旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【旦】天の川の先に・四

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「わあ~、雪緒ゆきお君似合うよ~」

「おー。流石みくちゃん」

「でしょでしょ。もっと褒めて」

「ほら、ゆかりおじさま、雪兄様に何か言って下さい」

「あ、ああ…」

 俺達の話が粗方終わった処で、みくと月兎つきとが雪緒を連れて仏間にやって来た。因みにあの親父とせいはまだ何やら作っている様だ。一体、どれだけ作る…いや、化け物胃袋の星と月兎が居るから、無駄になる事は無いが。

 …しかし…。

 俺は仏間の入口に佇む雪緒を見る。
 両脇に立つみくと月兎も着替えたのか、淡い藤色の着物に身を包んでいた。その藤色の間に浮かび上がるのは、白の紋付き袴に身を包んだ雪緒だった。

 …綺麗だ…。

 と思った。
 そう言えば、天野は深い紺色の甚平を着ているし、相楽さがらも深い灰色の着物を着ている。親父や星も、落ち着いた色合いの作務衣さむえを着ていたな。それは、この白を引き立てる為の物だったのだろうか?

「ほ~ら、紫君~? 見惚れてないで、何か言いなよ~?」

 俺が何も言わないせいか、背中を向けていた相楽が振り返って、じとりと睨んで来た。

「だっ、誰が見惚れてなぞ…っ…! あ、いや…その…似合っている…とても…」

 咄嗟に声を荒げてしまったが、慌てて言い直す。
 切っ掛けはどうであれ、折角の場なのだ。嫌な思いをさせてどうする。

「…き、恐縮です…」

 俯く雪緒の声は小さく消え入りそうで、俺は慌てて言い直す。

「本当に似合っているぞ。その雪の様な白さが、お前の心を表して居る様だ。そのほっそりとした身体がより引き立つな。それに、お前の艶やかな髪と、良く似合っている。鞠子まりこが居たら、喜んで写真を撮っていただろうな。ああ、写真を撮ってやろう。いや、その前に鞠子に報告か? 顔を良く見せてやってくれ」

 雪緒の気持ちを持ち上げ様と、とにかく思い付いた事を並べ立てながら、写真機は何処に仕舞ったかなと立ち上がる。

「ふぇえええ!?」

「…紫君…」

「…ゆかりん…」

「…ダンナ…」

「…紫おじさま…」

 顔を赤くする雪緒に、呆れた視線に声…いや、若干一名は生暖かい目をしているな…。

「あだぁっ!?」

「アンタァッ!?」

「おっ、賑やかだな!」

「うん、雪緒君、とても似合っているね」

 俺が天野の頭に拳を落とした時、親父と星がやって来た。

 ◇

「さて。祝言と言うと堅苦しく感じるかも知れないが、楽にしてくれて良いからね? これは、身内だけの簡単…まあ、適当な結婚式だからね?」

「は、はひぃぃいいい~…」

 と、身も蓋も無く、軽い調子で親父は言うが、雪緒はこの上無く緊張していた。目が回って居る様な気がするが大丈夫だろうか?
 簡単と親父は言ったが、俺と雪緒は並んで朱色の座布団に座らされていた。俺達を上座として、左に、親父、星、月兎、右には天野、みく、相楽が座っていた。それぞれの前には、親父と星が作った料理が乗った膳がある。そして、俺と雪緒の間には、鞠子の肖像画がある。また、その鞠子の前、ちょうど俺と雪緒の真ん中辺りに、手を伸ばせば届くであろう、その位置には、檜で作られた三宝が置いてあった。そこにあるのは、やはり、朱色に塗られた盃と銚子だ。盃は大中小と三つ。三献の儀の物だろう。

「緊張しないでおくれよ。式のやり方なんて、アタイも知らないんだしさ。アタイ達が祝いの言葉を贈る。雪緒君とダンナが、それを受け取って、幸せでいるって誓って、祝い酒を呑み干す。それだけで良いんだよ。夫婦の祝いをさせておくれよ、ね?」

「みくちゃん様…」

 すっとみくが立ち上がって、三宝にある銚子を手に取った。
 普段とは違い、みくの声は静かで優しく、また、その眼差しも何処までも穏やかで優しかった。

「そうだぞ! おいら達は、ゆきおとおじさんの幸せを見たいだけだからな!」

「…星様…」

 にっと白い歯を見せて笑う星に、雪緒の声が震える。
 雪緒は…雪緒も聞いたのだろう…天野とみくが近い内に居なくなる事を…そして、遠くない未来に星も月兎も去る事を。
 親父はとうに山へ引っ込んで居るし、相楽も、向こうでの生活が性に合って居るのか、ここへ戻って来る気は無い。
 …長い間、傍に居た者達が居なくなるのは、やはり、寂しい物だ…。
 去る者と、残される者…。
 これは、そのけじめ…いや、餞なのか…。

「そうですよ、笑って下さい、雪兄様」

「…月兎様…」

「僕達に、最高の二人を見せてよ」

「…相楽様…」

「あの、っさかった雪坊が、立派になった処を見せてくれないか?」

「…天野様…」

「皆ね、君達の幸せを願っているよ。私達は、本当の家族では無いが、星や月兎は勿論、雪緒君も私の息子の様に思っている。紫君も、たける君も、みく君も、柚子ゆず君も、私の甥の様に思っている。どうか、そんな二人の新しい絆を、私の息子達や甥達に見せてくれないかい?」

「…えみちゃん様…」

「…叔父貴…」

 それは狡いのではないか? 普段はふざけて居るくせに、こんな時ばかり、そんなに真面目な顔をしないでくれ。厳つい顔をしているのに、柔らかく穏やかな顔を見せないでくれ。何時もの様に、ふざけてくれ。俺が朱雀に入った時はあんなにふざけていただろうが。たまに見せるその顔は反則だろうが。…嫌でも、別れを考えてしまうではないか。本当に、時間が無いのだと思い知らされるだろうが。

「…紫様…」

 ぐっと奥歯を噛み、膝に置いていた手を拳にすれば、そこにそっと雪緒の手が置かれた。俺の手とは違い、細く、柔らかい手が。

「…僕のおにぎりを受け取って下さり、ありがとうございました」

「…雪緒…」

 それは、俺と雪緒が出逢った時の事だ。
 今にも死にそうな子供が、小さい身体で、小さな手で、一生懸命握った握り飯を俺に差し出して来たのだ。本当は誰よりも、自分自身が食べなければならないのに、ただ無心に他人の為に、握っていた。このまま、ここに置いてはいけないと、その手を取ったのは俺だ。

「…お慕いして…愛しています、紫様」

 だが、今は、お前が俺の手を取るのか。あの頃よりは大きくなったが、それでも、俺より小さい、その手で。
 丸みのある瞳に涙を滲ませ、頬を紅潮させ、身体ごと向き合い、慕っていると言い掛けて『愛している』と言い直した雪緒の身体を、俺は堪らず抱き締めた。
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