、はあっと声に出して深く息をつく。どうして咲希と透が一緒にいたのか、今夜の咲希の予定が嘘だったことや、陽人が呼び出したこと、咲希に言った内容、そして優奈は結局どこかで様子を覗っていたらしい陽人が連れて帰ったことなどが事細かに嫌みのように書かれていた。

 おかげで咲希に聞かなくてすんだけれど、陽人の画策に弟ながら腹が立つ。同時に透へはゴマをする必要がありそうだ。

 その次の陽人からのメールに、オレは顔をあげてさらに、はあっと息をついた。なんていうか今夜はこいつのせいで本当に一週間の疲労以上のものを与えられた気がする。

 陽人からのメールには優奈を無事に家まで送り届けたことや、今夜の件についての謝罪、そして母さんが寂しそうだからいい加減許してやれという内容だった。
 離婚騒動でいろいろあった優奈に、いざとなればオレがいるからと慰めていたせいで、優奈に対して後ろめたく、それで咲希へどう対応していいかわからなかっただけだから、兄ちゃんの選んだ女を嫌っているわけじゃないと。


「あの子……無事帰ったの?」


 オレの部屋においてあるパジャマを身に着けた咲希が、ひょこひょこんと部屋に入ってくる。


「髪、ちゃんとかわかしたのか?」


「かわかしたよー」


 ベッドの隣に座った咲希を抱き寄せて、その髪に触れながら「陽人が送ったって」と小さく言った。その一言で咲希はいろいろ把握したのだろう。一瞬目を大きく開くとすっと目を泳がせた。


「透からもメールがきた……悪かったな、陽人がいろいろ言ってきたんだろう? 今度からもう無視していい。ついでに削除しろ」


「……嘘ついたの怒ってないの?」


「怒れないだろう。でももう何があっても陽人と二人きりで会う必要はない」


 オレに嘘をついて陽人に会っていたことは正直面白くないけれど、拒めなかった咲希の立場もわかるからアドレス削除で勘弁してやる。透がそばにいたことも複雑な感情は生まれてくるが、今回ばかりは感謝するしかない。

 メイクを落とした咲希は学生みたいな幼さでオレを見上げて、その目がやわらかくて甘いものをふくんでいてイケナイコトをしたくなる気分にさせる。
 咲希はいたずらっぽい笑みをその口元に浮かべてオレの髪をがしがしなでた。


「よかったー、朝陽も大人になったねえ」


 別に大人になったわけじゃない。今回の件はオレの家族がからんでいたぶん、こいつにはきつかっただろうと思うから。


「……もう一度、オレの家族と会ってくれるか?」


 おそるおそる、オレはそれを口にした。結婚は二人の間だけのものじゃない。できれば咲希には、オレの家族にも彼女の家族にも認められたうえで一緒にいる場所を与えたい。
 咲希はくすっと小さく笑うとほわっとあたたかくなるような笑みを浮かべた。



「うん。朝陽の大事な人たちを、私だって大事にしたいよ。今度はお母様と一緒にお料理でもできたらいいな。朝陽の好きなものたくさんおしえてもらうの」



 泣きたくなった。
 素の咲希は強がらない分本当に素直でかわいい。プライベートで過ごす時間が増えるごとに、弱さをあらわにするごとに、普段は隠されているかわいらしい部分が不意に出てくる。
 そういうことに咲希自身が気づいてはいないから余計に。



「朝陽は私を選ぶんでしょう?」



 もしまた何かあったとしても。そう言外に含んだ咲希の想いに答えるべく、ぎゅうっと抱きしめる。咲希の手も自然にオレの背中にまわる。



「ああ、もちろん」



 だって、おまえはオレにとって…………。


 誰よりもそばにいたい存在だから。
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