28 / 33
流れる月日と新たな住民たち
しおりを挟む
オーク家族の襲来から半年が経った。
俺もすっかり開拓村での生活にも慣れ、ルリジオンからこの世界のことを色々学ばせて貰った。
昼間は周辺の森での狩りや最終、そして開拓村の建物の修繕。
夕食後にルリジオン先生による授業が行われる。
昼間の作業は俺――というよりミストルティンのおかげでルリジオンとリリエールだけの頃よりかなり効率が上がったおかげで食卓に並ぶ食材も豊富になった。
ミストルティンの『鑑定』があるおかげで、今まで食べられるかどうかわからなかった山の幸の正体がわかるのも大きい。
料理についても一人暮らしでそれなりに料理経験のある俺が加わったのもあって、初日に食べたような簡単なポトフもどきだけでなく、焼き物や炒め物などレパートリーが増え続けている。
何よりありがたかったのは森の奥で岩塩を含んだ岩山が見つかったことと、元の世界で言う麦のような植物の群生地が見つかったことだ。
この半年の間に開拓村には五人ほどの移住者がやってきていた。
そのほとんどは俺と同じように王国によって追放されてきた王国民である。
彼ら彼女らは国王や貴族、ストルトスをはじめとした役人の無茶で横暴な指示に耐えきれず苦情を申し立てたり、指示通りのものを期間内に作れなかったなど聞くだけであきれかえるような理由で追放されたという。
しかし、そのおかげでこの開拓村に様々な職人が集まることになり、結果生活がかなり改善されることになったのは皮肉ではある。
「ブレドさん、麦刈ってきたよ」
「おうリュウジくん、ちょうど今パンが焼けた所だから喰ってくかい?」
「焼きたてですか。いただきます」
パンを作ってくれているのは王都でパン工房を営んでいたというブレドというおばちゃんだ。
彼女とその家族がこの開拓村へ俺と同じように転送魔方陣で飛ばされてきたのは半月ほど前になる。
「いただきます」
「店から酵母が持ってこられたら最高のパンを食べさせてあげられるんだけどねぇ」
麦と水、そして塩だけを使った原始的なパンの味は、最初中々慣れなかったものだ。
「いい匂いがすると思ったら」
「あらティールの爺さんじゃないか。例のものは出来たのかい?」
「ここにある材料だけでは大変だったがのう。ほれ」
ティールと呼ばれた老人は、片手に持っていたものをブレドに手渡す。
それは金属製のボウルだった。
「引退したってのに相変わらず腕は衰えてないようだね」
「ふんっ。馬鹿息子どもに無理矢理引退させられただけじゃ」
彼が開拓村にやってきて一週間。
もと鍛冶師だった彼のおかげでこの村に残されていた道具たちもかなり修繕され、作業効率が上がった一因となっている。
「宰相どもの口車に乗せられおってからに。あんな馬鹿どもの作った粗悪な装備で勝てるわけが無いというのに」
「本当に戦争が始まっちまうんだねぇ。ただ働き同然で大量の日持ちするパンを作れって言われても無理だって言ったんだけどねぇ」
「どっちにしろもうワシらには関係の無いことじゃて」
「でも家族全員でここにきたあたしらと違って、あんたは息子たちが王都にいるんだろう? 心配じゃないかい?」
「ふんっ。ワシの忠告も聞かずに勝手に彼奴らが選んだ道じゃ。知るもんかい」
二人の会話はまだまだ続きそうだ。
俺は「そろそろ畑の方を見に行かなきゃならないんで」と言い残してその場を立ち去ろうとする。
「ちょいとまちな」
しかしその俺をブレドが呼び止めた。
そして振り返った俺に向かって麻袋を放り投げると「畑にいくんなら、それをあの人とロールに持って行っておくれ」と言った。
「これは?」
「あの人とロールの昼飯だよ」
あの人というのはブレドの旦那さんで、この村の一部を使って畑を作ってくれているジータのことだ。
そしてロールというのが二人の子供で今年7歳になったばかりの男の子である。
「朝間に合わなくてね。一段落したら持って行こうかとおもってたんだが、アンタが行くならちょうどいいと思ってね。わるいけどお願い出来るかい?」
「美味しいパンも食べさせて貰いましたし、これくらいかまいませんよ」
俺は受け取った袋を掲げて返事をすると畑へ向けて歩き出す。
村の中は俺が来た頃に比べるとずいぶんと変わって来ている。
初めて来たときはボロボロな家や小屋しか見当たらなかったのが、今では半分くらいは新築と見まがうほど綺麗に建て替えられていた。
そして今も近くの家の屋根からトンテンカンと大工仕事の音が聞こえ。
「おうリュウジ、暇か?」
「暇じゃないですよ」
その屋根の上からひょいと顔を出したのは大工のペンターである。
彼は首から提げたタオルで汗を拭きながら「明日でもいいんだが、手が空いたらまた加工してもらいたいもんがあってよ」と日焼けした肌に白い歯をきらめかせて笑う。
「昼からだったら時間開きますから、そのときでいいですか?」
「助かる。それじゃあそれまでに図面引いとくから頼んだぜ」
ペンターはそれだけ言い残すとまた屋根の上に消えていく。
そしてまたトンテンカンと釘を打つ音が村に響きだした。
「そうと決まったら急いで午前中の仕事を終わらそう」
俺は僅かばかり足を速めながら村を横切り畑に向かった。
