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幼少期:森妖種王国編 改修予定
冒険者
しおりを挟む 共和国での一連の話も無事に終わり、エルピス達は馬車に乗って二週間ほどかけ森霊種の国へと向かっていた。
理由としては二つある。
一つ目は人間を相手にするのが少々疲れたと言うエルピス自身の個人的感情によるもの、二つ目は冒険者としての仕事が多くある亜人の国に行きたかったからだ。
人間が治めている国は基本的にそもそも魔物の発生自体が珍しく、更に発生したところですぐに処理されるので、あまり討伐系の依頼が冒険者組合の方には入ってこない。
あるとしても先日の迷宮の様なダンジョンや、それに類する何かと言ったところだ。
辺境にはエラや家にいた使用人たちの部族なりなんなりがあるだろうから向かうことはできないが、首都ならば多種族と関わることも許容する森霊種しか居ないのでなんの問題もない。
「共和国は熱かったけどこっちは逆に寒いわね。森霊種が居る場所って、草木とかが生い茂ってる温暖な気候のイメージだったんだけど」
「森霊種は基本的に寒さには強いです。ですから外敵の少ないこの地に移住したと言われています、私は混霊種ですので少し寒いですが」
「なるほど……確かに長距離行軍した先が雪国なんて、死ににいく様なものだしね」
アウローラがそういうのも無理はない。
この世界では携帯食料は肉や魚で作られた簡単なものしかなく、またエルピスの様に周囲の温度を常に変え続けられる魔法使いなど、大国であろうと一人か二人存在すれば良い方だ。
固まって歩く人間など魔法の的でしかないし、かと言って小さいグループで動けば寒さに対する対策が無くなってしまう。
寒さに耐性を持つ亜人種というのはこの世界全域で見ても珍しい種族であるし、そういった種族は大概すでに己の領地を持っているので攻め入ることなどもほとんどないのだ。
だからこそ森霊種の国の守りは頑丈であり、ここ数千年の間森霊種たちは人に負けないほどの広大な土地を所有しているのである。
地形的に見てもかなりの優位性もあり、そこに森霊種特有の薬学知識や植物を育てる術が加われば人間如きには崩せない鉄壁の守りを手に入れられることは容易に想像がつく。
「それにしてもここまでかなり遠かったけど、あの悪魔ここまで来れるのかしら?」
「悪魔だしほっといても大丈夫でしょ。天界でもそうだったけどあいつらのしつこいのなんの、ほっといたら来るよ」
「ニルはあんまりフェルの事好きじゃないの? 機嫌悪そうだけど」
「好きではないね。初対面で人の頭蹴り飛ばした癖にまだ謝ってもらってないし!」
そう言われてみると確かに許せない理由もわかるのだが、ニルを叩き落とすためにフェルを召喚したのは他の誰でもないエルピスなので、少々思うところがないでもない。
だがそれを口にしてニルを不機嫌にするのはもっと嫌だ、そんな感情からエルピスは申し訳ないと思いつつフェルにそのまますべての責任を押し付ける。
(明日の朝……夜にはこのペースだとつくかな)
契約からフェルの現在位置を辿ってみれば今まさに現在進行形でこちらに向かってきている最中であり、そのペースであればこれくらいの距離ならすぐにたどり着くだろう。
「まあ明日にはこっち来るだろうしさ、仲良くしてあげてよ」
技能〈悪魔召喚〉を使用して呼び出すという方法もある、フェルがいまいないからといってすぐに問題は起きないだろうと判断したエルピスがニルにそういうとしぶしぶといった風にニルは首を縦に振るのだった。
「みなさん、そんな事を言っている間に首都が見えてきましたよ」
「懐かしい~」
「森霊種の国ってこんな感じなの!?」
荷車に乗っているエルピス達の方へ振り向きながらセラがそう言うと、確かにいつの間にか森霊種の国の首都であるリーバスガイデがよく見えた。
かつて世界樹と呼ばれる天を貫くとされた神木を中心地として作られたこの街は、いまやその神木を失っているとはいえその発展具合は王国の首都と比べても遜色のないものである。
だがアウローラとエルピスが驚いたのは倒れている神木でもなければ街を歩く森霊種たちの姿でもない、瓦屋根に木造建築、歩く人々の服装などその全てがまるで日本のようであったからだ。
「絶対に森霊種の中に転生者がいたでしょこれ」
「瓦屋根とか久々に見た……というか瓦屋根だと雪はけが悪いから建築方法としては向いてないんじゃ?」
「どうやら瓦に熱が籠る魔法術式的なのがあるみたいたよ。雪から魔力を吸ってそれを熱に変えて雪を溶かして近くの用水路に流してる」
