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ギャル親父は壁になりたい
10.どうしてこうなる
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ふじこふじこって、あの時代にあったか?
って、BL脳に突っ込んでもキリがない。
落ち着け、俺。
「…大丈夫か? まだ腹痛いのか?」
思わず額に手をあてた俺を、矢田が心配そうに覗き込んで来る。
「ああ、いや、あまりにも嬉しい事を言われたから、感動を噛み締めていただけだ。箸使いとか、姿勢とか褒められた事なんて、そう無かったからな…ありがとう」
そう言って俺は矢田の頭を撫でた。褒められたら笑顔でお礼を言う。大切な事だ。
うん、コシもあるし張りもあるし、良い髪だ。若者はこうでないとな。
「…的場ってさ、頭撫でるの好きだよな?」
「ん? そうか?」
視線を泳がせて唇を尖らせる矢田の言葉に、俺は軽く首を傾げて見せる。
澄のせいで、どうしても傷んだ髪が気になってしまうんだ。
頭を撫でながら髪質チェックしているとか言えないな…。
「矢田が嫌だとか、恥ずかしいならやめ…」
「やめなくていいから! 好きだから!」
最後まで言い終わらない内に、矢田が俺の掌に頭を擦り付けて来るから、俺は満面の笑顔を浮かべて言った。
「そうか…頭を撫でられるのが好きとか、お前は犬みたいで可愛いなあ」
◇
『ば…っかやろおおおおおおおぉおおおおおおおお~っ!!』
また、余計な事を言ってしまった…。矢田、喉を痛めていないと良いんだが…。
あの年頃の子に可愛いは無いだろう、可愛いは。だが、かっこ良いはお世辞になってしまうしなあ。思ってもいない言葉を口にしても滑るだけだ。
いや、だが、叔父なら言うよな?
俺も良く兄貴や姉貴の子に言って…いや…まだおしめが取れて無かったか…。
犬みたいだと言ったのも、良く無い…よな…? 犬好きなら喜ぶかも知れないが、犬が好きでないのなら…。
はあ…と、俺は溜め息を吐く。
流石に落ち込み過ぎている自信があるから、授業が終わった後、俺は資料室に引き篭もった。
「叔父になるのは難しいな…」
小テストの採点の続きをやりながら、そろそろ期末テストの問題も作らないとなと、ぼんやりと思う。
思うが、そんな事を思う傍から、冬休みには、やはり実家に帰って、甥っ子や姪っ子の喜ぶツボを押さえてこようとか考えていたりするから手に負えない。
矢田の心の支えになれるのならと思ったが、どうにも裏目に出ているとしか思えない。
叔父の様に見守る壁になる…難易度高くないか?
「…っと、もうこんな時間か」
机の上にある時計を見れば、もう19時を回っていた。
大して採点が進まなかった小テストの束を持って資料室から出れば。
「うお!?」
出入口の横に矢田が座り込んでいた。明かりが未だ付いていたから良いが、消えていたら間違いなく飛び上がっていたぞ、俺は。
「あ」
「どうしたんだ? あ、昼間は…」
尻を叩きながら立ち上がる矢田に謝ろうとするが、片手を上げて来て遮られてしまった。
「いや、俺が悪かったし…か、わいいって事は嫌われてないって事だし…的場の鈍すぎる鈍さは知ってるつもりだし…」
「ん? 良く聞き取れないんだが、喉痛いのか?」
少し俯き気味に話す矢田だが、後半の方はもごもごとして解らなかった。
連日叫んでいるから、やはり喉を痛めたのだろう。
「は?」
「結構な声量で叫んだだろう? 職員室にのど飴あるから。ほら、来い」
