クラス転移で神様に?

空見 大

文字の大きさ
125 / 273
青年期:鍛治国家

到着

しおりを挟む
「ーーさぁ到着したぞ」

 数十分間ひたすら船の上で揺らされた事によって、地面の感触を忘れた足がふらつきそうになるのを抑えながら、エルピスは黙って海龍に対して会釈する。
 本来なら神人であるエルピスは船酔いになる事など無いはずなのだが、前世に船が苦手だった事もあり、前世で船に乗った時に酔った事を思い出して酔うという非常によく分からない方法で酔っていた。
 想定では後三週間ほどはかかる予定だったが、海龍がここまで引っ張って来てくれたおかげで早くついた。

「船の上で吐くんじゃ無いぞ? お前達が海に向かって吐くと生物がお前達の吐瀉物で進化して大変な事になるんだ」
「気おつけ…うぇっ……ますね」
「本当に気をつけてくれよ? じゃあ俺はもう此処から去るから本当に吐くなよ!」

 いっそ吐けと言われているのでは無いかと錯覚する程念を押され、エルピスは魔法で吐き気を抑えながら静かに頷く。
 そうは言っても動く船に合わせて少しだけ浮いていたセラとエラ、そしてニル以外は吐き気どころか意識すら何処かに行っているので、まだエルピスはましな方だろう。
 船の上で吐くと称号の効果で不味いことになるらしいので、代金だけ船の上に置いて全員を引き連れ船から去る。

「ここが土精霊ドワーフの街か……!」

 酔いが少しだけ収まり出し、顔を上げると眼前には土精霊ドワーフ達の国が広がっていた。
 ゴミが見当たらない大通りには等間隔で木や花々が育てられ、辺りには微かに花の匂いが充満している。
 白で統一された近代的な街並みは、機械臭いという土精霊ドワーフの印象を一変させるには充分過ぎるほどだった。
 土精霊ドワーフ用に作られたのか、かなり低い位置に扉はおかれ、遠方に見える王城らしき城には、盗神の能力によってかなりの量の罠が仕掛けられていることが分かる。
 恐らくあの城の建造には鍛治神が関わっているのだろうと考えながら足を踏み出すと、近くを巡回していた、全身を甲冑で覆った土精霊ドワーフがエルピス達に対して、笛の様なものを鳴らしながら近寄ってくる。

「そこの一行止まりなさぁい!!」
「止まりなさぁい!!」

 何処か幼さを感じる声音でそう言いながら、静止する様に手を向ける土精霊ドワーフ達に対して、エルピスは文句を言わずに指示に従うとそのまま相手の目線まで腰を下ろし、グロリアスに接する様にして声をかける。

「お勤めご苦労様です、街兵さん。僕達に何かご用ですか?」
「街兵さん…街兵さん…ふへへへ。初めて街兵さんと他の国の人に呼んでもらえたのです」
「こら、マーブル。見ず知らずの相手の前でにやにやしちゃダメでしょ!」
「あ、ごめんドリン。ついつい」

 甲冑越しでも分かる程の感情の起伏に、いよいよエルピスの中にある土精霊ドワーフのイメージ像が完全に崩れていくが、それは気にせずに二人に話を進めるように目で促すと、それに反応するようにしてドリンと呼ばれた方の土精霊ドワーフが声をあげた。

「そこに居る女の人は森霊種エルフですよね? この国では森霊種エルフの入国は管理局を通ってからで無いとダメなのです!」
「なのです!」
「ーー私は森霊種エルフでは有りませんよ? 窟暗種ダークエルフと言うわけでも有りませんし……通していただけますか?」
「嘘つくのはダメですよ! その耳は貴方が森霊種エルフである事の証拠。それに周囲の精霊達が貴方に寄りかかって居るのが、僕には見えるんです!」

 レンズの様なものをポケットから出し、エラの事を見つめるマーブルと呼ばれていた土精霊ドワーフの視線につられる様にしてエルピスはエラを見つめるが、特にこれといって妖精がいるとかそう言ったのは見受けられない。
 最近意識すれば自分の周りにいる精霊や妖精は見れるようになって来たはずなのだが、どれだけ頑張ってみても見えてくるような感じはしない。
 自分の目がおかしくなったのかと何度か確認するようにして瞬きするエルピスを置き去りにして、土精霊ドワーフとエラは話を進める。

「精霊に多少好かれているだけで森霊種エルフ扱いなら、この人だって森霊種エルフになるわよ?」
「ちょ、アウローラ押すなって」
「この男の人が? あんまり精霊に好かれそうには見えないんですがーーって目が!目がぁぁぁ!!!」

 怪訝そうな顔をしながらレンズ越しでエルピスを直視したマーブルは、何処かで聞いた事があるような事を言った後に自身の手で目を覆い隠すと、よほど痛いのか涙を流しながらそこら中を駆け巡る。
 周辺の家から顔を出して不安そうにこちらを見つめる土精霊ドワーフ達に顔を覚えられたら面倒だと思い、魔法を使って認識阻害をかけながら回復魔法をかけ、エルピスはマーブルに対して申し訳なさそうに声をかけた。

「彼女は森霊種エルフ窟暗種ダークエルフのハーフなんだ。あんまり知られたく無いから黙って置いてね」
「なるほどそう言った事情でしたか、なら後で王城の方までお越しください。混霊種メディオの方々は丁重に扱うようにと様からの御通達ですので」」

 意外な所で出た鍛治神の名に眉をひそめそうになるが、〈詐称〉を使って適当にごまかしながら頷いておく。
 鍛治神はエルピスがこの国に来たことを既に察知しているだろうが、兵士達にまでわざわざエルピスが神である事を言う必要はない。

「では私達の名を門の所にいる兵士に出してくれれば、それで通れる様にしておきます」
「じゃあまたね~お兄さん」

 そう言いながらガシャガシャと音を立てながら去っていく土精霊ドワーフ二人の背中を眺めながら、エルピス達一行は何事も無かったかの様に足を進める。

「じゃあ僕達これからは自由行動って事で良いのかな? エルピス」
「そうだな。俺はこの国で一番の鍛冶師ーー鍛治神を除いてだがーーを探しに行ってくる。灰猫達も適当に観光してきてくれ」
「私達はどうすれば良い?」
「アウローラと灰猫も自由行動で良いぞ。ただ海の近くに行く時は気を付けろよ? 子供みたいな姿をした、笑顔が邪悪な凄い怖い人型の何かに引きずり込まれるぞ?」
「なにそれ!? 海麗種マーメイドだってもう少しは怖くないと思うんだけど?!」

 いっそ大袈裟にすら見える動作で、そう言いながら騒ぐアウローラに微笑ましいものを感じるが、ここでその怖い生物が海神だと告げる事はアウローラの不安感を増させるだけだろうと判断し、愛想笑いだけ浮かべて答えを言わずにエルピスはその場から離れるのだった。

 /

 それから数分して、周りの建物とは完全に別物のーー他の国の文化を無理やりに織り交ぜたような木製の建物から漂う酒の匂いに気づき、エルピスはその中へと足を運ぶ。

「ようこそアル=サージャの酒場へ! お兄さん他所の人かい? 好きなだけ飲んで行ってくれよ!!」

 店に入ってきたエルピスを迎え入れる様にして、大きな声を上げながら接客する土精霊ドワーフを見た瞬間に、エルピスは思考を放棄しかける。
 もしかしたらーーもしかしたら先程の街兵は特別で、他の土精霊ドワーフはもう少し大きいのが居てもおかしくないのではないか……そう考えていたエルピスの思考など無意味な物だと嘲笑うかの様に、目の前の土精霊ドワーフは鼻歌を歌いながら透明なグラスを拭く。
 王国含めてエルピスが出会った土精霊はこれで五人目、親方は自分で身長が低い方だと言っていたし、親方のところにいた土精霊はまだ成長期ではないといっていた。
 ならばもう少し大きいのが出て来てもおかしくはないと思ったのだが。

「なぁマスター。ここのーーというか土精霊ドワーフは皆こんな感じなのか?」
「こんな感じーーとは? はて、どう言った事でしょう?」
「その…なんだ……こう言うことを言うのは失礼かもしれないが、全員小さ過ぎないか?」

 何処からどう見ても子供にしか見えない土精霊ドワーフに向かってそう言いながら、エルピスは渡された酒を呷る。
 エルピスの隣で『いい飲みっぷりだねぇ』とかなんとか言っている土精霊ドワーフもまた例に漏れず小さく、見た目だけ見るのならば小学生というのが相応しく思えるのだから、土精霊ドワーフという種族が人間的観点から見れば、かなり幼く法律的に危なく見える種族だと思ってしまうのは仕方ないだろう。
 そんなエルピスの疑問を察したのか、グラスを拭く手を止め店主はエルピスに向き直ると疑問に対して答える。

「昔はヒゲもじゃのずんぐりムックリな土精霊ドワーフや大きな土精霊ドワーフも居たらしいですが、今は殆ど僕と同じように子供のような感じですよ」
「と言うと何か理由があったりするのか?」
「話すと長くなりますし、有名な話ではありますが鍛治神に関係する情報です。その酒一杯程度では話せませんよ?」
「分かったよ、一番高いのを出してくれ」

 酒の味は毒と判断され水と同じになるし、酔いもしないのでエルピスからすればただ高いだけの水でしかない酒は、だが交渉材料になると言うのならばいくらでも飲もう。
 子供の容姿からは想像出来ない程の真剣な表情に意識を切り替え向き直ると、硬貨をチラつかせながら〈交渉〉を使い話を始める。
 剣撃によっての戦いでは無く口による舌戦。
 それは静かに土精霊ドワーフの国でのエルピスの始めての戦闘開始を予告していた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに

試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。 そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。 両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。 気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが…… 主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...