「なるほどね、というかあんたこの距離からよくそんなの分かるわね」
「まぁ魔法に関して言えば世界一だからね」
「世界一はさすがに盛り過ぎよ」
魔神の称号を持っている以上エルピスが世界一というのは紛れもなく本当の事なのだが、とは言ってもそれを説明するのは今でなくても良い。
この街での活動中に教えるという約束なので、近いうちにはアウローラとエラに教えることになるのだろうが今は秘密だ。
笑ってそれを誤魔化すと、エルピス達は手続きを行うために兵士の待つ門の方へと向かって歩いていく。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様。人間の国からか? 用事は?」
森霊種の国は身分証の確認が相当緩い方であるという話はエルピスも耳にしていたが、それにしたって随分と警戒心のない門兵だなぁと呑気にそんなことを考える。
担当しているのは一人だけ、装備も直ぐに抜けるような体制を取っていないし、相当治安に自信があるのだろう。
当然エルピスとしてもなんなく素通り出来る方が断然ありがたいので、友好を示すために笑みだけは忘れないようにしつつ会話を続ける。
「出稼ぎに。最近依頼なくて困ってるんですよ、灰猫プレート見せて上げて」
「はいどうぞ」
「ありがとう……よし、構わないよ。ようこそ森霊種の国へ」
最高位のプレートでは問題が発生する可能性もあるので灰猫のプレートを使わせてもらったエルピスだったが、問題なく作戦は成功し無事に首都リーバスガイデへと入ることができた。
「えっと、それでここに来たのは良いけどこれから先どうするの?」
街を歩きながらぶらぶらと観光するつもりでいると、ふとアウローラが隣に座るエルピスにそう言った。
そういえば今回ここに来た目的を伝えていなかったなと思いながら、エルピスは軽く今後の予定を説明する。
「情報収集と療養、後は今後の資金稼ぎかな。俺、セラ、ニルは資金調達を主に、エラとフェルには情報収集を、アウローラと灰猫は療養してもらうつもり」
生活費を稼ぐ必要はないのだが、これから先どこで使うのかも分からないので、お金はあるに越したことは無いはずだ。
エラとここにはいま居ないがフェルには情報収集を頼むつもりで、その理由は共和国の王がどのような方法で報復に出るか、エルピスには想定出来ないからである。
あれだけ容赦なくプライドをへし折られたのだ。
直ぐにでも報復に何かをしてくるだろうと言う事くらいは予想もつくが、何か仕掛けてくるとしてもその兆候程度はわかるようにしておきたい。
仕事を任されず休養を言い渡されたアウローラは、自分は大丈夫だと胸を張って言い切った。
「まー確かに疲れてるのは否めないけど療養するほどでもないわよ? 私だって伊達に貴族の娘として生きて来たわけじゃないし」
「僕もだね。冒険者としていままで活動してきたんだよ? ダンジョン攻略くらい疲労にならないさ」
「まぁそう言うだろうとは思ってたけど……なら一緒に魔物狩りする?」
「そうね、私も少しは魔物との戦闘をしたいと思ってたし」
「腕が鈍ってないか心配だよ」
命の危険性がどうしても付き纏う以上あまり魔物との戦闘に二人を呼びたくはなかったが、本人達が参加したいと言うのだから無理にやめろというのもしのびない。
それにアウローラも灰猫も、冒険者としての実力は一流だ。
冒険者組合の基準では最高位冒険者しか手出しを許されていない土地神級の敵が出てきたら話は別だが、それ以外の敵ならば特に問題なく処理することが出来るだろう。
ちなみに土地神級の魔物は普通都市部には現れない、その理由としてはそもそも土地神級の魔物は余程の戦争や魔力が貯まる場所ができたりしなければいけないからである。
「じゃあとりあえず冒険者組合に行くか。宿の確保とかいろいろやっておかないと行けないことがあるから、先に行っておいてくれる?」
アウローラ達の頼みに首を縦に振ったエルピスは、そのまま自分だけ別行動を取ろうとする。
宿の確保はいつもであればエラの仕事なのだが、こんかい彼女にも迷惑をかけている意識があったのでそれを返しておきたかったのだ。
「エルピス様、それならば私が致しますが?」
「いいよ、普段エラに任せてばかりだしね。共和国では俺のせいで面倒ごとになったわけだし、その埋め合わせをさせてよ」
「分かりました、でしたら私と共に行きませんか?」
「……分かったよ、なら一緒に行こうか」
本来ならいつもしてもらっているのを変わる手前、本人がついて来てたら意味がない。
