旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【雪】夏の終わりの花

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 パチパチとした静かな音が辺りに響きます。
 そして、ジュッとした、小さな火種がお水の中に落ちる音が。
 微かではありますが、リーリーとした秋の気配を思わせる様な、小さな虫の鳴き声も聴こえます。

「…お前、線香花火が好きだな。花火と云えばこればかりだ。…っち、逃がしたか…」

 僕の正面に立ちますゆかり様が、ぺちりと首筋を軽く叩いてから何処か呆れた様に言います。
 夕餉の後、僕達はお屋敷のお庭で、夏の終わりの花火を楽しんでいる処です。と言いましても、線香花火だけなのですけれどね。
 俯いた向日葵が見守ります僕達の足元には、お水の入りました桶があります。その中には既に何本もの線香花火の欠片が浮いていました。
 それらを見ながら、僕は小さく口元を緩めます。

「…好きなのです…。…この小さな光が…」

 初めて、この小さな光を見たあの日から。
 三尺玉を使います打ち上げ花火も綺麗だと思いますが、僕はこちらの方が綺麗だと思うのです。
 小さくても、僅かな時間でも、暗闇の中で光の花を咲かせる、この線香花火が。きらきらとした、光を放つ、この小さなお花が、とても愛らしいと思うのです。
 あの時、紫様は詫び寂びと言いましたが、残念ながら僕は未だに良く解りません。
 ぽとりと、小さな火種が桶にありますお水の中に落ちて消えて行きます。
 これを寂しいと思う気持ちがそうなのでしょうか?

「…まあ…らしい、か」

 ふ…と、軽く息を吐く様に紫様が目を細めて口元を緩めました。
 何が"らしい"のかは良くは解りませんが。
 あの時、線香花火を渡して下さったのは紫様ですよ?
 花火の締め括りと紫様は仰いましたが…夏の締め括りの一本なのだと、僕は思います。
 夏を静かに送る小さな光のお花は、小さく小さくお水の中へと溶けて行きまして、静かに訪れる秋を迎えるのです。

「…風も大分冷たくなって来たな。中へ入るぞ」

 さわりさわりと身体を撫でて行く風に、紫様が僅かに身体を震わせました。

「そうですね。あ、お酒温めましょうか?」

「ああ、熱燗にしてくれ」

 晩酌の前に花火を始めましたからね。
 お身体が冷えた御様子ですから、お酒で温まって貰いましょうね。
 縁側へと向かいます紫様の背中を見送りまして、僕はそっと後ろにあります向日葵を見ます。
 あの頃は見上げるだけでした向日葵でしたが、今は僕と同じ目線にそのお花がある物もあります。
 さわりさわりと吹く風に、はらりはらりと花弁が攫われて行きます。
 そっと掌を差し出せば、それが一片ひとひらふわりと舞い落ちて来ました。

「…また、来年お会いしましょうね」

 それに僕はそっと微笑みました。
 さわりさわりと吹く風は、ひやりとしていますが、それはとても優しく身体を撫でて行きました。
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