クラス転移で神様に?

空見 大

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幼少期:共和国編

深夜の相談

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 夜。静けさが辺りを包み込み、どこからか聞こえてくる鳥の声が少しうるさく感じられるような時間帯。
 時刻にすれば12時くらいだろうか。
 微かな物音しか聞こえないこんな時間では城内でも活動しているのは一部の人間だけ。
 いくら国家の中枢とは言え緊急時でもなければ、光のついた部屋はもうほとんどない。

 そんな中、不意の来客にエルピスはパッと目を覚ます。
 来客者は自分が起きていると思ってきたのだろうか?
 普段こんな時間に会うことがない相手が来ているのを察したエルピスは、突然の来訪に首を傾げるほかない。
 珍しい来客もあったものだと思いつつ来客者のために着替えて椅子に座ると、それと同時に来客者達のヒソヒソとした声が廊下の向こうから聞こえて来る。

「やめたほうがいいと思うな、ほんと。うん。エリーゼも付いていくわけじゃないんだし、こんな時間に行ったら迷惑だよ」

「あいつの事だから私達が此処に来ようとした時点で気づいてるわ」

「だとしてもね? ほら、女の子がこんな時間に成人した男の部屋に行くって言うのは問題もね?」

「グロリアスいるし、別にいいでしょ」

 どこか怒気を含んだような声音でグロリアスに語りかけるアウローラ。
 なんとか止めようとグロリアスは必死になっているようだが、一度こうだと決めた彼女がどれくらい頑固なのかはエルピスも理解している。
 他者が入ってきづらい場所なので下手に噂が広まる可能性は考慮に入れなくてもいいだろうが、それでもいつまでも廊下で喋らせていい二人ではない。
 椅子から立ち上がりエルピスは二人を迎え入れる。

「──いつまで扉の前でうろちょろしてるんですか」

 扉の向こうにいたのは貴族として恥ずかしくない装飾に身を包みつつも、どこかに行ってから来たのか少し着崩れてしまっているアウローラ。
 その横には執務用の少しゆったりとした衣服に身を包んだグロリアスがいた。

「……夜分遅くに申し訳ありませんエルピスさん。アウローラがどうしてもって言うんです」

「ちょっとグロリアス入れなさいよ!」

 グロリアスはアウローラがこちらに来れない様に抑えつつ、申し訳なさそうに謝罪してくる。
 国王に即位してまだ数日しかたっていないのに、アウローラに巻き込まれている姿には国王としての面影がなく、どうやら一人の友人としてきたらしい。
 苦労性なのはどうやら生まれつきなようだ。

「……とりあえず二人とも中に入りなよ。いま飲み物淹れるからさ」

 二人を部屋の中に招き入れ、エルピスは慣れた手つきで収納庫ストレージから豆を取り出す。
 王国国民はやたらとカフェインが入った飲料を好む癖があり、例に漏れずグロリアスもコーヒーを好みにしている。
 アウローラに関してはどちらかといえばコーヒーが好きと言うより、惰性で飲んでいるような雰囲気も感じられるのだが、少なくとも二人を迎え入れるのにあたり用意しておいて損するものではない。

「今日はどうする? ホットなりアイスなり色々つくれるけど」

 公衆の面前でもなければ友人としてこの場にグロリアスはやってきたのだ。
 先日の彼からの言葉もあってエルピスは自然にタメ口を使うと、グロリアスは嬉しそうに返事する。

「じゃあお言葉に甘えて、僕はカフェオレでお願いします!」

「私はブラックに角砂糖二つで」

「りょーかい」

 二人に言われた通りの物を用意しつつ、エルピスはなぜアウローラがここに来たのかを考える。
 入って来る前にしていた会話を汲み取るのであれば、エルピスの同郷探しの旅について来るつもりだとは想定できる。
 だがなぜ彼女が自分の旅について来るのだろうかという疑問に答えを出すことはできず、エルピスは悩んでいても無駄だと判断して素直に聞くことにした。