なのだがエラの目からは引かないという確固たる意志が見受けられたので、これ以上言っても無駄と判断しエルピスは妥協する。
それに意識して作っていなかったから仕方ないが、久しぶりの二人きりの時間が出来たことにエルピス自身少々嬉しかった。
「それじゃあ僕達は先に行っておきますね~」
「適当に依頼受けとくわよ?」
「ああ、頼んだ」
目的が決まれば動き出すのは早いもので、手を振りながら街の中を進んでいくアウローラ達にエルピスも手を振り返すと、ふとまだ隣にいたセラから声がかかる。
「それでは行きましょうか、ああそうそう。エルピス様、身分証明用に紋章を貸していただけますか?」
「そうだな、忘れてた」
この世界において、セラは戸籍どころか存在しないものとして扱われている。
この世に生を受けてこの場にいるわけではなく召喚された天使であるのだからそれも当たり前の話なのだが、かといって天使を常時召喚した状態で放置していると知られたら、誰から何を言われるか分かったものではない。
基本的に召喚物は一人につき一匹が基本だし、位の高い生き物であればあるほどに必要とする魔力量も多くなる。
セラを常時現界させる為に当時のエルピスがその膨大な魔力からおよそ二割を割いているといえば、その消費量の多さがわかるだろうか。
エルピスは常に魔力を最大限貯めた状態で活動できるが、人ならば常に魔力の値は減っていきいつかは召喚も持たなくなる。
アウローラの魔力量でもって一週間と言うところだろうか、それでもアウローラの脅威的な魔力に加えてセラが戦闘しないと言う条件付きではあるが。
(そう考えるとセラも結構燃費悪い方だよなぁ)
今となってはもう気にすることもない魔力量だが、一時期のエルピスからすればかなり大変だったものだ。
話は変わってしまったが、そう言うことでエルピスは身分証の代わりにアルヘオ家の紋章をセラに渡すようにしている。
親のスネをかじっているようで気分はあまり良くないが、利用できるものがあるのなら利用するべきだというのがエルピスの判断だ。
事実いままでも紋章を見せれば大抵の人間は不審がらなくなったので、それなりに使えることは証明されている。
「それじゃあまた後で」
冒険者組合は町の中央付近になるので、ここから先はセラ達とは別れる事になる。
こうして森霊種の国に到着したエルピス達は、着々とこれからに向けての準備を始めるのだった。
理由としては二つある。
一つ目は人間を相手にするのが少々疲れたと言うエルピス自身の個人的感情によるもの、二つ目は冒険者としての仕事が多くある亜人の国に行きたかったからだ。
人間が治めている国は基本的にそもそも魔物の発生自体が珍しく、更に発生したところですぐに処理されるので、あまり討伐系の依頼が冒険者組合の方には入ってこない。
あるとしても先日の迷宮の様なダンジョンや、それに類する何かと言ったところだ。
辺境にはエラや家にいた使用人たちの部族なりなんなりがあるだろうから向かうことはできないが、首都ならば多種族と関わることも許容する森霊種しか居ないのでなんの問題もない。
「共和国は熱かったけどこっちは逆に寒いわね。森霊種が居る場所って、草木とかが生い茂ってる温暖な気候のイメージだったんだけど」
「森霊種は基本的に寒さには強いです。ですから外敵の少ないこの地に移住したと言われています、私は混霊種ですので少し寒いですが」
「なるほど……確かに長距離行軍した先が雪国なんて、死ににいく様なものだしね」
アウローラがそういうのも無理はない。
この世界では携帯食料は肉や魚で作られた簡単なものしかなく、またエルピスの様に周囲の温度を常に変え続けられる魔法使いなど、大国であろうと一人か二人存在すれば良い方だ。
固まって歩く人間など魔法の的でしかないし、かと言って小さいグループで動けば寒さに対する対策が無くなってしまう。
寒さに耐性を持つ亜人種というのはこの世界全域で見ても珍しい種族であるし、そういった種族は大概すでに己の領地を持っているので攻め入ることなどもほとんどないのだ。
だからこそ森霊種の国の守りは頑丈であり、ここ数千年の間森霊種たちは人に負けないほどの広大な土地を所有しているのである。
地形的に見てもかなりの優位性もあり、そこに森霊種特有の薬学知識や植物を育てる術が加われば人間如きには崩せない鉄壁の守りを手に入れられることは容易に想像がつく。
「それにしてもここまでかなり遠かったけど、あの悪魔ここまで来れるのかしら?」
「悪魔だしほっといても大丈夫でしょ。天界でもそうだったけどあいつらのしつこいのなんの、ほっといたら来るよ」
「ニルはあんまりフェルの事好きじゃないの? 機嫌悪そうだけど」
「好きではないね。初対面で人の頭蹴り飛ばした癖にまだ謝ってもらってないし!」
そう言われてみると確かに許せない理由もわかるのだが、ニルを叩き落とすためにフェルを召喚したのは他の誰でもないエルピスなので、少々思うところがないでもない。
だがそれを口にしてニルを不機嫌にするのはもっと嫌だ、そんな感情からエルピスは申し訳ないと思いつつフェルにそのまますべての責任を押し付ける。
(明日の朝……夜にはこのペースだとつくかな)
契約からフェルの現在位置を辿ってみれば今まさに現在進行形でこちらに向かってきている最中であり、そのペースであればこれくらいの距離ならすぐにたどり着くだろう。
「まあ明日にはこっち来るだろうしさ、仲良くしてあげてよ」
技能〈悪魔召喚〉を使用して呼び出すという方法もある、フェルがいまいないからといってすぐに問題は起きないだろうと判断したエルピスがニルにそういうとしぶしぶといった風にニルは首を縦に振るのだった。
「みなさん、そんな事を言っている間に首都が見えてきましたよ」
「懐かしい~」
「森霊種の国ってこんな感じなの!?」
荷車に乗っているエルピス達の方へ振り向きながらセラがそう言うと、確かにいつの間にか森霊種の国の首都であるリーバスガイデがよく見えた。
かつて世界樹と呼ばれる天を貫くとされた神木を中心地として作られたこの街は、いまやその神木を失っているとはいえその発展具合は王国の首都と比べても遜色のないものである。
だがアウローラとエルピスが驚いたのは倒れている神木でもなければ街を歩く森霊種たちの姿でもない、瓦屋根に木造建築、歩く人々の服装などその全てがまるで日本のようであったからだ。
「絶対に森霊種の中に転生者がいたでしょこれ」
「瓦屋根とか久々に見た……というか瓦屋根だと雪はけが悪いから建築方法としては向いてないんじゃ?」
「どうやら瓦に熱が籠る魔法術式的なのがあるみたいたよ。雪から魔力を吸ってそれを熱に変えて雪を溶かして近くの用水路に流してる」
「なるほどね、というかあんたこの距離からよくそんなの分かるわね」
「まぁ魔法に関して言えば世界一だからね」
「世界一はさすがに盛り過ぎよ」
魔神の称号を持っている以上エルピスが世界一というのは紛れもなく本当の事なのだが、とは言ってもそれを説明するのは今でなくても良い。
この街での活動中に教えるという約束なので、近いうちにはアウローラとエラに教えることになるのだろうが今は秘密だ。
笑ってそれを誤魔化すと、エルピス達は手続きを行うために兵士の待つ門の方へと向かって歩いていく。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様。人間の国からか? 用事は?」
森霊種の国は身分証の確認が相当緩い方であるという話はエルピスも耳にしていたが、それにしたって随分と警戒心のない門兵だなぁと呑気にそんなことを考える。
担当しているのは一人だけ、装備も直ぐに抜けるような体制を取っていないし、相当治安に自信があるのだろう。
当然エルピスとしてもなんなく素通り出来る方が断然ありがたいので、友好を示すために笑みだけは忘れないようにしつつ会話を続ける。
「出稼ぎに。最近依頼なくて困ってるんですよ、灰猫プレート見せて上げて」
「はいどうぞ」
「ありがとう……よし、構わないよ。ようこそ森霊種の国へ」
最高位のプレートでは問題が発生する可能性もあるので灰猫のプレートを使わせてもらったエルピスだったが、問題なく作戦は成功し無事に首都リーバスガイデへと入ることができた。
「えっと、それでここに来たのは良いけどこれから先どうするの?」
街を歩きながらぶらぶらと観光するつもりでいると、ふとアウローラが隣に座るエルピスにそう言った。
そういえば今回ここに来た目的を伝えていなかったなと思いながら、エルピスは軽く今後の予定を説明する。
「情報収集と療養、後は今後の資金稼ぎかな。俺、セラ、ニルは資金調達を主に、エラとフェルには情報収集を、アウローラと灰猫は療養してもらうつもり」
生活費を稼ぐ必要はないのだが、これから先どこで使うのかも分からないので、お金はあるに越したことは無いはずだ。
エラとここにはいま居ないがフェルには情報収集を頼むつもりで、その理由は共和国の王がどのような方法で報復に出るか、エルピスには想定出来ないからである。
あれだけ容赦なくプライドをへし折られたのだ。
