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それぞれの絆
【旦】天の川の先に・三
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「もぉ~。紫君、手早すぎ~。みくちゃんが居たら怒られてるよ~?」
「みくの怒りなぞ知った事か。とにかく、俺と雪緒以外は、お前の事を今より以前に知っていたと云う訳だな?」
相楽が眼鏡を光らせて俺を見て来るが、そんなのは知らん。雪緒より怖い物なぞ存在して堪るか。
天野の甚平の襟刳りを掴んで、俺は奴に鼻先を付ける勢いで睨み付けた。
「あ、うん、まあ…」
俺の言葉に、天野は刹那視線を泳がせたが、直ぐに太い眉と目を下げてへにゃりと笑った。
確かに、相楽が言う通りに、これだけ顔を寄せてみても、天野の顔には深く刻まれた皺は無い。浅い皺が幾つか見られるぐらいだ。髪も白髪は無く、憎らしいぐらいに艶々と張りがある。肌も同じぐらいに張りも艶もある。傍に居るからと、相楽は言った。確かに、ほぼ毎日見ているせいで、麻痺していたのかも知れん。知れんが、それを言われるまで気付かなかったのが、情けなく、また、腹立たしい。
仲間であり、幼馴染みであり、友であるこいつの変化に、何故、気付けなかったのか。
幾ら天野でも、それを知った時は悩んだ筈だ。何故、その時に打ち明けてくれなかったのだ。…まあ…打ち明けられた処で、力になれたかどうかは疑問だが、幾らかでも、その悩みを軽くする事は出来た筈だ。
「…あ~…ゆかりん…? 何か色々ごちゃごちゃと考えているみたいだが…」
「悪いか」
「…悪くはないけどさ…そんな風に思い悩んで欲しくないから、言わなかったんだよな。ゆかりん、すーぐ難しく考えるからさ。ぎりぎりで話せば、悩む時間も少なくて済むかな、なんてな」
「ぐ…」
昔、それと似た様な事を相楽に言われた俺は思わず唸ってしまった。
お前達が考えなさ過ぎだろうと、直ぐに言い返せないのが、それを肯定している様で何とも不甲斐無い。
「まあ、苦しいから手を離してくれ、な?」
掴む手を軽く叩かれて、俺は天野から顔を離し、襟刳りを掴んでいた手も離した。
「…まあ、そんな訳でさ、今はまだゆかりんみたいに気付かない奴らばかりだが、いずれは俺がおかしい事に気付くだろう。そうなった場合、俺のおかしい要因…朱雀の一部の奴らは気付く筈だ」
天野の言葉に、俺の頭にとある人物の姿が浮かぶ。
「…みく、か」
朱雀の中で、みくが元妖である事を知るのは、目の前で変化を見た俺と天野、当時報告を受けた、あの親父…杜川元司令、五十嵐元副司令、救護隊の津山と須藤、そして、各隊の隊長と副隊長だけだが、何処で情報が漏れるか知れた物では無い。特に、一番、二番隊はみくに…他の元妖に対して好意的では無い。
「ああ。…不老不死って訳じゃないが、寿命が延びる、成長も緩やか…となると、それを知った奴らはどうするかね? 妖に、特別恨みを持つ奴らとか」
好意的では無い奴らの事を想像して、俺の背筋が震えた。
「…僕の考えだけどね…。一人の医師…まあ、探究心のある者には、格好の研究材料だよね」
が、相楽がそれに追い打ちを掛ける。
「相楽っ!」
「あー、良いって。もう既に聞かされたし、杜川さんも、五十嵐司令も、そう言ってた。まあ、そんな訳で、俺もみくちゃんも、実験動物になる気は無い。…だから、気付かれる前に逃げようって、なった」
「…なる程…」
と、納得するしかあるまい。
あの親父の『人も妖も手を取り合って仲良く』の計画は、まだ始まったばかりだ。天野やみくが害される恐れがあるのなら、天野が言う様に、皆の前から姿を消した方が良い。確かに、その方が良いのだが…。
「…居なくなるのか…」
天野とは、ほぼ生まれた時からの付き合いだ。みくに出逢うまでは、僅か三軒先に両親と住んでいた。みくと暮らす事になって、実家を出たのだ。
「あー、もうっ! 会えなくなる訳じゃないし、そんな湿っぽい顔するなって! 何の為に、この祝言を企てたと思ってる? 景気良く送り出して欲しいからだろうが!」
「…は…?」
そうだ。
そもそもは、この突拍子も無い祝言だ。
その理由が…それ、なのか?
「そう云う事だよ~。強引で悪いと思ったんだけどね~。その紋付き袴も、雪緒君に用意した物も、猛君からの餞別だよ~」
「…餞別…」
…いや…餞別とは、去る相手に贈る物ではないのか? 去るのはお前だろうが。
「ま、俺もみくちゃんも、お前と雪坊の祝言を見たかったんだよ。…まあ、俺が見たかったんだが。…なあ? 見せてくれよ。親友の晴れ舞台をさ。俺が、天野猛って人間で居る内に…。…俺が、まだ、ゆかりん達と同じ時間を歩んで居られる内に…俺が、俺で居る内に…」
「…天野…」
嬉しそうに、楽しそうに、照れ臭そうに、天野が笑う。その声音も、それを裏切らない快活な物だ。
だが。
だが、それなのに。
寂しいと思うのは、何故だ?
