100年の恋

ざこぴぃ。

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第一章

第11話・南方美穂

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 ――1940年1月2日(昭和15年)火曜日。

 僕は猿渡家の当主になり、さらに千家の名を継いだ。思えばこの屋敷に来てからもう半年が経つ。
 有栖の勧めもあり、西奈弓子と結婚をし幸せに暮らしている。
 妹の千草も2039年の未来から飛ばされた。しかし前当主、黒子の話では到着に数年の誤差があるかもしれないと言う事だった。今日現在では未来からの歪みに変化は無いと言う。
 まだこの時代に来てないと言う事わかり、捜索を引き続き続けながら様子を見ることとなった。

「それで?僕と弓子が年始の挨拶に行ってた数時間の間にこの様なのか?」
「旦那様!すいません!すいません!」
「春文様、次郎も謝ってますしその辺で……」
「はぁ……まったく……」

 座敷では有栖達がドンチャン騒ぎをした痕跡が伺えた。

「ぐがぁぁぁ……すぴぃ……ぐがぁぁぁ……すぴぃ……ブッ!」
「もう食べれませんわ……にゃぬ……プリンおかわり……」
「……ご主人サマの゙スケベ………ナンパはお断りダ!!……むにゃむにゃ……」
「かんにんやて!かんにんやて!ぐぅ……」

 お正月のお祝いで用意した酒樽が転がっている。有栖達4人で空けてしまったらしい。おせち料理もほとんど無くなっている。
 僕と弓子は朝から隣町の地主の家に挨拶に出かけていた。この東海浜地区は未来は統合され1つになっていたが、昭和初期の頃は3つの地区に分かれていた。
 柳川緑子先生がいる西町。猿渡家の屋敷がある、ここ東町。そして東海浜神社の周辺の南町。北側はほとんどが山林で人が住んでいる集落は無い。しかし鬼の住処があるとも噂されている。
 インターネットもなくまだテレビも普及していないこの時代、人々の噂は口コミで妄想を膨らませ真偽もわからない情報が多かった。

「で、次郎は今年こそ落ち着くのよね?」
「お嬢様、もうその話は勘弁してくだせぇ」

 弓子は後片付けをしながら次郎に話しかける。

「あらっ!西奈よろず店を引き継いだんですもの!次は美穂ちゃんをお嫁さんにもらって――」
「いや、それが美穂とはその……昨年末に……喧嘩をしたと言うか……その……」

 気まずそうな顔をする次郎。「美穂」……どこかで聞き覚えのある名前だ。

「美穂さんて?」
「南町に住む南方美穂ちゃんですわ。美穂ちゃんは幼馴染で、昔からよく一緒に遊んでましたのよ」
「そうなのか。次郎はてっきり弓子に好意を持ってたのかと思ってたよ」
「旦那!それはないですぜ!お嬢様は兄……」
「次郎っ!!」
「あっ……すいやせん。ちょっと馬のメシやってきやす……」
「弓子、どうしたんだ?急に大きな声を出して」
「何でもないですわ、春文様。さ、片付けて有栖様達を起こさないと!」

 思い出した!未来の同級生の名前と同じだ。南方美穂。違うクラスで話はしたことがないが生徒会で白子と一緒にいるのを見たことがある。同姓同名と言う事は子孫だったのかもしれない。
 そんな事を考えながら片付けを済ませ、有栖達を起こす。

「まだ……のまのま……ぐぅ……」
「酔ってるな。有栖!起きないか!有栖!黒子!」
「いえいえい……ねぇさま……ぐぅ……」
「駄目ですわね。妖狐さん達も目が逝ってますわ」
「はぁ……迎えに帰った意味が無かったな。しょうがない、2人で初詣に行こうか」
「はい、春文様」

 屋敷の事は次郎に頼み、僕は弓子と東海浜神社へと向う事にした。白子が亡くなった場所だ。あれから一度も行ってはいない。

「まったく仕方ない奴等だな。2日の日は挨拶に行った後、初詣に行くと言ってたのに……」
「ふふ、お正月ですもの。春文様も、そんな鬼みたいな顔をしないで下さい。はい、笑顔笑顔」
「ははは、弓子には敵わないな。わかったよ」

 2人で大通りを海岸へと向かう。徒歩で1時間程の道のりだ。時々、車とすれ違うがまだ交通ルールもないのだろう。砂埃を巻き上げながら、やかましく僕達の横を走って行く。

「もっと静かに走れないものかねぇ……まったく」
「ふふ、春文様。笑顔笑顔」
「あぁ、そうだった。笑顔笑顔」
「そうそう」

 街を抜けると、一気に田園風景が広がる。遠くに丘が見え、あの丘を越えると海が見えてくる。少し肌寒いが天気も良く、空気は澄んでいて気分は良い。
 この時代に来てまだ半年だが、この時代に慣れないといけない。もう帰る手段は無いのだから――。

「春文様、あの人……」
「え?」

 弓子が指差す先を見ると、木の下に女性が一人で立っている。

「おぉい!美穂ちゃん!」
「え?弓子……ちゃん?」
「やっぱり!どうしたの、こんな所で!」
「えぇと……」
「あっ!この方は夫の千家春文様。猿渡家のご党首様です」
「はじめまして、千家です。確か次郎の……」
「ご存知なのですね……はじめまして。南方美穂と言います」
「それで?次郎と何かあったの?」
「うん……」

 南方美穂の実家は南地区の領主だった。領主の一人娘の美穂は、西奈よろず店を継いだ次郎と付き合っていた。
 今日は父親とそのことで喧嘩になり家から飛び出して来たそうだ。

「別れた!?美穂ちゃん、それ本当?」
「うん……」

 東海浜神社へと向かいながら、僕の前を歩く2人の話が聞こえてくる。

「次郎がね……お店を継ぐ前まではこんな話はなかったの。でも私も一人娘でしょ?父さんがどうしても許してくれなくて……」
「それってうちのせいじゃないの!」
「違うのよ!次郎がどうしてもお店を継ぎたいって言ったのよ!弓子ちゃんのせいじゃないわ!」
「でもでも!うちの店が無かったらこんな事――!」
「弓子、話は何となくわかったんだが……西奈よろず店は他に跡取りもいないんだろ?だったら――」
「人を雇う?」
「あぁ、次郎の件は婿養子に行けば解決するんだろ?僕も弓子をもらった身だ。知らない顔は出来ないよ。一度、東町の世話人さんに相談してみないか?」
「……それもそうですね。そしたら次郎も自由になれるかしら」
「弓子ちゃんいいの?」
「えぇ。元々うちの問題だし、春文様がそう言って下さるなら問題ないわ」
「ありがとう……弓子ちゃん……!」

 これで
 僕達は東海浜神社で初詣を済ませ、美穂を家まで送り届ける。東浜交差点近くの立派な御屋敷が美穂の実家だった。
 美穂を送り届けた後、屋敷へと戻る途中に西奈よろず店へと向かう。世話人さんの名簿が保管してあるらしい。

「着きましたわ。裏口から入りま……?あら?鍵が開いてる……」
「弓子、僕が先に行こう」
「えぇ……」

 ゆっくりと裏戸を開ける。木のきしむ音がわずかだけ聞こえた。裏口には2足の靴が並んでいる。

キィィィ……

 足音を忍ばせ、裏口のある台所から居間へと向かう。と、店の方から声が聞こえてきた。

「――義姉ねえさん!それではお店が!」
「――わかってるわ。最初からそのつもりだったのですから」

僕と弓子は居間の屏風の後ろに入り、息を潜めた。

「義姉さん!それは約束と違うじゃないか!美穂と別れたら俺との事も考えてくれるって!それにこの店は関係ない!」
「次郎、店の運転資金を用意したのは私。それに一郎さんの生命保険がね、なかなか入らないのよ。せめてこの家を担保に……」
「それは出来ない!ここは一郎兄さんも僕も小さい頃から世話になって来たんだ!売ることは出来ないよ!」
「それは困ったわ……いっそ燃えてくれないかしら……」
「義姉さん!!」
「冗談よ。……たぶんね、ふふ」

 鬼に殺された一郎の嫁が、次郎と揉めている。どうも話を聞く限り、次郎はこの女に好意を持っていたらしい。見た目は美しいが何とも毒のある女性だ。
 お金を作り、どこかへ雲隠れするようなそんな会話だ。横で聞いている弓子の肩が震えている。僕は弓子の口に手を当て声を出さぬように我慢させる。
 この今の状況をまくし立てても何の証拠もない。ただの雑談として終わるだろう。それよりもこの女性が事を起こす時に抑えるべきだ。

「次郎は……私の事が愛しいと言うのに、どうして私の言う事が聞けないの……?」
「そ、それは……」

スルスル……と着物を脱ぐ音が聞こえる。

「義姉さん!?何を!」
「欲しいんでしょ……?」
「え?え?え!?」

 動揺すると同時に、興奮気味の上ずった声が聞こえる。気持ちはわからんでもない。次郎にしてみれば願ってもないシチュエーションだ。しかしここで手を出せばそれこそ、義姉さんの言いなりになるだろう。

ガタン!

「お、おい!弓子!ちょ――!」
千鶴ちづるさん!そこまでです!」

 我慢出来ずに弓子は屏風から飛び出し、店の内扉を開けた。

「きゃっ!え!あなた誰!」
「え!お嬢様!?何でここに!?」
「西奈弓子です。元、西奈よろず店の店主をしていました。一郎さんの結婚式……いえ、小学校の慰霊祭以来ですわね」
「あ……あぁ、弓子さん。覚えていますわ。話を聞いていらしたの……そう……。こそ泥みたいな事をされますのね……」

千鶴は脱いだ着物を拾い、着物を着直す。

「次郎!あなた美穂ちゃんを泣かせてこれはどういうつもりなの!よりによって亡くなった一郎さんの……お兄さんの元奥さんよ!それに留守の間、お屋敷を任せましたわよね!こんな所でコソコソと――!!」
「お、お嬢様!すいません!すいません!」
「弓子さん、おやめ下さい。私がそそのかして連れ出したのです。次郎に罪はありません。はぁ……何かしらけたわ。私はこれで失礼します」

そう言うと千鶴は着物をはたいて裏口へと向かう。

「ちょ!まだ話は終わってないのよ!千鶴さん!」
「弓子、今何を言っても聞いちゃくれない。一旦、次郎を連れて帰ろう」
「春文様!離し……!?わかりました……」

僕が掴む腕を見て急に冷静さを取り戻す弓子。

「お嬢様すいません!すいません!」
「言い訳は帰ってから聞くわ」

 そう言うと弓子は店の引き出しから、帳簿と世話人帳を取り出し店を後にする。

「旦那様、すいません……見苦しい所を見せてしまって……」
「次郎……気持ちがわからんでもないが……かばってやることは出来ないぞ?」
「へい……」

………
……


 屋敷に帰ると夜中まで弓子の尋問は続いた。時々隣の部屋から次郎の泣き声も聞こえてくる。

「ふぁぁ……ご主人タマ。あちきは眠イ。体を貸してオクレ……」
「あぁ、構わないよ。ハリーも来るか?」
「あんさん、おおきに……わても充電切れですわ……」
「充電切れって。どこで覚えたんだ、そんな言葉……」

 メリーとハリーは僕の腕へと寄り添い、そのまま姿が消えていく。妖狐達は時々、生命エネルギーを充電しないとならないのだ。

 ――深夜1時。ようやく隣の部屋の襖が開いた。トボトボと客間に向かう次郎。後から弓子も出てきた。

「お疲れ様、弓子」
「あっ!春文様!先に寝てらして良かったのに!お疲れでしょう!すいません!」
「大丈夫だよ。それより次郎は大丈夫なのか?」
「えぇ……反省していましたわ。明日、美穂ちゃんに謝りに行くそうです。お店を引き継いだのは良かったけれど、運転資金に困り千鶴さんに相談していくらか借りたみたいですね。近日中に私がお返ししておきます」
「そうか……正月早々大変だったな」
「はい。お風呂に入ってきますので先にお休み下さい」
「あぁ……わかった。おやすみ」
「はい、春文様おやすみなさい」

 そう言うと弓子はお風呂に行き、僕は寝床に入った。その日は疲れもあり、僕も妖狐も朝まで一度も起きず深い深い眠りについた。

………
……



(……ハァハァハァ……一郎さんの手……ハァハァハァ……一郎さん……アイシテル……ハァハァハァ……一郎さんっ!!)


 ――僕はそんな事をされていたなんて夢にも思わず、何も知らないまま時は過ぎていく……。
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