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ちょっとしたハプニングというのは戦争などではない。
そんな前置きを自分の中でしなければならないほどにヘクターは焦りを隠せないでいた。
反射的に視線を送った先はエスペルだが、もちろん彼女は何も知らない。
首をブンブンと振りながら無実を主張するエスペルを尻目に、ヘクターは事情を知っているであろう目の前の人物に詳しく問いかけることにした。
「戦争を止める? どことどこが? なんでいきなりそんな事になったんですか」
戦争なんていうものはそう突発的に発生するものではない。
普通何年もの間様々な確執が生まれてくる中で相手に対しての怒りの感情と自分の命が失われるリスクを天秤にかけ、そうして国民の大多数が怒りに飲まれると戦争に発展する。
もちろん帝国などの上位が権力を握っている場合、例外は存在するが大抵の場合は昨日の今日ではい戦争なんてあり得ない。
ましてや街中はそれほど騒いでおらず兵士達すらいつもと変わらない様子であった今日この日に、いきなり戦争など妄言と疑わない方が難しいものだ。
だがヘクターは知らないが冒険者組合は状況によっては外部を行き交う人間が最も多い組織という関係上、国の諜報部よりも偶然早く情報を拾うことがある。
今回は偶然それで拾えた情報が偶然戦争だったということであり、受付嬢は大雑把な上がってきている中で確定している情報だけをヘクターに提示した。
「ここから南東にある森妖種の森の住民が人間に仲間を攫われたと怒り狂っているんです!」
「犯人の目星は? 着いてるなら引き渡してしまえばいいでしょう」
「それが現在調査中なのですが進展がなく……」
戦争というよりは抗争に近い程度であり小競り合いと言ってもいいレベルのもの。
ヘクターからすればその程度かという認識だが、冒険者組合としては亜人種が人間に対して反旗を翻したという実績を作らせるのがまずいのだ。
しかもよりにもよってそれが人間側の犯行が原因ともなれば、その緊急性は組合がどんな手でも行使しなければいけないほどである。
最悪は森妖種達が何かをしだす前にこちら側から仕掛けなければならない、それほどの可能性を前にしてヘクターは決意を固める。
「分かりました。地図をください、話を聞いてきますので」
「おいおいお前本気か!? 怒り狂った森妖種どもは容赦なく撃ってくるぞ!」
「大丈夫だよ、心配なら早めに犯人を見つけておいてくれ。行くぞエスペル」
エスペルがこくりと頷いたのを確認してから、ヘクターは急いで地図を持ってきた受付嬢からいくつかの注意点を聞いた後に組合を後にする。
なるべく状況が国に知られる前に解決してほしいとの事だったので、門番の前では討伐任務だと嘘をついて街を出たヘクター達。
他人から注目を集めないように常識のうちに収まる範囲内で、だが明らかに人間離れした速度で森へと向かう二人は、情報の共有を行なっていた。
「まさか冒険者組合に遊びに行っただけなのにこんな仕事が舞い込んでくるなんてな」
「トラブルに巻き込まれる性質でもあるんじゃないか? 私が昔見た時もトラブルに巻き込まれていたぞ」
「確かに昔からそうなんだ……って昔見た時?」
勇者としてヘクターが魔王の情報を入手することは何度かあったが、エスペルの見た目すら情報を手に入れることは一度だってできなかった。
あの城からエスペルは一度たりとも動いたことがなく、目撃情報もないためヘクターはエスペルの魔力で魔王であることを確認していたほどだ。
そんなエスペルがまるで直接会ったことがあるような口振りをするのはヘクターも引っかかる。
「間違えた、気にするな。それよりもこのままいけばあの森林に入ることになるが、あそこが森妖種の森なのか?」
「……そうらしいな。昔見た森妖種の森より小さいけど確かに魔力を感じる」
強引に話が捻じ曲げられたのを感じながらそれを咎めることはせず、ヘクターとエスペルは地図を見て問題の森へとやってきていた。
森妖種達が住まう森は普通の森とは一風変わっている。
彼等が住む国は彼等の始祖である妖精王が必ず関わっており、この森もその例外に漏れることはない。
普通の森に比べて異常なほどに密集した木々は外からの侵入者を拒んでおり、気候を無視するように様々な地域の植生が見て取れる。
「妖精女王の祝福」
普通に侵入すれば歩きにくいことこの上ない森を前にして、ヘクターが魔法を唱えると二人の体を淡い緑の光が包んでいく。
通常人類には使用することを許されていない魔法だが、始祖たる妖精王との契約により唯一勇者にのみ使用が許される魔法。
効果はありとあらゆる障害物の排除と最短ルートの構築であり、冒険において最もヘクターが重宝している魔法である。
魔法の効果を体感するだけで理解できるエスペルは、その魔法の効果よりもまず自分に魔法が効くことに驚きを隠せない。
試しに森に向か立て歩いてみればまるで木々が示し合わせたかのように動き出し始め、エスペルたちが歩ける程度の広さの道が目の前に広がっていく。
「この魔法は魔王に効くのだな」
「逆に効かないのか? 昔魔族にかけた時は問題なかったぞ」
「魔王はその性質上他種族の強化魔法や回復魔法は効きづらいか、そもそも効果が出ないんだ。人の製法で作られたポーションや魔法道具などもそうだな」
魔王としてこの世界に生まれると、様々な特典のほかにいくつかのデメリットも発生する。
そのうちの一つが他種族の支援に属するような魔法の効果を受けなくなるというものであり、特に身体機能に関係のあるような能力は基本的にその全てを自動的に無効化してしまう。
詳しい理由については解明されていないが、なんにせよ本来ならば効かないはずの魔法がどうしてかエスペルにもかかっているというのは事実である。
「妖精の女王様はそんなに浅狭じゃないって事らしいね」
「そういった理由ではないと思うが……ふむ、視線を感じるな。森妖種か」
森の中に入ってすぐだというのに、いくつもの視線が自分たちに注がれているのを感じる。
それは意識をしていなくても理解できるほどの圧を感じるものであり、熟練した兵士であれば絶対に隠すべきはずの殺意を駄々洩れにしてしまっているのは技術力の無さが故かそれともその胸の奥にある怒りからか。
子供を攫われたことを考えれば後者だろう。
戦時中子供を狙われた種族は停戦協定など無視して力の限り暴れ出したものだし、それをわかっているからこそ当時は子供に手を出すということはしなかった。
戦争がない現代社会において大人たちが余裕をもって子供に接することができているだろう環境を理解しながら森妖種の子供に手を出したのだとすれば、いよいよ犯人たちの目的は森妖種の子供事態ではなく怒りに狂った森妖種達のような気さえしてくるものだ。
「囲まれてるし殺気もダダ漏れだ、どうやら本当に怒らせてるらしいな」
「殺すなよヘクター。後が面倒だ」
「人の事なんだと思ってるの。まずは話し合いを――」
話し合いをするために両手を上げて攻撃の意思がないことを示したヘクターだったが、そんなヘクターの行動に対して周りを取り囲む者の一人が感情のままに引き金を引く。
当てる気がなかったにしろあったにしろそれは確かな敵対行動であり、ヘクターは自分のもとに向かって飛んでくる何かを条件反射ではじき落としていた。
すでに賽は投げられたのだ、ここから引き返すことなどできるはずもない。
「──おいおい、いきなり攻撃してくるなんて酷いじゃないか」
「矢ではないな。特徴的な爆発音、何か小さな鉄の球を飛ばしてきた」
「銃だろ多分。蒸気を使って鉄の球を飛ばす技術だ、弓より速いし訓練もいらないらしい」
「それはまた便利な武器が産まれたものだな。こっちは戦うつもりなんてないんだ、平和的に話し合わないか?」
