旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【雪】飛んで火に入る

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 ゆかり様のお元気がありません。
 お仕事で何かあったのでしょうか?
 何時も以上にむっすりとしていまして、食も細い様です。
 幸い、今夜はざるうどんにしましたから、残った分は明日の朝、煮込みうどんにしましょうね。

「…すまん…」

 申し訳無さそうに紫様が箸を置きました。

「いいえ。今、晩酌の準備を致しますね」

「ああ、いや…今夜は良い…。すまんが、風呂に入って休ませて貰う…」

 食べていました心太ところてんの入った器を卓袱台に置きまして立ち上がろうとしましたら、止められてしまいました。
 晩酌をされないだなんて、これは余程の事です。僕が心太を食べていましても、何も言われないのもおかしいです。

「…まさか…」

 そこで僕ははっとしました。
 お仕事の事では無くて、紫様御自身の事なのでしょうか?
 そうです。あの紫様が晩酌をされないだなんて、有り得ません。
 考えられますのは、不治の病に冒されていると云う事だけです。

「…そんな…まさか…」

 まさかと思いながらも、一度浮かんだ考えは中々消えてはくれません。
 じわりと視界が滲んで来ました。
 いけません、駄目です。
 お辛いのは紫様なのです。
 僕が泣く訳には行きません。
 僕は僕に出来る事をするのです。

 ◇

「…は…? 雪緒ゆきお? 何て?」

 布団の上で身体を起こしました紫様が、目を瞬かせて僕を見ています。その横で僕は正座して、畳に三つ指を付いて頭を下げました。

「はい。ですから、御一緒に就寝しても宜しいでしょうか?」

 そうです。
 僕に何も言わないと云う事は、もう紫様にはお時間が無いと云う事です。
 ですから、一刻一刻を大切にして行きましょう。今あるこの時を無為に過ごす訳には参りません。

「…は…、あ、いや…」

 紫様が片手で口を隠しまして言い淀みます。
 その細く鋭い目が宙を泳いでいます。
 まさか、共に居る事で伝染る病なのでしょうか?
 そうだとしましても、紫様から離れる事等、僕には出来ません。

「僕なら大丈夫です。解っています」

 力強く頷いて、紫様の目を真っ直ぐと見詰めましたら、紫様は喉を詰まらせた後に、こう言いました。

「…どうなっても知らんぞ」

 と。
 ですから、僕はこう言いました。

「覚悟の上です」

 ◇

「…ふぇ…っ…!」

 …はい…覚悟はしていましたが…。

「ふぇっ、ふぇっ、ふえぇっ!」

 …おかしいですね…?
 覚悟の方向が間違っている様な気がするのは、何故なのでしょうか…?

「…くっ…!」

 …ですが…この様に元気があるのでしたら…問題は無いと云う事なのでしょうか…?

「ふえぇぇぇぇ~…」

 熱い飛沫を体内に感じながら、僕は意識を手放したのでした。
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