借り物勇者のクラス転移〜他人の能力を自由に使える俺はだらだらと異世界を遊び抜く〜

空見 大

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帝国編

異世界①

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自らの身体が溶けていき、そして再構築されるのが理解できた。
きっとこの世界においてすら異世界から来たる人間は少ないのだと、それを分からせるかのように目の前の人々の目には好機と不安の色が灯っている。
来ている着物は鎧から豪華な装飾がなされた服まで、おそらく様々な役職の人間がここに居るのだという事が分かる。
誰が口を開くでもなく、緊張感が漂うこの空間で最初に動作を行なったのは見るからに神官と言った風貌の男だ。
その男は湊達の前へ出ると右手を前に差し出し、何かを唱え始める。
そしてそれと同時に別の男が前へと出てきて、湊達に言葉をかける。

「さて、異世界からの来訪者よ。我が帝国へようこそやってきてくれた、早速で悪いが君達には能力の紹介をあちらの受付でして貰う。
暴れても構わないがその場合はそれ相応の対処を取らせていただくので、それだけは気をつけていただきたい」

それだけを伝えられて、再び場は無言になる。
だが先程とは違い生徒会長を筆頭に、言われた通り生徒達は用意されていた受付へと並んで行く。
もちろん湊もその列に並び、渡された書類を眺める。
名前、性別、所持しているスキル、希望する職業など。
渡された書類にそれらの情報を記載しながら、湊はランダムに獲得した能力を確認する。
〈能力借用〉を使用して身体は自動で動くようにしておいたので、周りの人間から不審がられる心配もない。
一つ目のスキルは〈無限再生〉〈形態変化〉〈痛覚無効〉〈精神不動〉の複合スキルである〈金剛不屈〉というスキルだ。
効果としてはまず肉体の損傷に対する限度なしの回復、肉体の性質を変化させる能力、痛覚を無くす能力、緊急時に動揺しなくなる能力の四つが集まった常時発動型スキルのようだ。
もう一つは〈鑑定〉〈ステータス閲覧〉〈アイテムボックス〉〈メール〉〈マップ〉の複合スキル〈神智〉。
こちらは任意発動型スキルに含まれるようで、冒険者として生きていく上で必要な能力の大半がこの能力で賄えそうだ。
事前に欲しいなと思っていた能力の内の二つが、〈能力借用〉を使わずに使用できるというのはかなりの利点になるので、湊としてはかなり嬉しい。
〈無限再生〉と〈鑑定〉、そして〈剣士〉のスキルを渡された書類に書き写し、湊は支持されるままに次の部屋へと移る。

「受付を終えた方々は次の作業まで、こちらの部屋で休んでいただきます。
その間にこれから皆様にして頂きたい事を説明いたしますので、皆様お集りになるまではしばしお待ちください」

それだけを伝えられ、教室程度の広さの部屋に湊達は押し入れられる。
特に何があるというわけでもなく、盗聴系の類も無いように感じ取れた。

「まさかこんな事になるとはな。湊はどんな能力にしたんだ?」

待たされている間の時間に湊に喋りかけてきたのは、湊が先程本を渡しに行こうとしていた相手である田村だ。
目には好奇心しか映っておらず、特に何か裏があるというわけでもなさそうなので素直に教える事にする。

「再生系能力と、鑑定。あと剣士の能力だな」

別に嘘はついていない。
具体的に何とは聞かれていないし、別に嘘は言っていないからだ。
一対一ならば別に書いた能力程度は教えても構わないが、周囲に人がいる環境でバカ素直に教えられるほどこの世界を甘くみてはいない。
特に先程使用されたおそらく魔法の件については、湊自信がまだ魔法について知らないのでなんとも言えないが、こちらにとって不都合な魔法である確率が極めて高い。
正直に言って今のところ、少しでも気を抜ける時間などありはしないのだ。

「あ、しまった俺も再生系の能力とっておけばよかったなぁ。それって他人の怪我も回復できるタイプ?」
「いや、他人のは無理だな」
「だよなぁ。どうしようか」

そう言って田村が頭を抱え込むのを見ていると、クラスメイト全員の受付が終わったのか、最初に湊達をここへと案内した人物が部屋の前に立った。
さすがに高校生なだけあって前に人が立てば少しばかりは静かになるものの、とはいえ異世界という場所にきて心が浮ついているのか、少なからず喋る者達も目につく。
とはいえ先方が特に気にしている様子でも無いので注意せず、湊は相手の喋りだしを待つ。

「それでは今から君達に問いたい。君達は今後どの様な職業に就きたいかだ」

そんな男の言葉を聞いて、湊は分かりやすく型を落とす。
デスゲームでもさせられたり先程の魔法関連について何か述べられるのかとでも思えば、異世界に来ていきなり就職の話など頭がいたい。
彼の言いたい事も分からないでは無い。
おそらくはこの世界においても人権というものはある程度の形として存在し、そして同じ人間である以上異世界人たりえる湊達にももちろん人権は機能するわけで、つまりは無理やり働かせたりは出来ないわけだ。
さらに言ってしまえばこの国からすれば異世界人とは金を生み出す装置であり、その装置の機嫌を曲げるような事は極力したく無いはずだ。
だからこそこうしてどういった職業に就きたいかを問うているのだろう。

「とはいえこの世界においてどの様な仕事があるからすら、君達はまだ知らないはずだ。という事で大まかに四つに分けてみた。
一つ目は冒険者として活動する方法。これには覚悟がいるが、莫大な富を築く事も出来る。
二つ目はこの国に仕え働く事だ。莫大な富を築く事が出来るかは本人の能力次第だが、まぁ安定した仕事といえば安定した仕事ではある。
三つ目は商人として仕事をする事だ。この場合税金をかなりの額納めて貰う必要はあるものの、最初の二年は税を取らないような政策をしているし、さらに言えば異世界人の君達がもし技術的な進歩として認められる商品を発売できたならそれに見合う金銭を国から出そう。
四つ目はそれ以外の職業を探し、自分でなんとかする事だ。とはいえもしこの方法を取るのであれば、今回君達の召喚に関して消費された資源ないしは資金の人数割るその個人分の金銭を徴収するものとする。以上だ」

無茶苦茶…だとは言えんだろう。
非常に人道的かつ平和的で、表面的に見ればどの点からも人権は完全に保障されている。
特に四つ目の方法に関して言えば、少々不気味だと言える程に国の対応としては優しすぎる。
この国がどの様な国家理念を掲げ、そしてこうして国として成立しているかは知らないが、国というものの基本的な物として他国が得られるかもしれない利益は潰すに越した事は無く、もし自分がこの男の立場だったならこの様な言い回しはしないだろう事から、この国の対応が測れた。

「質問です。この国はなんという名前の国ですか」
「そう言えば言うのを忘れていたな。これは失礼した、この国はセヴルス・ライン・アールン・バルランド帝国だ」

なんとまさかここまで期待通りに事が進むとは。
喜びに打ち震え声が漏れそうになるのを我慢しながら、湊は小さく拳を突き上げる。
基本的に運はいい方なのだが、まさか能力で強化しただけでこれ程までに思い通りに事が進むとは、あながち運の良さと言うのもバカにならない。

「それでは各列ずつ好きな場所へと並んでくれたまえ」

衛兵達が各々部屋の四隅へと移動し、自分達の番号を言いながら並ぶ様に支持する。
それからしてしばらくすると徐々に列も並び出し、どれくらいの人数がどの場所へと向かったのかが分かるようになってくる。
38人居る中で24人が冒険者を希望し、湊を含め6名が国に対しての勤務を志望。
さらに商業系へと6人が志願し、自由を求めたものは結局2人だけとなった。
中学生ならばまだしも現実を見据える高校生ならばこの程度が妥当な数字だろうと思いつつも、意外と自由を求めたものが少なかった様な印象を感じる。

「それでは列に続いて先へと進んでいってくれたまえ。ちなみに各自ここで部屋は分かれるので、急用などを伝えておきたいならば今のうちにしておくがいい」

そう言われても、湊もそうだが国に仕える事を志願したもの達は特に話す相手もいない。
どの様な場所に配備されるかは現時点では不明だが、おそらくこの班が一番他班と出会う可能性が高いのでわざわざ言いに行く必要もないのだ。
それを衛兵も分かっているのかこちらを一瞥した後、やはりなとでも言いたげな表情を浮かべたあと部屋を出て行く。
後ろで聞こえる騒がしい声を耳にしながら、湊達はその部屋を後にする。
さてさて、一体どんな仕事をさせられるのだろうか。
たとえどんな面倒な作業だろうと楽しんでやると言いたげにそう決意して、湊は次の部屋へと足を進めるのだった。

〈借用中能力〉
自動行動、運気上昇、索敵、能力強化、呪い完全無効化、交渉、自動防御
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