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山ちゃんと私とおもちゃ屋さん
しおりを挟む「隣町のおもちゃ屋に入荷したって、あの人形!」
鼻息も荒く自転車に乗ってやって来た私に、秘密基地のブランコで携帯ゲームをしていた山ちゃんは、画面を凝視したまま無言で指を動かし続けた。
今良いところらしい。だから私は山ちゃんの目の前でゲームが終わるのをじっと待つ。
ぴこぴこと鳴る電子音が情け無いメロディを奏で、ついに山ちゃんの手が止まった。
「桜屋?」
「違う、布袋屋!」
どちらもとんぼ返りしても帰る頃には陽が沈むくらい遠いお店だ。
だけど山ちゃんは自転車のカゴにゲームを放り込むと、何の躊躇いもなく颯爽とサドルに跨った。
「近道知ってる、着いて来れるか?」
「だから誰に言ってるの!」
私も自転車に跨って、そのまま二人で隣町まで走り出した。
知らない坂道を登って、車の通れない細い道を抜ける。
雑木林の横を通って、今度は住宅街の中の二車線道路を勢いよく下った。
地下道をくぐって、線路を越えた途端、隣町の知らない空気がふわりと香る。
歩道の色付きタイルが綺麗で、私たちの街より都会って感じがした。
「あった、あそこだ!」
ガチャガチャが並んだ、マンションの間にひっそりと建つ小さなおもちゃ屋さん。
私たちは歩道の脇に自転車を停めて、お店の前に立つ。
汚れて煤けた壁がちょっとだけ怖くて、どちらともなく足が止まった。
でも山ちゃんが私を小突いて、私は思い切って自動で開かないガラスの扉に手を掛けた。
カランと鳴った扉をくぐる。
高い棚、狭い通路、天井まで所狭しとおもちゃが置かれた店内には、おじいさんが一人、新聞を読みながらレジに座っている。
私達はそのおじいさんの後ろのガラスケースに、残り一つだけ、今大人気のキーホルダー型の人形を見つけた。
「それください!」
だけどそれは目の前で、知らない子に買われてしまったのだった。
「どうせひとつしかなかったし、逆に良かったかもな」
帰り道、幹線道路を走りながら、前を行く山ちゃんが大きな声で言った。
私は本当は悔しかったけど、奥歯を噛み締めながら勢いよくペダルを踏み込む。
「そうかもね!」
追い越し様に叫んだ目の前に、燃えるみたいに真っ赤な夕焼け空が広がっていた。
「近道行くぞ!」
「あっ、ちょ! そっちー!?」
また山ちゃんに抜かされて、裏道に入って行った山ちゃんを笑いながら追いかける。
振り返った山ちゃんの顔にも、橙色の笑顔が浮かんでいた。
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