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無限牢獄の生娘
第58話・神器天之叢雲
しおりを挟む―――コリータ王国西城門―――
――ミヤビを捜索していた矢先の事。コリータから連絡が入り急ぎ転移魔陣で戻ると、そこには禍々しい闘気をまとったミヤビがいた。
ベリアルがミヤビを城内に入れまいと、必死で喰い下がっている。
「ミヤビ!やめろっ!!」
「クックック……シネ」
その声はミヤビのそれではなく、天之叢雲が答える。
「完全に意識が飲まれておるな」
「くっ!まさか、師匠が呪いに負けるとは……!」
「レディはまだかっ!ベリアルさんだけでは太刀打ちできないっ!」
「ハルト様!避難完了しました!城門を封鎖!防壁作動します!」
ドゴゴゴゴゴゴ……!!
背後で防御壁が作動する音が聞こえる。
「シネ……クックック」
「くっ!」
キィィィィンッ!!
僕の代わりにベリアルがミヤビの剣を受け止める!しかしいつまで持つか……完全にミヤビに押されている。
僕の持つ短剣では天之叢雲の懐にすら入れない。
「シネ……シネ……!」
キンッキンッキンッキンッキィィィィンッ!
ザクッ!
「ガハッ!!」
八方からの斬撃で、懐が空いたとこに強烈な一撃が放たれるっ!
「ベリアルさんっ!!完全回復!!」
神器の傷のせいか、回復が遅いっ!
「旦那っ!!受け取ってくだせぇ!」
「ドムドさんっ!」
城壁から2対の剣が飛んでくる!
以前、ネプチンの城にあった黒鉄の鎖。あれで剣を2対作ってもらっていたのだ。まだ試し切りはしていないが、そんな悠長な事は言ってられない!
僕はドムドから剣を受け取る。
「ドムドさんありがとう!!」
「ケヒャヒャヒャ……」
「高速移動・改・脱兎――!」
レディに教えてもらった高速移動魔法。数十秒後にはへとへとになるが、これならミヤビより速く動けるはずだ!
「オォォァァァァァァァァ!!」
剣も軽く二刀流でも振り抜ける!
キンッ!キンッ!キンッ!キンッッ!キィィィィン!
ザシュ!ザシュ!
「手応えはあった!どうだ!」
ミヤビを見て愕然とする。ミヤビ本人をいくら傷付けてもまったく動じていない。痛みすら感じないと言うのか。
「はぁはぁはぁ……まずいな……!」
「ザンネン……ヒャヒャ……」
今度はミヤビが剣を振りかざす。何とか受けてはいるが、高速移動の魔法を使ってもまだ速さが足りない!
そして徐々に速さが失われていく。それは高速移動の副作用が目の前に迫っている事を示していた。
「うむ。ちとまずいの。エルよ、聞こえるか?」
「はいっ!アリス様!」
「ベリアルさん!動け――!?えっ……?」
ガクンッ!と突然、足に高速移動の反動がくる!
「まずいっ!足っ!!足!動けぇぇぇ!」
「イタダキマス……!!」
ミヤビの剣が僕の首にめがけて飛んでくる!
「いかんっ!ハルト!かわせっ!」
「アリス!そんな事言っても足が――!!」
キィィィィィィィィンッ!
『月陰燕返し――』
僕の目と鼻の先でミヤビの一撃を誰かが跳ね返すっ!!
「レ、レディ!!」
「旦那様はいつも死にかけですな。はっはっは!」
「大きなお世話だ。しかし助かった」
「フフ……さて、ミヤビ師匠。手加減はしませんぞ。参るっ!」
「ハァ?オマエジャマヲスル――!」
『無双千草――!』
一瞬だった。ミヤビが剣を構えるよりも速く、レディの剣がミヤビの体を切り刻む。ミヤビは血しぶきを上げそのまま倒れ込んだ。
「はぁはぁはぁ……ミヤビ師匠。あなたに教わった技であなたを倒す日が来るとは夢にも――」
と、レディがミヤビに近付いた次の瞬間!
「ギャァァァァァァァ!!」
レディの足に天之叢雲が突き刺さり、レディが悲痛な声を上げる!!
「レディィィィィ!!」
地面をのたうち回るレディをニヤニヤと見ながら、起き上がるミヤビ。血だらけでなぜ起き上がれるのかわからない。
「シネシネシネシネ……!!グフフフ!」
ミヤビはレディの足から天之叢雲を抜き取ると、今度はレディの頭めがけて剣を振り上げる!
「エルッ!今じゃ!!」
『風の精霊よっ!我に力をっ!』
キュィィィィィィィィン!
城門の上からエルの放った風の矢が、ミヤビの手首を撃ち抜いた!今度はミヤビが悲痛な声を上げる!
「ギャァァァァァァ!!」
ミヤビの体はまた地面に倒れ込む。しかし切り離された手と天之叢雲だけが動きだし、レディにトドメを刺そうとする!
「もうやめろ……師匠の体をもて遊びやがって……!」
そう言うと、ベリアルが立ち上がる。
「はぁはぁはぁ……!『無双千草・翡翠!!』」
剣が淡色に光り、天之叢雲を切り刻む!
『パキ……パキ……パキキキ……!!』
「散れ!」
『パキッィィィィン!』
甲高い音が響き、天之叢雲は真っ二つに折れた。そして剣からどす黒い煙が上がり、散り散りに消えていく。
「終わったの……か?」
「うむ。天之叢雲の気配が消えた様じゃな」
天之叢雲そのものは決して呪われた剣ではなかった。しかし、何百年もの間に人間のあらゆる怨念が込められていったのであろう……。
「はぁはぁはぁ……レディ……。完全回復!」
レディの顔色が徐々に回復していく。ベリアルの傷もだいぶ癒えたみたいだ。
「あいたたたた……旦那様、油断した。かたじけない」
「いや、僕の方こそいつもすまない」
「ミヤビ師匠……安らかにお眠りください」
ミヤビに手を合わせるベリアル。
「ははは……勝手に殺すな。死を覚悟したのに、回復が間に合ってしまったではないか……腕はもう無いみたいだがな……」
横になり天を仰いだままミヤビが口を開く。僕がレディにかけた回復魔法がミヤビにもかかっていたみたいだ。
「ミヤビ師匠!!」
レディとベリアルがミヤビの体を起こす。
「アリス、何とかならないか!」
「うむ、前にも言ったが……まぁ、良い。腕を複製してやろう」
『THE複製――』
ミヤビの切れた手首と体の細胞、血管、皮膚が見る見る複製され繋がっていく。
「完全ではないが……まぁ、後は養生せい」
「あぁ……かたじけない……かたじけない……!」
涙を流すミヤビ。一度は死を覚悟したが偶然にも回復魔法がかかり助かった。しかし、腕を無くしては命があっても剣士としてはもう駄目だと思ったのだろう。
「ハルトよ、まだじゃ。もう1回いくぞ」
「もう1回?……あぁ、そういうことか……」
『THE複製――』
「これでこっちも大丈夫か……」
城門の方からマリン達が走ってくる姿が見えた。そして薄れゆく意識の中に僕は身をゆだねる……。
―――異空間アリスのお部屋―――
「アリスちょっぷ」
「いたっ!怪我人にちょっぷするな!」
「きりんもぷりんもいなくてヒマなのじゃ」
「あぁ、久々に来たな。自分の体の中……相変わらず仕組みがわからない」
「案ずるな。換気のためにいうも窓はアケッパじゃ」
「やめい。体がアキッパだと病気になるわ」
「しかし、神器が人間の魂を食らい化けるとはな。人間共が欲のために溜め込んだ天之叢雲の呪縛じゃな」
「確かに。最後、怨念みたいなのが出てたな」
「今回の件は王妃の殺害に加えて、もしかしたら神器の呪いまでも利用したのかもしれんの」
「そうだとしたら元々ウェスタン国王を狙ってミヤビに天之叢雲を盗ませた……か」
「うむ。王妃の魔法陣で国王を病にし、天之叢雲の力でウェスタン王国を滅ぼそうとしたのかもしれぬ」
「コブラだったか、その大臣の名は。最低な野郎だな」
「しかし今回は、ベリアルとレディがいなかったら危なかったの。あやつのしつこさには恐れ入ったわい」
「あぁ、下手したらコリータの住民すら危険にさらしていた……反省する点も多い。城外に訓練施設を作って剣士も育成しなくちゃ……」
「そうじゃのぉ……おっ?きりんの気配がする。帰って来たみたいじゃ」
そうアリスの声を聞きながら、また意識が遠のいてく。しばらく戦闘は休憩したいところだ……。
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