「それで二人は──というよりアウローラはどう言った御用件でこんな夜遅くに?」

「回りくどい話は抜きにするわ。ーーねぇエルピス。私を冒険に連れて行ってくれない?」

 エルピスの目を見つめ、覚悟はあるとばかりに彼女は意を決した様にそう言った。
 アウローラは才女である。
 エルピスはその認識に一切の間違いが無いと思っているし、リスク管理はエルピスなどより余程得意な筈だ。
 今回の旅のリスク、そして得られるメリットの少なさには気付いて居るだろう。
 それを分かっていて、自分の身が危険に晒される可能性を踏まえても旅に同行したいと言うアウローラの願いにエルピスは素直に答える。

「理由を聞いておきたいな。目標が異世界人の確保なだけに、ついてくること自体にもリスクが付く。アウローラは何がしたいの?」

「それは……その……」

「他の国を見て回るだけなら、アルさんと二人で行った方が安全だと思うよ」

 アウローラとて危険であることを認識していない訳ではない。
 王国という勝手知ったる場所で厳重な警備をしていたにも関わらず事件は起きた。
 旅の道中では何が起きるかも分からず、ましてやトラブルに巻き込まれがちなエルピスと共に行動すれば間違いなく大変な目に遭うだろう。
 彼が口にした通り騎士団長の座を後任に移し、自由な時間が増えたアルキゴスに護衛をしてもらいながら回った方が安全なのは事実。
 いつもは思いつきですぐに行動するクセに、大事なことに関してだけは論理的になるエルピスに対して行き場のない感情をぶつけるようにアウローラは睨みつける。
 睨みつけられた側のエルピスとしてはなぜ睨まれたのか理解できず、睨んでいる当人もなぜ自分がそんな事をしているのかよく分かっていない様子。
 二人のことを傍目から見ていたグロリアスは口を挟むべきかどうか逡巡し、面白そうだからという理由に押し負けそうになる心を押さえつけ友達として口を挟む。

「エルピスさん、アウローラの気持ちも汲んでやってください」

「──ちょ! グロリアス!?」

 突然のキラーパスにギョッとするアウローラだが、グロリアスからすれば知った事ではない。
 その為に自分は呼ばれたのだろうと胸を張ってグロリアスは一切の躊躇なく言葉を並べ立てる。

「エルピスさん、アウローラがこの三年間お礼するって息巻いてたのに上手く躱してたでしょ? 少しでも恩返しがしたいんだと思いますよ」

 一体何を言われるのかと身構えていたアウローラに対し、グロリアスはエルピスに見えないようにウィンクして後は頑張れと背中を押す。
『アウローラがどうやらエルピスさんの事を気にしているらしくて、15歳で未だフリーなエルピスを射止めるために何としてでも付いていく必要がある』と説明してしまえばすぐに終わることではあるのだがグロリアスは空気の読める男なのだ。
 そしてエルピスは恩返しという言葉に対して軽く扱うような性格でもなく、そういう事なら話が変わって来たかと頭をひねる。

「そう思ってくれるのは嬉しいよ。でも俺のたびに付いてくるってことはまたあんな目に合うかもしれないんだよ?」

「……私は大丈夫よ。覚悟はしてる」

 身体は震えているが、目に込められた決意は確かなものだ。
 実際問題彼女は確かに覚悟ができているのだろう。
 あの時は未然に防げた最悪の結末。日本であれば一生に一度起きるかどうかといったような出来事は、この世界では立場や環境によってはそれなりの確率で発生する。

「貴方の為に力になりたい。それじゃダメ?」

「友人として心配してるんだよ。俺が逆の立場ならまたあんなことになるなんて考えるだけ嫌だ」

 実際アウローラだって嫌だ、あんな状況に誰が好き好んでなるというのか。
 だがエルピスの指摘はアウローラにとって反撃の好機でもあった。

「エルピスがそうならない保証はあるの? 貴方が危ないところに行くのに、私は王国で待っていることしかできないの?」

 エルピスは常に自分が助ける側に回る前提で話を組んでいる。
 幼少期から鍛え上げられ、最高の環境に身を置き生まれつき多数の能力に身を包んでいるのだ、慢心してしまうのも仕方のないことだろう。
 だが実際問題としてこの世界にはエルピスでも勝てない相手というのがそれなりに存在して、そんな相手に捕まってしまったら酷い目に合わないとは限らない。
 それでなくとも慢心してしまう環境に身を置いているのだから、アウローラの言葉を否定することはエルピスにはできない。

「なおさらアウローラを連れていけないよ。俺が捕まったとき、アウローラの身にも危険が及ぶでしょ」

「エラちゃんは? セラは? あの二人だって危険なはずよ」

「あの二人は放っておいても付いてくるし……」

 言いながらこの論調はまずかったかと顔をしかめるエルピス。
 勝手についてくるだけで付いて行っていいなら、アウローラだって勝手についていけばいいだけの事だ。
 さすがに無理やり付いていって禍根を残したくないアウローラはそんなエルピスのミスをせっつくような事はしないが、最終的に手段が無くなればその方法もある。
 状況が硬直し始めたころ、再び両者の間にメスを入れたのは静観していたグロリアスだ。

「状況を整理しましょう。アウローラは恩返しも含めて付いていきたい、エルピスさんは異世界人が絡む旅なので危険性が高く連れて行きたくない。そうですね?」

 両者ともグロリアスの言葉に対して首を縦に振る。
 話をまとめているだけなのにグロリアスの言葉や身振りはとりあえず話を聞こうと思わせる雰囲気があった。
 だからこそ両者とも何も口を挟まずグロリアスの言葉をただ黙って聞く。

「危険性についてですが、それを補って有り余るほどにアウローラを連れていくことにはメリットがあると僕は思います。アウローラは交渉事も得意ですし、各国の情勢などについてよく理解してくれていますから」

「アウローラの能力については信頼してる。だけどそれは相手が話を聞いてくれる存在であるとき限定の話で――」

「――エルピスさんが一番危惧しているのはアウローラが人を殺せるか、ではないですか?」

「痛い所突いてくるね」

 今回の異世界人探し、一番の問題になってくるのは戦う相手が人になる可能性が非常に高いところだ。
 アウローラが人を殺すことに躊躇いを覚えている事を理解しているエルピスとしては、少しでも彼女に人を殺すような選択肢を取らせて上げたくない。
 加えて言えば例えば貴族に不当に同級生たちが扱われていた場合も奪還する必要性があるのだが、国によっては奴隷制度が認められている場所もあり他人の奴隷を奪い取ることを物品の強盗と同じように扱う事もある。
 リスクが常について回る以上下手にアウローラを連れて行くことができないと口にしたリスクの中には、そういった物も隠されていたのだ。

「俺の個人的な物に巻き込まれて、アウローラは他人を殺せる? 殺せるとして、後から後悔しないと言い切れる?」

 躊躇いなく敵を殺め、それを後から気にしないというところに関してアウローラから見てもセラやエラは問題ないだろうと確信が持てた。
 両者ともこの世界で生きる者として持つべき大切なものを守るための覚悟を携えており、何かあった時は一切のためらいをしないという心の用意もある。

「きっと後悔する。私は人を殺したら」

「なら――」

「――でも、それでも私は貴方に付いていきたい。エルピスが嫌だって、そう思わないなら。私が付いていけない理由がそれだけなら、私は貴方に付いていきたい」

 身勝手なことを口にしている自覚はアウローラにもある。
 自分が相手に置いて行かれたくないから。
 いいなと思って居る相手を逃したくないから。
 受けた恩を返したい、この人のために何かをしてあげたい。
 彼女を突き動かしているのはそんな感情であり、さすがにこれだけ粘られればエルピスとて多少そういった感情に疎くとも気が付く。
 その思いの丈がどれほどかは測れずとも、少なくとも彼女が心の底から付いてきたいとそう思って居る事だけは確信できた。

「分かった。分かったよ、負けた。出発は明日の昼だよ? 何とかなりそう?」

「――ヨシッ! その点に関しては大丈夫よ。いまからだって行けるように用意してきたから!」

「アウローラらしいというかなんというか……」

 成功することを想定していたというより、成功するまでこの場に居座るつもりだったのだろう。
 一体どこから取り出しているのか彼女がやたらめったら出した荷物を見てみれば、寝袋やらパジャマやらお泊り会でも開くのかと言いたくなるほどのセットである。
 早々に認めておいてよかったと思う気持ちに加え、これだけ行動力があれば最悪何かあっても大丈夫なのではないだろうかという感情も少しだけエルピスの胸中に浮かび上がる。
 まぁそんな事を気にしていても仕方がないか、そんな風にエルピスが思考の海に落ちている間に二人はこそこそと小さな声でやり取りを交わす。

「じゃあ僕はここまでだね。お疲れさま」

「ありがとうねグロリアス、こんな夜遅くに付き合ってくれて」

「ウチの妹の悪戯に突き合わされたお詫びだよ。まぁちょっと妹のライバルに塩を送りすぎた気はするけどね」

「エリーゼなら自分でまた何かするでしょう。まぁそれまでに隣は埋めちゃうけどね」

「気を付けるように言っておくよ」

 それだけ言うとグロリアスは部屋から去っていく。
 去り際にカチャリと扉の鍵が閉まる様な音が聞こえた気がして意識が戻ってきたエルピスは、気が付けば部屋の中にアウローラと二人きりの状況になっていることに気が付く。
 一体グロリアスはいつの間にいなくなったのかと首を左右に振ってその姿を探すが、もうすでに彼の影はこの部屋の中にはない。
 自然な形でベットに倒れ伏したアウローラと距離を取りつつ、エルピスは窓際に移動して外の景色を眺めることに注視することにした。

「……帰らないの? 明日早いよ」

「こんな時間に抜け出してきたから、いまから返ったらアルに怒られるのよ。エルピスも一緒に怒られてくれる?」

「ちょっとそれはヤダ」

 自分が悪いことをして怒られるのであれば甘んじて受け入れるが、よりにもよってあなたの姪っ子をこんな時間に部屋に連れ込んでいましたなどとはエルピスは口が裂けてもアルキゴスに伝えることは出来ない。
 遅かれ早かれバレる話だとしても、明日の昼にはこの街に居ないので、それまでにバレなければ問題はないのである。

「相変わらず、アルに随分懐いてるわね。やっぱり強いから?」

「剣の師匠だっていうのは大きいけど、アルさんは俺の事もしっかり見てるし、父さん達の子供だってこともちゃんと見てくれてる。両方ちゃんと見てくれてるのが大きいのかな俺にとって」

「あの洞窟の時のエルピスみたいな?」

「恥ずかしいからやめてよ。あの時はちょっと酔ってたんだから」

 神の称号を開放したことによって全身を駆け巡っていた全能感。
 いまとなってはそれに慣れてしまっているので感じなくなったが、当時はその全能感に酔いしれてしまい口からぽろぽろと言葉が漏れ出てしまったのだ。
 恥ずかしさから耳まで赤くするエルピスだが、アウローラはそんなエルピスの姿を見て嬉しそうにしている。

「嬉しかったわよ……また攫われても助けに行くって約束してくれて」

「当り前だろ。今回の旅でも、もし何かあったら絶対に助けに行く。セラに襲われるまでの時間稼ぎする方法は聞いとかないとね」

「そうね……用意しておくことは……大事……だも……」

「アウローラ? もしかして……寝てるし」

 よほど気を張り詰めていたのだろう。
 気が付けばアウローラは規則的な寝息を立て始め、足だけベッドの外に放り出した状態で寝てしまっていた。
 仮にも嫁入り前の淑女がこの調子では先行きが思いやられるが、正式にパーティーメンバーになった以上これから屋外でこうして近くで寝る事だってあるだろう。
 だからこの状況は仕方がないのだと言い訳しつつ、何かあった時のために廊下に続く出入り口と窓を全開にし、やましいことはないのだと全力でアピールするエルピス。
 そのまま部屋の片隅に移動し魔法で空中に浮かび上がったエルピスは、そのまま器用にそこで睡眠をとり始めるのであった。
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