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四つ星冒険者『死神』リーゼル
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サイの町の冒険者ギルド。
そこに一人の女冒険者がスイングドアを押し開いて入ってきた。
逞しい筋肉美を惜しみなく見せつけるその体には、所々消えない傷が浮かび、美しいその顔にも深く長い傷跡が頬に刻まれている。
歴戦の勇者。
一言で表すならそう評するしかない彼女に、ギルドの中に居た冒険者たちは息をのむ。
「お、おい。あれって死神リーゼルじゃないのか?」
冒険者の一人が思わず彼女を見てそう呟いて慌てて自らの口を両手でふさぐ。
だが、リーゼルと呼ばれた女冒険者はその音この言葉など気にしていないのか、そのままギルドの受け付けに歩み寄った。
「死神……どうしてこんな所に」
「あれが四つ星のリーゼルか」
最初の男の呟きを聞いた他の冒険者も次々とその名を口にする。
彼女の名前はリーゼル。
四つ星の冒険者である。
彼女の二つ名である『死神』というのは、かつて彼女とパーティを組んでいた仲間たちが次々と命を落としたことから付けられた異名だ。
「聞きたいことがある」
「は、はいっ。なんでございましょう」
ドンッと音を立て、カウンターに腕を置いてリーゼルは受付嬢の目を睨めつけながら言った。
「この町に『ガーディヴァルの弟子』がいると聞いたが、どこに居るか知っているか?」
「が、ガーディヴァルですか」
「そうだ。名前くらいは知っているだろう?」
受付嬢は無言でコクコクと何度も頷く。
「その弟子がここにいると聞いて遙々やってきたんだ。どこに居るかさっさと教えろ」
ドンッとまた強くカウンターに拳を叩きつける音がギルドに響く。
その拳の下の天板には僅かだがひび割れが出来ていて、もう一度殴られれば容易く破壊されてしまうだろう。
「じ、実はその……」
受付嬢は青い顔で数日前にさよならを告げ去って行った少年のことを口にしようとした。
その時だった。
「おいおい、もめ事か?」
騒ぎを聞きつけたのだろう。
ギルドマスターのカースィが二階から様子をみに降りてきたのである。
「マ、マスター。良い所に」
受付嬢はこれ幸いと階段に駆け寄ると、降りてきたカースィにカウンターを指さしてことのあらましを告げた。
最初こそいつもの冒険者同士のいざこざだと思っていたカースィだったが、その原因が『死神』だと知ると血相を変える。
「いったい四つ星冒険者がこんな場末のギルドに何の用事なんだ」
このサイの町は王国でも比較的安全な場所で、周りに居る魔物も二つ星程度の冒険者でも十分対処できるものばかり。
必然、得られる報酬も少なく、とてもでは無いが四つ星冒険者がやってくるような町では無い。
「お前がここのギルマスか?」
「ああ。俺がギルマスのカースィだ」
冒険者ギルドのマスターとして威厳を保たねばならないと、カースィは心を奮い立たせ『死神』の前に立つ。
「話は聞いたか?」
「話?」
「ああ。この町にいるというガーディヴァルの弟子とやらに会いたい」
ガーディヴァルの弟子。
たしかに数日前までそう自称する少年がこのギルドには所属していた。
だが、そいつはカースィ自身の手でクビになり町を出て行った。
「……」
「どうした? 早く教えろ」
「……居ない」
「なんだと?」
「もうこの町には居ないと言ったんだ」
カースィはそう答えると更に言葉を重ねる。
「それにあのガキはガーディヴァルの弟子を名乗ってはいたが、飛んだ偽物だぜ」
「偽物だと? なぜそう言い切れる」
少し自分のペースを取り戻したカースィはにやりと笑う。
「なんせあいつは初心者冒険者の武具ですらまともに修繕できねぇほど酷い腕だったからな。あれならまだ町の工房にいる見習いのほうがよっぽど上だったぜ」
「だから偽物だとお前は判断してこの町から追い払ったと言うわけだな」
「ああ、そうだとも。高名な鍛冶師の名前を勝手に使って、自分はその弟子だと嘘をついていたんだからな。追い出して当たり前だろう?」
カースィは「まぁ、アンタほどの冒険者でも、踊らされるような嘘なんだ。俺が信じちまっても仕方ねぇだろ」と笑った。
そこに一人の女冒険者がスイングドアを押し開いて入ってきた。
逞しい筋肉美を惜しみなく見せつけるその体には、所々消えない傷が浮かび、美しいその顔にも深く長い傷跡が頬に刻まれている。
歴戦の勇者。
一言で表すならそう評するしかない彼女に、ギルドの中に居た冒険者たちは息をのむ。
「お、おい。あれって死神リーゼルじゃないのか?」
冒険者の一人が思わず彼女を見てそう呟いて慌てて自らの口を両手でふさぐ。
だが、リーゼルと呼ばれた女冒険者はその音この言葉など気にしていないのか、そのままギルドの受け付けに歩み寄った。
「死神……どうしてこんな所に」
「あれが四つ星のリーゼルか」
最初の男の呟きを聞いた他の冒険者も次々とその名を口にする。
彼女の名前はリーゼル。
四つ星の冒険者である。
彼女の二つ名である『死神』というのは、かつて彼女とパーティを組んでいた仲間たちが次々と命を落としたことから付けられた異名だ。
「聞きたいことがある」
「は、はいっ。なんでございましょう」
ドンッと音を立て、カウンターに腕を置いてリーゼルは受付嬢の目を睨めつけながら言った。
「この町に『ガーディヴァルの弟子』がいると聞いたが、どこに居るか知っているか?」
「が、ガーディヴァルですか」
「そうだ。名前くらいは知っているだろう?」
受付嬢は無言でコクコクと何度も頷く。
「その弟子がここにいると聞いて遙々やってきたんだ。どこに居るかさっさと教えろ」
ドンッとまた強くカウンターに拳を叩きつける音がギルドに響く。
その拳の下の天板には僅かだがひび割れが出来ていて、もう一度殴られれば容易く破壊されてしまうだろう。
「じ、実はその……」
受付嬢は青い顔で数日前にさよならを告げ去って行った少年のことを口にしようとした。
その時だった。
「おいおい、もめ事か?」
騒ぎを聞きつけたのだろう。
ギルドマスターのカースィが二階から様子をみに降りてきたのである。
「マ、マスター。良い所に」
受付嬢はこれ幸いと階段に駆け寄ると、降りてきたカースィにカウンターを指さしてことのあらましを告げた。
最初こそいつもの冒険者同士のいざこざだと思っていたカースィだったが、その原因が『死神』だと知ると血相を変える。
「いったい四つ星冒険者がこんな場末のギルドに何の用事なんだ」
このサイの町は王国でも比較的安全な場所で、周りに居る魔物も二つ星程度の冒険者でも十分対処できるものばかり。
必然、得られる報酬も少なく、とてもでは無いが四つ星冒険者がやってくるような町では無い。
「お前がここのギルマスか?」
「ああ。俺がギルマスのカースィだ」
冒険者ギルドのマスターとして威厳を保たねばならないと、カースィは心を奮い立たせ『死神』の前に立つ。
「話は聞いたか?」
「話?」
「ああ。この町にいるというガーディヴァルの弟子とやらに会いたい」
ガーディヴァルの弟子。
たしかに数日前までそう自称する少年がこのギルドには所属していた。
だが、そいつはカースィ自身の手でクビになり町を出て行った。
「……」
「どうした? 早く教えろ」
「……居ない」
「なんだと?」
「もうこの町には居ないと言ったんだ」
カースィはそう答えると更に言葉を重ねる。
「それにあのガキはガーディヴァルの弟子を名乗ってはいたが、飛んだ偽物だぜ」
「偽物だと? なぜそう言い切れる」
少し自分のペースを取り戻したカースィはにやりと笑う。
「なんせあいつは初心者冒険者の武具ですらまともに修繕できねぇほど酷い腕だったからな。あれならまだ町の工房にいる見習いのほうがよっぽど上だったぜ」
「だから偽物だとお前は判断してこの町から追い払ったと言うわけだな」
「ああ、そうだとも。高名な鍛冶師の名前を勝手に使って、自分はその弟子だと嘘をついていたんだからな。追い出して当たり前だろう?」
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