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夜、いつものように温泉に入っていると、ドドドッという音が遠くで聞こえ始めた。
普段は川のせせらぎしか聞こえない。音が近づいてくる。私は鼻の下まで温泉につかり、身を潜めた。
湯気に釣られたのか、私が見つかってしまったのか、足音は川に近づいてきた。
私は息を詰めた。
聞こえてくる音から察すると、4,5人の男が馬に乗って移動中、馬の喉をうるおすためここで休憩しているようだ。
私からの距離は数十メートルほど。
私はのぼせないよう、少しぬるめの場所に移動した。
男たちが立ち去り、私はほっと一息ついた。
身支度をするため立ち上がり、温泉から出ようとした。
「君が春の女神か。思っていた通り、いや思っていたよりもずっと美しい」
男の声がした。
私はとっさにしゃがみ込み、温泉に浸かった。
声のした方を見ると、近くの木にもたれかかり、こちらを見る男がいた。
私は川の中を移動し、着替えを取りに行った。
「こっちを見ないで」
「なぜ」
「着替えるから」
「もう見たから気にするな」
私は男を睨んだ。
男は後ろを向いた。
私は急いで着替えを済ませた。
「何か用?」
着替え終わり、私は男に向かって言った。
「春の女神を迎えに来た」
「春の女神?」
「君のことだ。知っているだろう。この国はもう10年以上、ずっと雪に覆われていた。以前は四季があったのに、今はずっと冬だ。それなのに、この村には春が訪れている。この村だけなんだ。雪が解けているのは。ここの暖かさには驚いたよ、こんなものは必要ない」
男は着ていた毛皮のマントを脱いだ。
「この村の何が他と違うのか。答えは君だ。不吉な黒い髪の娘」
「村の人たちは、きっと火あぶりにされるだろうって言ってる」
「古い村だからな。黒髪は悪魔の証だと思ってるのさ。だが神殿だってすぐに気付くはずだ。君の本当の正体に。髪の色に惑わされなければすぐに分かる。今だって、馬に水をやるためにここに寄ったんじゃない。光を見つけて引き寄せられるまま進んだら、君がいたんだ」
海の中にいる私が、光っているように見えたと、クレアが冗談交じりに言っていたのを思い出した。
私は歩き出した。
男がついてくる。
「どこへ行く?」
「部屋に帰るわ」
「神殿だな?」
私が頷くと、男は私を神殿まで送り、どこかへ行った。
普段は川のせせらぎしか聞こえない。音が近づいてくる。私は鼻の下まで温泉につかり、身を潜めた。
湯気に釣られたのか、私が見つかってしまったのか、足音は川に近づいてきた。
私は息を詰めた。
聞こえてくる音から察すると、4,5人の男が馬に乗って移動中、馬の喉をうるおすためここで休憩しているようだ。
私からの距離は数十メートルほど。
私はのぼせないよう、少しぬるめの場所に移動した。
男たちが立ち去り、私はほっと一息ついた。
身支度をするため立ち上がり、温泉から出ようとした。
「君が春の女神か。思っていた通り、いや思っていたよりもずっと美しい」
男の声がした。
私はとっさにしゃがみ込み、温泉に浸かった。
声のした方を見ると、近くの木にもたれかかり、こちらを見る男がいた。
私は川の中を移動し、着替えを取りに行った。
「こっちを見ないで」
「なぜ」
「着替えるから」
「もう見たから気にするな」
私は男を睨んだ。
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私は急いで着替えを済ませた。
「何か用?」
着替え終わり、私は男に向かって言った。
「春の女神を迎えに来た」
「春の女神?」
「君のことだ。知っているだろう。この国はもう10年以上、ずっと雪に覆われていた。以前は四季があったのに、今はずっと冬だ。それなのに、この村には春が訪れている。この村だけなんだ。雪が解けているのは。ここの暖かさには驚いたよ、こんなものは必要ない」
男は着ていた毛皮のマントを脱いだ。
「この村の何が他と違うのか。答えは君だ。不吉な黒い髪の娘」
「村の人たちは、きっと火あぶりにされるだろうって言ってる」
「古い村だからな。黒髪は悪魔の証だと思ってるのさ。だが神殿だってすぐに気付くはずだ。君の本当の正体に。髪の色に惑わされなければすぐに分かる。今だって、馬に水をやるためにここに寄ったんじゃない。光を見つけて引き寄せられるまま進んだら、君がいたんだ」
海の中にいる私が、光っているように見えたと、クレアが冗談交じりに言っていたのを思い出した。
私は歩き出した。
男がついてくる。
「どこへ行く?」
「部屋に帰るわ」
「神殿だな?」
私が頷くと、男は私を神殿まで送り、どこかへ行った。
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