たった一分の勇気。

長尾 隆生

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第一話 初恋と初失恋の保育園

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「今日こそ勇気を出すんだ」

 ボクは毎朝同じ言葉を洗面台の鏡に映る自分の顔に向かって投げかける。
 そして学校から帰ってくる度、その言葉を今日も実行できなかった事に落ち込む日々を繰り返していた。

 部屋の一番目立つ場所に貼ったカレンダーの日付の上に今日もまた大きくバツを赤いマジックペンでつける。
 そしてボクはカレンダーにずらっと並んだ赤い印を見てさらに悲しくなるのだ。

 どうしてボクには勇気が無いんだろう。
 17年間生きてきて、積み重なっているはずの勇気がこれっぽっちも出てこない。

 保育園、幼稚園、小学校、中学校。
 そのすべての時代でボクは、あと一歩の勇気が出せなかった。
 そのために本当は手に入れられていたかもしれないいろんな物を失ってきたんだ。

 いや、失うも何も一度もソレを手に入れてないんだから失ったというのもおかしな話だけれども。
 強いていうなら失うことすら出来なかったという方が正しいんだろう。

 本当ならボクが手に入れられたかもしれない未来。
 ほんの少しの勇気があればその未来はきっと手に入れることができたんだ。
 ボクはその事を後に知ることになる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 昔からボクは恋多き子供だったと思う。

 保育園の時はよく一緒に砂遊びをしていたアキコちゃんが好きだった。
 アキコちゃんは何にでも好奇心旺盛にチャレンジする元気な女の子で、いつも保育園を走り回っていた事を覚えている。
 そんな自分とは対極的に活動的な所に惹かれていたのかもしれない。

 好きになったきっかけは砂場で遊んでいたときにボクが作った砂山のトンネルを「こんなに大きなトンネルを作れるなんてすご~い」と褒めてくれたことだったっけ。

 女の子を意識する理由なんてそんな簡単な物だ。

 その後もボクは一生懸命毎日砂場でトンネルを作り続けた。
 大きなトンネル、小さなトンネル。
 その日によっていろいろ作っては壊しを繰り返していた。
 またアキコちゃんが「すご~い」と言ってくれることだけを願って。

 でも、もちろんそんな未来は来なかった。
 ボクが知らないうちにアキコちゃんは同じ組のケイくんと仲良くなっていた。
 いつもケイくんはアキコちゃんを遊びに誘っては一緒にブランコをしたりかくれんぼをしたり楽しそうだった。
 ボクは砂場で一人トンネルを作るだけ。
 彼女を遊びに誘う勇気なんて無かった。
 ただひたすらにトンネルを作って待つだけの日々を送ることしか出来なかった。

 そしてある日ボクがいつものように砂場に向かうとケイくんとアキコちゃんがそこで先に遊んでいた。
 ケイくんが作った砂山にアキコちゃんがトンネルを掘っている。
 そこはボクの場所だったはずなのに。

 その日ボクは最初の失恋をした。
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