森妖種達の体中に力が入っていくのを雰囲気で感じ取りながら、それでもヘクターは自分が一応あの町の代表として来ていることを思い出しながら落ち着いてもう一度両手を広げて話し合いの席を作り出そうとする。
必要なのは対話、戦闘は最終手段。
自分に言い聞かせてみると相手もどうやら戦闘する意思がないことくらいは分かったようで、一人の森妖種が姿を現す。
見た目こそ人に近いが金の長い長髪に長い耳を携え、森妖種特有の特徴的な花を髪にいくつか咲かせた男性はパッと見て人ではないとなぜか理解できる。
「同族を攫っておきながらよくそんな事を口にできるな人間ッ!!」
「若いなぁ、200歳くらいだろ君。長老か誰か呼んできてよ500歳以上の人」
300年前を知る人物であれば一度くらいは会ったことがあるかもしれない。
勇者としての自分を知る人物に合うのはあまり嬉しくないことだが、それでも現状を無血で解決できるならばそれでも良いだろう。
そんな思惑からのヘクターの提案は間違ってはいなかったのだが、怒り心中の彼等に対しては自分達を軽視するような行動であり、怒りはさらに加熱する。
「誰が長老を会わせるか! お前はここで捕らえて人質にする!!」
「これ以上話しても無駄だろうし、ちょっと暴れるか」
「仕方ない。私も手を貸そう、なぁに骨の一本や二本折っても大丈夫さ。森妖種は頑丈だからな」
会話でダメならば次に必要なのは圧倒的な武力による教育だ。
戦闘というものではなく、必要なのは圧倒的な能力とそれを用いて行われる思想の押し付け。
必要なのは初見の一撃だ。
ほんの一部の隙もないほどの圧倒的な差の掲示。
闘争を知らない愚かな若木に骨の髄まで教え込ませてやるのだ。
どちらが上で、どちらが下かを。
「──────!!」
誰かが声にならない程の絶叫をあげると同時に、ガサゴソと音を立てながらヘクター達の周りから気配が減っていく。
本気で戦闘する意欲を見せる魔王と勇者を前にして戦意を保てというのはどだい無理な話。
逃げ出していく彼等のことを笑うことなどできるはずもなかった。
「おいお前ら逃げるな! 戦え! 戦うんだ!!」
唯一ヘクター達に怒りを見せていた者が逃げ出す者達を止めようとするが、それで止まるのは数人の森妖種だけ。
どれだけ怒っていようとも自分の命が危険に晒されればそれに対して恐怖を感じるのは当然であり、いま逃げなかった者達は自分の命よりも大切な何かがあるのだろう。
ヘクターにとってそんな彼等は認めるべき相手でありかつての仲間を思い出して本人も気づかないうちに笑みが溢れる。
「逃げなかったのは素晴らしいが、逃げる奴が多くないか?まぁ戦争を経験してないんだ、仕方がないか。ほら村まで行くぞ着いてこい」
「おい離せっ!」
気配を悟らせずに移動したヘクターは首根っこを掴みながら妖精達に導かれる方へと歩き始める。
なんとかその拘束を解こうとする森妖種だが、押し引きしたところでどうにかなるものではないのだ。
周りを取り囲む森妖種達も下手に攻撃をすれば仲間に当たると思ったのか、それともようやく攻撃する意図がないことを察したのか手を出してくる気配もない。
緊張した空気のままヘクター達がそうして歩いていると、ふと森の中の景色が一変する。
先程までの場所とは違い明らかに木の幹が異常なまでに膨張しており、それらの木々にはいくつか違和感が感じられら傷のような者がついていた。
これが彼等森妖種の村であり、太い幹の木は彼等が手ずからに育てた木々であり家である。
人の目にはただの木にしか見えないがこれが彼等なりの家だ。
視線は感じるのに姿が未だ見えないのは森の中での彼等森妖種の隠蔽能力の高さを表していると言えるだろう。
そんな村の中で一人だけその姿を晒す森妖種が一人、顔に刻まれた皺は彼が生きてきた年月の数だ。
ひと目見てわかる程に年老いたその姿は彼がこの村の長である証拠である。
「ようこそ我らの村へ、歓迎します過去の傑物達よ」
ヘクターにとっては少し前に見たばかりの目。
300年前の戦果を生きた者が、そこには確かに存在した。
そんな前置きを自分の中でしなければならないほどにヘクターは焦りを隠せないでいた。
反射的に視線を送った先はエスペルだが、もちろん彼女は何も知らない。
首をブンブンと振りながら無実を主張するエスペルを尻目に、ヘクターは事情を知っているであろう目の前の人物に詳しく問いかけることにした。
「戦争を止める? どことどこが? なんでいきなりそんな事になったんですか」
戦争なんていうものはそう突発的に発生するものではない。
普通何年もの間様々な確執が生まれてくる中で相手に対しての怒りの感情と自分の命が失われるリスクを天秤にかけ、そうして国民の大多数が怒りに飲まれると戦争に発展する。
もちろん帝国などの上位が権力を握っている場合、例外は存在するが大抵の場合は昨日の今日ではい戦争なんてあり得ない。
ましてや街中はそれほど騒いでおらず兵士達すらいつもと変わらない様子であった今日この日に、いきなり戦争など妄言と疑わない方が難しいものだ。
だがヘクターは知らないが冒険者組合は状況によっては外部を行き交う人間が最も多い組織という関係上、国の諜報部よりも偶然早く情報を拾うことがある。
今回は偶然それで拾えた情報が偶然戦争だったということであり、受付嬢は大雑把な上がってきている中で確定している情報だけをヘクターに提示した。
「ここから南東にある森妖種の森の住民が人間に仲間を攫われたと怒り狂っているんです!」
「犯人の目星は? 着いてるなら引き渡してしまえばいいでしょう」
「それが現在調査中なのですが進展がなく……」
戦争というよりは抗争に近い程度であり小競り合いと言ってもいいレベルのもの。
ヘクターからすればその程度かという認識だが、冒険者組合としては亜人種が人間に対して反旗を翻したという実績を作らせるのがまずいのだ。
しかもよりにもよってそれが人間側の犯行が原因ともなれば、その緊急性は組合がどんな手でも行使しなければいけないほどである。
最悪は森妖種達が何かをしだす前にこちら側から仕掛けなければならない、それほどの可能性を前にしてヘクターは決意を固める。
「分かりました。地図をください、話を聞いてきますので」
「おいおいお前本気か!? 怒り狂った森妖種どもは容赦なく撃ってくるぞ!」
「大丈夫だよ、心配なら早めに犯人を見つけておいてくれ。行くぞエスペル」
エスペルがこくりと頷いたのを確認してから、ヘクターは急いで地図を持ってきた受付嬢からいくつかの注意点を聞いた後に組合を後にする。
なるべく状況が国に知られる前に解決してほしいとの事だったので、門番の前では討伐任務だと嘘をついて街を出たヘクター達。
他人から注目を集めないように常識のうちに収まる範囲内で、だが明らかに人間離れした速度で森へと向かう二人は、情報の共有を行なっていた。
「まさか冒険者組合に遊びに行っただけなのにこんな仕事が舞い込んでくるなんてな」
「トラブルに巻き込まれる性質でもあるんじゃないか? 私が昔見た時もトラブルに巻き込まれていたぞ」
「確かに昔からそうなんだ……って昔見た時?」
勇者としてヘクターが魔王の情報を入手することは何度かあったが、エスペルの見た目すら情報を手に入れることは一度だってできなかった。
あの城からエスペルは一度たりとも動いたことがなく、目撃情報もないためヘクターはエスペルの魔力で魔王であることを確認していたほどだ。
そんなエスペルがまるで直接会ったことがあるような口振りをするのはヘクターも引っかかる。
「間違えた、気にするな。それよりもこのままいけばあの森林に入ることになるが、あそこが森妖種の森なのか?」
「……そうらしいな。昔見た森妖種の森より小さいけど確かに魔力を感じる」
強引に話が捻じ曲げられたのを感じながらそれを咎めることはせず、ヘクターとエスペルは地図を見て問題の森へとやってきていた。