直ぐにでも報復に何かをしてくるだろうと言う事くらいは予想もつくが、何か仕掛けてくるとしてもその兆候程度はわかるようにしておきたい。
仕事を任されず休養を言い渡されたアウローラは、自分は大丈夫だと胸を張って言い切った。
「まー確かに疲れてるのは否めないけど療養するほどでもないわよ? 私だって伊達に貴族の娘として生きて来たわけじゃないし」
「僕もだね。冒険者としていままで活動してきたんだよ? ダンジョン攻略くらい疲労にならないさ」
「まぁそう言うだろうとは思ってたけど……なら一緒に魔物狩りする?」
「そうね、私も少しは魔物との戦闘をしたいと思ってたし」
「腕が鈍ってないか心配だよ」
命の危険性がどうしても付き纏う以上あまり魔物との戦闘に二人を呼びたくはなかったが、本人達が参加したいと言うのだから無理にやめろというのもしのびない。
それにアウローラも灰猫も、冒険者としての実力は一流だ。
冒険者組合の基準では最高位冒険者しか手出しを許されていない土地神級の敵が出てきたら話は別だが、それ以外の敵ならば特に問題なく処理することが出来るだろう。
ちなみに土地神級の魔物は普通都市部には現れない、その理由としてはそもそも土地神級の魔物は余程の戦争や魔力が貯まる場所ができたりしなければいけないからである。
「じゃあとりあえず冒険者組合に行くか。宿の確保とかいろいろやっておかないと行けないことがあるから、先に行っておいてくれる?」
アウローラ達の頼みに首を縦に振ったエルピスは、そのまま自分だけ別行動を取ろうとする。
宿の確保はいつもであればエラの仕事なのだが、こんかい彼女にも迷惑をかけている意識があったのでそれを返しておきたかったのだ。
「エルピス様、それならば私が致しますが?」
「いいよ、普段エラに任せてばかりだしね。共和国では俺のせいで面倒ごとになったわけだし、その埋め合わせをさせてよ」
「分かりました、でしたら私と共に行きませんか?」
「……分かったよ、なら一緒に行こうか」
本来ならいつもしてもらっているのを変わる手前、本人がついて来てたら意味がない。
なのだがエラの目からは引かないという確固たる意志が見受けられたので、これ以上言っても無駄と判断しエルピスは妥協する。
それに意識して作っていなかったから仕方ないが、久しぶりの二人きりの時間が出来たことにエルピス自身少々嬉しかった。
「それじゃあ僕達は先に行っておきますね~」
「適当に依頼受けとくわよ?」
「ああ、頼んだ」
目的が決まれば動き出すのは早いもので、手を振りながら街の中を進んでいくアウローラ達にエルピスも手を振り返すと、ふとまだ隣にいたセラから声がかかる。
「それでは行きましょうか、ああそうそう。エルピス様、身分証明用に紋章を貸していただけますか?」
「そうだな、忘れてた」
この世界において、セラは戸籍どころか存在しないものとして扱われている。
この世に生を受けてこの場にいるわけではなく召喚された天使であるのだからそれも当たり前の話なのだが、かといって天使を常時召喚した状態で放置していると知られたら、誰から何を言われるか分かったものではない。
基本的に召喚物は一人につき一匹が基本だし、位の高い生き物であればあるほどに必要とする魔力量も多くなる。
セラを常時現界させる為に当時のエルピスがその膨大な魔力からおよそ二割を割いているといえば、その消費量の多さがわかるだろうか。
エルピスは常に魔力を最大限貯めた状態で活動できるが、人ならば常に魔力の値は減っていきいつかは召喚も持たなくなる。
アウローラの魔力量でもって一週間と言うところだろうか、それでもアウローラの脅威的な魔力に加えてセラが戦闘しないと言う条件付きではあるが。
(そう考えるとセラも結構燃費悪い方だよなぁ)
今となってはもう気にすることもない魔力量だが、一時期のエルピスからすればかなり大変だったものだ。
話は変わってしまったが、そう言うことでエルピスは身分証の代わりにアルヘオ家の紋章をセラに渡すようにしている。
親のスネをかじっているようで気分はあまり良くないが、利用できるものがあるのなら利用するべきだというのがエルピスの判断だ。
事実いままでも紋章を見せれば大抵の人間は不審がらなくなったので、それなりに使えることは証明されている。
「それじゃあまた後で」
冒険者組合は町の中央付近になるので、ここから先はセラ達とは別れる事になる。
こうして森霊種の国に到着したエルピス達は、着々とこれからに向けての準備を始めるのだった。
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