俺もすっかり開拓村での生活にも慣れ、ルリジオンからこの世界のことを色々学ばせて貰った。
昼間は周辺の森での狩りや最終、そして開拓村の建物の修繕。
夕食後にルリジオン先生による授業が行われる。
昼間の作業は俺――というよりミストルティンのおかげでルリジオンとリリエールだけの頃よりかなり効率が上がったおかげで食卓に並ぶ食材も豊富になった。
ミストルティンの『鑑定』があるおかげで、今まで食べられるかどうかわからなかった山の幸の正体がわかるのも大きい。
料理についても一人暮らしでそれなりに料理経験のある俺が加わったのもあって、初日に食べたような簡単なポトフもどきだけでなく、焼き物や炒め物などレパートリーが増え続けている。
何よりありがたかったのは森の奥で岩塩を含んだ岩山が見つかったことと、元の世界で言う麦のような植物の群生地が見つかったことだ。
この半年の間に開拓村には五人ほどの移住者がやってきていた。
そのほとんどは俺と同じように王国によって追放されてきた王国民である。
彼ら彼女らは国王や貴族、ストルトスをはじめとした役人の無茶で横暴な指示に耐えきれず苦情を申し立てたり、指示通りのものを期間内に作れなかったなど聞くだけであきれかえるような理由で追放されたという。
しかし、そのおかげでこの開拓村に様々な職人が集まることになり、結果生活がかなり改善されることになったのは皮肉ではある。
「ブレドさん、麦刈ってきたよ」
「おうリュウジくん、ちょうど今パンが焼けた所だから喰ってくかい?」
「焼きたてですか。いただきます」
パンを作ってくれているのは王都でパン工房を営んでいたというブレドというおばちゃんだ。
彼女とその家族がこの開拓村へ俺と同じように転送魔方陣で飛ばされてきたのは半月ほど前になる。
「いただきます」
「店から酵母が持ってこられたら最高のパンを食べさせてあげられるんだけどねぇ」
麦と水、そして塩だけを使った原始的なパンの味は、最初中々慣れなかったものだ。
「いい匂いがすると思ったら」
「あらティールの爺さんじゃないか。例のものは出来たのかい?」
「ここにある材料だけでは大変だったがのう。ほれ」
ティールと呼ばれた老人は、片手に持っていたものをブレドに手渡す。
それは金属製のボウルだった。
「引退したってのに相変わらず腕は衰えてないようだね」
「ふんっ。馬鹿息子どもに無理矢理引退させられただけじゃ」
彼が開拓村にやってきて一週間。
もと鍛冶師だった彼のおかげでこの村に残されていた道具たちもかなり修繕され、作業効率が上がった一因となっている。
「宰相どもの口車に乗せられおってからに。あんな馬鹿どもの作った粗悪な装備で勝てるわけが無いというのに」
「本当に戦争が始まっちまうんだねぇ。ただ働き同然で大量の日持ちするパンを作れって言われても無理だって言ったんだけどねぇ」
「どっちにしろもうワシらには関係の無いことじゃて」
「でも家族全員でここにきたあたしらと違って、あんたは息子たちが王都にいるんだろう? 心配じゃないかい?」
「ふんっ。ワシの忠告も聞かずに勝手に彼奴らが選んだ道じゃ。知るもんかい」
二人の会話はまだまだ続きそうだ。
俺は「そろそろ畑の方を見に行かなきゃならないんで」と言い残してその場を立ち去ろうとする。
「ちょいとまちな」
しかしその俺をブレドが呼び止めた。
そして振り返った俺に向かって麻袋を放り投げると「畑にいくんなら、それをあの人とロールに持って行っておくれ」と言った。
「これは?」
「あの人とロールの昼飯だよ」
あの人というのはブレドの旦那さんで、この村の一部を使って畑を作ってくれているジータのことだ。
そしてロールというのが二人の子供で今年7歳になったばかりの男の子である。
「朝間に合わなくてね。一段落したら持って行こうかとおもってたんだが、アンタが行くならちょうどいいと思ってね。わるいけどお願い出来るかい?」
「美味しいパンも食べさせて貰いましたし、これくらいかまいませんよ」
俺は受け取った袋を掲げて返事をすると畑へ向けて歩き出す。
村の中は俺が来た頃に比べるとずいぶんと変わって来ている。
初めて来たときはボロボロな家や小屋しか見当たらなかったのが、今では半分くらいは新築と見まがうほど綺麗に建て替えられていた。
そして今も近くの家の屋根からトンテンカンと大工仕事の音が聞こえ。
「おうリュウジ、暇か?」
「暇じゃないですよ」
その屋根の上からひょいと顔を出したのは大工のペンターである。
彼は首から提げたタオルで汗を拭きながら「明日でもいいんだが、手が空いたらまた加工してもらいたいもんがあってよ」と日焼けした肌に白い歯をきらめかせて笑う。
「昼からだったら時間開きますから、そのときでいいですか?」
「助かる。それじゃあそれまでに図面引いとくから頼んだぜ」
ペンターはそれだけ言い残すとまた屋根の上に消えていく。
そしてまたトンテンカンと釘を打つ音が村に響きだした。
「そうと決まったら急いで午前中の仕事を終わらそう」
俺は僅かばかり足を速めながら村を横切り畑に向かった。
61
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる