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モブと聖女は聖剣を雑に扱ってレベル上げをする

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「もういっちょ行くよー」
「おう! 来い!」

 しゅばっ。
 ぶちゅっ。
 ガサガサガサガサッ!

「ふひぃ。またレベル上がったみたい」

 額の汗を拭きながらリベラは満足げな笑顔を浮かべる。
 俺とリベラが交互にコックルを駆除し始めて今までで既に彼女は二十回ほどレベルアップの感覚を覚えていた。

 そんな彼女の手に握られているのはミラの聖剣ファドランであった。
 その聖剣ファドランだが、今はコックルの体液と欠片にまみれ、とても聖剣などというご立派なものには見えない姿になっている。

 本来であれば勇者しか装備できない武器ではあるのだが、現実となったこの世界では『勇者が使ったときに真価を発揮する』だけで、誰でも持つだけなら出来るようなのだ。
 それに気がついたのは例のグレーターデーモン戦のあとのこと。

 俺は勇者でもないのに聖剣を手にして、あまつさえグレーターデーモンの死体に突き刺すことが出来たのである。
 つまり聖剣の力を使わず、ただ単にコックルを突き刺すだけなら別に誰でも可能なのである。


 あのときは聖剣ファドランの危険性をミラに教えることばかり頭にあって、そのゲームと矛盾する出来事に気がつかなかった。
 その後も俺はミラに返すまで聖剣を釘打ち代わりに使ったり適当な扱いをしていたのだが、寝る前に机の横へ聖剣を立てかけたときにやっと気がついたのだった。

「聖剣ちゃんべとべとだよー」
「適当に泉の水でもぶっかけときゃ綺麗になる。次は俺がやるからリベラは休んでていいぞ」

 俺はリベラにそう告げてから今度はもう一人のパーティメンバーである勇者ミラに声を掛ける。

「そうだ、ミラ」

 聖剣の本来の持ち主であるミラは、俺たちから少し離れた場所で両手で耳を塞いでしゃがみ込んでいる。
 その体が小刻みに震えているところを観ると、やはり彼女はコックル――ゴッキーが大の苦手だったようだ。

「お前もちゃんとレベル上がってるか?」

 その問い掛けに彼女はこちらを振り向きもせず頭を上下に動かす。
 声も出せないほど怯えているその姿からは、いつもの凜々しさは一切感じられない。

 しかし安心した。
 どうやら彼女も順調にレベルが上がっているようだ。

 実際にコックルを倒している俺とリベラだけ経験値が入って、離れて戦闘(?)に加わらない彼女には経験値が入らないなんてことになっていたら目も当てられない。
 ちなみに俺は既に次のレベルまでの必要経験値が多すぎるのか、今日はまだ一回もレベルアップの感覚は受けていない。
 もしかすると俺もとうとうレベルキャップにたどり着いたかと思ったが、数日繰り返すとまたレベルが上がるので、ただたんに必要経験値が増えているだけだった。

 一方まだ一回のコックル退治で幾つもレベルが上がっているリベラが、草むらに転がした聖剣に泉の水を適当にぶっかけながら質問をしてくる。

「ねぇねぇアーディ。本当にこれで私たちも強くなれるのかな?」
「ん?」
「こんな弱っちいゴッキーもどきをぷちぷち潰すだけで強くなれるなんて信じられないんだもん」

 たしかにそうだろう。
 俺だってそう思う。
 だけどこの世界がドラファンを元にして作られている以上は『そういう設定だから』としか言いようがない。
 そんなことを二人に話しても理解されるとは思えない以上、俺には彼女に告げる答はなかった。

「でも実際に強くなってるだろ? さっきだってお前、新しい呪文を覚えたって言ってたじゃないか」

 魔法が使えない俺にはこの世界で魔法を覚えると言うことがどういうことか解らなかった。
 なんせゲームではレベルアップと共に『リベラはポイズンイレースのじゅもんをおぼえた』と表示されて、呪文一覧に登録されるだけなのだ。

 ゲームであれば何も不思議ではないことだが、それが現実となると本人がどうやって魔法を覚えたことを知るのか不思議だった。

「ポイズンイレースとハイヒールとセイクリッドアローのこと?」
「そうそれ」

 そのことがどうしても気になった俺はリベラにその事を尋ねると。

『えっとね。レベルが上がった不思議な感じがした後に頭の中に急に呪文が浮んできたの』

 という答が返ってきた。

 更に詳しく聞いてみると、レベルアップと同時に呪文の名称や使い方も全て頭の中に新しい記憶として浮かび上がってくるらしい。
 つまりゲームでの状況とあまり変わらないことがこの世界でも再現されているということなのだろう。

「ねぇねぇ。のこりのゴッキーをセイクリッドアローで倒しちゃっていい?」
「だめだ。籠が壊れる」
「えー」

 泉の水のおかげで見かけは綺麗になった聖剣をぶんぶん振りながらリベラが駄々をこねる。

「おい馬鹿やめろって」

 水に濡れた聖剣を振り回したせいで四方八方に水が飛ぶ。

「きゃっ」

 その水の一粒がミラの首筋に直撃したのか彼女にしては珍しく可愛らしい悲鳴が聞こえた。

「わかった。わかったから」

 覚えたばかりの魔法を使ってみたい気持ちはよくわかる。
 俺だってゲームで魔法を覚えたらすぐに使ってみる派だった。

「しかたない」

 そんな自分の昔とリベラを重ねた俺は、飛んでくる水しぶきを避けながら「そのかわり後で別の魔物を連れてきてやるから、試し打ちはそっちでしてくれ」と彼女に告げたのだった。

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