12 / 23
11話
しおりを挟む
「ありがとうございましたー!」
酒場の入り口で、アイリスは深くお辞儀する。
「じゃあねー、アイリスちゃん」
「明日も来るよー」
手を振って出ていく冒険者たちに、アイリスも手を振り返す。
「お疲れ、アイリス」
酒場の先輩のウェイトレスが後ろから声をかけてくる。
「いやあ、元に戻ってよかったよ。少し前に調子悪くいのか、今までのこと忘れたかのように仕事できなくなってたから」
「その節はご迷惑をしました」
アイリスがロベ村に帰ってきて、数ヶ月が経っていた。
アイザックがアイリスのときにやっていた酒場のウェートレスの仕事をそのまま引きつぐことにした。
アイザックからは仕事の内容は聞いていたが、聞くのと実際にやるのとは、別で最初は失敗ばかりであった。
アイリスがアイザックのときに、クエストができないときも酒場の裏方で仕事はしていた。
同じように、初心者っぽかったのに、ガーネットとライリーはよくこなせていたなと思い出す。
また、しばらく男の体でいたために、自分が女として見られることに慣れていなかった。
アイリスの体を守るということで、セクハラにはアイザックは容赦なく対処していた。
コミュ力の高いジークが親友であったから、ボディタッチにはすっかり慣れてしまい、何の対処もしなかったことで、あのアイリスが避けられないほどひどい目に遭ったのかと、軽くやった相手を必要以上に同僚がボコボコにしてしまっていた。
もちろん、セクハラはいけないから、相手も反省して、ほとぼりは冷めた。
それ以来絶対禁止になったため、未だにアイリスには女として見られているという自覚は弱いままであった。
仕事着から着替え、家へと帰る。
最初はアイザックがアイリスを迎えに来ていたが、酒場の仕事は夜遅くになることも多く、勇者として活躍したアイザックは村中から引っ張りだこ。
本人がアイリスの体にいたときは、鍛えすぎて筋肉つきすぎたら悪いと思い、最低限自衛できる程度しか鍛えてなかった。
アイリスがアイザックの体で魔王を退治するために鍛えたときと激しい差があり、そのギャップをなかなか埋められず、毎日疲れていた。
アイリスは勇者として鍛えていたので、アイザックがアイリスだったときよりは自衛できるということで、数週間経てば、一人だけでも帰れるようになった。
「お互い元の自分の体に慣れてきたよな」
手をグーパー握って開く。
アイリスの小さい体に慣れて、アイザックが背が高いことに気づかず、何度も頭をぶつけたことを思い出して、クスクス笑う。
「逆に私は見上げることに慣れていなかったかも。みんな私より下か同じ目線だったから」
鍛えたことでより体格がよくなったアイザックの体だが、もともと平均身長よりは高かった。
女子のガーネットやライリーはもちろん、ジークも平均はあったものの、自分より目線は下であった。
隣を向くと、すぐ顔が見えたのはスコルくらい。
不意に優しく微笑むスコルの顔が頭に思い浮かぶ。
きれいなつやのある黒髪。
まつげが長く、顔の造形が整っていた。
ひょんなことから、アイザックだったアイリスを主と呼んでいた。
主と呼ぶ声が頭の中で響く。
アイリスは顔が赤くなるが、それを追い出すように頭をぶんぶん振る。
(勇者じゃない私にはもう一生会うことのない人だから)
もうすぐ家に辿りつくというとき、森の方でガサッと音がする。
「何の音…?」
アイリスは顔をしかめる。
森なので、動物が出てくることはよくある。
でも、村付近のこの場所でも魔物は出ることがあるのだ。
もし、人を害するような魔物だったりしたら。
そんな怖い想像が頭に浮かぶ。
一度家へと入る。
家は明かりがついておらず、アイザックはもう寝ているようだった。
「ごめん、アイくん。ちょっと借りる」
壁に掛けられた勇者の剣を外し、それを持ち、森に向かう。
アイザックのときに使えた光の魔法で辺りを照らす。
アイザックでいたときより威力は下がっているものの、アイリス自身も魔法を使えることができた。
何かが動いている影が見えたので、アイリスはそれを追いかける。
(いや何で私一人で行こうとしているのかな。偽者でも勇者やっていた習性?ただの村娘にできることなんてないのに。今からでも、アイくん呼びに行って…)
そこで、影の動きが止まった。
