[完結]奪ってもいいでしょうか?[R18]

仲 奈華 (nakanaka)

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N.奪ってもいいでしょうか?

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王妃ナリミアは、タリムの離宮を訪れて彼を問い詰めていた。

「どういう事なの!タリム王子。どうしてロザリーが貴方と婚約破棄だなんて」

タリムに与えた離宮は、酒と香水の匂いが染みつき、半裸の女達がクスクスと笑いながら、寝そべっている。もしかしたら薬にも手を出しているかもしれない。

タリムが、第一王子ローガンに対抗するように女遊びをしている事にナリミアは気が付いていた。ローガンが女嫌いである事は国王も知っている。タリム王子は彼より優れている。少なくとも子孫を残す事ができる。だから、タリム王子の遊びについては静観していたのだ。

だけど、舞踏会に訪れた大勢の貴族の前でロザリー公爵令嬢が、平民の男にプロポーズをし、タリムを貶めてしまった。彼の女遊び問題について貴族達に広まってしまった。今まで放置していた事を今更ながらナリミアは後悔していた。

「母上。ロザリーは、あの女は俺を馬鹿にしています。彼女とは結婚できません。従順な女だと思っていたのに、何度誘っても乗ってこない。それだけでなく平民の男と繋がるなんて、王子の俺には、未来の王妃には相応しくない!」

「そうですわ。王妃様。ロザリー如きがタリム様の妻になるなんて」

タリム王子の横には、青髪の娘が縋りついている。

たしか、以前ナリミアが、ローガンの婚約者に、あてがった評判が悪いルーナ・ギブソン子爵令嬢だ。男遊びが盛んで、彼女と寝た相手は婚約破棄したり、自堕落な生活になったり、生家が没落したりする酷い下げ女だという噂を聞き、ローガンの婚約者になるように、ナリミア自ら働きかけたのだ。

「どうして、貴方がここにいるのです?タリム、彼女とまさか」

「ルーナは子爵令嬢だが、ロザリーより俺に相応しい。身分は低いが、俺の言うとおりに動くし何より俺の事を深く愛している」

息子の隣の娘は口角を上げながら頷いている。

「貴方、何もわかっていない。すぐにその女から離れなさい!汚らわしい!私の息子を篭絡するなんて恥を知りなさい」

ナリミアは、ルーナ子爵令嬢の腕を引き、頬を思いっきりビンタした。

バシン!

「母上。何をするのです。ルーナに手を出さないでください」

「私が苦労して!貴方の為に。もういい。ロザリーの所に向かいます。彼女を説得しなければ!!」

「母上!待ってください」








ロザリー・グロッサー公爵令嬢は、タリムの婚約者として城の敷地内の小さな離宮を与えられている。王妃教育も終わり、国で一番裕福なグロッサー公爵家出身の彼女はタリムの婚約者として最適な人物だ。

それだけではない。ロザリーは、ルミリアの娘だ。
タリムの婚約者は、彼女しか考えられない。
ルミリアとの間に協定がある。あの忌々しいアナリリスを一緒に殺めた時から。

ナリミアは、ロザリー公爵令嬢の離宮へ向かって行った。

過去を思い出しながら。










ナリミアは、リンガー伯爵家の娘として生を受けた。幼少期から王子の婚約者候補に選ばれ、教育を受けてきた。ナリミアは優秀だった。成績も礼儀作法も完璧にこなせるように努力を続けてきた。

学院を卒業した年、最後の王子婚約者選別会で、ルミリアは、アナリリス・レガリア侯爵令嬢に敗れてしまった。結局代々王妃を輩出してきたレガリア侯爵家に敵う事ができなかった。成績も礼儀作法も、美貌だってアナリリスに劣っていないはずなのに。

アナリリスは、王子と結婚しすぐに妊娠したらしい。

ナリミアは、長年王子の婚約者候補として教育を受けてきた。婚期を逃し婚約者もいない。ずっと目標にしていたのに、今更王子以外の男性の妻になるなんて考えられなかった。

偶々出席した貴族の茶会で、ナリミアは、アナリリスの妹を見つけた。茶髪の美しい娘リリアンナ・レガリア侯爵令嬢は、婚約者のマーカス・ガークラン子爵子息と共に出席していた。マーカスは、卒業後すぐに頭角を現し副宰相に選ばれた優秀な人物だと聞いている。レガリア侯爵家を引き継ぐ事になった養女のリリアンナと結婚しレガリア侯爵家の婿養子になるらしい。

あんな娘でさえ、パートナーがいるのに私には誰もいない。
アナリリスが王妃となり、子供も産まれるのに、私には誰もいない。
ずっと努力を続けていた。だれよりも王妃に相応しいと今でもそう思っている。なのに、どうする事もできない。

