矢は的を射る

三冬月マヨ

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青い春の嵐

14.告白

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 叫んだりなんだりするかと思ったら、先生は落ち着いた声と態度で『失礼しました』って、ヤってる羽間はざま松重まつしげ先生に言って、俺の肩を抱いて保健室を後にした。

 いや、落ち着き過ぎてないか!? 馬に蹴られて死ぬって何だ!?
 ってか、肩を抱く先生の手が思ったよりも力強くて、俺の心臓がヤバい。
 制服の上からだから良いけど、この手が、もし、あの二人みたく素肌に触れてたらって思うと…てか、思ってしまったら、ちょっと…ちょっとだけ、前屈みになってしまった。そんな俺をどう思ったのか、先生は更に強く俺の肩を抱いて来た。多分、あんな場面を見てショックを受けた…とか思ったのかも知んねーけど、逆効果だからっ!! 先生の匂い…てか、ちょっと爽やかなミカン系? そんな感じの良い匂いがして来て、もう血管バックバクだからっ!! 今、脈測られたらヤバいからっ!!

「ほら、のど飴だ。残り少ないから袋ごとあげるよ」

 すぐそこなのに、やたらと遠く感じた職員室に着くと、先生は自分の机の引き出しから飴を取り出して、笑いながら袋ごと俺によこしてくれた。
 残り少ないって言ってるけど、半分ぐらいは入ってる。
 ああ、もう。
 何で、ちょっとも迷わないでこんな事が出来んだよ。
 本当に先生はずりぃ。
 俺ばっか、どんどん好きになってく。
 悔しい。
 先生も、こんな想いすればいいのに。

「…落ち着いてんだな…デキてるって知ってたのか? 的場のくせに…」

 けど、そんな事言えるハズもなくて。
 やたらと落ち着いてる先生にぼそぼそと言えば、先生は苦笑しながら片手で首の後ろを掻いた。

「いや、知らなかったよ。そう云えば、お前、俺の事を止めていたなあ…お前こそ知って…って、俺のくせにって何だ」

「知らなかったのに、あんな落ち着いてたのか…的場って、やっぱ…」

 先生は、男同士…同性愛とかに偏見は無いんだ…。
 そうだよな、叔父と甥なら結婚出来る(出来ないけど)って、俺が言った時、男同士って言い掛けて、パートナーシップがあるって言ったんだもんな。人の気持ちは、想う心は自由だって言った時だって、嫌な顔とかしてなかった。そう言う想いを、先生は偏見なく見られるんだ。
 それなら、俺、言ってもいいのかな? 好きだって。告ってギクシャクするのも嫌だけど、変な目で見られるのも嫌だったから、偏見が無いなら嬉しいし、ちゃんと受け止めて考えてくれそう。ってか、先生ならそうじゃなくても、真剣に考えてくれる。

「いや、かなり驚いたけどな? ほら、それ舐めながら帰れ」

 俺が貰った飴の袋を指差してから、先生は俺に背中を向けた。
 帰れって言われたけど、このまま帰れる訳がない。

「…好きだな…」

「ん?」

 先生の隣の机に貰った飴の袋を置いて、俺は先生の腰に腕を回して抱き着いた。

「へ?」

 間の抜けた声を出す先生を可愛いと思う。
 こんな声も、授業の時の真面目な声も、からかう様な声も、優しく気を遣う様な声も好きだけど、でも、もっと違う声も聞きたい。
 俺だけにしか聞かせない、そんな声を知りたい。

「…俺、的場が好きだ。寮に入って、片付けの合間に下見に来て、弁当を食ってるのを見た時から…」

 心臓が五月蠅い。破裂するかも知んねーし、こうやって腰に回してる腕の血管も破裂するかも。でも、何か、あんな場面を見たせいか、今なら先生が鈍くても『好き』って伝わる気がしたんだ。卒業までなんて待てなかった。
 俺、ガキだけどさ。
 それでも、先生が好きなんだ。
 弟でも、甥でも犬でもない。あ、いや、イヌにはなるのかも?
 じゃなくて、そんな好きで股間はこんな事になんねーだろ?

「は?」

 グッと腕に力を入れて、身体を密着させれば、先生もそれに気が付いたらしい。
 …俺が勃起してるって。

「…的場は…男同士とか気にしないんだろ? 想う気持ちは自由つってたし…松重と羽間がしてた事…俺も的場としてぇ…」

「え」

 流石の先生でも、こんな風に言えば解ったんだろう。びくりと身体が強張ったのが解った。けど、驚いたからだよな? 男から…俺から告られて嫌だから、じゃないよな?

「ま、待てっ! 勘違いするな! お前が好きなのは、お前の叔父だろう!?」

 ドキドキとビクビクとする俺に、何を思ったのか先生はそんな事を言って来た。

「はあ?」

 あまりにもあんまりな先生の言葉に、俺のドキドキもビクビクも大人しくなった。
 てか、おじって何だよ?

「幾ら俺に、大好きな叔父の姿を求めているとは云え、混同してはいけない」

「はあっ!?」

 何言ってんだ、こいつ!?
 思わず、またバカって叫びそうになって、俺はグッと堪えた。
 ここで叫んで逃げたら、何も変わらない。
 また、イジイジするだけだ。

「いや、驚かなくて良い。過酷な家庭環境の中で、お前の救いは、優しい叔父だった。そんな叔父に、お前は惚れてしまったんだろう? だから、俺は少しでもお前の支えになれるのなら、と、叔父らしく振る舞う事にした。叔父の様に、優しくお前を見守る壁になろうと…」

 なのに先生は言い聞かせる様に、勝手な事を言う。
 何だよ、それ?
 何で、そうなるんだよ?

「いや…訳解んねーんだけど? おじさんは居るけど、優しくねーし。何がどうしてそうなった? 大体、俺、おじさんが居るとか、気になるとか、好きだなんて、一言も言ってねーし」

 泣きそうになるのを堪えながら、何とか俺は言う。
 めちゃくちゃ機嫌の悪い声が出たけど、これは本当に先生が悪いと思う。

「いや、隠さなくて良い。俺には…って…は?」

 隠すって何だよ?
 全部さらけ出してんだろ!
 何で、そんな訳わかんねー勘違いしてんだよ!?

 何かもう頭にキて、サバ折りしたくなったから、俺は先生の腰から手を離した。
 振り返って来た先生に、俺は思い切り口を曲げて言う。

「勘違いしてんのは、的場の方だろ。俺、的場が好きだって言ったんだけど? 的場が変わった辺りから、的場の事を良いって言うヤツが増えて、何を今更言ってんだって、焦って。俺、何度も的場にアピールして来たし、好きだって何度も言ったよな?」

 ただ、つきまとってるだけだけどさ。
 好きもどさくさ紛れに言った様な物だけどさ。
 けど、アピールはアピールだし、一時間も無い間に好きっていっぱい言ったし、嘘は言ってない。
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