(大丈夫。様子見るだけ。起こしておいて、ただの無害な小動物でしたって話なら、悪いし)
光を弱くして、こっそりと様子をうかがう。
その影は地面に横たわっているように見えた。
アイリスどころかアイザックの背丈を超えるほどの大きさ。
そっとそっと、抜き足差し足忍び寄る。
近づいてきても、動く様子はない。
ほんのすぐそばまで寄って、全容が見える。
その姿を見て、目を見張るほど驚く。
「何でこんなところに!?」
そこにいたのは、黒く大きな狼。
体調が悪いのか、ハアハア息を切らしている。
「こんな姿ってことは、相当疲れきっているんだよね」
狼のことが心配で、悲愴な声を上げる。
アイリスは地面に久々をつけ、狼の顔に近づける。
「ごめん、スコル」
そう言うと、狼の頬に口づけをした。
ぼふっと辺りに煙が舞う。
夜風によって、その煙が晴れていく。
その中には、まぶたを閉じ、苦しそうに息を漏らす黒髪の男性。
アイリスのかつての仲間、スコルがいた。
酒場の入り口で、アイリスは深くお辞儀する。
「じゃあねー、アイリスちゃん」
「明日も来るよー」
手を振って出ていく冒険者たちに、アイリスも手を振り返す。
「お疲れ、アイリス」
酒場の先輩のウェイトレスが後ろから声をかけてくる。
「いやあ、元に戻ってよかったよ。少し前に調子悪くいのか、今までのこと忘れたかのように仕事できなくなってたから」
「その節はご迷惑をしました」
アイリスがロベ村に帰ってきて、数ヶ月が経っていた。
アイザックがアイリスのときにやっていた酒場のウェートレスの仕事をそのまま引きつぐことにした。
アイザックからは仕事の内容は聞いていたが、聞くのと実際にやるのとは、別で最初は失敗ばかりであった。
アイリスがアイザックのときに、クエストができないときも酒場の裏方で仕事はしていた。
同じように、初心者っぽかったのに、ガーネットとライリーはよくこなせていたなと思い出す。
また、しばらく男の体でいたために、自分が女として見られることに慣れていなかった。
アイリスの体を守るということで、セクハラにはアイザックは容赦なく対処していた。
コミュ力の高いジークが親友であったから、ボディタッチにはすっかり慣れてしまい、何の対処もしなかったことで、あのアイリスが避けられないほどひどい目に遭ったのかと、軽くやった相手を必要以上に同僚がボコボコにしてしまっていた。
もちろん、セクハラはいけないから、相手も反省して、ほとぼりは冷めた。
それ以来絶対禁止になったため、未だにアイリスには女として見られているという自覚は弱いままであった。
仕事着から着替え、家へと帰る。
最初はアイザックがアイリスを迎えに来ていたが、酒場の仕事は夜遅くになることも多く、勇者として活躍したアイザックは村中から引っ張りだこ。
本人がアイリスの体にいたときは、鍛えすぎて筋肉つきすぎたら悪いと思い、最低限自衛できる程度しか鍛えてなかった。
アイリスがアイザックの体で魔王を退治するために鍛えたときと激しい差があり、そのギャップをなかなか埋められず、毎日疲れていた。
アイリスは勇者として鍛えていたので、アイザックがアイリスだったときよりは自衛できるということで、数週間経てば、一人だけでも帰れるようになった。
「お互い元の自分の体に慣れてきたよな」
手をグーパー握って開く。
アイリスの小さい体に慣れて、アイザックが背が高いことに気づかず、何度も頭をぶつけたことを思い出して、クスクス笑う。
「逆に私は見上げることに慣れていなかったかも。みんな私より下か同じ目線だったから」
鍛えたことでより体格がよくなったアイザックの体だが、もともと平均身長よりは高かった。
女子のガーネットやライリーはもちろん、ジークも平均はあったものの、自分より目線は下であった。
隣を向くと、すぐ顔が見えたのはスコルくらい。
不意に優しく微笑むスコルの顔が頭に思い浮かぶ。
きれいなつやのある黒髪。
まつげが長く、顔の造形が整っていた。
ひょんなことから、アイザックだったアイリスを主と呼んでいた。
主と呼ぶ声が頭の中で響く。
アイリスは顔が赤くなるが、それを追い出すように頭をぶんぶん振る。
(勇者じゃない私にはもう一生会うことのない人だから)
もうすぐ家に辿りつくというとき、森の方でガサッと音がする。
