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それが、幸せ
01.帰って来た
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夕映えの中、白く咲く梅の木の下に車を停めた。
思い切り路駐だけど、夕方のこんな時間に通る車なんて無い事は、ここに通っていた俺が良く解っている。片側一車線潰したトコで問題は無い。本当はあるかも知れないけど、問題無い。
「…懐かしいな…」
車から降りて、俺は先に見える校門へと目を向けた。
たった、三年。
されど、三年。
俺が、ここに来るまでに掛かった時間。
今日は、三月一日。
ほぼ全国一斉で、高校の卒業式が行われる日だ。
三年前、俺はあの門を潜って、ここから巣立った。
「って、ガラじゃねーや」
ポリポリとちょっと熱くなった頬をかいて、舗装された道を歩く。革靴だと足の裏がちょっと痛いな。やっぱ、クッションのあるスニーカーが良いな。けど、今日は…今日ぐらいはカッコつけたい。ビシッと冠婚葬祭に使える黒いスーツを着ているから、なんぼなんでもスニーカーは無いよな。
少し歩いて後ろを振り返り、車で登って来た道を見下ろす。
すぐ近くに見えるのは、約一年過ごした学生寮。そこから離れたトコにあるのは、先生達の職員寮てかアパート。そこからグンと離れて、下に見えるのが俺がバイトしてたパン屋がある、ここから一番近い街だ。
卒業したら実家には帰らないで、バイトして貯めた金で、アパートを借りて一人で暮らすつもりだった。
けど。
それは、車の免許取るのに回した。
三年前の冬休みに大晦日から三が日に掛けて、実家に帰った。
あの日…逃げないで、先生に一回目の告白をした。その時に、羽間や松重先生に励まされたの、実はちょっと、嬉しかった。
で、卒業式にまた告白する為に、少しでも大人になりたくて。
親から、家から逃げてちゃ駄目だって、思って。
だから、冬休み前に実家に帰るって電話した。
母親が出て、いきなり泣かれた時はびっくりした。キーキー文句を言われたり、怒られると思ってたから。で、親父に代わって『途中で帰りたくないって思ったら、無理しなくて良い。…待ってる』って言われて、何か…何か俺も泣きたくなった。離れている間に、きっと色々とあったんだろうなって思った。
大晦日の昼に帰ったら、ハンバーグが出て来て更にびっくりした。家で肉を見るなんて、どんぐらいぶりだよ!? って。まあ、豆腐と鶏肉のミンチを使ったヤツだったんだけど。俺だけじゃなく、母親と親父も同じハンバーグで。ハンバーグに箸を付けた母親の手は震えていた。親父が『…少しづつだが…食べられる様になったんだ』って。ポツリポツリとした会話の中で、母親の親も菜食主義者だったって、話が出て来た。何となく『ああ、そうか』って思った。ゴメンって謝る母親に、謝らなくていいって俺は言った。
もう、過ぎた事だし、飯以外では不自由はしてなかったし、それに、先生に逢えたし。
そしたら、母親がまた泣き出して、親父がそんな母親の肩を抱きながら、羽間先生にはとても感謝してるって。毎月の手紙がとても有り難いって言った。
え、羽間? 手紙? 何、それ?
話を聞くと『これは秘密なんだが…』って、しまったって顔をした親父が口を開いた。
それは先生の仕事の一つで、毎月生徒の様子を綴った手紙を書いて、その親に送るんだと!
マジかよ!?
先生も羽間も、そんな事、一言も言って無かったし、てか、羽間が書いた!? 想像つかねーっ!!
とまあ、そんなドッキリもありながら、何だかんだで悪くない年末年始を過ごした。
冬休みが終わって、先生に実家での話をしたら『良かったな』って、頭を撫でられた。
本当にもう嫌になるな。
解ってんのか?
俺、先生が好きなんだぞ?
羽間、これを手紙に何書いたりしてねーよな?
親父達は詳しく手紙の内容は話さなかったし、俺も俺で恥ずかしいから聞かなかったけどさ。
こうして、頭撫でられて喜んでるとか書いてねーよな!? 俺、死ぬからな!?
で、卒業して実家に帰って就職した。一年働いて、車を買った。中古だけど、一括で。ニコニコ現金払いだ。流石に、新車には手が出なかった。新車だとローン組まなきゃならねーし。ローンなんて借金だし。てか、無理して見栄を張りたくない。そんな見栄張ったって、何にもならない。手の届く範囲の見栄で良い。
それから、また一年経って、俺は家を出た。この学校に来た時とは違って、ちゃんと母親と親父の許可を取って。
で、一人で一年暮らして、ちゃんとやってイケるって、自信がついたから、今、ここに居る。
もう、学生服を着て、学校に、先生達に守られていた俺じゃない。
反抗の仕方を知らなかった、ガキじゃない。
「…よし…っ…!」
胸に手をあてて深く息を吸って吐いて、俺は拳を握った。
「いつまで突っ立ってんだ。さっさと来やがれ」
校門を振り返ろうとしたら、呆れた様なそんな声が聞こえて来た。ついでに、ぷっは~って、煙を吐く様な音も。
思い切り路駐だけど、夕方のこんな時間に通る車なんて無い事は、ここに通っていた俺が良く解っている。片側一車線潰したトコで問題は無い。本当はあるかも知れないけど、問題無い。
「…懐かしいな…」
車から降りて、俺は先に見える校門へと目を向けた。
たった、三年。
されど、三年。
俺が、ここに来るまでに掛かった時間。
今日は、三月一日。
ほぼ全国一斉で、高校の卒業式が行われる日だ。
三年前、俺はあの門を潜って、ここから巣立った。
「って、ガラじゃねーや」
ポリポリとちょっと熱くなった頬をかいて、舗装された道を歩く。革靴だと足の裏がちょっと痛いな。やっぱ、クッションのあるスニーカーが良いな。けど、今日は…今日ぐらいはカッコつけたい。ビシッと冠婚葬祭に使える黒いスーツを着ているから、なんぼなんでもスニーカーは無いよな。
少し歩いて後ろを振り返り、車で登って来た道を見下ろす。
すぐ近くに見えるのは、約一年過ごした学生寮。そこから離れたトコにあるのは、先生達の職員寮てかアパート。そこからグンと離れて、下に見えるのが俺がバイトしてたパン屋がある、ここから一番近い街だ。
卒業したら実家には帰らないで、バイトして貯めた金で、アパートを借りて一人で暮らすつもりだった。
けど。
それは、車の免許取るのに回した。
三年前の冬休みに大晦日から三が日に掛けて、実家に帰った。
あの日…逃げないで、先生に一回目の告白をした。その時に、羽間や松重先生に励まされたの、実はちょっと、嬉しかった。
で、卒業式にまた告白する為に、少しでも大人になりたくて。
親から、家から逃げてちゃ駄目だって、思って。
だから、冬休み前に実家に帰るって電話した。
母親が出て、いきなり泣かれた時はびっくりした。キーキー文句を言われたり、怒られると思ってたから。で、親父に代わって『途中で帰りたくないって思ったら、無理しなくて良い。…待ってる』って言われて、何か…何か俺も泣きたくなった。離れている間に、きっと色々とあったんだろうなって思った。
大晦日の昼に帰ったら、ハンバーグが出て来て更にびっくりした。家で肉を見るなんて、どんぐらいぶりだよ!? って。まあ、豆腐と鶏肉のミンチを使ったヤツだったんだけど。俺だけじゃなく、母親と親父も同じハンバーグで。ハンバーグに箸を付けた母親の手は震えていた。親父が『…少しづつだが…食べられる様になったんだ』って。ポツリポツリとした会話の中で、母親の親も菜食主義者だったって、話が出て来た。何となく『ああ、そうか』って思った。ゴメンって謝る母親に、謝らなくていいって俺は言った。
もう、過ぎた事だし、飯以外では不自由はしてなかったし、それに、先生に逢えたし。
そしたら、母親がまた泣き出して、親父がそんな母親の肩を抱きながら、羽間先生にはとても感謝してるって。毎月の手紙がとても有り難いって言った。
え、羽間? 手紙? 何、それ?
話を聞くと『これは秘密なんだが…』って、しまったって顔をした親父が口を開いた。
それは先生の仕事の一つで、毎月生徒の様子を綴った手紙を書いて、その親に送るんだと!
マジかよ!?
先生も羽間も、そんな事、一言も言って無かったし、てか、羽間が書いた!? 想像つかねーっ!!
とまあ、そんなドッキリもありながら、何だかんだで悪くない年末年始を過ごした。
冬休みが終わって、先生に実家での話をしたら『良かったな』って、頭を撫でられた。
本当にもう嫌になるな。
解ってんのか?
俺、先生が好きなんだぞ?
羽間、これを手紙に何書いたりしてねーよな?
親父達は詳しく手紙の内容は話さなかったし、俺も俺で恥ずかしいから聞かなかったけどさ。
こうして、頭撫でられて喜んでるとか書いてねーよな!? 俺、死ぬからな!?
で、卒業して実家に帰って就職した。一年働いて、車を買った。中古だけど、一括で。ニコニコ現金払いだ。流石に、新車には手が出なかった。新車だとローン組まなきゃならねーし。ローンなんて借金だし。てか、無理して見栄を張りたくない。そんな見栄張ったって、何にもならない。手の届く範囲の見栄で良い。
それから、また一年経って、俺は家を出た。この学校に来た時とは違って、ちゃんと母親と親父の許可を取って。
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反抗の仕方を知らなかった、ガキじゃない。
「…よし…っ…!」
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