クラス転移で神様に?

空見 大

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幼少期:共和国編

大人達

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 王城の最上層。
 そこには国王ムスクロルの自室が存在し、メイドや執事さえ不用意に立ち入ることが許されて居ない完全なるプライベート空間であった。
 設置されている家具や調度品は王が使うに相応しいものが用意されており、外部の手が入ることを嫌ってか、やたらと骨董品が多い。
 国王という立場にありながら、唯一彼が国王という立場を忘れられるそんな秘密の部屋に今日は人影が二つ。
王国内でも知らない人物を探すのが難しいほどの有名人であるその二人は、ムスクロルの対面に座りゆったりとくつろいでいた。

「アウローラがエルピス君に着いていって王国から出るって聞いてから、主人がずっとこんな感じなんですよ。どうにかしてくださいませんか?」

 そう口にしたのはアウローラの母親であるネロン・ヴァスィリオである。
 青を基調としたドレスに身を包み綺麗な金髪と釣り上がった蒼目が特徴的なネロン、彼女のどうにかしろというのは要請ではなく矯正であることをムスクロルは知っている。
 一人娘であるエリーゼがついていこうかどうか本気で悩んでいるのをなんとか阻止できたらしいという報告を受けたばかりなのに、他所の家の事情まで持ち出されてしまったらムスクロルにも手に負えない。
自分の家の事は自分でなんとかしてくれと今回ばかりは言いたくもなるが、実際王国内で国王の次に力を持つビルムが仕事もまともにできない状況になっているのはかなり不味い。
どうにか対策を練らなければいけないのは頭で理解しているムスクロルは、本来ならもう一人この場所にいるべき人間に恨み事をつぶやく。

「俺にはなんとも……イロアスがいればなんとでもなったんだが」

「なぁ、ムスクロル。うちの娘はまだ14なんだぞ? 分かっているのかムスクロル! うちの! 娘が!! 旅に出るんだぞ!!!」

「あー分かった分かった、うるさいから静かにしてくれ。14なら旅にも出るだろ、俺達だってそんなもんだったし」

「お前と一緒にするな筋肉ダルマ」

 普段の冷静で温厚な姿はどこにいったのやら、ムスクロルを怒鳴りつけたビルムは怒り慣れていないからか急激に上がった血圧に体が耐えられず口から魂が漏れ出てしまうのではないかと言うほどに溶けきってしまう。
 大貴族であり王国を支える柱でもある彼のこんな姿を観れるのはある意味幸運か、そこまで考えてそんな事はないなとムスクロルは軽く頭を抑える。
 どうやら自分も多少動揺しているらしく、このままでは建設的な話し合いなど永久にできそうにもない。

「まぁなんでも良いが、聞けばいま部屋に泊まってるそうじゃないか。もう俺達が口をはさむような関係じゃないってことだろ」

「ーーは? 俺聞いてないよそれ?」

「私のところで止めて居ましたから。だって貴方、そんなこと聞いたらエルピス君に殴りかかるでしょう?」

「そんな事をするわけがないだろう、私は大人だ。冷静に話をつけなければならないこともある」

「ならその握り拳を解け。あと向こうがいくら手加減してもお前が殴ったらお前の骨が折れるぞ」

 14.15といえばムスクロルだって遊んだ年だ。
度が過ぎた女遊びは確かに誉められた行為ではないが、好意を抱いてきた女性に対して男側が一夜を共にすることも若さゆえの過ちとして許容するのは、それほど悪いことではないように思える。
 ムスクロルだってもしエリーゼがエルピスの部屋に行き、朝帰ってきたのだとすればそれを責める事はしないし、むしろそうなっていないことに疑問すら感じて居た。
 個々人が持つ価値観の違いなのでこれに関してはとやかく口を挟む事はできないが、エルピスに向かっている怒りの矛先を変えてやるくらいはムスクロルとしてもやぶさかではない。

「雑談はこの辺にしてーー今日来てもらった理由を話すぞ?」

「ああ。イロアスから報告書が上がったか?」

 数秒前までは友として語り合って居た二人だが、いまは国王と大貴族の当主として言葉を交わす。
 そこに感情が入り込む余地などなく、ただひたすらに効率と利益のみを優先する。
 どれだけ落ち込んでいようとも仕事は仕事、割り切れるのがこのビルムという男の素晴らしいところだ。
 目元に涙を浮かべてすらいなければ完璧なのだが……。

「今のところは大丈夫そうだって話だ。俺もそのうち向こうに行かないと行けないだろうが」

「将来的にはエルピス君も向こうに?」

「それは無いんじゃないか? 力だけで言えば俺以上、才能で言えば世界中の誰よりあってもおかしくない。イロアスがそうしたいのならもう今ごろ連れていっているはずだ」

 ムスクロルが国王として王国を導けたのは、武力もあるがそれよりさらに大きな要因としてことが挙げられる。
 他者が何に対してどの程度才能を持っているかを見極める能力に優れたムスクロルは、その目を持って地方から優秀な物を抜擢している。
 初対面でエルピスの隠した力を見抜くことが出来たのも直感に近いその感覚があるからだ。
 エルピスを連れて行かない理由は親が子を心配することを含めてもなく、仕事の完遂を考えるのであれば連れて行った方がいいのは明白である。
それでも連れて行かなかったのは、ただ単純にイロアスがエルピスに英雄の業を背負わせることを嫌がっているからだとムスクロルは分析している。

「ならイロアスの目的は別にあるのか?」

「目的が別にある…と言うよりは解決し損なった問題を解決しに行ったという方が正しいだろう」

「そうか。エルピス君にはなんで説明してあるんだ?」

「魔界の治安調査をお願いしたことにしてある。偽造書類も山のように作ってあるからな、今ごろ騙されてくれているはずだが」

 ムスクロルがイロアスに頼まれた内容は、魔界出立に際して会えなくなるエルピスの保護と教育を行う事である。
 彼が自らの最も信頼する執事やメイド達を王国に置いていったのは、エルピスが安全に成長できる為でもあった。
 その点で言えば家庭教師という役職は、ムスクロルがこの依頼をこなす上で非常に有利に働いてくれていたのだ。
 基本的にエルピスら王城から出ないし、出ても常にそばに誰かがいるのでムスクロルが気をつける必要もない。
 王国を彼が成長していく場所として運用するのにはさすがにイロアスの頼みとは言えはじめは抵抗を感じていたムスクロルだったが、昨今の王国魔法研究所の発展具合は間違いなくエルピスに好き勝手やらせたことによるものである。

「気付いてないのか気付かないふりをしてるのか、どっちでも良いがうちの子を連れてくんだから危険なところには行ってほしくないところだな」

「目下の目的地は共和国だったか。あそこだったら…まぁ問題はないだろう」

「そうだと良いがイロアスもよく問題ごとを引き寄せる体質だったからな」

「絶対に面倒ごとに巻き込まれるんだろうなぁ」

 とりあえずはこれから先監視の目をつけるつもりではいるが、それでもエルピス達の旅がこれから近隣諸国にどういった影響を与えるかはムスクロルにも予想はつかない。
 ただ一つ言えることがあるとするならば、きっとこの世界を大きく変えてしまうような変化をもたらす事だろう。
 かつての自分達の旅を思い出して少し懐かしさを感じたムスクロルは軽く笑みを浮かべるのだった。
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