「まあ、それでだ。ご覧の通り、健康優良児なこの俺が、ほいほい朱雀を辞められる筈が無い。五十嵐司令には話を通してあるが、こんな事を公に話せる筈も無い」
しかし、白い歯を見せて豪快に笑って見せる天野に、その寂しさが吹き飛び、俺は軽く額を押さえた。
「…ああ…」
いや、健康優良児とは何だ。児とは。
「…だから、ゆかりん。俺を殺してくれ」
「みくの怒りなぞ知った事か。とにかく、俺と雪緒以外は、お前の事を今より以前に知っていたと云う訳だな?」
相楽が眼鏡を光らせて俺を見て来るが、そんなのは知らん。雪緒より怖い物なぞ存在して堪るか。
天野の甚平の襟刳りを掴んで、俺は奴に鼻先を付ける勢いで睨み付けた。
「あ、うん、まあ…」
俺の言葉に、天野は刹那視線を泳がせたが、直ぐに太い眉と目を下げてへにゃりと笑った。
確かに、相楽が言う通りに、これだけ顔を寄せてみても、天野の顔には深く刻まれた皺は無い。浅い皺が幾つか見られるぐらいだ。髪も白髪は無く、憎らしいぐらいに艶々と張りがある。肌も同じぐらいに張りも艶もある。傍に居るからと、相楽は言った。確かに、ほぼ毎日見ているせいで、麻痺していたのかも知れん。知れんが、それを言われるまで気付かなかったのが、情けなく、また、腹立たしい。
仲間であり、幼馴染みであり、友であるこいつの変化に、何故、気付けなかったのか。
幾ら天野でも、それを知った時は悩んだ筈だ。何故、その時に打ち明けてくれなかったのだ。…まあ…打ち明けられた処で、力になれたかどうかは疑問だが、幾らかでも、その悩みを軽くする事は出来た筈だ。
「…あ~…ゆかりん…? 何か色々ごちゃごちゃと考えているみたいだが…」
「悪いか」
「…悪くはないけどさ…そんな風に思い悩んで欲しくないから、言わなかったんだよな。ゆかりん、すーぐ難しく考えるからさ。ぎりぎりで話せば、悩む時間も少なくて済むかな、なんてな」
「ぐ…」
昔、それと似た様な事を相楽に言われた俺は思わず唸ってしまった。
お前達が考えなさ過ぎだろうと、直ぐに言い返せないのが、それを肯定している様で何とも不甲斐無い。
「まあ、苦しいから手を離してくれ、な?」
掴む手を軽く叩かれて、俺は天野から顔を離し、襟刳りを掴んでいた手も離した。
「…まあ、そんな訳でさ、今はまだゆかりんみたいに気付かない奴らばかりだが、いずれは俺がおかしい事に気付くだろう。そうなった場合、俺のおかしい要因…朱雀の一部の奴らは気付く筈だ」
天野の言葉に、俺の頭にとある人物の姿が浮かぶ。
「…みく、か」
朱雀の中で、みくが元妖である事を知るのは、目の前で変化を見た俺と天野、当時報告を受けた、あの親父…杜川元司令、五十嵐元副司令、救護隊の津山と須藤、そして、各隊の隊長と副隊長だけだが、何処で情報が漏れるか知れた物では無い。特に、一番、二番隊はみくに…他の元妖に対して好意的では無い。
「ああ。…不老不死って訳じゃないが、寿命が延びる、成長も緩やか…となると、それを知った奴らはどうするかね? 妖に、特別恨みを持つ奴らとか」
好意的では無い奴らの事を想像して、俺の背筋が震えた。
「…僕の考えだけどね…。一人の医師…まあ、探究心のある者には、格好の研究材料だよね」
が、相楽がそれに追い打ちを掛ける。
「相楽っ!」
「あー、良いって。もう既に聞かされたし、杜川さんも、五十嵐司令も、そう言ってた。まあ、そんな訳で、俺もみくちゃんも、実験動物になる気は無い。…だから、気付かれる前に逃げようって、なった」
「…なる程…」
と、納得するしかあるまい。
あの親父の『人も妖も手を取り合って仲良く』の計画は、まだ始まったばかりだ。天野やみくが害される恐れがあるのなら、天野が言う様に、皆の前から姿を消した方が良い。確かに、その方が良いのだが…。
「…居なくなるのか…」
天野とは、ほぼ生まれた時からの付き合いだ。みくに出逢うまでは、僅か三軒先に両親と住んでいた。みくと暮らす事になって、実家を出たのだ。
「あー、もうっ! 会えなくなる訳じゃないし、そんな湿っぽい顔するなって! 何の為に、この祝言を企てたと思ってる? 景気良く送り出して欲しいからだろうが!」
「…は…?」
そうだ。
そもそもは、この突拍子も無い祝言だ。
その理由が…それ、なのか?
「そう云う事だよ~。強引で悪いと思ったんだけどね~。その紋付き袴も、雪緒君に用意した物も、猛君からの餞別だよ~」
「…餞別…」
…いや…餞別とは、去る相手に贈る物ではないのか? 去るのはお前だろうが。
「ま、俺もみくちゃんも、お前と雪坊の祝言を見たかったんだよ。…まあ、俺が見たかったんだが。…なあ? 見せてくれよ。親友の晴れ舞台をさ。俺が、天野猛って人間で居る内に…。…俺が、まだ、ゆかりん達と同じ時間を歩んで居られる内に…俺が、俺で居る内に…」
「…天野…」
嬉しそうに、楽しそうに、照れ臭そうに、天野が笑う。その声音も、それを裏切らない快活な物だ。
だが。
だが、それなのに。
寂しいと思うのは、何故だ?
「まあ、それでだ。ご覧の通り、健康優良児なこの俺が、ほいほい朱雀を辞められる筈が無い。五十嵐司令には話を通してあるが、こんな事を公に話せる筈も無い」
しかし、白い歯を見せて豪快に笑って見せる天野に、その寂しさが吹き飛び、俺は軽く額を押さえた。
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