矢は的を射る

三冬月マヨ

文字の大きさ
14 / 57
青い春の嵐

01.倫理? 何それ美味しいの?

しおりを挟む
「だっる…」

 引っ越しの片付けもそこそこに、俺は煙草を更かしていた。学校の中庭にある繁みに姿を隠して。
 新学期が始まって少ししてから、俺はこの山奥にある、全寮制の男子高に編入して来た。
 本当は、春休み中に来る筈だったが、親がゴネてこんな中途半端な時期になってしまった。
 中二の時に、親父が再婚した。新しい母親は、ベジタリアンで肉を一切絶たれた。まあ、親父がベタ惚れだから、俺は我慢した。俺が五歳の時に、母さんが死んで、それから男手一つで、苦労して俺を育てて来た親父だから。その親父が幸せなら、いいかと我慢した。学校の給食があるし、小遣いもあるし。家で食えないだけだし、と。しかし、高校に入って、一年経った頃、母親がベジタリアンの上を行く、何だか訳の解らない物に目覚めた。家で食える物は減るし、高校には給食は無いから、弁当を持たされたけど、育ち盛りの俺には無理だった。
 だから、弁当じゃなく、昼飯代をくれと言ったら、何を食べるか心配だから駄目だと言われた。
 キレた。
 昼ぐらいは好きなモン食わせろと。
 母親は泣くは、親父には怒られるは散々だった。
 ムシャクシャした俺は、当て付けのように、学校の不良グループに入った。煙草はそこで覚えた。女も…とは行かなかったけど。
 素行の悪くなった俺を、親は持て余し、学校やら教育委員会やらに相談した…いや、学校がおかしいと、原因は学校にあると、殴り込みに行った。
 そんなモンスターを当然、学校側は持て余した。
 で、結果がこれだ。

『君は、親から離れた方が良い。…この学校に興味はあるか?』

 担任から見せられた学校案内のパンフレット。
 全寮制なんて、お硬そうだと思ったが、あの母親から離れられるなら良いやと考え直した。親父はベタ惚れで母親の言いなりだし。卒業したら就職して家を出るつもりだったから、それが早まったと思おう。
 で、そうなったらそうなったで、また母親がああだこうだ言い出して。
 まあ、何とか先生達が言い包めて、俺は無事にあの家から脱出出来た。

「…しっかし、本当に田舎…」

『緑豊かで美味しい空気に、美味しい水が自慢!』

 パンフレットの表紙に書かれていた、そんなキャッチコピーに、ちょっとクラクラした。学校案内なんだから、他に書く事があるだろ…。
 街に行くのに、頼りのバスは一時間に一本。
 まあ、寮から学校へは片道五分だけど。

「…はあ~…」

 ぷはあ~と煙を吐いて、ズボンのポケットから携帯灰皿を取り出して、その中へと煙草を押し込んだ。
 これは、卒業した先輩から貰った。
 卒業したから煙草も卒業だって、先輩達から沢山煙草とライターも貰った。当分、煙草には困らない。ってか、これが無くなったら、俺も煙草は卒業だな。こんな田舎じゃ煙草なんて買えない。すぐに俺だってバレるだろうから。

「帰るか…あ、いや、購買で昼買お…」

 今日は平日だから、寮では昼飯は出ないって、管理人さんに、申し訳無さそうに言われたんだった。
 俺の話は学校側に行っているから、私服でうろついても大丈夫だって言われた。

「どんなのがあるかな…」

 …こんな田舎じゃコッペパンとかアンパンぐらいしかないよな、なんて考えて繁みの間を縫うように歩いていたら。

「…っ、早く…イけよ…っ…!」

 と、切羽詰まった様な男の声が、横手の繁みの向こうから聞こえて来た。

「えー、どうしようかなあ?」

 続けて聞こえて来たのは、やたら落ち着いた男の声。

 カツアゲかイジメ、か?
 触らぬ神に祟りなし。
 俺は足早に立ち去ろうとした。

「…っあ、ん"っ!!」

 したけど、ピタリと足が止まってしまった。

 …………………………………………………………待て。
 
「あっ、あっ、ばっ、まっ!!」

 パンパンパンって、聞こえるこの音は何だ?
 ってか、何か…何か…。

「…うん。欲しかった、んでしょ?」

 そろりそろりと近付いて行けば、やたら粘着く様な、ぬちゃぬちゃとした音も聞こえて来て、青臭い様な、生臭い様な、そんな匂いもして来た。

 マジか…正気か…今、まだ授業中だぞ? 授業サボって何してんだ。てか、こんなとこでも不良はいるのか。
 なんて思いながら、俺は身を屈めて、繁みに隠れる様にして、この向こうにある秘密の花園を覗く事にする。
 覗き見なんて趣味が悪いと思うけど、オレ、マダ、セブンティーン、多感なお年頃なんだ。男同士とは云え、生の青姦、興味があるじゃないか! 大体、こんな場所でヤッてるのが悪い。

「…へ…?」

 そぉ~っと、顔を覗かせれば、一人は木に手を付いて、剥き出しの尻を突き出す様に腰を曲げていて、一人は、そんな男の腰を両手で掴んで、スコスコと腰を動かしてんだけど…だけど…。

「先生かよっ!?」

 思わず、俺は叫んでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

イケメンに育った甥っ子がおれと結婚するとか言ってるんだがどこまでが夢ですか?

藤吉めぐみ
BL
会社員の巽は、二年前から甥の灯希(とき)と一緒に暮らしている。 小さい頃から可愛がっていた灯希とは、毎日同じベッドで眠り、日常的にキスをする仲。巽はずっとそれは家族としての普通の距離だと思っていた。 そんなある日、同期の結婚式に出席し、感動してつい飲みすぎてしまった巽は、気づくと灯希に抱かれていて―― 「巽さん、俺が結婚してあげるから、寂しくないよ。俺が全部、巽さんの理想を叶えてあげる」 ……って、どこまで夢ですか!? 執着系策士大学生×天然無防備会社員、叔父と甥の家庭内ラブ。

処理中です...