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それからの絆
【一】ぽかぽかの家出
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「……でね……あのね………『親父殿のバカ! あんぽんたんっ!!』………ってね、星が家出しちゃったんだよー。パパ、どうしたら良いのかなあー?」
俺の目の前にある大きな机に突っ伏して、泣き真似をしているのは、言わずと知れたクソ親父だ。
「…はあ…。いや、しかし、ご子息は成人されてますし、家出も何も…」
出勤早々の司令からの呼び出しに、渋々応えてやって来て見れば、恒例の息子自慢から始まり、それを右から左へと流していたら、気が付けば星が家出したと云う話へと流れていた。
「君は星が心配じゃないのかね!?」
「心配も何も。ご子息とは、出勤時に更衣室で会いましたし、元気に挨拶を…」
そう。星とは、ほんの十数分前に会話をしている。
何時もと同じく、脳天気に『ゆかりんたいちょ、おっはよ~』と、挨拶され『ゆかりんと呼ぶな!』と、その脳天に拳骨を落としたばかりだ。
別段、普段と変わった処は無く、今日は俺達の班が巡回だから、隊員として恥ずかしくない行動を心掛ける様にと、釘も刺した。
家出では無く、ただ出勤しただけではないのか?
勤務が終われば、何時もの様に直帰すると思うが?
「それは空元気に決まっておるだろう!? 星が傷付いているのだよ!? 何故、気付かないのかね!? 君は、もっと下の人間に気を使うべきだね!」
「…はあ…留意します…」
…いや、俺に拳骨を落とされた後で『腹減った』と言って、食堂に走って行ったのだが? 朝礼前には戻れと言ったが、俺が戻れなさそうだ。まあ、天野が何とかしてくれるだろう。
「ああ、星が戻って来なかったらどうしようー。誰か悪い、そう、目付きの悪いおじさんに攫われたりしたらどうしようー」
いや、何故、そこで恨めし気な上目遣いで俺を見る?
そもそも、星を攫える人間が居るとは思えないが?
この親父の中で、星はいったい幾つの子供なんだ?
「…あの…。そもそも、家出…の切っ掛けは何だったのか聞いても?」
「………………だん………やだって……」
「は? 声が小さくて良く聞き取れなかったのですが?」
ふいっと、俺から顔を背け唇を尖らせた司令に、俺は眉を跳ね上げ聞き返した。
「縁談! 星が嫌だって! 駄々捏ねて家出したの!」
「失礼しますっ!!」
バンッと音を立てて、机に手を置いて司令が椅子から立ち上がり、そう叫んで来たから、俺は即座に身を翻して出入口の扉へと飛び付いた。
「待ちたまえ! 話を聞いてくれないと、無い事無い事雪緒君に言いふらしちゃうよ!?」
「何処のクソガキだっ!!」
あまりの言い分に、上司だと云う事を忘れて、つい素で怒鳴ってしまった。
「だってぇー、寂しいんだもん。いっつも仕事の時は二人で出勤していたのにっ! 今朝、星はさっさと一人で行っちゃうし! 朝ご飯食べてないし! 嫌いだって言われたし! それで帰らないって言うし! 君みたいに仏頂面で不愛想で面白みの無い男じゃ星の代わりになんて到底、天と地がひっくり返ってもなれないんだけどね? でも、そんな君でも、話し相手ぐらいにはなれるよね? あのね、先月の新月の時に君達の隊に栗粟村に行って貰ったよね? あの、温泉地の。あの時ね、さる財閥のお嬢さんが湯治に来ていてね。それを助けたのが、私の星でね、その時にそのお嬢さんが星を見初めてね。それでね、縁談の話が来てね。会うだけで良いからって星には言ったんだけどね。会うだけでも嫌だって星が言ってね。パパだって、星が居なくなるのは寂しいから、嫌なんだけど。でも悪い話じゃないし、星の幸せに繋がるのなら良いとは思うんだけどね? 子供の幸せを願うのは親として当たり前だし、子を幸せにするのは親の務めだと思うんだよね。君も解るよね?」
再び椅子に腰を下ろして長々と語る司令を前に、俺は片手で顔を隠し、長い息を吐いた。
色々と突っ込みたい事はあるが。
「…瑛光叔父貴…」
扉の取っ手に手を掛け、軽く肩越しに振り返り、俺はそう声を放つ。
「うん!? 今、何て!? えみ叔父さんと、是非呼んでくれたまえっ!!」
途端に司令の声が跳ね上がり、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。今にも、その重厚な机を倒しそうな勢いだ。
「…何時までも子供だ子供だと言っていたら、足元を掬われますよ」
…何時かの俺の様に…。
「…うん?」
目を瞬かせて首を傾げる司令を残して、俺はそこを後にした。
…あの頃、迷って悩んで先に進む事の出来なかった俺の背中の最後の一押しをしてくれたのが、あのクソ親父だった。
その親父が、ああして悩んでいる姿を見るのは、かつての自分を見ている様で、どうにも胸糞が悪い。
何時だって、飄々としていて貰わないとやり難いし、拍子抜けもする。
「…それにしても…」
毎朝一緒に出勤していて今朝は別々だったとか、今日は帰らないと言われただけで"家出"とか、どれだけべったりなんだ、あの親子は。全く頭が痛い。
◇
そして。
すっかりと陽が落ちるのも早くなり、吹く風も冷たくなった家路を辿れば。
「お! おじさん、お帰り!」
茶の間で何故か星が飯を食っていた。
何故だ!
親子喧嘩に俺達を巻き込むな!!
俺の目の前にある大きな机に突っ伏して、泣き真似をしているのは、言わずと知れたクソ親父だ。
「…はあ…。いや、しかし、ご子息は成人されてますし、家出も何も…」
出勤早々の司令からの呼び出しに、渋々応えてやって来て見れば、恒例の息子自慢から始まり、それを右から左へと流していたら、気が付けば星が家出したと云う話へと流れていた。
「君は星が心配じゃないのかね!?」
「心配も何も。ご子息とは、出勤時に更衣室で会いましたし、元気に挨拶を…」
そう。星とは、ほんの十数分前に会話をしている。
何時もと同じく、脳天気に『ゆかりんたいちょ、おっはよ~』と、挨拶され『ゆかりんと呼ぶな!』と、その脳天に拳骨を落としたばかりだ。
別段、普段と変わった処は無く、今日は俺達の班が巡回だから、隊員として恥ずかしくない行動を心掛ける様にと、釘も刺した。
家出では無く、ただ出勤しただけではないのか?
勤務が終われば、何時もの様に直帰すると思うが?
「それは空元気に決まっておるだろう!? 星が傷付いているのだよ!? 何故、気付かないのかね!? 君は、もっと下の人間に気を使うべきだね!」
「…はあ…留意します…」
…いや、俺に拳骨を落とされた後で『腹減った』と言って、食堂に走って行ったのだが? 朝礼前には戻れと言ったが、俺が戻れなさそうだ。まあ、天野が何とかしてくれるだろう。
「ああ、星が戻って来なかったらどうしようー。誰か悪い、そう、目付きの悪いおじさんに攫われたりしたらどうしようー」
いや、何故、そこで恨めし気な上目遣いで俺を見る?
そもそも、星を攫える人間が居るとは思えないが?
この親父の中で、星はいったい幾つの子供なんだ?
「…あの…。そもそも、家出…の切っ掛けは何だったのか聞いても?」
「………………だん………やだって……」
「は? 声が小さくて良く聞き取れなかったのですが?」
ふいっと、俺から顔を背け唇を尖らせた司令に、俺は眉を跳ね上げ聞き返した。
「縁談! 星が嫌だって! 駄々捏ねて家出したの!」
「失礼しますっ!!」
バンッと音を立てて、机に手を置いて司令が椅子から立ち上がり、そう叫んで来たから、俺は即座に身を翻して出入口の扉へと飛び付いた。
「待ちたまえ! 話を聞いてくれないと、無い事無い事雪緒君に言いふらしちゃうよ!?」
「何処のクソガキだっ!!」
あまりの言い分に、上司だと云う事を忘れて、つい素で怒鳴ってしまった。
「だってぇー、寂しいんだもん。いっつも仕事の時は二人で出勤していたのにっ! 今朝、星はさっさと一人で行っちゃうし! 朝ご飯食べてないし! 嫌いだって言われたし! それで帰らないって言うし! 君みたいに仏頂面で不愛想で面白みの無い男じゃ星の代わりになんて到底、天と地がひっくり返ってもなれないんだけどね? でも、そんな君でも、話し相手ぐらいにはなれるよね? あのね、先月の新月の時に君達の隊に栗粟村に行って貰ったよね? あの、温泉地の。あの時ね、さる財閥のお嬢さんが湯治に来ていてね。それを助けたのが、私の星でね、その時にそのお嬢さんが星を見初めてね。それでね、縁談の話が来てね。会うだけで良いからって星には言ったんだけどね。会うだけでも嫌だって星が言ってね。パパだって、星が居なくなるのは寂しいから、嫌なんだけど。でも悪い話じゃないし、星の幸せに繋がるのなら良いとは思うんだけどね? 子供の幸せを願うのは親として当たり前だし、子を幸せにするのは親の務めだと思うんだよね。君も解るよね?」
再び椅子に腰を下ろして長々と語る司令を前に、俺は片手で顔を隠し、長い息を吐いた。
色々と突っ込みたい事はあるが。
「…瑛光叔父貴…」
扉の取っ手に手を掛け、軽く肩越しに振り返り、俺はそう声を放つ。
「うん!? 今、何て!? えみ叔父さんと、是非呼んでくれたまえっ!!」
途端に司令の声が跳ね上がり、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。今にも、その重厚な机を倒しそうな勢いだ。
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…何時かの俺の様に…。
「…うん?」
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◇
そして。
すっかりと陽が落ちるのも早くなり、吹く風も冷たくなった家路を辿れば。
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