真贋の鍛冶師~偽物だとギルドをクビになった伝説の鍛冶師の弟子は、偽物だらけの町から田舎に帰って『本物』を探します~

長尾 隆生

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鍛冶師、町を出る

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「持って行く荷物はこんなものかな」

 翌日僕は朝からギルドに向かい、アーヴィンの修繕を午前中ギリギリまで使って終わらせた。
 そしてそれを受け付けに預けるとギルドの人たちに「短い間でしたがありがとうございました」と告げ、今月の賃金を受け取りギルドを後にした。

 一年間過ごしたギルドの職員宿舎に戻ると、旅に出るための最低限の荷物だけリュックサック一つに詰め込む。
 元々見習い鍛冶師レベルの安月給であったが、それ以上に物欲があまりない僕の部屋には、備え付けの家具以外は殆ど何も無い。
 爺ちゃんの工房から出てくる時に持って来た鍛冶道具と着替え、それと日持ちがする食料だけをリュックに入れて、日持ちがしないものは宿舎の『自由箱』に放り込む。
 この自由箱は、宿舎に住む職員が自分には必要ないが他の人には必要そうなものを自由に入れておく箱だ。
 この箱の中のものは誰でも自由に持っていって良いことになっている。

「一年、お世話になりました」

 僕は宿舎を出た所で立ち止まり振り向くと頭を下げる。
 誰が見ていなくとも礼節を重んじることは大事だとよく爺ちゃんも言っていた。

「さて、いくか」

 山奥の爺ちゃんの工房から町へやってきて一年。
 その間僕の元に預けられた武具ずっと『偽物』ばかりだった。
 しかし最後の最後に『本物』に出会えた。

「爺ちゃんが言っていたことの意味がやっとわかったよ」

 僕は独り言を呟きながら町の出口へ向かう。

「本物と出会った時ほど嬉しいことは無いってこういうことだったんだね」

 ギルドを役立たず扱いで追い出されたというのに、僕の心は不思議と晴れ渡っていて。
 それが『本物』と出会ったおかげなのだと理解する。

「本当はもっとたくさんの『本物』と会いたかったけど……」

 爺ちゃんとの鍛冶修行で、ずっと『本物』の武具や素材しか扱ってこなかった。
 そのせいで『偽物』を扱うことが苦手になってしまった。
 だけれどこの世の中には『本物』よりも『偽物』の方が遙かに多い。
 だから『偽物』を扱うことが出来なければ、誰も僕を信じて『本物』を任せてはくれないことを知った。

「でも最後に『本物』と出会えて良かった……」

 手に残る『本物』に打ち付けた鎚の感触を忘れない。
 もう悔いは無い。

 僕は門を通って町を出る。
 これからどうしようかまだ決めていないけれど、とりあえず爺ちゃんと過ごした山奥の廃村に戻るつもりだ。
 その後のことはわからないけれど、自分を見つめ直すべきだと思ったのだ。

 僕はずり落ち掛けたリュックサックを背負い直すと街道を進み始めた。

 この時の僕は知らなかった。
 数々の『本物』がこの先、僕の元へやってくるということを。
 そしてそれは、そう遠くない未来の話だと言うことを。
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