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カエデ
2.不安
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アヤメがいなくなった部屋で、カエデは途方に暮れた。
カエデは、服を着替えながら、昨晩の事を思い出していた。
9か月前も、自宅マンションに侵入した不審者と同一人物と思われる女が再び現れた。でも、あの女を見た事も、会った事もない。自分が事故に合い前後の記憶が失われている事は知っている。
実母の会社に転職した時も、カエデが体調を崩した時も、妻のアヤメは寄り添い心配そうに世話をしてくれた。
鬼柳財閥でそれなりの成果を上げ、認められるようになったのも妻の支えがあったからだと思っている。
アヤメは、時々ぼんやりとマンションから見える夜景を眺めている事があった。穏やかに微笑むアヤメが、どこか遠くに行ってしまう気がして、得体のしれない不安を感じる事があった。彼女と結婚してから、状況が目まぐるしく変わってきた。結婚記念日にケーキやプレゼント、花束を準備し改めてアヤメに感謝を伝えようと思っていた。
だけど、、、
あの、真っ赤なドレスを着た見知らぬ妊婦が尋ねてきた後、アヤメの様子が可笑しくなり、コンビニ行くと出て行ってしまった。
その直後、義妹のダリアが交通事故で緊急搬送されたと電話があり、カエデは鬼柳第一病院へ向かった。病院に到着するとダリアは事故の影響で意識を失っていた。
義母ナツメに電話をするが、繋がらない。
応急手当が終わり、病院のベッドに横たわっているダリアに付き添っていると、彼女が目を覚ました。
「兄さん?私、、、」
「ダリア。起きなくていい。事故に合って頭を打っているみたいだ。」
「事故?そんな。ねえ、兄さん。私の婚約者に連絡をして。田中サカキに。彼に会いたいの」
「婚約者?また結婚するのか?」
「スマホがバックの中にあるから、すぐに彼に伝えて」
カエデは、義妹に言われるがまま彼女のスマホを取り、ロックを外してSNSを開いた。通知欄のトップに田中サカキの名前がある。頻回に連絡を取り合っている様子だった。
田中サカキのトークルームを開き、電話のマークを押す。
ティコティコティン。ツーツーツー。
ティコティコティン。ツーツーツー。
電話が繋がらない。
確認しようと、ダリアを見ると彼女は再び瞼を閉じていた。
漆黒の巻き髪には、所々血がこびり付いている。ダリアは運転中に自損事故を起こし搬送された。左腕と頭部を車で打ち付け、出血している。
白のワンピースには、点々と血がつき痛々しい。
もう、アヤメが帰ってきているかもしれない。でも、義理とはいえ、今の状態のダリアを一人にする事は気が引けた。
カエデは大きくため息をつき、ダリアのスマホの連絡帳を開いて田中サカキの電話番号を確認した。
ティコティコティン。ツーツーツー。
やはり繋がらない。
何度か電話をかけていると、やっと応答があった。
「もしもし。」
カエデは、電話先の男に伝える。
「田中さんですか?ダリアが交通事故に合い、鬼柳第一病院に搬送されました。」
「ダリアが!失礼ですが貴方は?」
動画の音なのか、田中サカキの電話先から、鈍く何かを打ち付けるような音に混じり、男女の声が聞こえてくる。
カエデは、答えた。
「俺は阿地カエデです。今は俺が付き添っています。ダリアは貴方に会いたいみたいです。」
「わかりました。できるだけ早く伺います」
そういい、田中サカキの電話は切れた。
カエデは、僅かに安堵しながらダリアの電話を床頭台の上に置いた。
深夜にやっと連絡が取れた田中サカキは、病院になかなか訪れなかった。
午前3時になって、やっと田中サカキが現れた。
田中サカキは、整った顔立ちの穏やかそうな人物だった。落ち着いた声色で、カエデに謝ってくる。
「すみません。遅くなりました。ダリアは大丈夫でしょうか?」
「初めまして、ダリアの義兄の阿地カエデです。少しだけ目を覚ましたが、また眠ってしまいました。貴方がダリアの婚約者ですか?」
「ええ、先週婚約したばかりです。義兄さんについてはダリアから聞いています。義兄さんもお疲れでしょう。付き添いを変わりますよ。念の為、連絡先を交換していただいてもよろしいでしょうか?」
「助かります。」
カエデは、スマホのQRコードを出し、彼と連絡先を交換した。
サカキのスマホを持つ袖口に、わずかな茶褐色の汚れを見てカエデは訝しく思った。
サカキは、カエデの視線に気が付いたのか、すぐにスマホを持ち替え袖口を隠した。
Xのアイコンが、カエデのスマホの友達欄に追加される。
「Xですか?」
「ええ、物騒な世の中ですから。義兄さん。ダリアの事は任せてください。なにかあれば連絡しますから」
田中サカキは、目尻を下げて、カエデに微笑みながら言った。
カエデは、田中サカキにダリアを託して病院を後にした。
結婚して初めての記念日は、とうに過ぎてしまった。
愛する妻の、穏やかな笑顔を思い浮かべながら、薄暗い道路を運転して自宅へ帰る。
記念日は、一緒にゆっくりと過ごしたかった。
何日も前から準備をしていたのに。
思い通りにならない。
アヤメの悲しそうな表情が脳裏に浮かぶ。
きっと妻はもう自宅に帰っているだろう。来週にでも埋め合わせをしよう。
これからずっと、共に生きていく。何度も記念日を共に過ごす。
結婚後いろんな事があり過ぎたからだ。
得体のしれない不安を感じるのはきっと気のせいだろう。
妻の事を愛している。この一年間仲良く過ごして来た。
気のせいだ。
なぜか、妻がカエデから離れて行ってしまうような気がするのは。
カエデは、閑散とした深夜の道路を自宅マンションに向かって車を走らせた。
不安も憂いも振り払うように。
カエデは、服を着替えながら、昨晩の事を思い出していた。
9か月前も、自宅マンションに侵入した不審者と同一人物と思われる女が再び現れた。でも、あの女を見た事も、会った事もない。自分が事故に合い前後の記憶が失われている事は知っている。
実母の会社に転職した時も、カエデが体調を崩した時も、妻のアヤメは寄り添い心配そうに世話をしてくれた。
鬼柳財閥でそれなりの成果を上げ、認められるようになったのも妻の支えがあったからだと思っている。
アヤメは、時々ぼんやりとマンションから見える夜景を眺めている事があった。穏やかに微笑むアヤメが、どこか遠くに行ってしまう気がして、得体のしれない不安を感じる事があった。彼女と結婚してから、状況が目まぐるしく変わってきた。結婚記念日にケーキやプレゼント、花束を準備し改めてアヤメに感謝を伝えようと思っていた。
だけど、、、
あの、真っ赤なドレスを着た見知らぬ妊婦が尋ねてきた後、アヤメの様子が可笑しくなり、コンビニ行くと出て行ってしまった。
その直後、義妹のダリアが交通事故で緊急搬送されたと電話があり、カエデは鬼柳第一病院へ向かった。病院に到着するとダリアは事故の影響で意識を失っていた。
義母ナツメに電話をするが、繋がらない。
応急手当が終わり、病院のベッドに横たわっているダリアに付き添っていると、彼女が目を覚ました。
「兄さん?私、、、」
「ダリア。起きなくていい。事故に合って頭を打っているみたいだ。」
「事故?そんな。ねえ、兄さん。私の婚約者に連絡をして。田中サカキに。彼に会いたいの」
「婚約者?また結婚するのか?」
「スマホがバックの中にあるから、すぐに彼に伝えて」
カエデは、義妹に言われるがまま彼女のスマホを取り、ロックを外してSNSを開いた。通知欄のトップに田中サカキの名前がある。頻回に連絡を取り合っている様子だった。
田中サカキのトークルームを開き、電話のマークを押す。
ティコティコティン。ツーツーツー。
ティコティコティン。ツーツーツー。
電話が繋がらない。
確認しようと、ダリアを見ると彼女は再び瞼を閉じていた。
漆黒の巻き髪には、所々血がこびり付いている。ダリアは運転中に自損事故を起こし搬送された。左腕と頭部を車で打ち付け、出血している。
白のワンピースには、点々と血がつき痛々しい。
もう、アヤメが帰ってきているかもしれない。でも、義理とはいえ、今の状態のダリアを一人にする事は気が引けた。
カエデは大きくため息をつき、ダリアのスマホの連絡帳を開いて田中サカキの電話番号を確認した。
ティコティコティン。ツーツーツー。
やはり繋がらない。
何度か電話をかけていると、やっと応答があった。
「もしもし。」
カエデは、電話先の男に伝える。
「田中さんですか?ダリアが交通事故に合い、鬼柳第一病院に搬送されました。」
「ダリアが!失礼ですが貴方は?」
動画の音なのか、田中サカキの電話先から、鈍く何かを打ち付けるような音に混じり、男女の声が聞こえてくる。
カエデは、答えた。
「俺は阿地カエデです。今は俺が付き添っています。ダリアは貴方に会いたいみたいです。」
「わかりました。できるだけ早く伺います」
そういい、田中サカキの電話は切れた。
カエデは、僅かに安堵しながらダリアの電話を床頭台の上に置いた。
深夜にやっと連絡が取れた田中サカキは、病院になかなか訪れなかった。
午前3時になって、やっと田中サカキが現れた。
田中サカキは、整った顔立ちの穏やかそうな人物だった。落ち着いた声色で、カエデに謝ってくる。
「すみません。遅くなりました。ダリアは大丈夫でしょうか?」
「初めまして、ダリアの義兄の阿地カエデです。少しだけ目を覚ましたが、また眠ってしまいました。貴方がダリアの婚約者ですか?」
「ええ、先週婚約したばかりです。義兄さんについてはダリアから聞いています。義兄さんもお疲れでしょう。付き添いを変わりますよ。念の為、連絡先を交換していただいてもよろしいでしょうか?」
「助かります。」
カエデは、スマホのQRコードを出し、彼と連絡先を交換した。
サカキのスマホを持つ袖口に、わずかな茶褐色の汚れを見てカエデは訝しく思った。
サカキは、カエデの視線に気が付いたのか、すぐにスマホを持ち替え袖口を隠した。
Xのアイコンが、カエデのスマホの友達欄に追加される。
「Xですか?」
「ええ、物騒な世の中ですから。義兄さん。ダリアの事は任せてください。なにかあれば連絡しますから」
田中サカキは、目尻を下げて、カエデに微笑みながら言った。
カエデは、田中サカキにダリアを託して病院を後にした。
結婚して初めての記念日は、とうに過ぎてしまった。
愛する妻の、穏やかな笑顔を思い浮かべながら、薄暗い道路を運転して自宅へ帰る。
記念日は、一緒にゆっくりと過ごしたかった。
何日も前から準備をしていたのに。
思い通りにならない。
アヤメの悲しそうな表情が脳裏に浮かぶ。
きっと妻はもう自宅に帰っているだろう。来週にでも埋め合わせをしよう。
これからずっと、共に生きていく。何度も記念日を共に過ごす。
結婚後いろんな事があり過ぎたからだ。
得体のしれない不安を感じるのはきっと気のせいだろう。
妻の事を愛している。この一年間仲良く過ごして来た。
気のせいだ。
なぜか、妻がカエデから離れて行ってしまうような気がするのは。
カエデは、閑散とした深夜の道路を自宅マンションに向かって車を走らせた。
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