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しおりを挟む1か月働き続けて分かったのは、ここは何か宗教的な建物だということ。
この建物の中には大きなホールがあって、そこには5メートルくらいの女性の石像がある。
そこには毎日人がきて、石像の前で頭を下げてお供え物を置いていく。
聞こえてくる話から想像すると、ここは春の女神を祀る神殿のようだ。
私はほとんど食事を与えられず、毎日朝から晩まで働いていた。
それでもどうにか生きていたのは、業務用クーベルチュールチョコレートが没収されなかったからだ。
黒髪の女が持つ黒い塊が怖かったのか、食べ物だとは思わなかったのか、チョコレートは無事だった。
いつ開放されるか分からないので、少しずつチョコレートを食べ、私は飢えをしのいだ。
私が逃げずに真面目に働き続けた成果か、1か月経つと、いつも私を監視し続けていたエイダは自分の仕事をするようになった。
付きっきりで監視され、少しでも手を止めれば「さぼるな」という声と鞭が飛んできた。
エイダは暇だったのか、私を監視しながら常に私を罵った。
中でも一番つらかったのは、
「どうしたらそんな醜い子が生まれるんだろうね。よっぽどの罪をお前の両親は犯したんだろう」
という、私の両親を罵る言葉だった。
それが無くなっただけで、とても働きやすくなった。
その日私は、いつものように神殿の床を拭いていた。
この場所は好きだ。
ここには女神像があるからか、いつも私を口汚くののしる人も黙っているし、石を投げられることもない。
エイダだってここでは何も言わないし、鞭も振るわなかった。
それに他の場所よりも温かい気がする。
私は髪を覆い、与えられた粗末な茶色い服を着ているけれど、この辺りの人は私が黒髪の女だと知っているようで、仕事中に石を投げられたり、背中を蹴飛ばされたり、口汚い言葉を投げられることが頻繁にあった。
エイダの監視がなくなり、少しだけほっとして掃除をしていると、私は口をふさがれ、柱の陰に引きずり込まれた。
怖くて目をつぶっていると、「俺だ」という男性の声が聞こえた。
私が目を開けると、声の主はウォーレンだった。
ウォーレンは、口の前で人差し指を立てた。
私が頷くと、ウォーレンは私の口を覆っていた手をどけた。
「大丈夫か。お前が捕まったって聞いて、心配してたんだ。髪のことを知らない様子だったのに、外に出した俺が悪かった。ずっと後悔してたんだ。すごく痩せたんじゃないか?食べてるのか?」
ウォーレンは女神像にお供えするため持ってきたパンを、私の服の中に隠してくれた。
私はこらえていた涙が目から溢れるのを止められなかった。
嬉しかった。
ウォーレンの言葉で、凍っていた私の心にあたたかな光が灯った。
声は出せない。
エイダが戻ってきて私がいないのに気づいたらどうしよう。
夜は寒くて眠れない。
常にひもじい。
言いたかった。
でもウォーレンの優しい言葉を聞いたら言えなくなった。
この優しいウォーレンを心配させたくない。巻き込みたくない。
「大丈夫。私に関わらない方がいい」
私は一言だけ言って、持ち場に戻った。
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