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第三十七話 アリシア=スノーグース
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屋敷へ到着間際、レイモンドがヨゼフに何かを告げ、馬車は建物の裏手へと停められた。
レイモンドにエスコートされ降りた先は、スノーグース家の墓地だった。重苦しい雰囲気の石の墓標が並ぶ中、その一番奥……光の差し込む暖かい陽だまりに、その墓はあった。
透き通るような氷で出来た、薄青い美しい墓標。周囲は向日葵の形の氷の彫刻で飾られ、そこだけが別世界のように浮きだって見える。
墓標には、こう刻まれていた。
「アリシア=スノーグース ここに眠る」と。
この下に、本当の自分の体が眠っているとは……何とも不思議な気分だ。アリシアはその場に座り込み、墓標をそっと撫でながら想う。
(「アリシア」……貴方、幸せな人生だったわよね。孤児だったけれど、孤児院で「家族」が出来て……それから、最愛の旦那様と出会って。セドリックやマシューという大切な仲間にも恵まれたし……終わり方はあんまりだったけれど、愛する人と結ばれることが出来たもの。ただの「アリシア」じゃない、この家の名前も貰って……。)
墓標は陽の光を受けて美しく輝いていて、よく手入れされていることが見てとれた。レイモンドが毎日に近い頻度で、墓標を維持する魔石に力を注いでくれているのだろう。その心遣いが、何より嬉しかった。
「連れてきてくださってありがとうございます、レイモンド様」
立ち上がってドレスを整えながら、心を込めてお礼を告げる。
「貴方には、アリシアに会っておいてほしかったのだ。それに、貴方を迎えること……アリシアも、許してくれているだろうか」
「ええ、きっと……」
顔を見合わせて歩き出そうとすると、視界が歪みふらりとよろめいてしまった。サッと腕を出したレイモンドに抱き止められたが、後ろからヨゼフが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「奥様!? お疲れが出てしまいましたか? 長旅でしたし、無理がたたったのかも……」
「いえ、疲れは大丈夫です! 魔力を流し込まれたので、少し調子が狂っただけで……」
「魔力を…………!? まさか、あの時……!」
しまった、と口を注ぐんだがもう遅く、レイモンドは鬼の形相でアリシアを抱きかかえた。
「だ、大丈夫ですレイモンド様! 自分で歩けますから……」
レイモンドは黙り込んだまま、アリシアを抱えて馬車へと走る。それを追いかけて息を切らしながら、ヨゼフが叫んだ。
「大丈夫なわけありますか! 他人から魔力を流し込まれるなんて……死んでいてもおかしくないんですよ!? 一刻も早く、然るべき所で治療をしないと……」
「魔力は押し戻しましたから、大丈夫です! 少し休めばすぐ本調子に戻りますから……」
馬車の中にアリシアを横たえると、レイモンドは馬車に繋がれていた馬を一匹外し、ヒラリとその上に飛び乗った。
「ヨゼフ、彼女を屋敷に送り届け、医者を呼ぶように。俺は出掛ける」
「は……!? 帰ってきたばかりだと言うのに、どこへ行くって言うんです?」
「殺してくる」
「え?」
「リチャードを、殺してくる」
アリシアは急いで馬車の外に飛び出し、ふらつく体で馬の足元に縋った。
「待ってください、レイモンド様! 行ってどうすると言うのです!?」
「貴方を苦しめたリチャードを殺す。何が何でも……貴方が受けた痛みを、何十倍にも返してやる。──そうだ、俺もありったけの魔力を注いでやろう。すぐには死ねないように加減して……体の末端や臓器から、凍てつくように死んでいく痛みを味合わせて、『殺してくれ』と懇願するほどの苦痛を……」
「そんな……やめて下さい!! 王族を殺したら、死刑になってしまいます……! それに、相手は王子ですよ? 行っても簡単には会わせてはもらえないかと……」
「そんなの、どうとでもなる。王都の水路を全て凍らせて脅そうか。それとも、王城を氷漬けにするか? 大雪を降らせても良いし……片っ端から凍らせて回れば、出て来ざるを得なくなるだろう」
レイモンドの目は真っ直ぐで、どうやら本気でリチャードを殺す気のようだった。その言動はまるで市井の「噂」のように、冷酷非道な悪魔だ。
真っ青になっているヨゼフを横目に感じながら、アリシアの背中を冷や汗が流れ落ちる。
(この人、本気で怒っているわ! こんな姿、初めて見たけれど……。どうにかして止めないと、旦那様が人殺しになってしまう。でも……どうしたら!?)
「あ……えっと、レイモンド様! ほら、私こんなに熱があるんですよ!? レイモンド様がおでこを冷やしてくれないと、眠れないかも……」
アリシアは必死にレイモンドの手を取り、自らの額に当てさせた。美しく整ったレイモンドの額に、僅かに皺が寄る。
「こんなに熱が……やはり許せん。悪いが、冷やすのはブルーベルに頼んでくれ。俺はヤツを殺してくる」
「ヒェッ……や、嫌です! レイモンド様じゃないと嫌なんです……! レイモンド様が一緒にいてくれないと、私……寂しくて……」
アリシアはギュッとレイモンドの手を握り、懇願するように彼を見つめた。全力で目を潤ませ、上手目使いで弱々しく呟く。
「リチャード様を殺してしまったら、しばらく帰ってこられないかもしれないでしょう? 今はただ、側に居てほしいのです、私の…………旦那様に。弱っている妻を置いて、どこかへ行ってしまうつもりですか……?」
我ながら小っ恥ずかしいおねだりの仕方に、顔が燃えるように赤くなるのを感じる。魔力炎症とは違う意味で、熱が上がってしまいそうだ。
しかしレイモンドには効果があったようで、照れた顔を隠すように俯いた。
「貴方にそこまで頼まれたら、側を離れる訳にはいかないが……しかし、いいのか? ヤツを懲らしめなくて……」
「ええ、ええ! いいのです、貴方が側に居てくれるだけで……」
安心した拍子に体の力が抜け、今度こそ地面に倒れ込む。
あまりにも、色々なことがありすぎた。緊張と緩和、体の疲労に魔力炎症に……強くない体は、もう限界だった。
(でも、今はただ……旦那様を人殺しにしないで済んで、本当に良かった……。)
安らかな表情で眠りに入るアリシアを抱え、マールが大袈裟に泣き真似をするのだった。
レイモンドにエスコートされ降りた先は、スノーグース家の墓地だった。重苦しい雰囲気の石の墓標が並ぶ中、その一番奥……光の差し込む暖かい陽だまりに、その墓はあった。
透き通るような氷で出来た、薄青い美しい墓標。周囲は向日葵の形の氷の彫刻で飾られ、そこだけが別世界のように浮きだって見える。
墓標には、こう刻まれていた。
「アリシア=スノーグース ここに眠る」と。
この下に、本当の自分の体が眠っているとは……何とも不思議な気分だ。アリシアはその場に座り込み、墓標をそっと撫でながら想う。
(「アリシア」……貴方、幸せな人生だったわよね。孤児だったけれど、孤児院で「家族」が出来て……それから、最愛の旦那様と出会って。セドリックやマシューという大切な仲間にも恵まれたし……終わり方はあんまりだったけれど、愛する人と結ばれることが出来たもの。ただの「アリシア」じゃない、この家の名前も貰って……。)
墓標は陽の光を受けて美しく輝いていて、よく手入れされていることが見てとれた。レイモンドが毎日に近い頻度で、墓標を維持する魔石に力を注いでくれているのだろう。その心遣いが、何より嬉しかった。
「連れてきてくださってありがとうございます、レイモンド様」
立ち上がってドレスを整えながら、心を込めてお礼を告げる。
「貴方には、アリシアに会っておいてほしかったのだ。それに、貴方を迎えること……アリシアも、許してくれているだろうか」
「ええ、きっと……」
顔を見合わせて歩き出そうとすると、視界が歪みふらりとよろめいてしまった。サッと腕を出したレイモンドに抱き止められたが、後ろからヨゼフが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「奥様!? お疲れが出てしまいましたか? 長旅でしたし、無理がたたったのかも……」
「いえ、疲れは大丈夫です! 魔力を流し込まれたので、少し調子が狂っただけで……」
「魔力を…………!? まさか、あの時……!」
しまった、と口を注ぐんだがもう遅く、レイモンドは鬼の形相でアリシアを抱きかかえた。
「だ、大丈夫ですレイモンド様! 自分で歩けますから……」
レイモンドは黙り込んだまま、アリシアを抱えて馬車へと走る。それを追いかけて息を切らしながら、ヨゼフが叫んだ。
「大丈夫なわけありますか! 他人から魔力を流し込まれるなんて……死んでいてもおかしくないんですよ!? 一刻も早く、然るべき所で治療をしないと……」
「魔力は押し戻しましたから、大丈夫です! 少し休めばすぐ本調子に戻りますから……」
馬車の中にアリシアを横たえると、レイモンドは馬車に繋がれていた馬を一匹外し、ヒラリとその上に飛び乗った。
「ヨゼフ、彼女を屋敷に送り届け、医者を呼ぶように。俺は出掛ける」
「は……!? 帰ってきたばかりだと言うのに、どこへ行くって言うんです?」
「殺してくる」
「え?」
「リチャードを、殺してくる」
アリシアは急いで馬車の外に飛び出し、ふらつく体で馬の足元に縋った。
「待ってください、レイモンド様! 行ってどうすると言うのです!?」
「貴方を苦しめたリチャードを殺す。何が何でも……貴方が受けた痛みを、何十倍にも返してやる。──そうだ、俺もありったけの魔力を注いでやろう。すぐには死ねないように加減して……体の末端や臓器から、凍てつくように死んでいく痛みを味合わせて、『殺してくれ』と懇願するほどの苦痛を……」
「そんな……やめて下さい!! 王族を殺したら、死刑になってしまいます……! それに、相手は王子ですよ? 行っても簡単には会わせてはもらえないかと……」
「そんなの、どうとでもなる。王都の水路を全て凍らせて脅そうか。それとも、王城を氷漬けにするか? 大雪を降らせても良いし……片っ端から凍らせて回れば、出て来ざるを得なくなるだろう」
レイモンドの目は真っ直ぐで、どうやら本気でリチャードを殺す気のようだった。その言動はまるで市井の「噂」のように、冷酷非道な悪魔だ。
真っ青になっているヨゼフを横目に感じながら、アリシアの背中を冷や汗が流れ落ちる。
(この人、本気で怒っているわ! こんな姿、初めて見たけれど……。どうにかして止めないと、旦那様が人殺しになってしまう。でも……どうしたら!?)
「あ……えっと、レイモンド様! ほら、私こんなに熱があるんですよ!? レイモンド様がおでこを冷やしてくれないと、眠れないかも……」
アリシアは必死にレイモンドの手を取り、自らの額に当てさせた。美しく整ったレイモンドの額に、僅かに皺が寄る。
「こんなに熱が……やはり許せん。悪いが、冷やすのはブルーベルに頼んでくれ。俺はヤツを殺してくる」
「ヒェッ……や、嫌です! レイモンド様じゃないと嫌なんです……! レイモンド様が一緒にいてくれないと、私……寂しくて……」
アリシアはギュッとレイモンドの手を握り、懇願するように彼を見つめた。全力で目を潤ませ、上手目使いで弱々しく呟く。
「リチャード様を殺してしまったら、しばらく帰ってこられないかもしれないでしょう? 今はただ、側に居てほしいのです、私の…………旦那様に。弱っている妻を置いて、どこかへ行ってしまうつもりですか……?」
我ながら小っ恥ずかしいおねだりの仕方に、顔が燃えるように赤くなるのを感じる。魔力炎症とは違う意味で、熱が上がってしまいそうだ。
しかしレイモンドには効果があったようで、照れた顔を隠すように俯いた。
「貴方にそこまで頼まれたら、側を離れる訳にはいかないが……しかし、いいのか? ヤツを懲らしめなくて……」
「ええ、ええ! いいのです、貴方が側に居てくれるだけで……」
安心した拍子に体の力が抜け、今度こそ地面に倒れ込む。
あまりにも、色々なことがありすぎた。緊張と緩和、体の疲労に魔力炎症に……強くない体は、もう限界だった。
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