矢は的を射る

三冬月マヨ

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青い春の嵐

15.少女漫画読め

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 ガリガリと頭を掻きながら上目遣いで睨んで言えば、先生は段々と理解して来たみたいだ。
 ぱちぱちと瞬きして『え』とか『…俺が好き…? え、言ってた?』とか言いながら、俺を見てる。

「的場が鈍過ぎるぐらいに鈍いのは知ってたけど、何でそうなるんだよ? 本の読み過ぎだろ。とにかく、俺は、的場が好きなの。解ったら返事をする!」

 やっぱり、あの『好き』はちっとも伝わってなかった。
 まあ、その後でバカって逃げたからしゃーないけどさ。

「あ、はい」

 目を丸くしたまま先生が頷く。
 鳩が豆鉄砲って、こんな顔なんだろか。
 けどさ、何か、そんな眼中になかったみたいに、呆然とされるとムカつく。

「ったく、どんな頭してんだ。本…小説に影響され過ぎじゃね? 告るの卒業まで待とうって思ってたら、お前、親父をディスった小説のせいで変わり始めるし…あのままなら、誰もお前の良さに気付かなかったってのに…」

 ってか、そんな小説読むより、少女漫画でも読んだ方がいいんじゃね?
 少女漫画なら、おっさんも親父も出て来ないんだろ? 出て来ても、皆イケメンだったりすんだろ? 文句とか出ねーよな? お堅い小説読んでねーで、少女漫画読めよ!

「あ、いや、申し訳ない…」

 謝る先生の顔が、じわじわと緩んで来て、俺は『おっ?』って思った。
 眉も目尻も下がって、何か…何か、嬉しそう?
 口に手をあてて、もう片っぽの手で胸を押さえて…何だよ…可愛いんだけど…。

「あ…」

 って、思ったら、先生が何かに気付いた様な声をあげた。

「どうした?」

 何だよ?
 嬉しそうにしといて、いきなり不安そうな顔すんなよ。

「…俺の前世は腐女子だったんだ…」

「は?」

 フジョシ? 何それおいしいの?
 てか、前世って何だよ? 何で、いきなりそんな話が出てくんだよ。
 俺は、そんな話してねーよ。
 先生が好きだって言ってんのに、何でそうなるんだよ?
 俺に告られて迷惑だったのか?
 それなら、そう素直に言ってくれよ。
 訳の解らない話をして、けむに巻こうとか思ってんのか?
 何でだよ。
 先生は、そんな事しねーだろ?
 
 ムスッとする俺に、先生は自分のスマホを渡して来た。画面は青い鳥のSNSだ。名前は、あの『澄』だ。
 そこには、何か…本当に訳の解らない、本当にただの叫びとしか言いようのない文字が並んで居た。

 …何だこれ?

「それ。すみと云うのは、俺の前世の名前な。二十代の時に、事故で死んだ。それを、この間思い出した。お前、俺が変わったって言ったよな? その少し前だ。親父イジメな小説を読んだのは、その後で」

 …前世の名前って…え、じゃあ、これ書いてるの先生って事か? 編集とか出てるから、本人…って事だよな? 前にクラスのヤツらに聞いた時に、誰だったか忘れたけど、使い方を教えてくれたんだよな。

 うわ…人の事言えねーけど…ガラ悪いな…。
 そう零した俺に、先生は苦笑して前世の事を話してくれた。フジョシの事も。
 親父ギャルとか、ギャル親父とか、フダンシとか言ってるけど。
 けどさ、それ、俺が好きって言った事と関係あるのか?
 何か、俺、騙されてないか?

「何でだよ? 良く解んねーけど、喜んでんだろ?」

 先生が何を言いたいのか解らなくて…俺への返事をはぐらかしてんじゃねーだろなって思ったら、身体が勝手に動いていた。スマホを机の上に置くついでに、俺は両手を机の上に置いて、先生をその中に閉じ込めた。羽間はざまにされた壁ドンじゃなくて、机ドンだ。

「うっひょあっ! 壁ドンならぬ机ドンッすか!? あざます!!」

「……………………………………は?」

 何か、変な雄叫びが聞こえた。

「………だから、こんなBL展開に喜んでしまうんだよ…矢田の事は可愛いと思う。思うが、それは腐男子のせいなのかも知れない。息を吸う様に、何かがある度に、こんな事を思っていたら…嫌だろう?」

 多分、今度は俺が豆鉄砲を喰らった顔をしたと思う。
 先生は軽く咳払いをした後に、そう言って来た。

「…驚いたけど…嫌じゃねーし…」

 普段とは違う先生のテンションに驚いたけど、嫌じゃねーよ。

「いや、しかしだな? 実際に俺にとって、お前は、懐いてくれる可愛い生徒で…」

 …あ…言われた…。
 一番、言われたくなかったヤツ…。
 ムードに流されるんじゃなかった…。
 やっぱり、我慢すれば良かった…。
 一気に喉が痛くなって、俺は唇を噛んで堪えようとしたけど、駄目だった。

「…そう言われると思ったから、卒業して生徒じゃなくなってから、告ろうと思ってたんだよ…」

 ポトリと涙が落ちて、情けない声も出た。
 ただの、そこらに居る生徒なんて嫌なんだよ。
 たくさんいる生徒の一人でなんか嫌なんだよ。

「え…」

 泣くなよ、俺。
 泣いて相手の気を惹こうなんて、本当にガキなんだからな?
 でも、涙は止まらなくて、ボタボタと落ちて来る。
 しょっぱいし、喉は痛いし最悪だ。

「…懐かれるのは、嫌じゃない、んだろ? 的場が変わってから、俺、的場に懐いた訳じゃねーだろ? ずっと、昼、一緒にいたよな? 初めて昼に誘ったのは、前世とやらを思い出す前だろ? 転校初日だったからだと思うけど…それからも…俺が昼に傍に行っても嫌な顔しなかっただろ? …俺、好きなんだよ…傍に居ると落ち着くんだよ…話さなくても…安心できんだよ…」

 嘘じゃねーよ。
 先生の傍に居たいんだよ。
 生徒じゃなくなっても、ずっと傍に居たいんだよ。
 卒業しても、先生と飯が食いたいんだよ。
 どうしたら伝わるんだよ?
 どうしたら、先生は俺の事を好きになってくれんだよ?
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