100 / 273
森妖種王国:番外編
観光とプレゼント
しおりを挟む
あちらこちらから上がる湯気を見渡しながら、エルピス達は街の中を歩いていく。
あれからさっと着替えを終えたアウローラが、朝は外で食べると駄々をこね出した為まだ何も食べれていないが、それを抜きにしても美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきている。
出店だけで無く、温泉宿の中に設置されたお店からも多種多様な食べ物が目に入った。
「あ! あれって温泉饅頭じゃない!?」
「饅頭か…温泉卵置いてないのかな?」
饅頭のあのなんとも言えない食感と風味を思い出し、逃げ道に温泉卵でも置いてないかと辺りを見回すが、どうやら置いて居ないようだ。
まぁこの世界に鶏なんか居ないから、仕方ない気もするが。
「あんた饅頭食べれなかったの? …人生の半分は損してるわね」
「そう言うアウローラだって、魚食べられないのは人生の半分損してると思うよ?」
「いや、あんなの平気で食べてるあんたやニルが可笑しいのよ!?」
確かにこの世界の魚は種類によっては死んでからも動くし、人の言葉を喋るけれど、そんな言い方しなくても良いだろうに。
味自体は一緒なのだ、見た目はゲテモノでも美味しい。
「それでこれからどうすんだ?」
「お昼まで自由行動にしようと思ってるわ」
今日はアウローラのストレス発散も兼ねての外遊なので、アウローラに予定を聴くと意外な答えが帰ってきた。
アウローラの事なら一緒にあっちこっち行こうと誘ってくれると思ったのだが、そのアテが外れてエルピスはどこに行こうかと頭を動かす。
それにしても自由行動か……都合が良い。
「じゃあ俺は街の外でちょっと戦闘してくるね」
「あんた本当に暇な時はずっと戦ってるわね」
「人の事を戦闘狂見たいな言い方するの辞めてよ、ちょっと今回の一件でいろいろと足りなさを感じてるんだ」
金が稼げる上に戦闘経験を重ねられるからエルピスは暇さえあれば戦っているのであって、決して戦闘狂な訳では無いのだ。
それにアウローラに対して言った通り連合国での一件もある。
強くなれる時間があるのならば、少しでも強くなりたい。
「じゃあ私はアウローラについて行こうかしら」
「なら私はエルピスに付いて行こ──」
「貴方もこっちよ」
「なんでよセラ! 別に一緒に行っても良いじゃ無い!」
「貴方が一番疲れてるんだから当然でしょ」
そう言いながら暴れるエラの服を引って、セラはアウローラの所まで連れて行く。
なんだか最近セラがお姉さんっぽくなってきた事に少し笑みを浮かべながらも、エルピスは出立の準備をする。
とは言っても大体は収納庫に入っているので、特に何かするわけでは無いが。
「僕は姉さんに付いてくよ」
「人が多すぎてここはちょっと僕に合わないしエルピスについていくよ」
「良し! じゃあこれで決定だな。一時になったら中央広場で合流しようか」
「あ、私もエルピスさんの方ついてきますね、女性陣の方は怖いので」
「分かったわ、また後で」
男女で綺麗に別れ、エラ達女子組は街へと、エルピス達男組は近くの森へとその姿を消す。
どんな魔物がいるのか期待に胸を躍らせながら、エルピスは嬉々として街の外へと向かうのだった。
○
「あぁ…しんどかった~。一通りは倒せたんじゃ無いか?」
肩で息をしている灰猫を横目にエルピスも地面に倒れ込み、荒ぶる呼吸を抑える。
アウローラ達と別れて早二時間が経ち、灰猫とフェルも服は傷だらけで、身体こそ傷は無いものの戦闘回数の多さを物語っていた。
「あの妖狐のウザさと言ったら…本当に面倒ですね」
「まさかこっちの力量に合わせて変化するとはね、しかも隠蔽してようがおかまいなしで元の力で来るし」
「まぁそのおかげで僕以外に変化してくれた奴は、みんな消えてったから楽ではあったけどね」
そう言いながらエルピスは自分達の周りで転がっている魔物の中から、話題に上がっている妖狐を見つめる。
灰猫が言った通り、エルピスやフェルに変化しようとした妖狐はその悉くが力に耐え切れず爆散した。
意思も持たず、中堅程度の力しか無い魔物が神の称号や最上級悪魔の力に耐えられる訳も無かったのだ。
「そろそろ帰るか、結構戦ったし」
「それもそうですね。ではそろそろ行きましょうか」
「──悪いが先行っててもらえるか? 俺少し行く所があるから」
「まさか女の子?」
「ないない、信用しろよ」
「エラさん達には私の方から言わせてもらいます。それではまた後でエルピスさん」
なんとなく見透かしている様なフェルの目で見つめられ、少しエルピスはたじろぐが、すぐに返事をして転移魔法で飛んでいく一行を見送る。
それからすぐにエルピスも転移魔法を起動した、行き先は龍の森。
かつて自分が住んでいた場所だ。
/
良い子はお寝んねし、悪い子も殆どはお寝んねしてしまう今の時刻は夜中の3時。
森霊種の国の寒波が夜になって更にその力を強め、部屋の中でも少し寒いと思えるこの時刻に部屋にゆっくりと忍び寄る影が一つ。
その影はまるで事前に知っていたかの如く、いくつかある部屋の中からその部屋に入って行く。
部屋の中に居るのはニル達女子組だ。
普段なら侵入者に対して警戒し、眠りの甘いエラも今日限りは深く眠りにつき、セラも睡眠を不要とするはずなのにぐっすりと眠って居る。
まるで何者かに眠らされた様に──
そして返り血の様な真っ赤な服を着て、白い髭を生やしたその影は枕元に何かを置いて早々に部屋から退散して行った。
はっきり言ってあの二人がこの程度の魔法で眠るわけないので、この茶番に付き合ってくれているだけだろう。
勿論別の部屋で寝ている灰猫達の枕元にも贈り物を一つづつ。
「ちょっと時期は違うし季節遅れだけど、お疲れ様みんな」
暦上は今の季節は日本で言うところの一月相当であり、となるともうお年玉をあげる季節ではあるのだが、先にこちらから終わらせておきたかった。
それに今回の件ではみんなに頑張ってもらった、お礼も兼ねてこのタイミングが一番ちょうど良かったのだ。
「ついでに来たはいいけど……王族の寝床がこの警備のザルさはどうなんだ?」
グロリアスの枕元に立ちながら、呆れた様な顔をして赤い服の男はそう言う。
安らかな寝顔で眠る若王を見つめながら、再び森霊種の国へと帰るのだった。
/
「エルピス! エルピス!!」
「また朝っぱらからバタバタして…どうしたんだ?」
「これ見て!! 凄くない!?」
そう言われてアウローラに差し出されたのは、綺麗な真紅の赤と深い青色の宝石だ。
しかもそれらを嵌める事が出来るネックレスもアウローラの手にはかがげられている。
こちらは聖母の様な女性が何かを抱く様なデザインになっており、ここに宝石を嵌めるように作られたのだろう。
まるで王国を守ろうとするアウローラを表したかのように。
(まぁそれをイメージして作ったからそう見えてくれないと困るんだけど)
そう思いながらも、エルピスは我ながら良い出来だと改めて思う。
「確かに綺麗だね、昨日買ってきたの?」
「そんなわけ無いでしょ! 朝起きたら枕元に置いてあったのよ」
「何そのサンタさん的なノリ」
「──もしかしてだけどこの世界ってサンタが実在してるんじゃ……?」
「一部地方には居るけどこの辺りには居ないわね、サンタじゃないわよ」
──サンタ実在するんかい!
セラの言葉にそう言いたくなるのを堪えつつ、エルピスはこれを行なったのが自分だとバレない様に話を合わせる。
別に自分からのプレゼントだと言っても良かったが、これはこれでいつバレるかどうかのドキドキ感が楽しい。
「エルピス、枕元になんかあったんだけど」
「おはよう灰猫。何があったんだ?」
「これだよ」
そう言いながら灰猫がエルピスに差し出したのは、二振りの綺麗な彫刻が為された短剣。
片方は黒と青が混ざった綺麗な色をした刀身で、もう一つの刀身は朝日に照らされて薄くではあるが赤く輝いていた。
短剣にしては少し曲がって居るし、シミターにしては曲がりが少ない、まるで脇差の様な反りの珍しい短剣を嬉しそうに灰猫は振り回す。
室内で試し振りだとばかりに短刀を振り回す灰猫に向かって、エルピスは微笑みながら声をかける。
「落ち着け灰猫、さすがに室内は危ない」
「あ、ごめんエルピス。これ、ありがとね」
「俺にお礼言っても仕方ないだろ」
上手く隠したからセラとニル、あとフェル以外にはバレていないと思ったが、どうやら灰猫にもバレたらしい。
そういえば匂い対策をしていないので、あの短刀にはしっかりとエルピスの匂いがついていることだろう。
そりゃバレるわけである。
「エルピス! エルピス!」
「エラも貰ったのか? 何を貰ったんだ?」
「これ!」
エラがこちらに見せつけ──いや近いから、顔当たってるから。
エラがエルピスに見せつけて居るのは、オレンジ色の綺麗な水晶とそれを嵌め込めるネックレスだ。
ひし形に削られた水晶の中には綺麗な、それでいて研ぎ澄まされた剣がうっすらと写っていた。
それは反射によって剣から魔法、そして銃といろんな武器に色を変えていった。
実はこれは武器召喚術式が組み込んである結構すごい魔法道具で、ようは強化版十徳ナイフ的な便利アイテムだ。
彼女らしいと言えば彼女らしいネックレスの出来栄えに満足しつつ、似合ってる? と目で訴えかけてくるエラの頭を撫でる。
「似合ってるよ。すっごい可愛い」
「ありがとう! 大切にする!」
灰猫に引き続きエラもどうやら気づいたらしい。
こちらに関していえば匂いなのか魔力の残滓なのか気配なのか、どれで判断したのかは分からないがエルピスだと判断できるにたる何かがあったのだろう。
ネックレスをずっと眺めて居るエラの次は、予想していたがにっこりと笑みを浮かべたセラだった
「エルピ──」
「それで何を貰ったんだ?」
「最後まで言わせてくれてもいいと思うんだけど……」
なんだか少し残念な子になりつつあるセラが持ってきたのは、エルピスとセラが始めて有った時にセラが生やしていた翼があしらわれた盾だった。
基本的に防御しているところを見ないので盾は必要ないかと思ったが、この盾は一応魔法の補助をする役割もあるので盾として以外にも使うことができる。
そこには神話に出てきてもおかしくないような豪華な装飾が成された槍と剣が、翼を守る様に飾られていた。
「ありがとうエルピス!」
「気持ちは嬉しいけどもうちょっと声のボリューム下げようね、バレちゃうから」
「あら、私としたことが失敗失敗」
さてこれで終わりか。
冗談半分でそんな雰囲気をエルピスが出すと、セラの後ろでにっこにこしながら待っていたニルの顔が急激に歪む。
なんというか最近よく思う様になってきたが、狼というよりは犬に近い気がする。
「それでニルには何が届いたの?」
「僕にはこの杖が届いたんだよ! プレゼントなんて一体何千──何年ぶりかな?」
何千って所は聞かなかった事にしてやるから、泣くのはやめて欲しい。
そう思いながらニルが持っている杖を見ると、造形がかなりエルピスのものと酷似していた。
強いていうならニルの杖は握る所に少し丸い球体の様な物が付けられていて、更に色んな素材をごちゃ混ぜにしてあるのか、混ざった色が逆に神秘さを醸し出していた。
自分の上を参考にして作ったから似るのは当然だが、案外杖作りは難しかった、今度また綺麗に作り直してあげたほうがいいだろうか。
「まぁなんだ……良かったな」
「ええ、すっごく!すっごく嬉しい!!」
にっこりと笑みを浮かべるニルを見て、エルピスはやって良かったと笑みを浮かべる。
喜びかたひとつとっても普段ならばエルピスの望んだ通りの喜び方をするニルだが、今回はエルピスが想像していた以上だ。
それほど嬉しいと思ってくれたことが、エルピスにとっては何よりも嬉しい。
「よしっ、私達の部屋でファッションショーよ! この国で買った服も見せてあげる」
「分かったから引っ張るなって! 灰猫とフェルも行くだろ?」
「行きますけど僕のプレゼントはどこでしょうか!?」
引っ張られるエルピスに対してそんな事を口にするのはフェルである。
フェルのプレゼントも用意していた筈なのだが──
「枕元に置いといた、無いってことは吸収したんじゃ無いか? 魔力の塊置いといたから」
「んなばかな!?」
「ほらキャラ崩してないで行きますよ悪魔、あと魔力の塊はこれですね」
「うっわフェルよだれ垂れてるよ」
「灰猫ちょっとそれは傷つく。多分悪魔になったら分かるよこの感情」
悪魔であるフェルにとってみれば、邪神の魔力はこの世のどの食物よりも甘美で美味な食物であり、さらに一度摂取すれば数百年分は強くなる。
それが魔神と龍神の権能によってさらに強化されているのだ、この世のどんな薬物よりもフェルにとってみれば中毒性があるその至宝を、だがすぐに食べずにフェルは大事そうに自分のポケットに入れた。
今この場で食べれば進化は確実、だが急に進化すると自分がどうなるかは分かっているので、ちょっとずつ魔力にならしていこうという作戦だ。
「──お疲れ様でした。エルピス様」
アウローラに連れられて女子の部屋に行く最中、すれ違った森霊種の召使いがエルピスに対してそうポツリと呟く。
やはりではあったが、メイドにもどうやらバレていたらしい。
まぁとは言えアウローラと灰猫にはバレていない様だし、それで良しとしよう。
「ほら早く!」
「──はいはい今行きますよ」
まだ寒さの残る廊下を歩きながら、元気に外へ走っていくアウローラにエルピスはそう返事をした。
こうしていくつかの謎を残しながらも、一連の騒動は完全に終結したのだった。
あれからさっと着替えを終えたアウローラが、朝は外で食べると駄々をこね出した為まだ何も食べれていないが、それを抜きにしても美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきている。
出店だけで無く、温泉宿の中に設置されたお店からも多種多様な食べ物が目に入った。
「あ! あれって温泉饅頭じゃない!?」
「饅頭か…温泉卵置いてないのかな?」
饅頭のあのなんとも言えない食感と風味を思い出し、逃げ道に温泉卵でも置いてないかと辺りを見回すが、どうやら置いて居ないようだ。
まぁこの世界に鶏なんか居ないから、仕方ない気もするが。
「あんた饅頭食べれなかったの? …人生の半分は損してるわね」
「そう言うアウローラだって、魚食べられないのは人生の半分損してると思うよ?」
「いや、あんなの平気で食べてるあんたやニルが可笑しいのよ!?」
確かにこの世界の魚は種類によっては死んでからも動くし、人の言葉を喋るけれど、そんな言い方しなくても良いだろうに。
味自体は一緒なのだ、見た目はゲテモノでも美味しい。
「それでこれからどうすんだ?」
「お昼まで自由行動にしようと思ってるわ」
今日はアウローラのストレス発散も兼ねての外遊なので、アウローラに予定を聴くと意外な答えが帰ってきた。
アウローラの事なら一緒にあっちこっち行こうと誘ってくれると思ったのだが、そのアテが外れてエルピスはどこに行こうかと頭を動かす。
それにしても自由行動か……都合が良い。
「じゃあ俺は街の外でちょっと戦闘してくるね」
「あんた本当に暇な時はずっと戦ってるわね」
「人の事を戦闘狂見たいな言い方するの辞めてよ、ちょっと今回の一件でいろいろと足りなさを感じてるんだ」
金が稼げる上に戦闘経験を重ねられるからエルピスは暇さえあれば戦っているのであって、決して戦闘狂な訳では無いのだ。
それにアウローラに対して言った通り連合国での一件もある。
強くなれる時間があるのならば、少しでも強くなりたい。
「じゃあ私はアウローラについて行こうかしら」
「なら私はエルピスに付いて行こ──」
「貴方もこっちよ」
「なんでよセラ! 別に一緒に行っても良いじゃ無い!」
「貴方が一番疲れてるんだから当然でしょ」
そう言いながら暴れるエラの服を引って、セラはアウローラの所まで連れて行く。
なんだか最近セラがお姉さんっぽくなってきた事に少し笑みを浮かべながらも、エルピスは出立の準備をする。
とは言っても大体は収納庫に入っているので、特に何かするわけでは無いが。
「僕は姉さんに付いてくよ」
「人が多すぎてここはちょっと僕に合わないしエルピスについていくよ」
「良し! じゃあこれで決定だな。一時になったら中央広場で合流しようか」
「あ、私もエルピスさんの方ついてきますね、女性陣の方は怖いので」
「分かったわ、また後で」
男女で綺麗に別れ、エラ達女子組は街へと、エルピス達男組は近くの森へとその姿を消す。
どんな魔物がいるのか期待に胸を躍らせながら、エルピスは嬉々として街の外へと向かうのだった。
○
「あぁ…しんどかった~。一通りは倒せたんじゃ無いか?」
肩で息をしている灰猫を横目にエルピスも地面に倒れ込み、荒ぶる呼吸を抑える。
アウローラ達と別れて早二時間が経ち、灰猫とフェルも服は傷だらけで、身体こそ傷は無いものの戦闘回数の多さを物語っていた。
「あの妖狐のウザさと言ったら…本当に面倒ですね」
「まさかこっちの力量に合わせて変化するとはね、しかも隠蔽してようがおかまいなしで元の力で来るし」
「まぁそのおかげで僕以外に変化してくれた奴は、みんな消えてったから楽ではあったけどね」
そう言いながらエルピスは自分達の周りで転がっている魔物の中から、話題に上がっている妖狐を見つめる。
灰猫が言った通り、エルピスやフェルに変化しようとした妖狐はその悉くが力に耐え切れず爆散した。
意思も持たず、中堅程度の力しか無い魔物が神の称号や最上級悪魔の力に耐えられる訳も無かったのだ。
「そろそろ帰るか、結構戦ったし」
「それもそうですね。ではそろそろ行きましょうか」
「──悪いが先行っててもらえるか? 俺少し行く所があるから」
「まさか女の子?」
「ないない、信用しろよ」
「エラさん達には私の方から言わせてもらいます。それではまた後でエルピスさん」
なんとなく見透かしている様なフェルの目で見つめられ、少しエルピスはたじろぐが、すぐに返事をして転移魔法で飛んでいく一行を見送る。
それからすぐにエルピスも転移魔法を起動した、行き先は龍の森。
かつて自分が住んでいた場所だ。
/
良い子はお寝んねし、悪い子も殆どはお寝んねしてしまう今の時刻は夜中の3時。
森霊種の国の寒波が夜になって更にその力を強め、部屋の中でも少し寒いと思えるこの時刻に部屋にゆっくりと忍び寄る影が一つ。
その影はまるで事前に知っていたかの如く、いくつかある部屋の中からその部屋に入って行く。
部屋の中に居るのはニル達女子組だ。
普段なら侵入者に対して警戒し、眠りの甘いエラも今日限りは深く眠りにつき、セラも睡眠を不要とするはずなのにぐっすりと眠って居る。
まるで何者かに眠らされた様に──
そして返り血の様な真っ赤な服を着て、白い髭を生やしたその影は枕元に何かを置いて早々に部屋から退散して行った。
はっきり言ってあの二人がこの程度の魔法で眠るわけないので、この茶番に付き合ってくれているだけだろう。
勿論別の部屋で寝ている灰猫達の枕元にも贈り物を一つづつ。
「ちょっと時期は違うし季節遅れだけど、お疲れ様みんな」
暦上は今の季節は日本で言うところの一月相当であり、となるともうお年玉をあげる季節ではあるのだが、先にこちらから終わらせておきたかった。
それに今回の件ではみんなに頑張ってもらった、お礼も兼ねてこのタイミングが一番ちょうど良かったのだ。
「ついでに来たはいいけど……王族の寝床がこの警備のザルさはどうなんだ?」
グロリアスの枕元に立ちながら、呆れた様な顔をして赤い服の男はそう言う。
安らかな寝顔で眠る若王を見つめながら、再び森霊種の国へと帰るのだった。
/
「エルピス! エルピス!!」
「また朝っぱらからバタバタして…どうしたんだ?」
「これ見て!! 凄くない!?」
そう言われてアウローラに差し出されたのは、綺麗な真紅の赤と深い青色の宝石だ。
しかもそれらを嵌める事が出来るネックレスもアウローラの手にはかがげられている。
こちらは聖母の様な女性が何かを抱く様なデザインになっており、ここに宝石を嵌めるように作られたのだろう。
まるで王国を守ろうとするアウローラを表したかのように。
(まぁそれをイメージして作ったからそう見えてくれないと困るんだけど)
そう思いながらも、エルピスは我ながら良い出来だと改めて思う。
「確かに綺麗だね、昨日買ってきたの?」
「そんなわけ無いでしょ! 朝起きたら枕元に置いてあったのよ」
「何そのサンタさん的なノリ」
「──もしかしてだけどこの世界ってサンタが実在してるんじゃ……?」
「一部地方には居るけどこの辺りには居ないわね、サンタじゃないわよ」
──サンタ実在するんかい!
セラの言葉にそう言いたくなるのを堪えつつ、エルピスはこれを行なったのが自分だとバレない様に話を合わせる。
別に自分からのプレゼントだと言っても良かったが、これはこれでいつバレるかどうかのドキドキ感が楽しい。
「エルピス、枕元になんかあったんだけど」
「おはよう灰猫。何があったんだ?」
「これだよ」
そう言いながら灰猫がエルピスに差し出したのは、二振りの綺麗な彫刻が為された短剣。
片方は黒と青が混ざった綺麗な色をした刀身で、もう一つの刀身は朝日に照らされて薄くではあるが赤く輝いていた。
短剣にしては少し曲がって居るし、シミターにしては曲がりが少ない、まるで脇差の様な反りの珍しい短剣を嬉しそうに灰猫は振り回す。
室内で試し振りだとばかりに短刀を振り回す灰猫に向かって、エルピスは微笑みながら声をかける。
「落ち着け灰猫、さすがに室内は危ない」
「あ、ごめんエルピス。これ、ありがとね」
「俺にお礼言っても仕方ないだろ」
上手く隠したからセラとニル、あとフェル以外にはバレていないと思ったが、どうやら灰猫にもバレたらしい。
そういえば匂い対策をしていないので、あの短刀にはしっかりとエルピスの匂いがついていることだろう。
そりゃバレるわけである。
「エルピス! エルピス!」
「エラも貰ったのか? 何を貰ったんだ?」
「これ!」
エラがこちらに見せつけ──いや近いから、顔当たってるから。
エラがエルピスに見せつけて居るのは、オレンジ色の綺麗な水晶とそれを嵌め込めるネックレスだ。
ひし形に削られた水晶の中には綺麗な、それでいて研ぎ澄まされた剣がうっすらと写っていた。
それは反射によって剣から魔法、そして銃といろんな武器に色を変えていった。
実はこれは武器召喚術式が組み込んである結構すごい魔法道具で、ようは強化版十徳ナイフ的な便利アイテムだ。
彼女らしいと言えば彼女らしいネックレスの出来栄えに満足しつつ、似合ってる? と目で訴えかけてくるエラの頭を撫でる。
「似合ってるよ。すっごい可愛い」
「ありがとう! 大切にする!」
灰猫に引き続きエラもどうやら気づいたらしい。
こちらに関していえば匂いなのか魔力の残滓なのか気配なのか、どれで判断したのかは分からないがエルピスだと判断できるにたる何かがあったのだろう。
ネックレスをずっと眺めて居るエラの次は、予想していたがにっこりと笑みを浮かべたセラだった
「エルピ──」
「それで何を貰ったんだ?」
「最後まで言わせてくれてもいいと思うんだけど……」
なんだか少し残念な子になりつつあるセラが持ってきたのは、エルピスとセラが始めて有った時にセラが生やしていた翼があしらわれた盾だった。
基本的に防御しているところを見ないので盾は必要ないかと思ったが、この盾は一応魔法の補助をする役割もあるので盾として以外にも使うことができる。
そこには神話に出てきてもおかしくないような豪華な装飾が成された槍と剣が、翼を守る様に飾られていた。
「ありがとうエルピス!」
「気持ちは嬉しいけどもうちょっと声のボリューム下げようね、バレちゃうから」
「あら、私としたことが失敗失敗」
さてこれで終わりか。
冗談半分でそんな雰囲気をエルピスが出すと、セラの後ろでにっこにこしながら待っていたニルの顔が急激に歪む。
なんというか最近よく思う様になってきたが、狼というよりは犬に近い気がする。
「それでニルには何が届いたの?」
「僕にはこの杖が届いたんだよ! プレゼントなんて一体何千──何年ぶりかな?」
何千って所は聞かなかった事にしてやるから、泣くのはやめて欲しい。
そう思いながらニルが持っている杖を見ると、造形がかなりエルピスのものと酷似していた。
強いていうならニルの杖は握る所に少し丸い球体の様な物が付けられていて、更に色んな素材をごちゃ混ぜにしてあるのか、混ざった色が逆に神秘さを醸し出していた。
自分の上を参考にして作ったから似るのは当然だが、案外杖作りは難しかった、今度また綺麗に作り直してあげたほうがいいだろうか。
「まぁなんだ……良かったな」
「ええ、すっごく!すっごく嬉しい!!」
にっこりと笑みを浮かべるニルを見て、エルピスはやって良かったと笑みを浮かべる。
喜びかたひとつとっても普段ならばエルピスの望んだ通りの喜び方をするニルだが、今回はエルピスが想像していた以上だ。
それほど嬉しいと思ってくれたことが、エルピスにとっては何よりも嬉しい。
「よしっ、私達の部屋でファッションショーよ! この国で買った服も見せてあげる」
「分かったから引っ張るなって! 灰猫とフェルも行くだろ?」
「行きますけど僕のプレゼントはどこでしょうか!?」
引っ張られるエルピスに対してそんな事を口にするのはフェルである。
フェルのプレゼントも用意していた筈なのだが──
「枕元に置いといた、無いってことは吸収したんじゃ無いか? 魔力の塊置いといたから」
「んなばかな!?」
「ほらキャラ崩してないで行きますよ悪魔、あと魔力の塊はこれですね」
「うっわフェルよだれ垂れてるよ」
「灰猫ちょっとそれは傷つく。多分悪魔になったら分かるよこの感情」
悪魔であるフェルにとってみれば、邪神の魔力はこの世のどの食物よりも甘美で美味な食物であり、さらに一度摂取すれば数百年分は強くなる。
それが魔神と龍神の権能によってさらに強化されているのだ、この世のどんな薬物よりもフェルにとってみれば中毒性があるその至宝を、だがすぐに食べずにフェルは大事そうに自分のポケットに入れた。
今この場で食べれば進化は確実、だが急に進化すると自分がどうなるかは分かっているので、ちょっとずつ魔力にならしていこうという作戦だ。
「──お疲れ様でした。エルピス様」
アウローラに連れられて女子の部屋に行く最中、すれ違った森霊種の召使いがエルピスに対してそうポツリと呟く。
やはりではあったが、メイドにもどうやらバレていたらしい。
まぁとは言えアウローラと灰猫にはバレていない様だし、それで良しとしよう。
「ほら早く!」
「──はいはい今行きますよ」
まだ寒さの残る廊下を歩きながら、元気に外へ走っていくアウローラにエルピスはそう返事をした。
こうしていくつかの謎を残しながらも、一連の騒動は完全に終結したのだった。
20
あなたにおすすめの小説
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです
桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる