千年勇者の冒険記

空見 大

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序章

森霊種の村

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森霊種エルフの村についてみてまず暁月を驚かせたのは、その建築技術の高さだ。
あの大戦から何年経っているか知らないが、平家が当たり前であったあの時代からすれば、こんな辺境の村ですら二階建ての建物が存在するというのは驚きだ。これが単に森霊種エルフの建築技術の向上によるものなのか、それとも世界的に見て建築のレベルが上がったのかはさておき、それにしても時代の流れの凄さというものには驚嘆せざるおえない。

「わー! 商人のおじちゃんだ!」
「よく来たなぁ商人さんや、今日もいろいろと仕入れてきてくれたのかの?」
「もちろんですとも。人間の国の品だけでなく土精霊ドワーフの物もいくつかありますよ」
「農具はあるか? 最近壊れちまってよ」
「もちろんですとも。安くしますよ?」

どうやらこの時代においても物々交換と言うのはまだ機能しているらしく、この村で育てられたであろう農作物や、近くで取れたらしい鹿や鳥などの動物の肉も見て取れる。
だが中にはもちろん硬貨を使用している者達もおり、知識としてはあったものの大戦時代一度も目にしなかった硬貨に久々に知的好奇心が沸々と湧いてくるが、それを抑えてぼんやりと空を眺める。
する事といえば頭の中で新しい魔法術式の組み立てなどで、魔法陣の中にいた時に気の狂いそうになる時間をこれで紛らわせてきた。
手のひらに魔力で作り出した小さな鳥を飛ばせていると、いつの間にか隣に座っていた森霊種エルフに声をかけられる。

「改めてだが、さっきは武器をむけて悪かったな」
「いやいや、いきなり現れたこっちが悪い。こちらこそすまなかった」
「ならお互い悪いという事で。それにしてもいきなり土の中から現れたから焦ったよ、ゾンビか何かとでもあったのかと思った」
「土の中…?」
「ああ、さっき土の中から出てきてたじゃないか?」

魔法で体を強化して全力で走りはしたものの、地面の中に潜る様な事はしていない。
そんな魔法は存在しないし、人間である暁月がわざわざ地中に入る理由もない。
そこまで考えてようやくどうやらそもそも走る暁月自身の姿が目で捉えきれず、止まった時の衝撃で舞い上がった土埃で地面から出てきたと勘違いしたのだと分かった。
確かに大戦時代ならまだしも平和そうなこの時代において、先程の魔法は少々どころかなりオーバーな魔法だったと暁月も反省する。
あの強化魔法は大戦時代に英雄と呼ばれていた男が好んで使用していた魔法なのだが、そんな魔法を普段使いするべきではないのは考えるまでもない。

「そうそう。土の中って意外と適温だから人来るまであそこで待ってたんだよ」
「へぇ、そうなんだ」

ならばするべき事は先程のことを誤魔化すことだけだ。
別に目立ちたくないわけでもないし、戦士として名誉は掴みたいので大々的に自慢しても良いが世の中のことを何も知らない今それは良い手ではない。
ならばいま目の前の森霊種エルフから土の中で居ることが喜びである変態な人類種であると思われていることも涙を飲んで耐えようではないか。

「それにしても魔素の扱いが上手いな。そこまで上手く魔素を扱っている奴を見た事は無いよ」
「…魔素? 魔素ってなんだ?」
「……そういえばお前記憶喪失だったな、という事は身体が覚えてるのか。いまお前が扱っているのは魔素を固めて動かす魔法の初歩中の初歩の技だ。だがそれの熟練度である程度魔法の実力がわかるからかなり重要な魔法でもあるのだがな」

そう言いながら目の前で森霊種エルフも暁月と同じように動物を形作り自身の体の上を移動させていく。
見てみれば魔法の発動段階以前のを固めて操作しているらしく、なるほどそれならばかなり簡単にこれをする事も出来るだろうと暁月は納得する。
暁月が今行っていたのは、魔法を一秒間に何度も何度も発動する事でさも動いているかのように見せる技。
目の前で行われているのが動画を再生するだけの行為だとしたら、暁月が行っていたのはアニメを作っているような物だ。

(こんな効率的な方法があったとは)

自分の方が難しいことを行っていたからとは言って暁月は傲るわけでもなく、むしろ自分の行いに恥ずかしさすら覚えていた。
戦士として効率的な戦闘方法を考える事は得意だったが、根本的な部分から変化するとなればいままで考えてきた事もかなり無駄が多いものになるだろう。
現にこうして魔素というものを固めて使うだけで、今の暁月の行動と同じことができるのだ、いかに無駄が多いか言うまでもない。
結局のところ魔法だろうとなんだろうと大事なのは結果であり、その過程における練習量や努力量など実践においてはなんの意味もない。
そう言った観点から暁月にとって魔素というのは、非常に興味深いものだった。

「紹介状を書いてやるから一度病院に行ってみたらどうだ? 王都にいい病院がある」
「それは嬉しいけど金がないからな。あるのはこの皮袋と剣だけ、それ以外はスカンピンだよ」

厳密にいえば食料なり魔法道具なりいろいろ暁月の私物は入っているのだが、これはおそらくこの世界において失われた技術、ないしはとうの昔の産物であり必要性のなくなったガラクタのどちらかだ。
ガラクタならまだ良いが、失われた技術だった場合は大問題だ。
そんなものを皮袋からポンポン出す人間など怪しさ極まりないし、それが記憶喪失と言い張っていれば逮捕されても文句など言えない。

「冒険者になるか? 福利厚生ないし普通に死ぬけどそれなりに楽しいぞ?」
「冒険者ね…まぁ元々なる予定だったし、そうだね。なるわ冒険者!」
「そんなコロコロ決めて良いもんじゃないんだけどな…まぁ良いや勧めたの俺だし。それじゃあ後で手続き一緒に行くか、手伝ってやるよ」
「それはありがたい」

この時代での生活基盤を着々と作る準備をしていると、ふといつの間にか森霊種エルフの長老らしき老人が近くに立っていた。
無言でそばに立つ老人に驚きこそしたものの長きを生きる森霊種エルフは気配遮断程度お手の物なのは大戦時代から変わらないので落ち着いて声をかける。

「こんにちわ」
「こんにちわ。お兄さん、何処かで会ったかね?」
「ーーさぁ。記憶喪失でして、昔のことは覚えておりませんので」
「そうかいな、そう言えば盗み聞きして悪いのじゃが冒険者になるのじゃろう?」
「え、ええ。そうですが?」
「ならちょうどいい、依頼を出そう。あそこに林が見えるじゃろう? あそこから時折猪が出てきては悪さをしてな。林の中に人を入れるのは不安じゃからお主に頼みたい」
「ほう、して報酬は?」
「猪の肉は全部持ってっていい。後は首都に入る料金と冒険者組合の登録料を出そう」
「よし乗った!」

旨すぎると言えば旨すぎる話。
森霊種エルフの力量ならば猪の一頭や二頭、簡単に殺せそうなものだ。
だがどこか信頼できるのが目の前の老人の不思議な所だ。
お言葉に甘えることにして、暁月はこの世界に来て初めての依頼を受けるのだった。
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