森妖種達が住まう森は普通の森とは一風変わっている。
彼等が住む国は彼等の始祖である妖精王が必ず関わっており、この森もその例外に漏れることはない。
普通の森に比べて異常なほどに密集した木々は外からの侵入者を拒んでおり、気候を無視するように様々な地域の植生が見て取れる。
「妖精女王の祝福」
普通に侵入すれば歩きにくいことこの上ない森を前にして、ヘクターが魔法を唱えると二人の体を淡い緑の光が包んでいく。
通常人類には使用することを許されていない魔法だが、始祖たる妖精王との契約により唯一勇者にのみ使用が許される魔法。
効果はありとあらゆる障害物の排除と最短ルートの構築であり、冒険において最もヘクターが重宝している魔法である。
魔法の効果を体感するだけで理解できるエスペルは、その魔法の効果よりもまず自分に魔法が効くことに驚きを隠せない。
試しに森に向か立て歩いてみればまるで木々が示し合わせたかのように動き出し始め、エスペルたちが歩ける程度の広さの道が目の前に広がっていく。
「この魔法は魔王に効くのだな」
「逆に効かないのか? 昔魔族にかけた時は問題なかったぞ」
「魔王はその性質上他種族の強化魔法や回復魔法は効きづらいか、そもそも効果が出ないんだ。人の製法で作られたポーションや魔法道具などもそうだな」
魔王としてこの世界に生まれると、様々な特典のほかにいくつかのデメリットも発生する。
そのうちの一つが他種族の支援に属するような魔法の効果を受けなくなるというものであり、特に身体機能に関係のあるような能力は基本的にその全てを自動的に無効化してしまう。
詳しい理由については解明されていないが、なんにせよ本来ならば効かないはずの魔法がどうしてかエスペルにもかかっているというのは事実である。
「妖精の女王様はそんなに浅狭じゃないって事らしいね」
「そういった理由ではないと思うが……ふむ、視線を感じるな。森妖種か」
森の中に入ってすぐだというのに、いくつもの視線が自分たちに注がれているのを感じる。
それは意識をしていなくても理解できるほどの圧を感じるものであり、熟練した兵士であれば絶対に隠すべきはずの殺意を駄々洩れにしてしまっているのは技術力の無さが故かそれともその胸の奥にある怒りからか。
子供を攫われたことを考えれば後者だろう。
戦時中子供を狙われた種族は停戦協定など無視して力の限り暴れ出したものだし、それをわかっているからこそ当時は子供に手を出すということはしなかった。
戦争がない現代社会において大人たちが余裕をもって子供に接することができているだろう環境を理解しながら森妖種の子供に手を出したのだとすれば、いよいよ犯人たちの目的は森妖種の子供事態ではなく怒りに狂った森妖種達のような気さえしてくるものだ。
「囲まれてるし殺気もダダ漏れだ、どうやら本当に怒らせてるらしいな」
「殺すなよヘクター。後が面倒だ」
「人の事なんだと思ってるの。まずは話し合いを――」
話し合いをするために両手を上げて攻撃の意思がないことを示したヘクターだったが、そんなヘクターの行動に対して周りを取り囲む者の一人が感情のままに引き金を引く。
当てる気がなかったにしろあったにしろそれは確かな敵対行動であり、ヘクターは自分のもとに向かって飛んでくる何かを条件反射ではじき落としていた。
すでに賽は投げられたのだ、ここから引き返すことなどできるはずもない。
「──おいおい、いきなり攻撃してくるなんて酷いじゃないか」
「矢ではないな。特徴的な爆発音、何か小さな鉄の球を飛ばしてきた」
「銃だろ多分。蒸気を使って鉄の球を飛ばす技術だ、弓より速いし訓練もいらないらしい」
「それはまた便利な武器が産まれたものだな。こっちは戦うつもりなんてないんだ、平和的に話し合わないか?」
森妖種達の体中に力が入っていくのを雰囲気で感じ取りながら、それでもヘクターは自分が一応あの町の代表として来ていることを思い出しながら落ち着いてもう一度両手を広げて話し合いの席を作り出そうとする。
必要なのは対話、戦闘は最終手段。
自分に言い聞かせてみると相手もどうやら戦闘する意思がないことくらいは分かったようで、一人の森妖種が姿を現す。
見た目こそ人に近いが金の長い長髪に長い耳を携え、森妖種特有の特徴的な花を髪にいくつか咲かせた男性はパッと見て人ではないとなぜか理解できる。
「同族を攫っておきながらよくそんな事を口にできるな人間ッ!!」
「若いなぁ、200歳くらいだろ君。長老か誰か呼んできてよ500歳以上の人」
300年前を知る人物であれば一度くらいは会ったことがあるかもしれない。
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そんな思惑からのヘクターの提案は間違ってはいなかったのだが、怒り心中の彼等に対しては自分達を軽視するような行動であり、怒りはさらに加熱する。
「誰が長老を会わせるか! お前はここで捕らえて人質にする!!」
「これ以上話しても無駄だろうし、ちょっと暴れるか」
「仕方ない。私も手を貸そう、なぁに骨の一本や二本折っても大丈夫さ。森妖種は頑丈だからな」
会話でダメならば次に必要なのは圧倒的な武力による教育だ。
戦闘というものではなく、必要なのは圧倒的な能力とそれを用いて行われる思想の押し付け。
必要なのは初見の一撃だ。
ほんの一部の隙もないほどの圧倒的な差の掲示。
闘争を知らない愚かな若木に骨の髄まで教え込ませてやるのだ。
どちらが上で、どちらが下かを。
「──────!!」
誰かが声にならない程の絶叫をあげると同時に、ガサゴソと音を立てながらヘクター達の周りから気配が減っていく。
本気で戦闘する意欲を見せる魔王と勇者を前にして戦意を保てというのはどだい無理な話。
逃げ出していく彼等のことを笑うことなどできるはずもなかった。
「おいお前ら逃げるな! 戦え! 戦うんだ!!」
唯一ヘクター達に怒りを見せていた者が逃げ出す者達を止めようとするが、それで止まるのは数人の森妖種だけ。
どれだけ怒っていようとも自分の命が危険に晒されればそれに対して恐怖を感じるのは当然であり、いま逃げなかった者達は自分の命よりも大切な何かがあるのだろう。
ヘクターにとってそんな彼等は認めるべき相手でありかつての仲間を思い出して本人も気づかないうちに笑みが溢れる。
「逃げなかったのは素晴らしいが、逃げる奴が多くないか?まぁ戦争を経験してないんだ、仕方がないか。ほら村まで行くぞ着いてこい」
「おい離せっ!」
気配を悟らせずに移動したヘクターは首根っこを掴みながら妖精達に導かれる方へと歩き始める。
なんとかその拘束を解こうとする森妖種だが、押し引きしたところでどうにかなるものではないのだ。
周りを取り囲む森妖種達も下手に攻撃をすれば仲間に当たると思ったのか、それともようやく攻撃する意図がないことを察したのか手を出してくる気配もない。
緊張した空気のままヘクター達がそうして歩いていると、ふと森の中の景色が一変する。
先程までの場所とは違い明らかに木の幹が異常なまでに膨張しており、それらの木々にはいくつか違和感が感じられら傷のような者がついていた。
これが彼等森妖種の村であり、太い幹の木は彼等が手ずからに育てた木々であり家である。
人の目にはただの木にしか見えないがこれが彼等なりの家だ。
視線は感じるのに姿が未だ見えないのは森の中での彼等森妖種の隠蔽能力の高さを表していると言えるだろう。
そんな村の中で一人だけその姿を晒す森妖種が一人、顔に刻まれた皺は彼が生きてきた年月の数だ。
ひと目見てわかる程に年老いたその姿は彼がこの村の長である証拠である。
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