旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それからの絆

【四】ぽかぽかのならず者

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 せいの語った話に、俺はただ眉間の皺を解していた。

 いや、家出…の理由はあの親父から聞いていたが。
 だが、何だ?
 話を聞くに、まず、楽しい晩酌の時に縁談の話が出て、臍を曲げた。
 朝、親父を起こそうとしたら既に起きていて、何時もは星が朝飯を作っているのに、それが作られていて、更に拗ねた。
 そこにまた縁談の話が出て、朝飯の用意をしたのが星のご機嫌取りだと気付いて、怒髪天を衝いた…と、云う事で良いのか…?
 そして、俺はあの親父が言った様に人攫いになったのか?
 恨めし気に俺を見て来たのは、星が家に来ると解っていたからか?
 まあ、確かに星が真っ先に来るのは、雪緒ゆきおが居る我が家になるのだろうが。
 だが、気に入らない。
 何故か、あの親父の掌の上で転がされている様な気になる。

「だが、しかしだな…」

「…ええと…。星様は…悲しかったのでしょうか…?」

 俺が口を開こうとした処で、先に隣に座っている雪緒が口を開いた。
 茶の間に三人居るが、正座をしているのは雪緒だけで、俺と星は胡坐を掻いている。
 こいつが足を崩して座っているのを見た事が無いな、そう云えば。
 風呂に入っている時だって正座だ…あ、いや…うん…。
 口元に拳をあてて、頭に浮かんだ雪緒の姿を消そうと、俺は軽く咳ばらいをした。

「うん?」

 軽く首を傾げる星に、雪緒は軽く目を伏せて、茶の入った湯呑みを両手で包んで言葉を続けた。

「お好きなえみちゃん様のお口から、他の方との縁結びのお話が出て悲しかったのでしょうか…?」

「…かなしい…?」

 雪緒の言葉に、星は更に首を傾げた。
 首が折れそうなんだが。

「…ご自分の…気持ちを無視されて…お話をされる事…悲しいですよね…」

 ん?
 何だ?
 誰が、何が、とは言わないが…それは俺の事か?
 何かをぶつぶつと呟いていたが、それは六年前に家を飛び出した事を思い出して、あの時の自分と今の星を重ねていたのか?
 俺の方を雪緒は見ている訳では無いが。
 その目は湯呑みに向けられているが。
 だが、何時かの様に、また胃がしくしくと痛み出して来た気がする。
 うう…。
 これは、この問題は早急に方を付けた方が良い。間違いない。

「…ん…。そうかも…。…とにかく、イヤだったんだ。だって、おいらは親父殿がすきなのに。親父殿がいればそれでいいのに…。親父殿がお見合いだなんて…おいらがいなくても平気みたいな事を言うから…」

「…星様…」

 話ながら段々と俯いて行く星に、雪緒は気遣う様に静かな声を上げてから、俺を見て来た。
 軽く息を吐いてから、茶を一口飲んで俺はそれを口にする。

「…まあ、今日は泊まって行けば良い。明日は帰るんだ。帰って、良く親父と話せ。…星に嫌われたと言って泣いていたからな」

 …泣き真似だったが…。

「…泣いてたのか? そっか…」

 俺の言葉に、星は傷付いた様な表情を浮かべた。
 常にべったりだが、互いを大切にしているのは間違いがないからな。
 衝動的にだが、結果として傷付けてしまった事を後悔しているのだろう。
 泣いたり怒ったり笑ったり傷ついたり…素直に感情を表す、こんな誰よりも人間らしい星が、元は人々から恐れられ、忌み嫌われるあやかしだった等と誰が思うだろうか?
 いや、妖だったからこそ、素直に感情を表すのだろうか?

「それでは、星様はご自宅へご連絡を入れて下さいね。僕はお風呂を沸かして来ます。あと、客間にお布団も敷いて来ましょう。旦那様、夕餉はどう致しましょう? 晩酌の準備をしても宜しいでしょうか?」

「ああ、そうだな…それで頼む」

「はい」

 頷いて、雪緒は茶の間から出て行った。
 星の話を聞きながら用意されていた煮物や、秋刀魚等を摘まんでいたから、さほど腹は減っていない。

「ん。じゃあ、電話借りるな」

 それを見て、電話を指差す星に俺も頷く。

「ああ。心配しているだろうから、早く安心させてやれ」

 でないと明日、あの親父に何を言われる事か。
 いや、どちらにせよ何だかんだと言われるのは間違いないか。
 凡その予想は付く。まずは食事、そして風呂、夜はしっかりと眠れていたのか、朝の目覚めはどうだったのか、朝飯は食った…。

「…親父殿のバカ!! もう、おいら帰らないからなっ!!」

 そんな事を考えていたら、星の怒鳴り声が聞こえて、ガチャンッと乱暴に受話器を置く音が聞こえて来た。

「…は…? おい、星?」

 何だ? 少し考え事をしている間に何があった?

 星の名を呼べば、星は両手で頭を掻き乱して唇を尖らせた。

「親父殿、まだお見合いとか言うんだ! とにかく会えって! もう、あんな親父殿なんか知らない! おいらおじさんの子供になる!」

「はあ…っ!? 何を言い出すんだ、お前は!? いいか? あの親父がそう言うのには、訳があるんだ。お前は自分だけの問題だと思っているだろうが、断るにしても、相手方と…」

「知ってるぞ! 縁談断る時は、ちんちんたたないって、おじさんのように言うんだろ? 親父殿と相楽さがらのにーちゃんが言ってた!」

 ――――――――は…?

「おいら、嘘でもそんな事言いたくない! おいらのちんちん元気だし!」

 …何だって…?
 こいつは、今、何て言った?

「…あ、の…何のお話をされているのでしょうか…? …晩酌の準備をしても宜しいのでしょうか…星様はお呑みになりますか…?」

 あまりにもあまりな星の言葉に呆然と固まる俺の耳に、困った様な雪緒の声が届いた。

「ん! 呑む! 頭に来たから、呑むぞ! あ、ゆきお! 風呂いっしょに入ろうな! で、一緒に寝ような!」

 茶の間の入口に佇む雪緒の両手を取って、星は笑顔を浮かべてそんな事を口にした。

「ふえ?」

「駄目だっ!!」

 目を瞬かせる雪緒と星の間に、俺は慌てて飛び込む。

「あだっ!!」

 どさくさに紛れて何を言い出すんだ、こいつはっ!!

 明日、何が何でも帰さねばと、星の頭に平手打ちをしながら俺は思った。



――――――――おまけ――――――――

旦那様「…おい…」

相楽 「うん~? 結構前にね~? 星君に聞かれた事があったんだよねえ~。で、せっかくだからあ~面白おかしくしようかと思って~。あ、悪気は無いからね~?」

旦那様「悪意しかないだろうっ!!」
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