3 / 5
No.2 避難所
しおりを挟む─────・・・目が覚めた時、夢でも見てるんじゃないかと信じたくない思いが込み上げた
「……っな、に……これ……」
あんなに晴れ晴れとした空も、賑わっていた人々も、全てがまるで嘘だったかのような錯覚さえしてしまいそうなくらいで
一番信じたくないのは、この“地獄のような”光景だった
空は暗くて空気は煙たい
賑わって煩かった声は悲鳴へと変わっていた
逃げ惑う人々の姿に、チハルは身体の震えを押さえられないでいた
「…夢?違うっこれは現実だ!」
燃え上がる煙に、あちこちで爆発の激しい轟音
チハルは爆発音で目が覚めたのだ
【────速やかに避難してください。これは訓練ではありません。一般人は速やかに避難所へ。繰り返します、これは訓練ではありません────・・・】
機械音の女性の放送で私はハッと我に帰る
マイクを探さなければ!
その思いでチハルはマイクを探しはじめた
射的場にも、運動場にも見当たらない
他の場所も隅々まで探した
けれど、マイクの姿は何処にもない
肌が焼かれそうな痛みすら感じず、小枝に傷付けられてもお構い無しにチハルは必死にマイクを探す
(私が……っ私が一人にしてしまったから!……嫌われても側に居るべきだった!)
今更悔いても過去には戻れない
そう分かっていても自分を責めずには居られなかった
残る希望は避難所
どうか無事に避難していてくれたらいいと必死に祈った
「……っか…………たす………だれ、か………」
避難所への場所を見ようと掲示板を見ていると、微かに小さな声が聞こえた
チハルはどこから聞こえるのかと辺りを見渡す
少し離れた場所に目を凝らして凝視してみると、崩れた瓦礫に挟まった親子がいた
「っ大丈夫ですか!?今退かします!」
「こ、の子を……私は、いい…からっ」
「何言ってるんですか!貴女が居なくなったら子供はきっと悲しみます!しっかりして下さい!」
「でも………貴女だけじゃ、これ、は無理よ…」
「っやって見ないと分からないじゃないですか!」
チハルはグッと手に力を込めて、全身の力で瓦礫を持ち上げようとする
その間も爆発は止む事がなく、爆風でチハルの頬や手が傷だらけになっていく
それでも諦めないチハルは親子の隙間にある穴に入り込んで、背中で持ち上げようとした
そもそも何故、子供がいるのか疑問があるがチハルは寸時に理解する
ルール説明の際に特例で“自衛隊の家族”もしくは“家柄で自衛隊に入る者”は親と一緒ならば可だと聞いた気がしたからだ
きっとこの親子もそれに含まれる
ならば尚更、救い出さなければと全身に力が入る
この人達には“家族”がいるのだからと
「私が合図したら直ぐ様離れて下さい!」
「っ!」
「1・2の・・・3!」
微かに浮かんだ瓦礫と同時に、親子は無事に瓦礫から出る事ができた
小さな子供を抱きながら、涙ぐましに母親は何度もお礼を繰り返す
「……ほ、ら………はぁはぁ………やって見ないと分からないでしょ」
「有り難う御座います!本当に本当にっなんとお詫びしたらいいか!」
瓦礫の隙間からギリギリ出れたチハルはゼェハァしながらも、安堵の笑みを浮かべる
「歩けますか?……避難所へ向かいましょう」
「はいっ」
気を失っている子供を抱いて母親はチハルと共に避難所へと向かった
誰かを助けるなんて柄でもない事をしてしまったと後から思うチハルだったが、マイクならやりそうだと思った時には身体が既に動いていた
それに、親を失った子供を見たくなかったと思ったのもある
自分が親に恵まれなかったからかは分からないが
避難所は大きな倉庫のような建物で、人々が次々に入っていくので直ぐに分かった
チハルは親子と別れて探し人を見つけようと倉庫の外で居ると
「───チハルっ!」
「っ!……マ、イク?マイクっ!」
後ろを振り返ると、倉庫から出てきたマイクが姿を現した
見た目は炭やらあちこち擦り傷があってボロボロだったが、酷い怪我が見当たらない所を見るとチハルは涙目になりそうな勢いでマイクに駆け寄る
「無事だったんだねっ!良かった……本当に良かった!」
「それは僕の台詞だよ!ずっと探してたんだ……君を悲しませたから……でも、いくら探しても見つからないしこんな状況になっちゃうし……避難所にも居ないから探しに行こうとしてたくらいなんだからな!」
「っごめんね……マイク、本当にごめん!」
あぁ、マイクはこんなにも私を心配してくれるんだ
その想いが痛いくらいに胸を締め付ける
さっきまでの恐怖が嘘のように和らいでいくのが分かった
チハルはギュッとマイクに抱き付いて、存在を確かめるように心から安心した
マイクもチハルの無事に安心して抱き締め返す
「…さぁチハル、早く避難所の中に入ろうっ」
「っうん」
マイクに手を引かれて避難所へ入ろうとしたチハルは、この場ではあり得ない“何か”を感じた
「チハル……?」
(…う、そ………なんでここで…この“臭い”がするの!?)
微かにだが風に乗って臭った物にチハルは酷く目を疑う
そんなチハルを不思議そうに見るマイクになど気付かずに、チハルは避難所の中をジッと見つめた
「あっ……あれ、は……そんな!な、んで!?」
「チハル?どうしたんだよっ」
見間違える筈がない
けれど、どうしてここに“アレ”が居るのかが理解できなかった
取り乱すチハルは地べたに座り込み、苦しそうに胸をギュッと手で強く掴む
ほんの一瞬しか見えなかったが、確かにあれは間違いなく“アイツ”の・・・
この臭いと、あの横顔・・・忘れる筈がない
だってあの時に
チハルが炎と共に“焼き殺した”筈なのだから・・・
「──チハル!」
「っあ」
マイクの言葉に我に返ったチハルは、気が付けばマイクの胸の中にいて同時に大きな爆発音が地響きのように鳴った
爆風で飛ばされそうに成る程の強烈な爆発・・・
メラメラと燃え上がる建物は・・・先程、親子を見送った目の前の倉庫からだった
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる