【ハレ巫女】妹の身代わりに「亡き妻しか愛せない」氷血の辺境伯へ嫁ぎました〜全てを失った「ハレの巫女」が、氷の呪いを溶かして溺愛されるまで〜

きなこもちこ

文字の大きさ
39 / 41

第三十九話 小さな小さな結婚式

しおりを挟む
 吹雪に見舞われた一同は、追われるようにして温室へと急ぐ。

 温室が作られてからというもの、セドリックとアリシアは毎日に近い頻度で室内の手入れをしていた。果物の苗木を植えたり、花の種を蒔いたり、小川のような水路を作ったり……。アリシアが灯すランプのおかげで日照や温度の点でも生育条件をクリアしているようで、植物も芽を出し始めていた。
 
 丁寧な手入れと緻密な設計により、今や温室は貴族の庭のような風貌になっていた。植物はまだ植えたてのため発展途上といった様子だが、テーブルや椅子も備え付けられていて、ちょっとしたお茶会も開けそうなほどである。

 温室にたどり着きコートのフードを脱いだブルーベルは、驚きの声をあげた。

「わあ……! 何これ!?」

 温室の中は、普段の様相からはずいぶんと様変わりしていた。

 いたる所に真っ白なリボンが結ばれ、キラキラ光る小さなランプのオーナメントが飾られている。奥へと続く小道に敷かれた白いカーペットの上には、パステルカラーの花びらが散りばめられていた。

「なんだ、来ちまったのか」

 珍しくスーツに身を包んだセドリックが、あちゃあ……と呟きながら声をかけてきた。

「どうしたんですか、これ! こんな素敵に飾り付けられて……何かパーティでもやるんです? セドリックまでおめかししちゃって!」

「俺だってスーツぐらい着るさ! あー、バレちまったなら仕方ない……サリー、言ってもいいか?」

「……なーんだ、びっくりさせようと思ったのによ。サプライズは得てして失敗するもんだね」

 奥からは萌黄色のドレスに身を包んだサリーが出てきて、ため息と共に首をすくめた。

「サリーまで! どうしたんです? 誰かの誕生日でしたっけ……!?」

「なんとね~、二人の結婚式なのよ! 旦那サマと奥サマの!」

「ずるいよマール! アタシが言いたかったのに!」

「け……結婚式、ですか!?」

 マールの言葉に、アリシアは驚きの声を上げた。サリーに小突かれているマールも薄紫のドレスに身を包み、凝った形に髪を結い上げている。

「二人とも一応結婚してるテイだけど、式は挙げてなかっただろう? そんなのいいよって言いそうだから、アタシたちが先に用意してあげたってワケ!」

「あとちょっとで準備が出来るから、呼びに行く所だったのに~」

「そんな……あの、ありがとうございます。こんなに素敵な会を作ってくださって……」

 温室内の会場の装飾は、清らかで優しく、温かい愛に溢れていた。きっと長いこと計画を立てて準備をしてくれていたのだろう。仲間たちの気持ちや費やした時間を思うと、すでに涙がこぼれそうだった。

「おっと奥サマ、泣くのはまだ早いよ~! 感動してるとこ悪いけど、まだ式は始まってないんだし」

「というか旦那サマは? 一応サプライズにはサプライズだったんだけど、驚いてない感じ? 余計なお世話だったかな……」

「…………いや、驚いている……ものすごく」

 わかりづらいが、レイモンドも本当に驚いているようだった。不自然に固まったまま、キョロキョロと回りを見渡している。

「でも……どうしましょう。そうとは知らず、私、こんな服で……」

「それは大丈夫さ! アタシがこんな式に、新しいドレスを用意してないと思うかい? さあ、着替えた着替えた!」

「え!? どこで……」

「ちゃあんと更衣室も用意してあるからね~。ほら、旦那サマとお嬢サマも~」

「俺たちもか?」

 戸惑うままに背中を押され、三人はカーテンで仕切られた小さな更衣室に押し込まれた。

 数分後出てきたレイモンドは、真っ白なスーツを身に纏っていた。僅かに黄味がかった上質な布で仕立てられたスーツは、パリッ! ピシッ! と体に合っている。

「なんだか……落ち着かないな」

「よく似合ってるよ旦那サマ! 見てここ、刺繍とネクタイだけ銀糸が入ってんのよ! それにここの部分だけ布の材質を変えていて……」

「あ~わかった、すごいすご~い。サリーの服がすごいのは皆わかってるんだから、いちいち説明しないでいいのよ~」

「何だいその気持ちのこもってない『すごい』は! 丹精込めてんだ、もう少し褒めてくれても……」

「……本当にすごい。舞踏会の服に続き、プロの仕事だな。忙しい中なのに、ありがとう」

 レイモンドからお礼を言われたサリーは、照れくさそうに破顔して頭をかく。続いて更衣室のカーテンが少しだけ開き、おずおずと顔を出したのはブルーベルだった。

「あの……これで大丈夫?」

「あ~、完璧! はちゃめちゃにかわい~! 王国中探してもこんな可憐なお姫サマはいないよ~!」

「むぎゅぎゅ……苦しいよマール~」

「ちょっとマール、アタシを褒める時と態度が違いすぎない? お嬢さまが可愛いのは完全に同意だけど!」

「えへへ……サリー、ありがとう!」

 マールから解放されたブルーベルは、嬉しそうに目をギュッと瞑り、くるりと一回転してお辞儀した。白いオーガンジーで出来た可愛らしいワンピースは、ウエストを結ぶリボンだけがピンクのサテンで出来ている。よく見ると、白い花の刺繍が全面に施されているようだ。

「仕上げに……はい! これをかぶって、これを持って……お嬢さまは重大任務があるからね! こういう作戦で……」

 花冠をかぶせられ、花びらの入った籠を渡されたブルーベルは、サリーに耳打ちされた内容を真剣な表情で聞いている。しばらくして会話が終わると、決意に満ちた表情で頷いた。

「……ま、間に合いました!? 旦那様達が温室に向かうのが窓から見えて、慌てて準備をして屋敷から出てきたんですが……セーフですか!?」

 勢い良く温室に駆け込んできたのは、執事のヨゼフだ。いつもの真っ黒な執事服と違い、白い神父の祭服を着ている。吹雪の中走ってきたせいか、いつもピチリと固められている髪が所々乱れていた。

「セーフセーフ。奥サマの準備がまだだから~、良い所に来たね」

「みんな~、食事の準備もできたよぉ」

 料理人のエリオットも奥からピョコンと顔を出し、ヒラヒラと手を振った。エリオットは以前よりもずいぶんと恰幅が良くなり、もっちりとしたシェフの風貌になっている(皆からは試食のしすぎだと指摘されていた)。

「エリオットも、蝶ネクタイが似合っているな」

「えへへ、ありがとぉ。旦那さまもお嬢さまもとっても素敵だよぉ」

 皆が団欒していると、シャッと控えめにカーテンが引かれる音がした。

「これで……どうでしょうか?」

 そこには、真っ白なウエディングドレスに身を包んだアリシアが佇んでいた。あまりにも眩いその姿に、一同は目を細めて息を呑む。
 
 純白のドレスには絹糸で刺繍が施され、光があたった部分がキラキラと輝いていた。上半身はピタリと体に沿っているが、腰下からは大きく広がり、裾は長く床に垂れ下がっている。下半分には氷の魔石が宝石のように散りばめられ、独特の青白い光を放っていた。

「綺麗だ……とても」

 沈黙を破ったレイモンドの呟きに、アリシアの頬が真っ赤に染めあがった。

「ヒュー! お熱いじゃねえか二人とも!」

「セドリック……からかわないでくださいよ!」

「うん、ミーシャさん……とってもきれい……! おとぎ話のお姫さまみたい……」

「お嬢様も本当に可愛いです! 今日は花の精霊さんですね……!」

「奥サマ……めちゃくちゃよく似合っているよ……。アタシのドレスをこんなに着こなしてくれて、もう感動して……。この腰の膨らみを出すために、下のパニエの量を何回も微調整したんだ。それにその氷の魔石は、ビーズ状に加工して刺繍に縫い込むように……」

「わかったわかった、サリーのこだわりは後でゆっくり聞くから~。奥サマはこっち、最後の仕上げにヘアセットとメイクだよ~!」

 マールの手によってあっという間にセットが終えられ、美しい花嫁が出来上がった。アリシアは涙を堪えながら、皆に向かって深々とお辞儀カーティシーをする。

「サリーもマールも……本当にありがとうございます……! こんな素敵なドレスに、メイクまで……。それにセドリックやエリオット、ヨゼフも。皆で準備してくれたのでしょう? 嬉しくて、胸が熱くて、何とお礼を言ったらいいか……」

「ストップ! 奥サマ、泣かないで~! せっかくのメイクが崩れちゃうから! ……ほら、ベールをかけるからかがんで……」

「そうそう! 奥サマが号泣する前に、早く始めちまおうよ! みんな首尾通りに、席に着いて!」

 エリオットとサリー、マールが参列席に腰掛け、ヨゼフは緊張の面持ちで神父台に立った。

 セドリックはアリシアの横に立ち、気まずそうな表情でコホンッと咳払いをする。

「……俺がその、エスコートするんだってよ。俺なんかが父親がわりだなんて、笑っちまうよな……」
 
 溢れそうになる涙を必死に堪え、アリシアはセドリックの腕に手を回す。

「貴方が父親役なんて……すごく、すごく嬉しいです、セドリック。『アリシア』の時から貴方を、本当の父親のように慕っていましたから……」

 セドリックは前を向いたまま、震える声で呟いた。

「結婚おめでとう、アリィ。俺の可愛い娘っ子よ……」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。

稲垣桜
恋愛
「君と取引がしたい」 兄の上司である公爵家の嫡男が、私の前に座って開口一番そう告げた。 「取引……ですか?」 「ああ、私と結婚してほしい」 私の耳がおかしくなったのか、それとも幻聴だろうか…… ああ、そうだ。揶揄われているんだ。きっとそうだわ。  * * * * * * * * * * * *  青薔薇の騎士として有名なマクシミリアンから契約結婚を申し込まれた伯爵家令嬢のリディア。 最低限の役目をこなすことで自由な時間を得たリディアは、契約通り自由な生活を謳歌する。 リディアはマクシミリアンが契約結婚を申し出た理由を知っても気にしないと言い、逆にそれがマクシミリアンにとって棘のように胸に刺さり続け、ある夜会に参加してから二人の関係は変わっていく。 ※ゆる〜い設定です。 ※完結保証。 ※エブリスタでは現代テーマの作品を公開してます。興味がある方は覗いてみてください。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...