『~POISON GIRL~』

東雲皓月

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No.2 避難所

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─────・・・目が覚めた時、夢でも見てるんじゃないかと信じたくない思いが込み上げた

「……っな、に……これ……」

あんなに晴れ晴れとした空も、賑わっていた人々も、全てがまるで嘘だったかのような錯覚さえしてしまいそうなくらいで

一番信じたくないのは、この“地獄のような”光景だった

空は暗くて空気は煙たい

賑わって煩かった声は悲鳴へと変わっていた

逃げ惑う人々の姿に、チハルは身体の震えを押さえられないでいた

「…夢?違うっこれは現実だ!」

燃え上がる煙に、あちこちで爆発の激しい轟音

チハルは爆発音で目が覚めたのだ

【────速やかに避難してください。これは訓練ではありません。一般人は速やかに避難所へ。繰り返します、これは訓練ではありません────・・・】

機械音の女性の放送で私はハッと我に帰る

マイクを探さなければ!

その思いでチハルはマイクを探しはじめた

射的場にも、運動場にも見当たらない

他の場所も隅々まで探した

けれど、マイクの姿は何処にもない

肌が焼かれそうな痛みすら感じず、小枝に傷付けられてもお構い無しにチハルは必死にマイクを探す

(私が……っ私が一人にしてしまったから!……嫌われても側に居るべきだった!)

今更悔いても過去には戻れない

そう分かっていても自分を責めずには居られなかった

残る希望は避難所

どうか無事に避難していてくれたらいいと必死に祈った

「……っか…………たす………だれ、か………」

避難所への場所を見ようと掲示板を見ていると、微かに小さな声が聞こえた

チハルはどこから聞こえるのかと辺りを見渡す

少し離れた場所に目を凝らして凝視してみると、崩れた瓦礫に挟まった親子がいた

「っ大丈夫ですか!?今退かします!」

「こ、の子を……私は、いい…からっ」

「何言ってるんですか!貴女が居なくなったら子供はきっと悲しみます!しっかりして下さい!」

「でも………貴女だけじゃ、これ、は無理よ…」

「っやって見ないと分からないじゃないですか!」

チハルはグッと手に力を込めて、全身の力で瓦礫を持ち上げようとする

その間も爆発は止む事がなく、爆風でチハルの頬や手が傷だらけになっていく

それでも諦めないチハルは親子の隙間にある穴に入り込んで、背中で持ち上げようとした

そもそも何故、子供がいるのか疑問があるがチハルは寸時に理解する

ルール説明の際に特例で“自衛隊の家族”もしくは“家柄で自衛隊に入る者”は親と一緒ならば可だと聞いた気がしたからだ

きっとこの親子もそれに含まれる

ならば尚更、救い出さなければと全身に力が入る

この人達には“家族”がいるのだからと

「私が合図したら直ぐ様離れて下さい!」

「っ!」

「1・2の・・・3!」

微かに浮かんだ瓦礫と同時に、親子は無事に瓦礫から出る事ができた

小さな子供を抱きながら、涙ぐましに母親は何度もお礼を繰り返す

「……ほ、ら………はぁはぁ………やって見ないと分からないでしょ」

「有り難う御座います!本当に本当にっなんとお詫びしたらいいか!」

瓦礫の隙間からギリギリ出れたチハルはゼェハァしながらも、安堵の笑みを浮かべる

「歩けますか?……避難所へ向かいましょう」

「はいっ」

気を失っている子供を抱いて母親はチハルと共に避難所へと向かった

誰かを助けるなんて柄でもない事をしてしまったと後から思うチハルだったが、マイクならやりそうだと思った時には身体が既に動いていた

それに、親を失った子供を見たくなかったと思ったのもある

自分が親に恵まれなかったからかは分からないが

避難所は大きな倉庫のような建物で、人々が次々に入っていくので直ぐに分かった

チハルは親子と別れて探し人を見つけようと倉庫の外で居ると

「───チハルっ!」

「っ!……マ、イク?マイクっ!」

後ろを振り返ると、倉庫から出てきたマイクが姿を現した

見た目は炭やらあちこち擦り傷があってボロボロだったが、酷い怪我が見当たらない所を見るとチハルは涙目になりそうな勢いでマイクに駆け寄る

「無事だったんだねっ!良かった……本当に良かった!」

「それは僕の台詞だよ!ずっと探してたんだ……君を悲しませたから……でも、いくら探しても見つからないしこんな状況になっちゃうし……避難所にも居ないから探しに行こうとしてたくらいなんだからな!」

「っごめんね……マイク、本当にごめん!」

あぁ、マイクはこんなにも私を心配してくれるんだ

その想いが痛いくらいに胸を締め付ける

さっきまでの恐怖が嘘のように和らいでいくのが分かった

チハルはギュッとマイクに抱き付いて、存在を確かめるように心から安心した

マイクもチハルの無事に安心して抱き締め返す

「…さぁチハル、早く避難所の中に入ろうっ」

「っうん」

マイクに手を引かれて避難所へ入ろうとしたチハルは、この場ではあり得ない“何か”を感じた

「チハル……?」

(…う、そ………なんでここで…この“臭い”がするの!?)

微かにだが風に乗って臭った物にチハルは酷く目を疑う

そんなチハルを不思議そうに見るマイクになど気付かずに、チハルは避難所の中をジッと見つめた

「あっ……あれ、は……そんな!な、んで!?」

「チハル?どうしたんだよっ」

見間違える筈がない

けれど、どうしてここに“アレ”が居るのかが理解できなかった

取り乱すチハルは地べたに座り込み、苦しそうに胸をギュッと手で強く掴む

ほんの一瞬しか見えなかったが、確かにあれは間違いなく“アイツ”の・・・

この臭いと、あの横顔・・・忘れる筈がない

だってあの時に

チハルが炎と共に“焼き殺した”筈なのだから・・・

「──チハル!」

「っあ」

マイクの言葉に我に返ったチハルは、気が付けばマイクの胸の中にいて同時に大きな爆発音が地響きのように鳴った

爆風で飛ばされそうに成る程の強烈な爆発・・・

メラメラと燃え上がる建物は・・・先程、親子を見送った目の前の倉庫からだった

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