「何の音…?」
アイリスは顔をしかめる。
森なので、動物が出てくることはよくある。
でも、村付近のこの場所でも魔物は出ることがあるのだ。
もし、人を害するような魔物だったりしたら。
そんな怖い想像が頭に浮かぶ。
一度家へと入る。
家は明かりがついておらず、アイザックはもう寝ているようだった。
「ごめん、アイくん。ちょっと借りる」
壁に掛けられた勇者の剣を外し、それを持ち、森に向かう。
アイザックのときに使えた光の魔法で辺りを照らす。
アイザックでいたときより威力は下がっているものの、アイリス自身も魔法を使えることができた。
何かが動いている影が見えたので、アイリスはそれを追いかける。
(いや何で私一人で行こうとしているのかな。偽者でも勇者やっていた習性?ただの村娘にできることなんてないのに。今からでも、アイくん呼びに行って…)
そこで、影の動きが止まった。
(大丈夫。様子見るだけ。起こしておいて、ただの無害な小動物でしたって話なら、悪いし)
光を弱くして、こっそりと様子をうかがう。
その影は地面に横たわっているように見えた。
アイリスどころかアイザックの背丈を超えるほどの大きさ。
そっとそっと、抜き足差し足忍び寄る。
近づいてきても、動く様子はない。
ほんのすぐそばまで寄って、全容が見える。
その姿を見て、目を見張るほど驚く。
「何でこんなところに!?」
そこにいたのは、黒く大きな狼。
体調が悪いのか、ハアハア息を切らしている。
「こんな姿ってことは、相当疲れきっているんだよね」
狼のことが心配で、悲愴な声を上げる。
アイリスは地面に久々をつけ、狼の顔に近づける。
「ごめん、スコル」
そう言うと、狼の頬に口づけをした。
ぼふっと辺りに煙が舞う。
夜風によって、その煙が晴れていく。
その中には、まぶたを閉じ、苦しそうに息を漏らす黒髪の男性。
アイリスのかつての仲間、スコルがいた。
0
あなたにおすすめの小説
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について
国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”
人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!
【完結】アラフォー聖女、辺境で愛されます。~用済みと追放されましたが私はここで充実しています~
猫燕
恋愛
聖女エレナは、20年間教会で酷使された末、若い新聖女に取って代わられ冷淡に追放される。「私の人生、何だったの?」と疲れ果てた彼女が流れ着いたのは、魔物の呪いに苦しむ辺境の村。咄嗟に使った治癒魔法で村人を救うと、村の若者たちに「聖女様!」とチヤホヤされる。エレナの力はまだ輝いていた――。追放されたアラフォー聖女が、新たな居場所で自信と愛を取り戻す、癒やしと逆転の物語。
スキル『農業』はゴミだと追放されたが、実は植物の遺伝子を書き換える神スキル【神農】でした。荒野を楽園に変えて異世界万博を開催します!
黒崎隼人
ファンタジー
「そのスキル『農業』?剣も魔法も使えないクズはいらん、失せろ!」
勇者召喚に巻き込まれて異世界へ転生した植物オタクの青年カイルは、地味なスキルを理由に王都を追放され、死の荒野へと捨てられた。
しかし、誰も知らなかったのだ。
彼のスキルが、ただの農業ではなく、植物の遺伝子さえ書き換え、不毛の大地を瞬く間に聖域に変える神の力【神農】であることを。
荒野を一瞬で緑豊かな楽園に変えたカイルは、伝説の魔獣フェンリルを餌付けして相棒にし、傷ついた亡国の美姫ソフィアを助け出し、自由気ままなスローライフを開始する。
やがて彼が育てた作物は「エリクサーより効く」と評判になり、その噂を聞きつけた商人によって、彼の領地で世界規模の祭典――『異世界万博』が開催されることに!?
一方、カイルを追放した王国は深刻な食糧難に陥り、没落の一途をたどっていた。
「今さら戻れと言われても、この野菜は全部、俺とソフィアのとフェンのものですから」
最強の農民が送る、世界を揺るがす大逆転・万博ファンタジー、ここに開幕!
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる