旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それからの絆

【三】ぽかぽかの逆鱗

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 バカが居た。
 おいらもバカだと思うけど、そいつはもっとバカだった。

「こんにゃろ!!」

『オ"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ッ"!!』

 お月さまの無い暗闇の中、手にしていた刀であやかしの赤い目を貫けば、そいつはイヤな悲鳴を上げてボロボロになって消えて行った。

「はあああ、ありがとうございます、助かりまし…たっ!?」

「何やってんだ、お前」

 おいらの後ろにいた女が声を掛けて来たから、おいらは振り返って、湯の中に座りこんでるそいつの頭をガシッと掴んだ。

「はわ!? あ、あの、頭が痛いのですが!?」

「死ぬ時はもっと痛いし、死んだら痛いとかわからなくなるんだぞ!」

 多分。おいら死んだ事無いからわかんないけど。

「はあああ! ですが、入浴中でしたので、出るに出られずでして!」

「風呂入る時は裸なんだから、別に裸のまま逃げても問題無いだろ! 食べられたいのか!?」

「食べられたくは無いですが! ですが、衆人の前に裸体を晒す訳には参りませんのでっ!」

「今! おいらに見せてるだろ! 別にどっかでっぱってるとか無いし! つるつるだし!」

「これは決して見せている訳では無くてですね!? 不可抗力と云いますか! それよりも、それはスレンダーと受け取って宜しいのでしょうか!? 胸が無いと云う意味では無いですよね!? つるつるとは、お肌がつるつると云う事で良いのですよね!?」

「胸なら親父殿のがあるし! 親父殿のはぼさぼさだし! 腹にも胸にもあるし!」

「はわ!? それは雄っぱいと呼ばれる物では!? ぼ、ぼさぼさ、胸毛にお腹までぼさぼさなのですか!?」

「お嬢様――――――――っ!?」

せい君!? 女の子に何してるのーっ!?」

「星! このど阿呆が――――――――っ!!」

「あだっ!!」

 ゆかりんたいちょのゲンコツが、おいらの頭に落ちた。痛い。

 今日はお月さまの消える日だ。
 妖の力が、一番強くなる日。
 あいつらが一番元気な日。
 今、おいら達が居るのは、周りを山に囲まれた温泉で有名な村だった。観光地だけあって、この村に駐屯する朱雀部隊の討伐隊は、他の小さな村と比べれば、人数が居る。けど、お月さまの消える日は、それだけでは足りなくて。おいら達、ゆかりんたいちょが率いる第十一番隊が応援に来ていた。
 妖の接近を知らせる鐘の音が鳴り響く中で、おいら達は駆け、そいつらを退治して行く。
 たける副たいちょは、ノリノリで刀を振り回している。いつも、それぐらい真面目にやれば良いのに、と、おいらは思う。
 るりこは、篝火に囲まれた場所にいる避難した村人や、観光客の守りを重点的にって、言われてたハズなんだけど、丸い目を爛々と輝かせて、篝火から離れた場所で刀を振り回していた。うん、後でゆかりんたいちょに怒られるぞ。おいら知らないぞ。
 おいらも、そいつらをやっつけながら、逃げ遅れた人が居ないか、辺りを見回す。昔、鐘がガンガン鳴ってるのに、のんきに洗い物をしているヤツが居たらしい。誰とは言わないけどな!
 まあ、そんなのんきなヤツは、そうそう居ないだろうって、ゆかりんたいちょは言ってたけど。

「はぅわああああああっ!! わたくしは食べても美味しくありませんわよーっ!?」

 ………………………………何か、聞こえた…………。

 がしがしと頭を掻いて、おいらは『露天風呂』って看板がある建物の中に入って行った。
 そこは、着物を脱ぐ場所だけが壁と屋根があって、そこを抜けたらすぐ外だった。竹で組んだ壁に囲まれた岩風呂が目の前に広がっていて、その風呂の中に女と妖が居た。岩風呂の四隅に篝火が焚かれているけど、その妖は火を怖がらないヤツなんだな。
 女は湯の中に浸かりながら、ぶるぶると震えていたし、妖はそんな姿を見るのが面白いのか、じりじりと近付いて行ってる。ヤなヤツだ。
 そいつは六本脚で、何だか蜘蛛みたいなヤツで。でも大きくて…ヒグマぐらいあるのかな? そんぐらいの大きさだった。

「逃げろ、バカ!!」

 走りながら刀を構えて、おいらが叫べば、妖と女がこっちを見て来た。

「はあっ!? はっ!? そのお姿は、まさか月也つきや様っ!?」

 と、思ったら、女が丸い目を更に丸くしておいらを見て叫んで来た。

 つきや? 何だそれ?

 軽く首を傾げた時、妖が動いた。から、おいらは迷いなく湯の中に入り、妖と女の間に割って入って、そいつの胸を刀で斬り付けた。

 そんで。
 女の頭を掴んでワシワシしてたら、松明を持った知らないおばさんとるりことたいちょがやって来て、おいらはたいちょにゲンコツを落とされて怒られていた。
 そんな中で、るりこは自分の上着を脱いで女に着せて、建物の中にひっこんで行った。松明のおばさんも一緒だ。
何でも、どっかの金持ちのお嬢様で、湯治に来ていたって。おばさんが目を離した隙に、篝火があるからって露天風呂に来たって。バカだろ。お月さまの無い日の妖を甘く見すぎだろ。おいらがそう言ったら、ゆかりんたいちょも『全くだ』って頷いていたけど。

「だが、それとこれとは別だ。民間人相手に、それも女の子を相手に何をしているんだ、お前は!! お前のその行動は、お前一人の物では無いんだぞ! いいか!!」

 うぐぅ。次に続く言葉はわかってる。から、つい耳をほじったら、またゲンコツが飛んで来た。痛い。

 ◇

「ん? 縁談? お見合い? おいらが?」

 それからしばらくして、親父殿がそう言って来た。
 晩飯食べた後、食後の酒を楽しんでる時だ。

「うん。さる財閥のお嬢さんでね。ほら、先月、星が助けたお嬢さんを覚えているかね? その時に星を…」

 ニコニコと親父殿が、コップを手に言ってるけど。

「おいら、ヤだよ。そんなのしないよ」

 おいらは、親父殿とずっと居るんだから、そんなの必要ないよ。

「いや、しかしだね? 悪い話ではないのだよ? 相手に気持ちはあるのだし、星の給金や万が一の見舞金目当て…」

 へにょっと親父殿の眉が下がった。

「ヤだったら、イヤだ! おいら寝る! おやすみ!!」

「星!」

 バンッて、テーブルを叩いて立ち上がって、おいらはリビングから出て、自分の部屋に戻った。
 親父殿は、何を言ってるんだ?
 お見合いって、結婚するって事だろ?
 何で、おいらがそんなのしなくちゃならないんだ!
 おいらには、親父殿がいるのに!
 バカバカ、親父殿のバカ!

 ぼふぼふ枕を叩いていたら、気が付いたら朝になってた。枕を叩きながら眠っちゃったみたいだ。ちょっと、両方の肩が痛いかも。親父殿起こして、ぎゅーぎゅー揉んで貰お。

「…え…?」

 着替えをして、親父殿の部屋に行く前に、リビングから美味そうな匂いがして来たから、覗いたら、そこには寝起きのぼへっとした親父殿じゃなくて、しゃっきりした親父殿がエプロンして朝飯を用意してた。

「あ、おはよう星。今朝はね、パパが朝ご飯作ったよ。何時も星に作って貰ってるからね。それでね、縁談の話なんだけどね、会うだけでも良いから、そうしてくれないかな? 勿論、受ける受けないは星の好…」

 まだ言うのか!?

「親父殿のバカ! あんぽんたんっ!! おいら、もう行くっ!!」

 肩揉んで貰おって思ったけど、そんなのいらないや!

「星!?」

「会うだけだってイヤだしっ! そんな話する親父殿なんてキライだっ! まだ、そんな話するなら、おいら、帰らないからっ!!」

 慌てて親父殿がおいらの方に来ようとしたけど、おいらは逃げてリビングの扉に飛び付いた。

「待ちなさい、星! せめて朝ごは…」

「キライな親父殿の作った物なんていらないっ!!」

 腹減ってるけど、食べたくないっ!!

 ◇

 って、家出した理由をおじさんも帰って来たから、話したんだけど。
 おじさんはひたすら、眉と眉の間を指でグリグリしてるし、ゆきおはゆきおで、何かぶつぶつ言ってる。
 おいら、何か変な事言ったかな?
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