「お、おう…くれるって言うなら…痛くねーけど…」
強がらなくて良いのにな。
そっぽを向いて、ぶっきらぼうに言う矢田は、やはりかっこ良いと言うよりは、可愛いと思うんだよなあ。
◇
「あれ。松重先生まだ帰っていないのか。そうだ。のど飴より、薬の方が良いか?」
職員室の手前には保健室があり、ドアにはめ込まれたガラスから明かりが見えたから、俺は名案だとばかりに手を打った。
「あ、ばっ!!」
しかし、ドアに手を掛けた俺に、矢田は何故か制止する様な声を発した。
薬が嫌いなのか? と、俺は思っただけで、スライド式のドアをカラカラと開ける。
「失礼します。的場です」
と、声を掛けるのと同時だろうか? ドサッと何かが落ちる様な音が聞こえたのは。
「ん?」
足を踏み入れた先にあるのは、窓の傍に机と回転式の椅子が二つ。右手には薬品等が収容されている棚があり、左手には、天井にあるレールから吊るされたカーテンで、個々を仕切る事が出来るベッドが三つある。
あるのだが、その内の一つはカーテンが閉められていた。で、何故かそのカーテンの下から足が見えていた。靴下は履いている。黒い靴下だ。生徒は校則で白か紺と決められているから、そこにあるのは、生徒の足ではない。
「松重先生? どうされました? 具合が悪いのですか?」
俺は声を掛けながらカーテンへと手を掛ける。
昼間はそんな様子は無かったが、医者の不養生と云う言葉がある。
きっと、具合が悪いのを隠していたのだろう。
しかし、我慢出来ずにこうしてベッドで休んでいたが、誤って落ちてしまった…と云う処だろうか?
「ま、待て、まと…!」
「ばっ!! 開ける、な…っ…!!」
「あ、待って」
矢田の慌てる声と、何故か羽間先生の声が聞こえ、松重先生の何処か落ち着いた声が聞こえた。
それを聞きながら、カーテンを開ければ。
「…え…?」
床の上に倒れた松重先生の上に、跨る様にしている羽間先生の姿があった。
ただし、羽間先生は下半身には何も…いや、靴下だけは身につけていたが…まあ、その様な姿で、松重先生は…ズボンが太腿辺りまで下げられていると云う姿だった。
って、BL脳に突っ込んでもキリがない。
落ち着け、俺。
「…大丈夫か? まだ腹痛いのか?」
思わず額に手をあてた俺を、矢田が心配そうに覗き込んで来る。
「ああ、いや、あまりにも嬉しい事を言われたから、感動を噛み締めていただけだ。箸使いとか、姿勢とか褒められた事なんて、そう無かったからな…ありがとう」
そう言って俺は矢田の頭を撫でた。褒められたら笑顔でお礼を言う。大切な事だ。
うん、コシもあるし張りもあるし、良い髪だ。若者はこうでないとな。
「…的場ってさ、頭撫でるの好きだよな?」
「ん? そうか?」
視線を泳がせて唇を尖らせる矢田の言葉に、俺は軽く首を傾げて見せる。
澄のせいで、どうしても傷んだ髪が気になってしまうんだ。
頭を撫でながら髪質チェックしているとか言えないな…。
「矢田が嫌だとか、恥ずかしいならやめ…」
「やめなくていいから! 好きだから!」
最後まで言い終わらない内に、矢田が俺の掌に頭を擦り付けて来るから、俺は満面の笑顔を浮かべて言った。
「そうか…頭を撫でられるのが好きとか、お前は犬みたいで可愛いなあ」
◇
『ば…っかやろおおおおおおおぉおおおおおおおお~っ!!』
また、余計な事を言ってしまった…。矢田、喉を痛めていないと良いんだが…。
あの年頃の子に可愛いは無いだろう、可愛いは。だが、かっこ良いはお世辞になってしまうしなあ。思ってもいない言葉を口にしても滑るだけだ。
いや、だが、叔父なら言うよな?
俺も良く兄貴や姉貴の子に言って…いや…まだおしめが取れて無かったか…。
犬みたいだと言ったのも、良く無い…よな…? 犬好きなら喜ぶかも知れないが、犬が好きでないのなら…。
はあ…と、俺は溜め息を吐く。
流石に落ち込み過ぎている自信があるから、授業が終わった後、俺は資料室に引き篭もった。
「叔父になるのは難しいな…」
小テストの採点の続きをやりながら、そろそろ期末テストの問題も作らないとなと、ぼんやりと思う。
思うが、そんな事を思う傍から、冬休みには、やはり実家に帰って、甥っ子や姪っ子の喜ぶツボを押さえてこようとか考えていたりするから手に負えない。
矢田の心の支えになれるのならと思ったが、どうにも裏目に出ているとしか思えない。
叔父の様に見守る壁になる…難易度高くないか?
「…っと、もうこんな時間か」
机の上にある時計を見れば、もう19時を回っていた。
大して採点が進まなかった小テストの束を持って資料室から出れば。
「うお!?」
出入口の横に矢田が座り込んでいた。明かりが未だ付いていたから良いが、消えていたら間違いなく飛び上がっていたぞ、俺は。
「あ」
「どうしたんだ? あ、昼間は…」
尻を叩きながら立ち上がる矢田に謝ろうとするが、片手を上げて来て遮られてしまった。
「いや、俺が悪かったし…か、わいいって事は嫌われてないって事だし…的場の鈍すぎる鈍さは知ってるつもりだし…」
「ん? 良く聞き取れないんだが、喉痛いのか?」
少し俯き気味に話す矢田だが、後半の方はもごもごとして解らなかった。
連日叫んでいるから、やはり喉を痛めたのだろう。
「は?」
「結構な声量で叫んだだろう? 職員室にのど飴あるから。ほら、来い」
「お、おう…くれるって言うなら…痛くねーけど…」
強がらなくて良いのにな。
そっぽを向いて、ぶっきらぼうに言う矢田は、やはりかっこ良いと言うよりは、可愛いと思うんだよなあ。
◇
「あれ。松重先生まだ帰っていないのか。そうだ。のど飴より、薬の方が良いか?」
職員室の手前には保健室があり、ドアにはめ込まれたガラスから明かりが見えたから、俺は名案だとばかりに手を打った。
「あ、ばっ!!」
しかし、ドアに手を掛けた俺に、矢田は何故か制止する様な声を発した。
薬が嫌いなのか? と、俺は思っただけで、スライド式のドアをカラカラと開ける。
「失礼します。的場です」
と、声を掛けるのと同時だろうか? ドサッと何かが落ちる様な音が聞こえたのは。
「ん?」
足を踏み入れた先にあるのは、窓の傍に机と回転式の椅子が二つ。右手には薬品等が収容されている棚があり、左手には、天井にあるレールから吊るされたカーテンで、個々を仕切る事が出来るベッドが三つある。
あるのだが、その内の一つはカーテンが閉められていた。で、何故かそのカーテンの下から足が見えていた。靴下は履いている。黒い靴下だ。生徒は校則で白か紺と決められているから、そこにあるのは、生徒の足ではない。
「松重先生? どうされました? 具合が悪いのですか?」
俺は声を掛けながらカーテンへと手を掛ける。
昼間はそんな様子は無かったが、医者の不養生と云う言葉がある。
きっと、具合が悪いのを隠していたのだろう。
しかし、我慢出来ずにこうしてベッドで休んでいたが、誤って落ちてしまった…と云う処だろうか?
「ま、待て、まと…!」
「ばっ!! 開ける、な…っ…!!」
「あ、待って」
矢田の慌てる声と、何故か羽間先生の声が聞こえ、松重先生の何処か落ち着いた声が聞こえた。
それを聞きながら、カーテンを開ければ。
「…え…?」
床の上に倒れた松重先生の上に、跨る様にしている羽間先生の姿があった。
ただし、羽間先生は下半身には何も…いや、靴下だけは身につけていたが…まあ、その様な姿で、松重先生は…ズボンが太腿辺りまで下げられていると云う姿だった。
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