ついついリリアンナを目で追っていると、マーカスと離れたリリアンナが、ルミリア・グロッサー公爵令嬢と言い争い、無理やり連れて行かれる様子が目に入った。

ナリミアは、思わず立ち上がり、彼女達の後を追っていった。

リリアンナは誰もいない裏庭へ公爵令嬢に引っ張られていく。

「どうして、私の言葉を聞かないの。婚約者を譲ってほしいだけよ。貴方は元々平民なのでしょ!私に逆らうなんて」

「マーカスは、私の婚約者です。私達は愛し合っています。譲るなんてありえないわ!」

「婿養子に迎えるはずだったロンが自殺をしたの。グロッサー公爵家には優秀な婿が必要なのよ。マーカスは時期に宰相になる事が決まっているわ。貴方に彼は勿体ない。私こそ彼の結婚相手に相応しい」

「離して?貴方みたいな傲慢な女。誰も相手にしないわ。きっとロンっていう男性だって、貴方のせいで」

「うるさい、うるさい!貴方なんて!」

鉄棒で、ルミリア公爵令嬢はリリアンナを強く打ち付けた。

「キャア!」

リリアンナは山積にされた廃材の中に倒れこみ、動かなくなった。

私は、ルミリア公爵令嬢に声をかける。

「何をしているの?」

「あっ。ナリミア伯爵令嬢。違うのよ。ちょっと生意気な女を教育していただけ。彼女がどうしても言う事を聞かないから」

「彼女は、アナリリス王妃の妹でしょ。姉と一緒で生意気な娘だわ。貴方は、グロッサー公爵令嬢でしょ。公爵家の護衛兵は優秀だと聞くわ。公爵家の為なら必要なら殺人だって実行すると。ねえ、相談があるの。今日の事は誰にも言わないと約束する。だから協力しない?」

ルミリア・グロッサー公爵令嬢は、私を見て笑って言った。

「私達、気が合いそうね。いいわ。行きましょう」






あの日、確かに頭を強く強打され倒れたと思ったリリアンナ・レガリア侯爵令嬢は無事だったらしい。貴族の集まりには参加しないが、マーカスとの結婚話が進んでいると噂に聞く。

ルミリア・グロッサー公爵令嬢は、傲慢な女だった。彼女は銀髪で見目麗しいマーカスに一目惚れして、すぐに結婚を申し込んだらしい。だが相手が悪かった。マーカスの婚約者リリアンナ・レガリアは養子だが、義姉は王妃アナリリスであり、生家の後継者である義妹リリアンナを気にかけている。グロッサー公爵家でも公に手を出せなかった。

ルミリア公爵令嬢は、どうしてもマーカスと結婚したくて、何度かリリアンナの暗殺を企て、彼女が貴族の集まりに参加するたびに嫌がらせを繰り返してきたらしいが、なぜか彼女はいつも無事だったと聞く。

ルミリアにとっても、私にとってもレガリア侯爵家が、アナリリス王妃がどうしても邪魔な存在だった。



アナリリスが第一王子を出産した。
もし彼女が産んだ子供が王女であれば、私が側妃として召されたかもしれない。
でも、彼女は後継者となる王子を産んでしまった。

私は、ルミリア・グロッサーと共にアナリリス王妃を殺す事にした。アナリリスを殺した後、その罪をリリアンナに擦り付ける。

彼女達を排除すれば、私は、王妃の座を手に入れる事ができる。
ルミリアは、婚約者を失ったマーカスを手に入れ、グロッサー公爵家にとって目障りなレガリア侯爵家を潰す事ができる。

リリアンナが、アナリリス王妃に会いに王城を訪れる日を調べ、私とルミリアは計画を実行する事に決めた。

リリアンナが王妃の部屋から出た直後、ルミリアが王妃の部屋に忍びこみ彼女を殺害する。リリアンナが犯人と思われるように彼女の名前が刺繍されたハンカチを証拠として残す。王妃の使用人を買収し、誰にもバレる事がない。ルミリア・グロッサー公爵令嬢には動機がないのだから。

私は、王城からレガリア侯爵家に向かうリリアンナを殺す事になった。海岸沿いの崖で、公爵家の護衛兵と共に待っていると、予定通りレガリア侯爵家の馬車が近づいてきた。馬車にはリリアンナが乗っている。

私は護衛兵達に命令した。

「今よ。討て。」

武装兵達が、リリアンナが乗った馬車に弓を放つ。矢が刺さった馬は大きく嘶き崖から、馬車ごと海に落ちていった。崖から落ちる瞬間、馬車の中のリリアンナと目が合った。彼女は目を見開き、手を伸ばし絶望した表情で私を見てきた。

ガシャバシャーン。

私は崖に近づき、下をみる。
海にはバラバラになった馬車の残骸と、赤く染まった何かが漂っていた。

「ふふふ。さようならリリアンナ。姉と一緒にあの世で仲良くしてね」

満足した私は、その場を後にした。









王妃アナリリスを殺害した犯人は、義妹のリリアンナとされた。リリアンナは、殺害後すぐに自殺した事になった。私は、すぐに次の王妃に選ばれた。私以外の婚約者候補達は、皆結婚していたし、私以上に王妃に相応しい女はいなかったから、当然の結果だった。

婚約者がいなくなったマーカスを、ルミリアは薬を使って襲い責任を取らせる事に成功したらしい。

上手くいった。公爵夫人となったルミリアとは定期的にお茶会を開催している。彼女から、媚薬を分けてもらい、王に使って子どもを身ごもる事にも成功した。

産まれた息子は、とても可愛い。将来王になる事を約束された愛おしい我が子。ルミリアが産んだロザリーはすでに我が子の婚約者に内定している。

約束したのだ。私とルミリアの契約は、お互いの邪魔者を葬った日から始まっている。子供達を結婚させて、この王国を、全てを私達の思い通りにする。

誰にも邪魔をさせない。





だから、アナリリスが残した邪魔者を、幼い王子ローガンの命を奪ってやるのだ。

前王妃アナリリスが産んだローガン第一王子は、沢山の使用人を付けられ大事に育てられていた。少しずつ、彼の周りの人物を懐柔していった。金を使い、親族を使って脅し、拷問だってした。

やっと機会が回ってきた。ローガンが5歳の時、私は彼を殺す事にした。ローガンが暮らす塔に行き、食事に毒を混ぜ込む。使用人達は私をおびえたように見てきた。

「お義母さま。どうかされたのですか?」

「貴方の為に、特別な食事を用意しました。母の目の前で全て召し上がってください」

「これは、いつもの食事とは違うようです。僕は、食べたくない」

「全て食べるのです。残さず全て」

私は、ローガンの体を後ろから強く抱きしめ、無理やり口に毒が入った食事を何度も何度も押し込んだ。

「やめて、ゲホ、ゲホ」

「本当に忌々しい、汚い子。貴方が産まれてこなければ、私がこんな手間をかける必要なんてなかったのに」

「助けて!」

「お前なんか誰も助けない。ここにはお前の味方なんていない。食べるのです。本当の母があの世で待っていますよ」

「ゲホ、やめて」

食事を全て食べない内に、ローガンは倒れ意識を失った。

顔を青ざめた使用人が私を黙って見てくる。

「本当に忌々しい。何をしているの。片付けなさい」

私は塔を後にした。








ローガンは、死んでいなかった。罪の意識を感じた使用人が、彼の口に残った食べ物を指で掻き出し、水を含ませ吐き出させたらしい。
すぐに、ルミリア公爵夫人に伝え、牢に入れられた使用人達を皆、暗殺させたが、王は私の事を疑うようになった。

ローガンは、城から出され、どこかの貴族の養子にされた。暗殺しようと居場所を探るが、かなり用心深いのか、情報が伝わってこない。

なにもかも、私はあのアナリリスより優れている。教養も礼儀作法も、美貌だって。

でも、王はもう私を見てくれない。尊重してくれない。こんなはずではなかった。王妃になれば、誰よりも輝かしく素晴らしい明るい未来が待っているはずだった。幸せそうに微笑んでいた、あのアナリリスのように。

息子が、タリム王子が、将来の国王になる。その事だけが私の支えだった。





本当は分かっている。息子がローガン第一王子に劣っている事を。

でも、タリムこそが絶対に次の王になるべきだ。王妃の地位を得る為に、色んな物を犠牲にしてきた。殺人だって犯した。

だから、息子が王になる為に、できる限りの事をする。それが母として、王妃としての私の役目だから。

ロザリーを説得しなければいけない。この国で最も地位が高い貴族のロザリー・グロッサー公爵令嬢。彼女がタリムの妻となれば、貴族達の承認を得る事ができる。

まさか、王位継承を目の前にして、息子本人に裏切られるなんて。

だけど、まだ、正式に婚約破棄したわけではない。

ロザリーさえ説得できれば、挽回できるはずだ。


私は、ロザリー公爵令嬢に与えられた小さな離宮に入り、中を進んでいった。

「あ、いい。」

寝室の方から音が聞こえてくる。女の声のようだ。

バシ、バシ。

何かを叩くような音も。

私は、寝室のドアを思いっきり開いた。






そこには、半裸で縛られたまま頬を染め悶える息子の婚約者ロザリーと、彼女を鞭で叩きながら彼女と繋がる男がいた。部屋の隅にはグラスを傾けながら、黒光りする歪な道具を手に取り、微笑んでいる銀髪の娘が優雅に座っている。

「あ、あなた達。何をしているの!ロザリー!どういう事ですか!今すぐ止めなさい」

私は、愕き息子の婚約者に近づいて行った。
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